養護教諭の集まりの後、仲良くしている他校の養護教諭……柊くんと二次会をしていると、同僚の椿くんから連絡が入った。
 どうやら外は雨らしい。
「なんか雨降り出したって。名残惜しいけど、そろそろお開きにしよっか」
 目の前の柊くんにそう提案する。
「このままじゃ、閉店するまで飲んじゃいそうだしね」
 俺は、そろそろお開きにするとだけ椿くんに返事をした。

 少し時間をおいて外に出ると、車から降りてくる椿くんが視界に入る。
「あの人……」
 こちらに向かってくる椿くんに気づいた柊くんが、そう足を止めた。
「ああ、俺の。迎えに来てくれたみたい」

 迎えに来てほしいとは伝えていないけど、駅も近いしタクシーを頼むほどじゃない。
 そもそもここへは、学校帰りに椿くんに送ってもらっていて、俺が車で来ていないことは知られている。
「じゃあ、ちょっと挨拶くらいしておこうかな」
 そう言ってくれる柊くんと、椿くんの車に向かう。
 椿くんも、傘を持って近づいて来てくれた。
「どうも、佐々木さんの同僚の椿です」
「柊です。佐々木さん、遅くまで付き合わせちゃってすみません」
「俺が柊くんに付き合ってもらってたんだけどね」
 もちろん、椿くんもだいたいのことは把握しているだろう。

「まだ三次会、予定してました? よければ送りますけど。家でも居酒屋でも……傘、使いますか?」
「いえ、今日はもうお開きにしようって話してたとこなんで。小雨だし、家、近いんで大丈夫です」
 柊くんは、そう断りを入れてくれていたけれど、たしか家はそんなに近くない。
「そうだっけ?」
 もしかして、遠慮してるんだろうか。
「俺の家じゃないけど」
「ああ、そういうこと……」
 どうやら、近くに柊くんのパートナーの家があるようだ。

 二次会では、柊くんからパートナーの話をたくさん聞かせてもらった。
 相手は数学教師で、話を聞く限り、生徒から少し舐められているようなところがあるらしい。
 友達感覚で接してもらえるのもある意味才能だし、養護教諭としては、羨ましいスキルだけど。
 どうもうまくあしらえないんだとか。

 椿くんも数学教師だけど、生徒の扱い方は、かなりうまい方だと思う。
 友達感覚でありながら、舐められるようなことはなさそうだし、教師と生徒のいい距離感を保っている感じがする。
 うちの学校の方が、柊くんの学校より荒れてると思うんだけど。
 体育教師かなって思うくらい、ガタイがいいから、舐められにくいのか。
 放課後、生徒に混じってサッカーをしている姿を見たこともある。
 友達感覚……というより、先輩後輩くらいの距離感なのかもしれない。
 とにかく、生徒からかなり親しみを持たれているようだけど、妙な噂が立ったことはない。
 というのも、椿くんは生徒のうちの誰かを特別扱いしたりしないし、相手がいることを公言している。
 ……それが俺だ。
 華奢というわけでもないけど、椿くんと並ぶと一回り小さく見える俺に、庇護欲を煽られた椿くんが惚れ込んでいる。
 そして俺はいつも愛妻弁当で椿くんをもてなし、尽くしている。
 ……なんて、実際はさておき、生徒たちにはそう思われていることだろう。

「……従順そう」
 俺の隣で、俺にだけ聞こえる声で、少し酔っている柊くんがぼそりと呟く。
 先に俺がいろいろ話しているのもあるけれど、やっぱり、見抜ける人には見抜けてしまうらしい。
「牧羊犬かな」
 俺がそう伝えると、なんとなく理解してくれた柊くんは、楽しそうに笑っていた。



 柊くんの背中を見送って車の助手席に乗り込むと、ゆっくり運転席に乗り込んだ椿くんが車を走らせてくれる。
「お迎え……頼んでないけど」
「いらなそうだったら車から降りずにいたよ。ドライブして帰ればいいだけだし」
 一応、店から出てくる俺たちの雰囲気を見て、判断してくれたらしい。
「心配した? 柊くんや、他の養護教諭が俺好みの子じゃないか……」
「まあ、少しはね……」
「それでわざわざ見にきたの?」
「そうじゃないよ。急な雨だったし、いい時間だったから」
「そう? ありがとう」
「うん」
 お礼を伝えると、椿くんは少しだけ頬を緩めた。

「……柊くんのこと、送れなくて残念だったね」
 俺は椿くんの横顔を眺めながら呟く。
「いや、別に残念とかそういうのはないけど」
 理解が追いついていないのか、なんとなくわかりかけているのか、椿くんは少しだけ眉を顰める。
「もし送ってたら……椿くん、もっと興奮してたでしょ」
 そう告げると、一瞬、椿くんの体が強張ったように見えた。
「柊くん鋭いから、気づいちゃうだろうな。さすがにさっき話しただけじゃ気づかなかったと思うけど」
 俺は助手席から右手を伸ばして、椿くんの太ももに触れる。
 あんまり触ると運転に支障がでそうだから、これ以上は触れてやらない。
「気づかれるか気づかれないか……楽しみたかった?」
 俺がそう尋ねると、椿くんは俺の手に左手を重ねてきた。
「……佐々は、なんでわかんの?」
「なんでって……やたら丁寧に車の乗り降りするし、いつもと歩き方も違うし、声色も違う。いつもより熱っぽい……気だるい声してる」
「そんなこと……」
「そんなにエッチなことしたいなら、今度、柊くんの前で犯してあげようか」
「それ、は……」
 即答しないものの、椿くんが興奮しているのが、手に取るようにわかる。
「あんまり仲良くない人に、いきなり見られるの……恥ずかしい?」
「仲いい人でも恥ずかしいんだけど……」
「じゃあ、考えとくね」
 確実に聞こえているはずなのに、椿くんは肯定も否定もせず、そのかわり、俺の手に指を絡めてきた。



 俺が一人暮らしをしているマンションの駐車場につくと、椿くんは、ちらりと俺を窺う。
 だから俺から、切り出すことにした。
「……俺んち、寄ってくよね?」
「佐々がよければ」
「いいよ。もう入れてるんでしょ」
「う……ん」
 わかっていたことだけど、あらためて確認をする。
「まだ柊くんと飲み続けたかもしれないのに」
「……急かしちゃった?」
「んー……まあいいけど。椿くんは、入れたまま俺に待たされても平気だろうし」
「うん……」
「平気じゃなくて、嬉しい?」
「それは……どっちも、いい……」
 焦らされるのも、すぐに気づいてなにかされるのも、どっちもいいらしい。
「いまはしたいよね。もう充分、焦らされた?」
「うん……」
「椿くんが勝手に準備して、勝手に焦らされてるだけだけど」
「わかってるよ。でも……する、よね……?」

 体を運転席に向けると、俺は左手を椿くんの足の間に差し込む。
 椿くんは、反射的に少し腰を浮かせてくれていた。
 奥まったところで、ズボン越しに当たった硬いものを、俺はトントンと指でノックする。
「んっ……んん……」
「ああ……これ、前に俺があげた金属のやつ?」
 どんぐりみたいな形のアナルプラグで、入らない外の部分は、色のついた石みたいなもので装飾されている。
 以前、慣らすためにあげたら、結構気に入ってくれているみたいだった。
「はぁ……うん……それ……」
「じゃあ、そんなに奥までは届いてないね」
 初心者用で、前立腺には当たりそうだけど、そもそもそんなに太くはない代物だ。
「でも、そこ……コツコツされると、結構、クる……かも……」
「……椿くん、こっち見て」
「ん……」
 こっちを向かせると、暗い中でも椿くんの顔が蕩けているのがわかった。
 このまま続けたら、歩けなくなってしまうかもしれない。
「……部屋、行こうか」
「うん……」