電車内でやるとか、学校内でやるとか。
さすがによくないって、口にしたのがきっかけだった。
いや、俺はなにも間違ったこと言ってないんだけど。
「んー。じゃ、やめよっか」
案外、悠真は聞き分けがよくて、電車でも学校でも、俺に手を出さなくなった。
自分から望んだことなのに。
そもそも普段、学校以外で会うことなんてほとんどないせいか、実質、焦らされている状態になってしまう。
俺から誘えばいい話ではあるんだけど。
なんとなく、誘いそびれて約1週間。
今日こそ誘おうと思ったのに、結局、悠真と別れて1人、家に帰ってきてしまう。
明日は土曜日。
電話で誘おうか。
やりたいって?
そんな風に言わなくても、会えばそういうことになるかもしれない。
とにかく、そろそろ限界で、夕飯と風呂を済ませた後、しまっていたバイブを取り出す。
久しぶりだし、いきなりこのサイズはきついだろう。
ズボンと下着を脱いで、まずは左手の指にローションを絡める。
ベッドを背もたれにして床に座りながら、太ももを抱えるようにして、奥の窄まりに触れると、小さく体が震えた。
「あ……」
ローションを塗りつけるように入り口を撫でるだけで、体がゾクゾクする。
ひくついているそこに、まずは指を1本だけ……。
「んぅん……んっ……あ……あぁ……」
きついけど、もっと欲しい。
2本目の指も押し入れて、ゆっくり中を掻き回す。
「はぁ……はぁっ……ぁ、ん……んぅっ、んっ……悠真ぁ……」
ああ、やっぱり悠真としたい。
悠真なら、もっとやらしくしてくれるのに。
……同じことをしていても、やらしいって思えるのかもしれない。
「あっ……ん……んっ……んー……はぁっ」
溜まってるのに、いけなくて、いますぐ悠真が欲しくなる。
もちろん、そんなことは無理だけど。
せめて、声だけでも。
いや、会おうって誘えなかったのに、イキたいから、いますぐ電話で言葉責めして欲しいなんて、言えるわけがない。
「くぅ……」
素直に欲しがれって、兄が言っていたのを思い出す。
だからって、学校でも電車でも欲しがるのは、やっぱりよくないだろ。
ああ、だからちゃんと、家でしようって誘えばよかったんだ。
そんな後悔をしている場合じゃない。
もどかしくてたまらない中、右手でスマホを手繰り寄せる。
左手の指は入れたまま、動かすのをやめにして、呼吸を整えて。
悠真に電話をかけてみた。
『もしもーし』
何回かコール音がした後、やっと、悠真が電話に出てくれる。
「悠真……?」
『どうした? 俺の声、聞きたくなっちゃった?』
悠真は冗談っぽくそう言うけど、その通りだ。
聞きたい。
責めて欲しい。
「あ、あのさ……。明日、ヒマ?」
違う。
もう、明日じゃなくて。
いま。
欲しいのはいますぐだ。
『デートのお誘い?』
「そういうんじゃないけど……」
そうなんだけど。
『とりあえずさー』
悠真がなにか言いかけるのに合わせて、スマホに耳を近づける。
『……手、とめて』
そう言われた瞬間、ありえないほど、心臓がバクついた。
なんで。
普通にしゃべってるのに。
『ねぇ、オナニーしてるでしょ。手、動かしてんの、とめて』
「……動かして、ない」
そう答えた後、間違いだったと気づく。
『そう。動かしてないけど、オナニーはしてるんだ?』
企むような声色で、思わず腰が浮く。
その瞬間、ナカに入り込んでいた指先が、気持ちいいところをかすめた。
「ぁあっ……!」
『あーあ……そんな声漏らしちゃって。なにしてんの。教えて』
教える義理はない。
わかってるのに、悠真に言われると、従わなきゃいけない気にさせられる。
言わされたいのかもしれない。
『言えるよね?』
「ふ……ぅ…………指……入って……」
『ああ、指入れちゃってんだ? それ、動かしてないの? 動かしてないのに、声出ちゃうくらい気持ちいい?』
「ふ……ん、ん……」
『ん? 聞こえないよー』
「はぁ……ぁ……きもち、い……」
全然、足りなかったのに、悠真の声で少しからかわれるだけで、何倍も感じてる。
指を動かそうとしたときだった。
『じゃあ、指、抜いて?』
悠真にそう言われてしまう。
「は……あ……なん、で……?」
『えー。だって、どうせなら一緒にしたいじゃん? だから、1人H、やめて?』
なんで。
やめられるはずがない。
「……1人で、してないし」
『え、誰かそこにいるの?』
「ちが……悠真の、声……ん……」
声をかけられているからといって、2人でしてるとも言えないけど。
『指抜いて、ビデオ通話にして? あ、先にビデオ通話にしよっか』
悠真の指示に、ありえないほど体が反応して、ぞわぞわした。
ここで無視したら、もう、言葉をもらえない。
そう思った俺は、悠真の指示に従って、ビデオ通話に切り替える。
映し出された悠真は、俺を見てにっこり笑った。
『わぁあ、すごい。やらしい顔してるねぇ。それじゃあ、指、引き抜いて』
俺は、悠真の視線から逃れるように、顔を俯かせる。
それでも、悠真に見られながら、あまり刺激がないように、指を引き抜いた。
「んぅ、んっ!」
『抜けた? えぇっと、それで……用事は、明日のデートのお誘いだっけ?』
違う。
違わないけど、そうじゃない。
なにも答えないでいると、悠真の企むみたいな声が聞こえてきた。
『……慎之介、明日でいいの?』
どういう意味だろう。
「……だめって言ったら?」
『いますぐ、慎之介の家まで行って、えっちなことしてあげる』
そう言われた瞬間、顔をあげてしまう。
悠真と画面越しに合った目が離せない。
夜9時。
俺の家は、兄が不真面目なこともあって、遅い時間に友達が訪ねてくることくらい、どうってことない。
『したい?』
悠真に聞かれて、俺はこくりと頷いた。
『じゃ、行くねー。でもその前に……1回、抜こうか』
「え……」
『下半身映して』
悠真は、なんでもないことのようにそう言うけれど、さすがにそれは抵抗がある。
「やだよ……そんなの」
『えー……見せてよー。どうなってんの? 見せてくれたら、触っていいから』
触りたい。
さっきからもう、ずっと触りたくて仕方なかった。
ローションでヌルついた指を、近くのタオルで拭い、スマホを左手に持ちかえる。
下半身が映るように角度を変えると、俺は右手で自分の性器に触れようとした。
『待って』
触れる直前で声をかけられ、手を止めさせられてしまう。
「なに……」
『慎之介……俺に従ってよ。その方が、2人でしてる感じするし。ね?』
悠真の言う通りだと思う。
でも、焦らされてる。
じれったい。
「はぁ……」
『ああ、ごめんごめん、苦しいね。もうすごくおっきくなっちゃってるもんね。ねぇ、我慢汁、出てる? 指先で拭って見せて』
悠真が触ってくれたらいいのに。
でも、悠真はここにいない。
指先で、先端から溢れる蜜を拭って、糸を引いて見せる。
「うぅ……く……」
『わぁ……いっぱい濡れちゃってるねぇ。もっといっぱい、さきっぽ撫でて?』
画面越しだとどれくらい見えているんだろう。
わからないけど、もう指がとめられなくなっていた。
言われるがまま、先端の敏感なところを指先で撫で回す。
「ふぅ……はぁっ……あっ……ん……」
『ぬるぬるしてる?』
「ん……あっ……して、る……あ……ぁあっ……んんっ……悠真ぁ……」
指先だけじゃ足りなくて、液が塗り広がった亀頭を、右手の平で包み込む。
『そんなことしたら、俺から見えないんだけどなぁ』
そう言われても、我慢出来なくて、掴んだ亀頭を撫で回す。
「あっ、あぅ……んっ……ぁっ! ああっ、悠真ぁ、あっ、あっ」
『亀頭攻められんの好き? 後でそれ、俺にもやらせて?』
「はぁ、あっ……して……あっ、ああっ……いくぅ……」
腰も性器もびくついて、くちゅくちゅと、手のひらと亀頭が擦れる音がした。
悠真にも聞こえているかもしれない。
『やらしいなぁ、慎之介は。いいよ。いって? 精液出るとこ、ちゃんと見せてね』
「あっ、あっ……ぁあっ……んぅんんんっ!」
断る隙もなく、イク瞬間に手を放して、精液が溢れる様を悠真に見せつける。
「はぁ……はぁっ……んん……ふぅ……」
『……いっぱい出てるけど……すっきりした?』
「ん……」
『俺と、えっちなことする気、失せちゃった?』
それは……ない。
これくらいで、やる気が失せるなら、そもそも電話だってしていないだろう。
「……悠真、ホントに、来てくれんの?」
『うん。でも……俺も散々、焦らされちゃってたから、覚悟してね?』
悠真は、自分が我慢してでも、俺を焦らして楽しみたかったんだろうか。
まんまと焦らされて、俺の方から悠真を誘っちゃったわけだけど。
「悠真こそ……覚悟しろよ」
『んー?』
「いっぱい、やらせるから……」
そう告げると、悠真は、満足そうに笑った。
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