ああ……最悪だ。
あんな風に大きな声をあげてイくなんて、いつぶりだろう。
何度も演技でしたことはあるけれど、悠堵が相手のときにはあまりしていない。
感情が、おかしくなっていたんだと思う。
おかしいって思える時点で、おかしくないのかもしれないけど。
「……なんで中出ししてんだよ」
「ナツがいいって言ったんだろ」
なんで俺はいいなんて言ったんだ。
尻の中がぬるぬるしてる。
「出しすぎ……」
とりあえず、なるべく気にしないようにして、公園を後にする。
当たり前のように悠堵もついてきた。
「俺が掻き出そうか?」
「自分でする」
「させろよ」
俺の腕を掴んだかと思うと、悠堵に引き寄せられる。
「なんで」
「そのつもりで出したから」
「……バカかよ。どっちにしろ帰るから」
「行っていい?」
駄目だと言えば、こいつはたぶんついてこない。
そういうやつだと思う。
「まあいいけど。今日はもうセックスしないから。2回やって疲れてるし」
「その1回が俺じゃないのとか、ちょっと不満なんだけど」
「うざ……」
「せっかく、感情戻ったんだから、もう1回くらいいいだろ」
俺は悠堵の手を振り払うと、1人で家の方へと歩き出す。
とにかくとっとと洗い流さないと、変な気分になりかねない。
なんとか家についた俺は、ドアの鍵を開けて中へと入る。
直後、入ってきた悠堵が家の鍵をかけたかと思うと、腕を引いて唇を重ねてきた。
「ん……なに。わざわざ家まで待ってキスとか」
「キスしたら、お前、俺の精液零すかもしんねぇだろ」
「そう思うなら、ここでもすんなよ」
「ここならいいだろ」
ドアに背中を押し付けられ、もう一度、口を塞がれる。
今度は、さっきよりも深く、舌が入り込んできた。
まあ当然、それなりには気持ちいい。
悠堵のキスはうまいし……というか、俺と相性がいいのか、うまい具合に舌がたくさん触れ合って、結構いやらしい。
俺好みのキスで、わりとその気にさせられる。
「ん……んぅ……やめろって……」
「したくなるから?」
「うるさい……。も、風呂いく……」
「風呂まで我慢できないんだけど」
「発情期かよ」
「そうかもな」
また口を重ねながら、今度は悠堵の手が俺の股間に触れる。
チャックをおろされて、取り出されて、絶妙な力加減で擦りあげていく。
「はぁ……ん……」
ああ、最悪だ。
悠堵のせいで力が入らなくなってしまったところから、出された精液が零れてしまう。
なにより最悪なのは、結局、悠堵とやりたくなってしまっているということだ。
正直なところ、入れられる側の素質があるとは思わない。
それでも、いろんな奴に抱かれて、経験値みたいなものはあって。
いまではナカで感じることも出来る。
悠堵とのセックスは気持ちよくて、ときどき我を失いそうになるほどだった。
一応、なんとか取り繕うけど。
他の男となにが違うのか、いままではよくわからないでいた。
特別、腰を振るのがうまいとか、でかいとか、そんなんじゃないのに。
いまならわかる。
違うのは体じゃない、精神なんだろう。
「悠堵……ん……ベッドがいい……」
「……了解」
悠堵は俺を抱えると、奥にあるベッドまで運んでくれる。
仰向けに寝かされた俺は、悠堵にされるがまますべての服を脱がされた。
俺の右膝を深く折りたたみながら、右手の指で溢れる精液を拭われる。
「ん……んぅ……」
「ああ……ヒクヒクしてんなぁ、ここ。指、入れるよ」
悠堵の指が入り込んできた瞬間、恥ずかしいくらいに体が跳ね上がった。
「んぅんっ!」
一気に入れられた2本の指が、ぐちゅぐちゅと音を立てるようにナカを掻きまわしていく。
「ひぁっ……あ……ん……んんっ! んっ!」
気持ちいい。
いつもより敏感になっているのか、さっきから腰がビクビク震えて止まらない。
「んぅっ……あっ……ん、んぅ! あっ……んぅっ!
自分の体のことは、自分が一番よくわかっていた。
確実に、いつもと違う。
そして俺の体をよく知ってくれている悠堵も、当然それには気づいているだろう。
「なに……腰抜けてんの? 公園でも指入れただけで立ってんの辛そうにしてたし。これじゃあもう立ってセックス出来ねぇな」
うるさい。
気持ちいい。
むかつく。
好き。
いろんな感情があふれて、頭が混乱する。
こんなに混乱するくらいなら、やっぱり感情なんてない方がラクなのかもしれない。
でも、それは弱さだって悠堵が言ってたっけ。
弱いのが嫌なわけじゃないけど、悠堵がそう言うなら、向き合ってやってもいい。
「はぁ……悠堵……んぅ……いく……あ、ん……ああっ、あっ……いく……」
「……なんで教えてくれんの? いままでイクなんて言ってくれなかったじゃん」
「んんっ……言ってた……」
「演技とか、リップサービスでな?」
いまは演技でもリップサービスでもないって、こいつはあっさり見抜いてしまう。
なんでそんなこと口にしたかなんて、俺でもわからない。
ただ、そういう気分になっただけ。
考える余裕もなく、俺の足を押さえつける悠堵の腕に爪を立てる。
「んぅんんっ! ああっ、あっ! いくっ……いくいく……ああっ、あっ……あぁあああっ!」
元々、震えていた腰が、ひと際大きくビクンと跳ね上がった。
たくさんの精液が自分にかかる。
力が抜けてしまった俺は、体を横に捻って、近くの枕にしがみついた。
「はぁ……ん……ん……はぁ……」
「指だけでそんな感じて……俺の入れたらどうなんの?」
きっと、どうにかなってしまうんだろう。
「……入れていいの?」
「……ダメっつったらやめんの?」
「やめるよ」
「……はぁ……いい」
引き抜いた指の代わりに、悠堵のモノが押し当てられる。
ゆっくりとそこを広げながら、ナカへと入り込む。
「んぅ……! んっ……んっ! あぁあっ!」
奥の方に届いた瞬間、体がビクついた。
「はぁっ、あ……あ、ん……悠、堵……」
「いいよ……お前は力抜いてろ」
「ん……」
体に全然力が入らない。
むしろ勝手に変なところに力が入っているのかもしれない。
よくわからないまま、悠堵の熱を体内で感じる。
熱くて、硬いモノが、じっくり時間をかけるように俺のナカを掻き回していく。
「はぁあ……あ……あっ……んぅ……あぁっ……んっ……んぅ……!」
少しずつ速度をあげると、ナカに残っていた精液か腸液か、それともこいつが出してる先走りの液か、わからないけどぬるついて、グチュグチュと音を立て始めた。
悠堵は腰を揺らしながら、俺の性器に指を絡める。
そこもまた、溢れている液でぐちゃぐちゃになっていた。
悠堵の指先が、溢れる液を拭うみたいに亀頭を撫でる。
「あぁあっ……あっ、ん……悠堵……あっ……ああっ、そこ……!」
「ああ……めちゃくちゃ濡れてんな。カウパーだらだら零しすぎ」
軽く擦られて、また体が跳ねあがる。
さっきから何度か定期的にビクビクするのが治まらない。
「んぅんんっ! ああっ……はぁ……あぁあっ! くぅっ……」
「……お前、何回イってんの」
俺に覆いかぶさるようにして、悠堵が耳元で囁く。
その声は、ひどく熱っぽい。
耳に舌が入り込んできて、まるで頭の奥が揺らされているみたい。
「いってな……はぁ……あ……勘違いすんな……」
「んー……そう。じゃあ、ちゃんと感じさせないと」
緩やかだった腰の動きが、激しいものへと変化していく。
「あぁあっ! ああっ、あっ、あっ、んぅんっ!!」
いやらしくて、ありえないほど気持ちいい。
むかつく。
もう軽めに何度かイかされた。
悠堵が出入りするたび、中に入っていることを実感させられる。
いっぱい……いっぱい、悠堵で埋め尽くされていく。
「あぁあっ! あんっ……あっ、ああっ、いくっ……あぁっ!」
「はぁ……お前んナカ、もう軽くビクついてんだけど……? イク前なのにこんなビクついてさ……イったらどうなんだよ……」
答える余裕もなんてない。
ベッドに爪を立てていた俺は、悠堵の背中に手を回す。
悠堵の服がもどかしい。
服を捲りあげて、直に触れながら抱き寄せる。
「はぁっ……いくっ……ああっ、あっ、いくっ……ああっ、あっ、あぁあああっ!!」
これまでとは比べ物にならない激しい絶頂だった。
射精ではなく、ナカでイクと同時に潮吹きしてしまう。
頭が真っ白になりかける中、悠堵がまた俺の中で出したと理解する。
妙な感覚だった。
面倒だとか、そんなことはどうでもよくて。
なぜか、出してくれてよかったとそう感じた。
「ん……」
悠堵が俺に唇を重ねる。
こいつはなに甘ったるいことしてるんだろう。
恥ずかしい男だと思ったけれど、照れくさくなっているのは自分の方なのかもしれない。
悠堵とのセックスとキスを終えた後、俺はあることに気付く。
自覚した瞬間、目から涙が溢れてきた。
枕を抱き寄せ、顔を埋める。
「お前って実は泣き虫だよな」
「……違う」
「溜め込み過ぎて情緒狂った? 普段出さねぇからそうなんだよ」
それは一理ある。
以前、悠堵の前で泣いたのも、さっき悠堵の前で泣いたのも。
いま涙が溢れてくるのも、これまで泣いてこなかったツケ。
悠堵は、無理に俺の顔を見ようとはしなかった。
ただ、俺の髪をそっと優しく撫でる。
こいつは、いつも俺の涙の理由を聞かない。
なんとなく察しているのか。
聞きたくないのか。
俺が聞かれたくないんじゃないかって思っているのか。
……ただ面倒なだけかもしれないけど。
そういう悠堵の距離感が好きだ。
だから俺も話してこなかったけど、今日はこれまでの涙とは違う。
「……セックスしてるのに、あの人のこと思い出さなかった」
「……初めて?」
「あの人と会ってからは」
「お前が別のこと考えて抱かれてようが構わねぇけど。なんでお前が泣くんだよ」
あの人を忘れてしまったから。
違う、忘れたわけじゃない。
でも……悠堵とセックスしている間、思い出さなかった。
「ナツは、その人に申し訳ないとか思ってんの?」
「そうじゃない……そんなことあの人も望んでないし。忘れないけど、でも……浮かんでこなくて……だからこの涙は……」
悲しい涙じゃない。
悔しい涙でもない。
うれし涙というわけでもなくて。
……いや、逆にその全部なのかもしれないけれど。
この感情を俺は良く知らない。
例えるのなら……。
体を起こして、悠堵にしがみつく。
「卒業……かも」
卒業しても、過去の出来事は思い出す。
きっと忘れはしないけど、俺を拘束するわけじゃない。
「お前、卒業式で泣くタイプ?」
「不良のお前にはわかんねぇだろ」
「わかるって。俺も泣くタイプ。我慢すっけど」
「泣かねぇんじゃん」
そっと腕を緩めて顔を俯かせる。
悠堵は、俺の顔を見ることなく、指先で頬を伝う涙を拭ってくれた。
「コーヒー淹れてくるよ。飲むだろ」
俺の家に慣れている悠堵は、そう告げてベッドをおりる。
「悠堵って、留年とかしてる?」
俺はコーヒーを準備する悠堵に問いかけた。
「してねぇよ」
やっぱり、こいつ根は真面目だよなぁなんて、内心笑ってしまう。
「……なに笑ってんだよ」
ああ、顔に出てたか。
「別に」
インスタントだけれど、コーヒーのいい香りが漂う。
悠堵は俺にコーヒーの入ったカップと濡れタオルを渡すと、隣に腰掛けた。
「力入んねぇなら、俺が拭こうか」
「いい。それより……」
顔と体を軽く拭きながら、コーヒーを一口飲む。
「言ってなかったけど、俺、お前より年上だから」
なぜか、言いたくなった。
これまで、隠していたわけじゃないけれど、言うタイミングを逃していたし、言う必要はないと思っていたから。
知って欲しくなった……のかもしれない。
「それは言えよ……いくつ?」
「よっつ」
「……は?」
「高校でお前とつるんでた頃、たばこ吸ってる俺見て驚いてたんだろうけど、もう許される歳だったんだよね」
「……そりゃねぇだろ」
よっぽど想定外だったのか、悠堵は面食らった様子で、少し戸惑っていた。
それがなんだかおもしろくて、思わず笑ってしまう。
「ふふっ……」
「……お前、そんな風に笑うんだな」
「ああ、そうだよ」
「もっかい抱いていい?」
「コーヒーくらいゆっくり飲ませろ」
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