ダメじゃない。
 僕がそう答えると、東琶は一瞬驚いたように目を見開いた後、ニヤリと笑みを漏らした。
「ふぅん……」
 その顔を見たせいか、心臓がさっき以上にバクバクと音を立て始める。
「東琶……」
 東琶は手早く僕のズボンと下着を引き抜くと、僕の足を開かせた。
「あ……」
「指、入れるから」
 入れる。
 入れられる。
 駄目とかいいとか、僕が答えるより早く、東琶の指先が少しだけ入り込んできた。
「んぅっ……ん!」
「精液とカウパー垂れすぎてて、ローションいらねぇんだけど」
「ん……ん……だって……。これ……おかしい?」
「……いや、いいよ。俺以外、知ることもねぇんだろ」
「ん……」
 僕が頷くのを確認してか、東琶は指を奥へと押し進めていく。
「あっ……んんっ! 東琶……! んっ……変な、感じ……する」
「それって、どんな感じ?」
 東琶の指が僕の中で蠢いているみたいで、体が勝手にビクビク跳ねてしまう。
「あっ……あっ! んっ……やっぱり……あっ……やだ……やっ! やめっ……んっ、んぅっ!」
「いまさら、やめるとか言う?」
「だって……あっ……だめ……だめ……っ! たくさ……出ちゃう……!」
 そう伝えると、東琶は空いた手の指で、僕が垂らしている我慢汁を拭った。
「ホント、すげぇ出てる……。エロすぎなんだけど」
「はぁっ……あっ、あっ……さきっぽ、や……! やぁ、ん! 東琶ぁ……! やぁっ、やっ……きちゃう……!」
「なに……まだ大したことしてねぇけど。もうドライでイきそ? もしかして、1人でしてるとき、出さずにイッてんの?」
 出さずに……?
 射精せずにってこと?
 そんなイキ方、いままでしたことがない。
 そもそも、こんな感覚初めてだ。
 東琶が、僕に変なことしてくるから。
 初めての感覚で、わけがわからなくなる。
「知らな……あんっ……こんな……知らな……ひゃあっ!? んぅんっ! そこっ……だめ、だめっ……!」
「なんで?」
「体っ……あっ、ビクビク、するっ! 東琶ぁ……あんっ……あっ、あっ! ああんんっ!!」

 ひと際大きく体が跳ねて、なにかが崩壊した。
 よくわからないけど、ものすごい快感が体と脳を支配する。
 東琶の指が僕の中からそっと引き抜かれても、まだ体がビクビクし続けていた。
「東琶……んぅ……はぁ……東琶ぁ……」
 体を引き寄せられ、僕はわけもわからず東琶にしがみつく。
「……気持ちよかった?」
「はぁっ……ん……はぁっ……気持ちい……んん……いい……」
 なんとなく、すぐ近くで東琶がゴクリとつばを飲むのが分かった。
 僕の頭はぼんやりしたまま。
 よくわからないけど、目の前の東琶に甘えたくて仕方がない。
 どうにかなってしまったのか。
 さっきまで、指が入り込んでいた場所が、なんだか疼く。
 なにかを入れるような場所じゃないのに、いまは妙な喪失感がある。
 その喪失感を埋めるように、もう一度、背中側から東琶の指が入り込んできた。
 今度は、さっきよりも大きい。
 2本……?
「はぁ……んぅっ……あんっ……あっ……東琶……あっ……もっと、おく……!」
「はいはい。さっきんとこな。そんな奥でもねぇけど」
 入口付近をほぐすようにさ迷っていた指先が、奥の方を開いていく。
「ああっ……あっ……あんっ、そこぉ……あっ、ああっ……なんで……はぁっ、なんで、こんな……気持ちいい、の……?」
「……お前に素質があったとしか言いようねぇけど」
 こんな場所で感じるはずがないと思っていた。
 ただ、入れる側の人だけが気持ちいいんだろうって。
 それなのに、僕までこんなにも気持ちいいなんて。
 というか、いまは僕しか気持ちよくないのかもしれない。
 東琶には悪いけど、考える余裕がない。
「はぁっ……あっ、あっ……あんっ……また……んん、あっ! やぁああっ!!」
 また、体がビクビク震えるやつだ。
 たぶん、イッてるんだと思う。
「だめ……だめっ……東琶……いくの、とまんなくなる……! きもちい……きもちいいよぉ……」
「お前がいやならやめる気でいたけど、もうマジで抑えんの無理だわ……」
 東琶は指を引き抜くと、抱きかかえた僕の体をベッドに寝転がらせる。
 机の引き出しから取り出したなにかを、器用に自身の性器に被せていた。
「それ……ゴム?」
「そ……お前んナカ、入れたままイきてぇし。かといっていきなり中出しすんのもなんだろ」
 いきなり中出しってのがどうなのか、僕にはよくわからないけど。
 入れたままイきたいだなんて、なんだか恥ずかしい。
 僕が照れくさくなっている間にも、今度はゴムをはめた東琶の亀頭が押し当てられた。
「あ……」
「いい……?」
 考える余裕がなくなっていた僕は、流されるようにして頷く。
 それが正しいことなのかもわからないまま。
 でも、東琶なら……。
「んっ……はぁっ……あぁあああっ!」
 さきほどとは比べ物にならない圧迫感が押し寄せてきた。
 東琶のが、入ってきてるんだ。
 どうにか理解する。
 理解できても、やっぱりよくわからない。
 少し苦しいけど、痛みとは違うなにかがビリビリと体を痺れさす。
「東琶ぁ……さっきみたいに……あっ……」
「なに、抱いて欲しいの?」
 少し熱っぽい東琶の声。
 恥ずかしい聞き方をされているような気もしたけれど、いまの僕には恥じらう余裕もない。
「ん……掴まりたい……」
「……はぁ。そんじゃあ起こすぞ」
 繋がったまま、東琶に腕を引かれるようにして、ゆっくりと体を起こす。
 すかさず、僕は東琶の背中に手を回した。
 ぎゅっとしがみつく。
「はぁっ……ん……すごい……」
「お前、そのままゆっくり腰降ろせる?」
「え……」
「まだ先の方しか入ってねぇから。もっと奥まで受け入れろよ」
 東琶の手が、僕の腰を撫でる。
 優しく、それでいて誘導するように。
 僕は言われるがまま、ゆっくりと腰を落としていく。
「んっ……ああっ……入っちゃう……」
「もう入ってるって」
「ちが……あっ……ひぁっ……おくっ……さっきより、ずっと……ああっ、あっ!」
「やべ……響ん中、マジできもちい……」
「東琶ぁっ……んぅんっ! いく……いくっ……やぁああっ!」
 また、ビクビクと体が跳ね上がった。
「あー……なんでまたイッちゃうの。早すぎ」
「んぅっ……東琶の、きもちい……ああっ、あっ……だめっ……うごかな、で……!」
「じっとしてるとか、無理でしょ……」
 奥の方まで入ったかと思うと、東琶は抱いたまま僕の体を揺さぶる。
 ナカから強く押さえつけられて、頭がクラクラしてしまう。
「ひゃう……んぅっ! も……だめ……あんっ……あっ、ああっ……あんんっ!!」
「まぁた、ビクンてした。軽くイった?」
 軽くとか、重くとかよくわからない。
 だけど、何度か快感が押し寄せてきたのは確かだ。
 落ち着く間もなく、また次の波が僕の体を煽っていく。
「はぁ……ぁん……! 東琶ぁ……ああっ……いくの、何度もきちゃ……ああっ、あっ……」
「中イキうまいじゃん。ったく……大して動いてねぇのに、お前んナカ、ビクビク震えるせいで、俺も、イきそ……」
 いつの間にかシャツを開いていた東琶が、僕の強く腰を引き寄せた。
 僕の性器が東琶のお腹で擦れてしまう。
「ひぁっ……! あっ、あんっ! 東琶っ……ああっ……中と外……やぁあっ! あんっ……むりぃ……やっ、やあっ……いくっ!」
「イけよ……! ほら……! くっ……はぁっ」
 東琶の熱っぽい声が頭に響く。
 僕より全然、声は出していないけど、それでもすごくいやらしく感じた。
 東琶も感じてる。
「東琶ぁっ……ぁんっ……すき……あっ! ああっ! あぁああっ!!」
 僕は東琶にしがみつくようにして、また絶頂を迎えた。
「くっ……はぁっ、あっ!」
 僕がビクついた直後、東琶もまた声を漏らしながら体を震わせる。
 ナカでなにかが膨らんでるみたい。
 ゴム……かな。
「ん……はぁ……東琶……イったの……?」
「ん……」
 東琶が僕の耳元で、吐息を漏らす。
 少しくすぐったい。
「お前は?」
 何度もイって、最後に射精して。
「はぁ……いっちゃった……」
 ナカもまた、イってるみたいにビクビクしていた。
「……てか、好きって言ったよな」
 東琶は、片手で僕を抱いたまま、もう片方の手で僕の頬を撫でる。
 まるで、こっちを見ろと言わんばかりに。
 東琶の視線が突き刺さる。
 好き……なんて言ったかな。
 言ったような気もする。
「セックス好きなの?」
「ち、違うよ……」
「じゃあ、なにが好きなの」
 東琶は、僕を見てニヤニヤ笑っていた。
「どうせ、わかってるんだろ……」
 僕は東琶の手から逃れるようにして、俯く。
「わかってるよ」
 東琶は僕の耳元にキスをしながら、優しく頭を撫でてくれた。