家で寝ていると、夜になって悠堵が訪ねて来た。
「なに急に来てんだよ」
 一応、部屋に招き入れ、冷蔵庫から取り出したペットボトルの水を飲む。
「別に。会いたくなったからだけど」
「あっそ」
 もう一度、寝直そうかと思ったところで、後ろから悠堵が抱き着いてきた。
「なに……」
「今日、文化祭行ったんだろ。どうだった?」
「まあ……いろいろあったかな」
 そう話している最中も、俺が適当に履いていたスウェットのズボンの上から、悠堵が股間をまさぐってくる。
「していい?」
 そういうのは手を出す前に聞くことだろうけど、悠堵は遅れて俺に尋ねてきた。
「やりに来たのかよ」
「そう」
 寝起きだし、今そんな気分じゃない。
「今日ヤって、溜まってねぇし」
「は……?」
 覗いた文化祭で、兄貴の恋人が痴漢に襲われていて。
 俺はキレる兄貴に代わって、その痴漢の相手をすることにした。
 ホテルに連れ込んで、たっぷりかわいがってやったけど、別に浮気だとは思ってない。

「そんな理由で俺が納得すると思ってんの?」
「納得しなくても、やんねぇから。ヤる気ねぇやつ抱いて楽しい?」
「楽しいかどうかはさておき、抜けんだろ」
「さいてー……」

 結局、俺が明確に止めないのをいいことに、悠堵は俺を抱いたまま、机の上に置きっぱなしにしてあったローションを手に取る。
「ズボン濡れんだろ」
「だったら脱げよ」
「ああ?」
 なんで俺が。
 そう思っている間に、悠堵は俺の体を前から抱き直すと、背中側から下着の中へと手を差し込んできた。
 もう一度、ペットボトルの水を飲んで、どうにか眠気を追い払う。
 それでも、俺の頭は少しぼんやりしたまま。
 尻の割れ目に沿わされた悠堵の指が、窄まりを押し開く。
「きっつ……ホントに今日、した?」
「ん……そっちじゃねぇし」
「ああ、いれる方?」
「ん……」
 いきなり家に来て、いきなりヤろうとしてきたくせに、悠堵の指は、俺を気遣うようにゆっくり入り込んでくる。
 こういうとこだけ丁寧にされても……いや、せめてこれくらいは丁寧にしてくれないと。
「なぁ……なんで俺としたくねぇの?」
「はぁ……うるさ……だから、溜まってねぇつってんだろ……」
「じゃあ、それでもいいから、使わせてよ」
「勝手すぎ……ん、ん……」
 1本、入り込んだと思ったところに、もう1本、悠堵は指を押し込んできた。
 ああ、こいつ……ホントにこのままする気だ。
「はぁ……あ……今日は、したくな……」
「なんで?」
 溜まってないからだって、さっきから散々言ってるのに。
「あっ……んん……ん……」
 手に力が入らなくて、持っていたペットボトルを落としてしまう。
 ちゃんと蓋を締めておいてよかったなんて、俺は転がるペットボトルを眺めた。
 ローションをまとった悠堵の指は、事前準備をするみたいにナカを押し開きながら、弱いところを掠めてく。
「はぁ……ん……んん、ぁっ……」
「ああ……いっぱい感じてんじゃん。そんなしっかり押さえてないのに」
「うる、さ……あ……ん……んぅ……んん」
「しっかり押さえようか?」
 うるさい。
 それでも、悠堵は掠めていたところをぐっと押さえつけてきた。
「んぅん! はぁっ……あ……んん……」
「体、ビクついてるけど」
 ダメだ。
 もう感じないようにする方が辛いし、めんどくさい。
 なんでこんなに感じるのか、俺も理解できなかった。
 なんでもないヤツとした反動か、本当はいま、悠堵とすごいしたくなってる。
 まるで自分が愛に飢えてるみたいで、無性に恥ずかしい。
 それを悠堵に晒すのも……。

「……いやならやめるよ」
 俺を抱いたまま、耳元で悠堵が囁く。
「……煽ってんのかよ。ふ、う……それとも、試してんの?」
「なんでそうなんだよ。単純に、お前がやならしねぇってだけ」
「いきなり優しくすんな」
「普通だろ」
「ん…………いい……」
「していいんだ?」
 熱をはらんだ声で尋ねられると、それだけて体がゾクゾクした。
 いいって言ったのに、悠堵は指を引き抜いてしまう。
「はぁ……なに」
「なにって。していいんだろ。もう入れっから」
 やめたわけじゃなく、先に進むつもりだったらしい。
 押し倒されるようにして、俺はテーブルの上に体を寝かせた。
 ズボンと下着を悠堵に引き抜かれて、膝を折りたたまれる。

 悠堵は、俺が誰としていようが、兄貴みたいにキレたりしない。
 まあ、合意じゃなく俺が襲われてたら……どう反応するかわかんないけど。

 それでも、俺が誰かとヤッたって知った日は、最低限の気遣いだけして、いつもより少し乱暴にする。
 その自覚が本人にあるのかないのか、それはさだかじゃない。
 なんかそういうの、めんどうだって思ってたのに。
 いまはなぜか、なにか期待しているみたいに心臓が高鳴っていた。
 嬉しいとか感じてるんだろうか。
 だから、あえてヤッたなんて伝えてしまったのかもしれない。
 だとしたら、試しているのは俺の方。

 そんな俺の感情には気づきもしないで、悠堵は素早く、自身のモノにゴムを装着していた。
「な……に」
「だから、なにってなに? 嫌じゃねぇんだろ。ジェル、ついてっから」
 わかってる。
 それなら、すぐにでもいれられるし、事後処理もラクだって。
 悠堵なりの気遣いだ。
 拒まない俺を確認して、テーブルの淵まで俺の腰を引き寄せると、悠堵が俺のナカに入り込んでくる。
「んんっ、んっ……はぁ……あ……」
「……言いたいことあるなら、言えって」
 奥まで遠慮なく入り込む前に、聞けばいいのに。
 あいかわらず、自分は感情表現が苦手だと自覚する。
 それでも、悠堵は、まだわかってくれている方だろう。
 わかってるから、こうして聞いてくれる。

 悠堵が俺の前髪をかきあげるようにして、頭を支えながら俺を見下ろす。
 顔を逸らさせてはくれないらしい。
 俺は、悠堵の視線から逃れるように、目線を外した。
「はぁ……悠堵……」
「うん……?」
 別に、恥ずかしいことを言うわけじゃない。
 大したことじゃないのに、声が震えそうになる。
「……ナマ、で……」
 そう告げると、悠堵はすぐさま入り込んでいたモノを引き抜く。
「く……ふぅ……」
 抜けきったと思うと、すぐにまた、悠堵のが入り込んできた。
「あっ……ああっ……ん、ぅんっ!」
 直接、ナマの感触。
 たかがゴム1枚。
 それなのに、全然違う。
 たぶん、感触の問題だけじゃない。
 いつしか俺は、感情で感じるようになってしまったらしい。
 悠堵と隔てるものがなにもないと思うだけで、馬鹿みたいに心臓がバクバクして、体が熱を帯びていく。
「はぁ……はぁ……ん……はぁ……」
「……そいつとは、ナマでした?」
「……して、ない」
「そう。じゃあ、ここは……触らせた?」
 悠堵は俺の性器に指を絡めると、容赦なく擦りあげてくる。
「んぅんっ! はぁ、あっ……さわらせて、な……あっ、ん……つよい……」
「そう? 強くしてねぇけど? 感じすぎ」
 本気で強くされてると思ってた。
 入れられたまま、悠堵に擦られて、小さく体が跳ねあがる。
「んっ、ぁっ……あっ……ん、はぁっ……あっ、ん!」
「溜まってないとか言ってなかった? なんでイきそうになってんの」
 なってないとは言えなくて、でも、もうどうでもいい。
「はぁっ、ん……ぁっ……ん、はぁっ……んんんっ!!」

 俺はあっけなくイかされて、自身の腹に精液を吐き出した。
「……そういうやらしい声、出した?」
「はぁ……だして、ない」
「精液、飲まれた?」
「飲まれてない」
 こんなこと、いちいち確認されるのだって、めんどくさいはずなのに。
 なぜか律儀に答えてるし、聞いて欲しい。
 悠堵は、俺の腹に乗っかった精液を指で拭うと、口に含んでしゃぶった。
 見ていられなくて、腕で目を塞ぐ。
 すると、悠堵は俺の腰をさらに引き寄せて、ナカを突き上げきた。
「あっ、んぅんんっ! ぁあっ、あっ、ん、んん!」
「はは……まだ残ってた? また出てる」
 亀頭を弄られながら腰を打ちつけられて、下半身がガクガク震えてしまう。
「んぅんっ、んー……! 待っ……あっ、あっ……ん! くっ」
 自分も、相手がイったとかおかまいなしに攻め立てていたけど、悠堵にそれをされるとおかしくなる。
 声を殺すのも苦しいし、わけわかんないくらいに感じて、気持ちよくて。
「ああっ、あっ……あん、んっ……んぅんんっ!!!」
 我慢する余裕もないまま、ナカでイかされてしまう。

「はぁ、はぁ……まっ……あ……はぁ……や……!」
「ん……?」
 ナカでイッてることくらい、気づいてるだろうに。
 それでも、悠堵は腰を揺らして、亀頭を撫で続けてきた。
「うご、くなって……ああっ、んぅんっ、くぅ……ああっ!」
 射精とナカイキをした中、弄られ続けた亀頭から潮が溢れてくる。
 恥ずかしいと思うより早く、擦るように再度撫でられて、しばらく止まってくれなかった。
「ああっ、あっ、う……んん……!」
「今日は、なんか飲んでんの? 薬とか、酒とか」
「はぁ……はぁ……のんで、な……あっ、あっ! いっ、ぅうっ!」
 いちいち聞かなくていいのに、自分のことを聞かれるたび、体がビクビク反応する。
「じゃ、なんでこんなに感度あがってんの」
 知るかよ、そんなの。

 恋人のためにキレる兄貴を見て、羨ましいと思った。
 キレるくらい熱くなれる兄貴も、相手の子も。
 どっちも羨ましい。
 俺は傷つかないように、熱くならないできた人間だから。
 悠堵は……たぶん、いま俺に熱くなってくれている。

「はぁ……は、あ……悠堵……」
「ん……?」
 俺は顔を寄せる悠堵の頭を掴んで、唇を重ねた。
 舌を差し込んで、絡めて、息苦しいのもお構いなしに繰り返す。
「はぁ……は、う……んぅ……ん……」
「キスは、した?」
 少し腰の動きを緩めながら、悠堵に問いかけられる。
「ん、んぅ……やめんな……はぁ……!」
「ああ、したんだ?」
「そんなの、どうでも……んぅんっ!」
 俺が言い終わるより早く、深く口を重ね直され、舌を絡め取られていく。
 乱暴で、息苦しいキス。
 全然、甘くない。
 こういうときは、優しくされるより、激しくされた方が気持ちいい。
 計算しているのか定かじゃないけど……いや、たぶん悠堵は、してないだろう。
 それでも、俺の思い通り、好みの行動を起こしてくれる。
 酸欠に陥りそうなくらい深く口を重ねたまま、腰をくねらせると、ナカを悠堵のモノで押し上げられた。
「んぅんんん! くぅっ……はぁっ、はぁっ!」
 体が震えて、すぐに腰を浮かせていられなくなってしまう。
 今度は俺に代わるようにして、悠堵がまた激しく抽送してくれる。
「あぁあっ、あっ、あっ、んん、ふぁっ!」
 もうキスどころじゃない。
 それでも、くっついていたくて舌先を伸ばすと、悠堵の方から、また舌を絡めてくれた。
 吸いあげられて、腰を打ちつけられて、最奥に入り込んだ悠堵のがビクビク震える。
「ん、んんっ!」
 悠堵がイクのを察した瞬間、全身が痺れるみたいに快感が押し寄せてきた。
「んっ、んぅんんんんー!!」
 悠堵と同じタイミングで、欲望を解放する。
 いっぱい、奥に注がれるのを感じながら、俺もまた吐き出していた。
「はぁっ、あっ……んぅ、ん……!」
 射精しながら、ナカでもイってしまった俺の体は、ドクドクと脈打ち続ける。
 悠堵のも脈打っていて、2、3発出されてるみたいに、ビュウビュウ入り込んでくるのを感じた。
「はぁ……あ……おま……出しすぎ……」
「ほんと……とまんねー」
「んん、んっ……はぁ……」
 困るのに嬉しくて、俺は悠堵の背中に手を回す。
「……風呂行く?」
 俺を抱き起こす悠堵の腰に、足を絡ませる。
「ん……」
 適当な返事を返しながら、悠堵の肩にあごを乗せて脱力した。
「洗ってやるよ」
「……まだ、いい」
 いま動くのはめんどくさい。
「も少し……このまま……」
 抱いていて欲しい。
 そんな風に思っている自分に気づいたけど、口にはしないでおいた。
 それでも、悠堵は俺を抱えたまま、体の向きを変えて机に深く座る。
「はぁ……なんで、今日来たんだよ」
「言っただろ。会いたくなったって。お前は、なんでやりたくなってんの?」
 やりたくなんてなってない。
 そう言ったところで、悠堵は否定も肯定もしないだろう。
 ただ、俺の言葉を聞き入れてくれる。
 そんなことわかってるけど。
「……お前が、わざわざ来るから」
 繋がったままそう告げると、俺は悠堵にしがみついた。