「…ばーか」
本気で馬鹿にしているような言い方。
すっげぇむかつくけれど、なにも言い返せなくって。
もっともっとむかつく。
家に帰ると、いつもは寮生活でいないはずのひとつ上の兄貴…総兄がいて。
俺を見て、楽しそうにそう言ったのだ。
「いきなり馬鹿とか、なんなんだよ」
「だって、お馬鹿さんだろ? その制服」
「…ほっとけよ」
そう言って、総兄の横を通り過ぎ、自分の部屋に行こうとするが、総兄が後ろから抱き付いてきた。
「なに…っ」
「どうだった? 高校」
「…別に…」
「慎之介が、落ちるとは思わなかったな…」
そう耳元で言ってくる。
俺だって、落ちるとは思ってなかった。
「……っ…しょうがないだろ」
「せっかく、一緒の高校だと思ったのに」
受かってれば総兄と同じ高校だった。
だからって、学年違えばそう関わることもないと思うが。
「慎之介、かわいーから、うちの学校で自慢したかったのになぁ?」
自分で言うのもうぬぼれみたいだけれど、兄馬鹿みたいな部分がある。
普通に馬鹿とか言うけれど、かわいいだとか、やたら抱きついたりだとか変に心配するのだ。
「っつーかさ。慎之介、大丈夫? あんな馬鹿校で。周りのやつらとかみんな馬鹿で付き合いづらいだろ?」
今度は、本当に心配そうに言うけれど。
どうもしゃくに障る。
「…あのさ…。一応、俺、そこしか受かってないんだから、あんま馬鹿とか言うなよ…」
俺も馬鹿とは思うけど。
でも人に言われるとむかつくとかあるだろ…?
「馬鹿なやつに襲われないようにだけ、気をつけろよ」
そう軽いノリで言われて、体が固まる。
あぁ、俺、過剰に反応しすぎっていうか。
軽く受け流せばいいものを、変に、緊張が走った。
「…慎之介…?」
それがわかったのか、総兄は、少し、低めのトーンで、俺の名前を呼ぶ。
「…なに…」
「いや、なにじゃなくってさ。襲われたりしてないよな?」
襲われるって…?
悠真にやられたこととか…襲われたってことになるんだろうか…。
「…んなわけねぇだろ」
そう言うのに、少し反応が遅れたのを、総兄は見逃してくれなかった。
「…へぇ…慎之介、襲われたんだ…」
疑問系でなく、もうわかりきったのか、恐いトーンの声で、そう俺に言った。
「違うってっ」
そう言う俺を無視して、後ろから、俺の股間をズボンの上からなで上げる。
「っなに…して…」
「せっかくさ…俺は、大事に大事に慎之介のこと、育ててきて。悪い虫がつかないようにしてきたのに…」
「だから、違うって…」
「おまえ、嘘つくの下手なんだから、わざとらしいこと言うなよ」
キツめにそう言われると、もうなにも言えなくなってしまっていた。
総兄は、なにも言えなくなってる俺の手をひっぱると、風呂場の方へと直行する。
「えっ…ぁ…」
わけもわからず脱衣所で、壁に押さえつけられると、シャツのボタンをはずされていった。
「…総兄…?」
「一緒に入ろうな…」
なにを考えてるんだ、この年で。
「…やだよ…」
「いいだろって。たまには俺のわがまま聞けよ」
総兄に対して、あんま嫌がることもできず、俺は、なぜか、こんな夕方から、総兄と風呂にはいる羽目になっていた。
「…痕とかは残されてないんだ…?」
いまさら、襲われてないって言うのも、変だろうか。
洗い場にあるイスに座る俺に向かい合うと、総兄はそっと俺の胸元を手でなでる。
「…ん…。別に…そんな、襲われてねぇって…」
「少しは、なにかされたんだろう…?」
確かにそう。
総兄が俺のことを心配とかしてくれてるのはわかるから、あんまり、ほっとけだとかは言えなくって。
強く出れなかった。
そっと胸元を撫でていた総兄の手が、何度も乳首の辺りを行き来して、変な気分になってきていた。
「…ん……ン…」
総兄の指先の動きについ見入ってしまう。
勃ってきてしまった乳首をそっと押しつぶしたりされながら、転がされ、体にゾクリと刺激が走った。
「っぁっ…何……総兄…っ」
やばいって。
俺、変なこと考えてる…。
たんなるじゃれあいなのかもしれないのに。
すごく、感じてるんだ…?
「っあっ…ゃめっ…」
そっと総兄の手を取ると、空いてる方の手が、俺の頬を撫でる。
「顔、赤いよ…。困ったね。これくらいで頬赤らめてちゃ、誘ってるって思われてもしょうがないよ」
総兄が、俺の体から手を引くから、そのまま見守っていると、リンスを手に取り出す。
「後ろ、向きな」
「シャンプーが先だろ…?」
髪もぬらさねぇとって思うけど、とりあえず後ろを向く。
すると思いがけずに後ろから抱きつかれ、体が変にこわばった。
「っ…」
「…何考えた…? 俺に、胸触られて…感じた…?」
なんのことかは言われなくともわかる。
それを示すように、リンスをまとった手が、俺の股間のモノをつかみ上げた。
「っんぅンっ」
ひやりとした感触に体がビクつく。
「ココはもう、他人の手で、触られた…?」
ゆっくりと擦り上げられ、リンスが変にくちゅくちゅと音を立てた。
「っんっやっ…なにし…っ総兄ぃっ」
ぬるぬるする。変な感触。
おかしくなる。
「っあっ…総兄ぃっ…」
「触られた?」
頭が混乱中。
軽くうなづく以外のことができなかった。
「そっか…。イカされた…?」
そう言いながら、指が亀頭の部分をヌルヌルと行き来した。
「っンぅんっ…ぁっやぁっ」
なにも答えずにいると、総兄は、後ろから俺の足を持ち上げる。
「っなぁっ」
勢いでイスから落ちるがそれどころじゃない。
総兄は、俺の片足を高々と持ち上げたまま、後ろの秘部を指で撫でた。
「っな…に…」
「ココは、やられてない?」
「されてな…っ」
なにするつもりなんだ…?
なんかしちゃうんだろうか?
「よかった…」
耳元でそう言うと、総兄は、まだリンスの名残りのある手で、秘部を軽く撫でてから、ゆっくりと押し入ってきた。
「っひぁあっ…んぅンっ」
奥まで入り込んでくる。
すごく変な、初めての感覚に、身が震えた。
「ぁっあっ…抜っ…」
「その襲ってきたやつのこと、慎之介は、好きなの…?」
「…違っ…」
「そう…。気に入らないな」
そういって、総兄は、無理やりもう1本、指を挿入する。
「っやぁあっ…キツぃっ…ぁっ」
ゆっくりと少しだけ抜かれた指が、また入り込み、何度も何度も繰り返されると、しだいにその太さに慣れてくる。
「っんっあっ…総兄…っ」
「気持ちいい…?」
「っわかん…な…」
少し、中で指が折れ曲がるのがわかる。
すると、探るように動いた指先が、すごく感じるところに触れて、体が大きく跳ね上がる。
「っぁあぁっ…やっ…そこ…っ」
「気持ちいいだろ…?」
「ぁっあっ…んぅ…」
すごい感じる。
もうさっきまでのキツいだとかそういった圧迫感を忘れてしまっていた。
「っ…やぁっ…ん…総兄ぃ…っ変っ…イ…っぁっあっ」
後ろの動きに連動するように、総兄はもう片方の手で、俺のモノの擦り上げていく。
濡れた音と。
自分のいやらしい声が、響く。
「っぁっ…総兄ぃっ…もっゃだっ…あっ…ぁっあぁああっ」
総兄の腕に爪を立ててしまいながら、ビクンと体が大きく震え、俺は、そこで欲望を放ってしまっていた。
「…総兄っ。なにすんだよ」
「だって、嫉妬」
そう言いながら、俺から離れると、総兄は脱衣所の方へ行き、服を着出す。
「けどさ。まぁ、慎之介だって、好きになるやついるだろうし? そいつのためにとっとこうな」
とっとこうってなに?
最後までやられないで済んだのは、そのため…?
好きなやつのためにとっとけって?
「だからって、なにしてんのか、わけわかんねぇって」
それならそれで、なにもしなくていいだろうに。
「ほら。もしまた襲われて、いきなりつっこまれてキレたら嫌だろ…?」
だからなに?
慣らしておきましたとか言うわけ…?
悠真だったら、逆に『なぁんで、慣れてんのかな』とか聞いてきそうだよな…。
って、俺、なんで悠真のこと、想像してんだか。
「…襲われないって、即答して欲しかったんだけどな…」
少し冷たいトーンでそう言われてしまっても、俺はもう疲れて考えがうまくまとまらない。
「…もういいから…休みたい…」
馬鹿な学校行くはめになっちまったんだから。
せめて家ではやすらぎを…。
「…ん。じゃぁな。夏休みにはたぶん帰ってくるから」
そう言って、頭を撫でてくれる。
そっか。
総兄は寮生活だから、そんなに会えないんだよな。
去年もだったけど。
一応、受験勉強とか励んでたから、あまり兄貴がいなくてさびしいだとか考えてなかった。
「うん…」
「それまでには、やられてるかな」
少し、残念そうな顔をしつつも楽しそうに、そう言ってくる。
「うるさい…」
「はいはい。じゃぁな。もう行くから」
早。
ってか、今日、平日じゃん?
なんでいるんだ…?
新入生じゃないしな、まだ春休み?
「遅刻…」
そうにっこり笑って、脱衣所をあとにした。
遅刻…?
あ…もしかして、俺が入学式から帰るの待っててくれた…とか。
一応、初の高校生活だし、不安とかあったし。
兄貴に、どうだった? って聞いてもらえて、少しうれしかった気がしないでもない。
そうやって、心配…なのかはわからないけど、気にしてもらえるのはやっぱありがたいし。
自分、ホント、あんな馬鹿な高校で大丈夫かとか思ったけど。
うん…。
なんか、がんばれる気がしてきた。
総兄のおかげかな。
とりあえず夏休みまで、まだたっぷりあるけれど。
1学期。
一区切りつくまで、がんばって行こうと、そう心に決めた。
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