「……拓巳…」
寮の部屋。
メールで何気なく話し込んでるうちに、双子の兄、拓耶が風邪で高熱なのを知る。
俺は、学校をサボることなんてなんでもなかったから、兄貴の部屋まで遊びついでに見舞いに行った。
「大丈夫かよ、お前。すっげぇ熱」
「ん…。拓巳こそ…学校は…?」
「あんなん別にいーんだよ。拓耶は…? もうすぐ3時間目、始まんじゃねぇの?」
拓耶は、ベッドで寝転がったまま、俺の手を取る。
「っん…この学校ね…ちょっと変わってて。テストの日は、午後からなんだ」
「午前はないんだ…?」
「うん…」
というか。
「…テスト…?」
「うん…」
それって、受けなきゃやばくねぇの…?
「テストって休んだら、それなりの平均点つけてもらえるんだっけ…?」
「ん…でも、体調管理もきちんと出来ねぇやつなんて、どうでもいいのかも…」
冗談めかしてそういうけど、冗談ですむわけ…?
「拓耶、どうせ、授業もたくさんサボってんだろ…? テストでカバーしなくてどうすんだよ」
「さすが、拓巳はおれのこと、よくわかってんね」
さすがじゃねぇよ。
拓耶はもうしゃべるのもいっぱいいっぱいの様子。
「…今日のテスト、何…?」
「…今日は…最後だから、一教科で…。数A…」
数学か…。
「教科書は?」
「…そこ…」
力なく指された机の上から教科書を取り、ついでに壁に貼り付けてあった範囲を見比べる。
運よく範囲は少ない。
「じゃぁ、俺、受けてくるわ」
「え…?」
「拓耶の評価下げるようにはしねぇから」
俺だって一応、学校で数学受けてるし。
同じ年だし。
そりゃ、こっちの学校の方がレベル高いわけだからつらいけど、数学は得意だ。
なんとかできる自身がある。
これが英語とかだったらさっぱりだけど。
教科書を見る限りでは大丈夫そう。
そんなに差はない。
「…うん…。ありがと…」
俺は、クラスと席を聞いて、学校へと向かった。


にしても、教室の位置からしてさっぱりだ…。
早めにきてよかった。
拓耶に教えてもらった教室を迷いながらもみつけ、少し早めに席についた。

「…早いじゃん。どうしたわけ…?」
そう声をかけてきた奴。
わっかんねぇけど、同じクラスでつるむのは、たいていは悠貴だって聞いた。
「ちょっと…。悠貴は…?」
こう聞けば、もし悠貴なら、普通に答えてくれるだろうし。
そうじゃなかったら、俺が悠貴を捜してると思われるだろう。
「俺はさ。ちょっと、早めにきて、勉強しようかなって」
ビンゴ。
こいつが悠貴なんだな。
適当に受け答え、なんとかバレてないようで。
「ちょっとさ…数学の勉強したいから」
俺はそう言って、悠貴を断り、一人で教科書に見入る。
悠貴の方も、大して気にしてない様子。
本来なら、拓耶ってそんなに人前で勉強するタイプじゃないと思うから疑われるかと思ったけど。
でも、そんな場合じゃねぇ。
とにかく、公式を頭にたたきこんだ。

数学のテストは意外にも簡単だった。
簡単ってわけでもないのかもしれないけど、なんとか解ける範囲だった。
すべて解けると、やっと気が抜ける。
あとはもう、テスト終了時まで、待つだけ。
もちろん、ちゃんと見直しだってした。
完璧。
テストが回収され、今日はもう帰れるのだろうと、俺は早々と教室を出て行く。
「拓耶」
そう呼び止めたのは、さっきの悠貴だ。
「なに」
廊下でだった。
俺の腕を取るといきなり口を重ねる。
「っんっ…」
急すぎてわけがわからない。
わりとあっさり開放され、テスト直後ということもあり、クラスのやつらもまだ教室にいるまま。
誰にも見られずにはすんだ。
だけど、なんなんだ?
「っいきなり、何してんだよっ」
「ん。ちょっと。今日、いい…?」
いいって…?
「…なに…」
やべぇ。さっぱりわかんねぇ。
「セックス…」
「はぁあ?」
つい、大きな声で、応えてしまう。
俺は、慌てて、なんでもないみたいな表情を作る。
「あっと…いや、俺、彼女いるし…」
だよな。
拓耶って、陸と付き合ってるよな…?
「知ってるよ」
…だよなぁ…。
友達だもんな。
「俺が嫌…?」
そっと、頬を撫でられて。
誘うような目で俺を見る。
「…そうじゃ…なくて…」
俺は、悠貴にひっぱられるがままに、音楽室のようなところに連れてかれる。
とはいえ、教室の隣で、すぐ近くだ。
俺は、断ることも出来ないから、そのまま、音楽室に入り込んだ。
なにするのかわかんねぇけど。
もしかしたら、これが、拓耶と悠貴の中では日課かもしれないから、あえてなにも言わないでいた。

「座って?」
拓耶は、俺と違って、こう言われたら、絶対従うタイプだよな…。
俺は、悠貴にしたがって、壁にもたれながら床に座り込む。

毎度のことかもしれなくって、うかつに『なんなんだ』とか聞けない。
ただ、俺は、さしつかえないように、受け答えするしかなかった。
「じゃ、いつもみたいにさ…して」
いつもみたいに…?
わっかんねぇ…。
「あっと…今日はちょっと…」
とりあえず、さっき悠貴がセックスとか言ってたから、それに近い行為なんだろうなとは思うけど、わからなくって。

そんな俺を見てなのか、俺の前にしゃがみこんだ悠貴が、そっと、俺のズボンの上から股間のモノを擦り上げる。
「っ…な…ぁっ」
「ほら…いつもさ…俺に見せてくれるじゃん…?」
なにを…?
そう顔に出ちまってたのか、
「一人H…」
にっこり笑って、答えてくれる。
「え…」
え…じゃねぇだろ、俺。
兄貴のフリしなきゃ。
「っ…今日はさ…ちょっと、体調が」
「悪そうには見えないな」
そう言って、悠貴は俺のズボンを脱がしにかかる。
「っなにすっ…」
つい、反抗的な態度をとってしまい、慌てて口をつぐむ。
「…何?」
「…いや…なんでも…」
そう言う俺を確認して、ズボンと下着を抜き取ってしまっていた。
「…マジで、体調悪いんだけど…」
悪くねぇけど。
「じゃぁ、桐生先生に見てもらう?」
桐生って誰だよ、もう。
保健の先生なのか?
見てもらうってからには、そうなんだろ…。
「…あぁ…」
そう言えば開放してくれるのではないかと思って、素直に頷いておいた。
けど、そうでもないらしい。

悠貴は携帯を取り出すと、誰かに電話をかける。
きっと、さっきの桐生ってやつだと思う。
「桐生先生…。拓耶が、体、見てほしいって」
…なんか、間違ってないけど、いやらしい…気が…。

電話を切り、メールを早々と打つのがわかった。
携帯をしまって、俺を見ると、
「もうすぐ来るってさ」
そう伝えてくれる。
「さんきゅ…」
俺は体調悪いフリとかした方がいいのか…?
っつーか、先生来るなら、ズボンはかねぇと…
ズボンに伸ばした手を、悠貴に取られ、一瞬、わけがわからず、ただ、悠貴を見る。
「…先生…呼んだんだよな…?」
「そうだよ。桐生先生」
悠貴は、俺の手をつかんだまま、もう片方の手で、そっと俺の股間のモノを直になで上げた。
「っなっ…あ……っえ…?」
意味…わかんねぇ…。
さっぱり、思考回路がめちゃくちゃ。
こいつの行動わけわかんねぇ。
拓耶だったら、わかるわけ…?
っつーか、わかるんだろう。
俺は、わかってるフリすればいいのか…?
兄貴…。
俺のモノをつかむと、何度も何度もこすり上げてくる。
俺自身、もう気持ちよくって、考えが、もっともっとまとまらなくなっていた。
「んっ…はぁ…」
「悦くなってきた…?」
なんでそんなこと聞くんだよ、ったく。
でも兄貴なら答えそう…。
俺は、そんなん素直に言えるタイプじゃないから、そっと頷いた。
「っぁっ…んっ…ンっ…」
でももう、マジで気持ちいい。
おかしくなってくる。

ボーっとしちゃってたけれど、悠貴が不意に手を離すもんだから、ついなんでだろうと、顔をあげる。
すると、いままで、俺のを掴んでた指をそっと舌でぬらしていくのが見えた。
「っ…な…」
「なんで、そんな驚いた表情するわけ…? いつもやってんのに…」
「っだって…っ…今日は、体調悪ぃって…っ」
「そうだったね。遅いね。桐生先生…」
ってか、先生にこんなとこ見られちゃまずいんじゃねぇの…?
そう思ってるうちにも、音楽室のドアが開く。
「っ…」
ドアからすぐは、見えないところに俺らはいたけれど、中に入り込んできたやつが、白衣を着てたから、きっとさっき言ってた保健の桐生先生なのだろうとわかった。
「桐生先生…そこまでしなくても」
悠貴がそう言う意味はわからなかったけれど、ツッコむことなんてもちろん出来ないから、俺はだまったまま。
「まぁまぁ。で…拓耶くん、体調悪くて、セックス出来ないって…?」
「っなっ…」
なんなんだ、こいつは。
間違ってねぇけどっ。
くっそ…。兄貴なら、どう言う?
あぁ、ノリノリで『そうなんですよ〜♪』とか言いそう。
「っ…そうなん…ですよ…」
…台詞だけ、真似れても、俺にはノれねぇ…。
逆に、変な奴みたい…。
でも、本当に体調悪いみたいな感じは出てたかも…。
「そっか。じゃ、診てあげる」
そう桐生が言うのにあわせて、悠貴が俺の後ろに割り込むと、足を高々と持ち上げる。
「っなにす…ってめぇっ…」
つい、振り返って、そいつに肘鉄でも入れようかと構えるが、そいつが『え…?』み
たいな表情をするから、俺も、また前に向き直る。
やべぇ…な…。
「…いや…その…急で、びっくりして…」
そうフォローするしかなかった。

「じゃ、中、入れるよ」
「は…?」
にっこり笑って、正面の桐生はそう言うと、持ってきたのかローションをつけた指を俺の足の付け根の奥、秘部へと押し付ける。
「っな…あ…ちょっと待っ…ホントに、体調悪ぃっつって…」
「どういう風に?」
どういうって…。
「…腹、壊してんだよ。昨日、カキ氷、食いすぎたかな…って…」
もうちょっと、まともなこと、言えねぇのかよ、俺。
「そっか」
にっこり笑ってくれるくせに、俺の言葉なんて無視で、指先がグっと中へ押し込まれてきた。
「っいっ…ぁああっ」
初めての感覚。
たとえようがない、変な感情がこみあがってくる。
「力、抜きなって」
後ろから、そう悠貴がやさしく声をかけた。
奥の方まで指先が入り込んでいくのがわかる。
後ろから足を上げさせられた状態で、俺は、桐生の指が中に入る様子に見入ってしまっていた。
「っぁっ…」
指が届くところまで全部入り込んだのか、今度はそっと少しだけ退いて、出入りを繰り返しながら小刻みに内壁を擦っていく。
「っくふっ…ぅンっ…」
すっげぇ恥ずかしい声。
こんな声、聞かれたことない。
っつーか、自分で聞いたこともない。
必死で口を手で抑える。
「っんっ…ぅンんっ…っンっ」
「…おかしいね…。拓耶…。いつも、もっと、声、出してくれるのに…」
拓耶は、もっと声出すの…?
でも、できねぇよ。
「っゃんんっ…ンっ…ぁンっ」
「でも、我慢して出す声も、いやらしいね」
そう言いながら耳元で少し笑われて、一気に羞恥心が高まった。
「んっ…アっ…んっ…ンぅっっ…ぅンんっ」
桐生の指の動きに合わせて、いやなくらいリズミカルに声がもれる。
力が入らなくって、全体重を後ろにいる悠貴にかけてしまっていた。

悠貴はそっと俺の足を下ろすと、後ろから俺のシャツのボタンをはずしていく。
「っなっぁあっ…ンぅっ」
反論しようと手をはずすと、いやらしい声が響いた。
「いいよ。たまには殺したかったら、声、我慢してくれて」
そう言ってくれるもんだから、俺は、心置きなく手で口をふさいだ。

悠貴は、全部ボタンをはずすと、胸の突起を爪で引っかく。
「っンぅんっ」
体中が敏感になってるみたいで、それだけのことで、ビクンと仰け反ってしまっていた。
「2本目、入れるよ」
桐生が、俺の足を広げさせながら、もう1本、指を入れようとする。
「っやっ…め…無理っ」
「いつも、もっと太いの入ってるだろ…? それに、体調も悪くないみたいだけど」
そう言って、2本目の指を中へと押し込んでいった。
「っあっ…っつぅ…」
息苦しくって、手で口を抑えてられなくなってくる。
それでも、必死で口を噤んでいた。

2本の指先が抜き差しされるたびに、クチュクチュといやらしい音が聞こえてくる。
「っぁっんっ…ンぅんっ…」
生理的な涙が溢れてきていた。
「…ココらへん…?」
意味不明なその言葉はすぐに理解できた。
中で軽く降り曲がった指が、ものすごく敏感なところを刺激する。
「っアぁあっっ…」
「そっか。ここ、いいんだ…」
やさしくそう言うけれど、俺の方はそれどころじゃねぇ。
前立腺…? そうか、それだな…って、いちいち、理解してる場合でもねぇ。
「っんっあっ…んぅっ…ぁあんんっ」
執拗にソコを刺激され、もう声が殺せない。
それがバレたのか、
「…声、殺さないの…?」
いいタイミングで、そう悠貴に聞かれる。
「っぁああっ…やっ…はぁんんっ」
「すっげぇ、かわいい…」
耳元でそう言うと、2本入り込んでいるソコに、悠貴が指を押し入れようとする。
「っやっ…あっ…」
悠貴の腕をどかそうと自然と絡めた手は、意味のないものだった。
ただ、刺激に耐えるように、悠貴の腕に爪を立てる。

すこし動きを止める桐生先生の目が、俺を見た。
「っ…あっ…っやめ…抜…」
悠貴が無理なら桐生しか…そう、無意識に思った俺は、桐生に頼み込むようにしてしまっていた。
「先生ってのはさ…。生徒に頼まれたら、普通、断れないんだよね。だけどさ…君、俺の生徒じゃないし?」
にっこり、そう言うと、悠貴が中に指を入れるのをそのまま受け入れて、中で、二人の指先が蠢く。
「やぁあっ…あっ…やっ…やあっ」
俺の生徒じゃないって…?
桐生は、保健の先生だから…?
教えたりしてないから?
「はぁっ…んっ…くっ…やふっ…」
頭の中ではもう抵抗しようとか思ったり、兄貴に似せないとって思ったり。
それでももう、そんなのとは対照的で、抵抗もできなければ、拓耶に似てもいなかった。
「んぅっ…あんっ…あっ…ゃだっ…あっ」
拓耶なら嫌がらないだろ…?
でももう駄目だ。
体中がおかしくて、うまく思考回路がまとまらない。
拓耶…俺は、どうすればいいわけ…?
「や…っぁっやっ…拓耶ぁっ…あっ…んぅンっ…あっやっ…あぁあああっっ」

確かにそれは気持ちいいのだけれど、わけもわからず、イってしまったという感じだった。
二人の指がそっと引き抜かれる。
俺は脱力した状態で、涙のせいでぼやけた視界の中、ボーっと桐生を見ていた。
「あぁあもうっ、すっげぇかわいい」
急にテンション高めに桐生がそう言うと、俺の体を思いっきりギュっと抱きしめる。
「っな…」
「桐生先生は、抵抗する相手を組み敷くのが好きなんでしょ…」
「彼だって、絶対、本来はそのタイプだって」
俺を抱きしめたままで、後ろでさりげに言い合ってる…
と、思いきや、今度は、桐生の体から奪い取るようにして、悠貴が俺の体を抱きしめた。
「もちろん拓耶もいいんだけど…。なんつーか、サド心くすぐってくれるタイプだよね」
「いいね、いいねぇ。縛って放置プレイとかしたいね」
くすくす笑いながら、先生にあるまじきことを言う。
耳を疑った。
「で。結局、名前、何…?」
そう桐生に聞かれ、俺は、体が硬直する。
「え……」
「前、拓耶になんか聞いたんだけど、ごめんね、忘れちゃって」
俺を抱いたままの状態で、悠貴がそう言った。

何…。
俺、バレてんの…?
そりゃ、拓耶の名前呼んじゃったし?  
自分の名前呼ぶやつなんていないとは思うけど。
「…っ…いつから…」
「なにが…? 君が拓耶じゃないってこと…?」
楽しそうにそう言われ、なんかむかついたから、抱きつかれてる腕を払いのける。
「そうだよ」
「…そうだね…わりと、会ってすぐ? 受け答えのノリがねぇ。ローテンションときの拓耶ならあぁかもしんないけど。それに、オーラ…つーのかな。拓耶って、人前ではほとんど笑ってるし?」
「…んだよ、てめぇ。だったら早く言えよ。もしくはほっとけ」
俺が拓耶にならないとって思ってんのわかってて、わざと変なことしやがって。
桐生の方に関しては、電話だかメールだかで、もう悠貴自身から聞いていたのかもしれない。
「だって、拓耶のフリしてたみたいだから? ノったまでだよ」
なんか、正当くさいこと言いやがって。
俺は、イライラする感覚に目を細めた。
「かわいい…」
桐生はそう言うと、俺の頬を掴んで、そっと口付けた。
拓耶の代わりだとしたら、もうちょっとおとなしくしてないとだめだろうけど、バレてるならもうどうでもいい。
俺はこの学校と関係ねぇし?
力強く、桐生の腹にパンチを食らわし、引く手で、後ろの悠貴に肘鉄を食らわした。
「…っ…元気がいいね…」
「それはどうも♪」
にっこり笑って立ち上がり、早々とズボンらを履く。
やべぇ。ダルいわ…。
「っつーか、あんた、拓耶と仲いいわけ?」
あぁ、保健室でサボりまくってるとか。
「よーく一緒に遊んでるねぇ。俺、数学得意な子、大好きだし。もちろん苦手な子もかわいいけど?」
「数学関係ねぇだろ」
「俺、数学担当だし」
「保健と両方…?」
「数学だけ。白衣はちょっとした演出?」
楽しそうに笑って下から見上げられ、だまされたんだとわかった。
保健の先生じゃなかったのかよ。
「あっそ」
俺は、だるい体を無理やり動かして、ドアの方へと向かう。
体が重くなったみたいだった。

「また来なよ。ぜひとも、遊びたいね」
「拓耶とセットで見たいな」
桐生と悠貴が口々に言った。
「…てめぇら、覚えとけよ」
「もちろん。馬鹿じゃないから?」
それが、俺が馬鹿校に行ってるのを拓耶に聞いてて、わざとあてつけで言ってるのではないかと思うと腹が立つ。
「悪ぃね。馬鹿かと思ってた。っつーか、現在進行中だけど? 次、ふざけたまねしたら、お二人のお綺麗な顔か、もしくはお大事なその股間のモノ、傷付けさせていただきますんで」
笑顔を作って、持っていたバタフライナイフを開けてみせる。
「それはそれは、楽しみですこと」
桐生も、俺に合わせて笑顔で、そう答えた。
あえて、俺の言葉を受け取らないようにしているみたいだった。
むかつくからって、俺が怒りを露わにしたら、負けみたいだから、俺は、冷静に心を落ち着かせた。
「…せいぜい楽しみにしてれば…?」
ナイフをしまって、かわりにタバコを取り出す…が、さすがに吸い歩きは、一応、拓耶のフリしてたんだった、駄目だろう。
軽くため息をついて、取り出したタバコをしまいこんだ。

だるい体のまま、俺は、拓耶のいる寮の部屋まで戻っていった。
「…拓巳…どうだった?」
気分悪いくせに。
苦しそうにしながらも、にっこりベッドから起き上がってくれる。
「あぁ。バッチリ」
「誰かにバレた…?」
「…ん…。悠貴と桐生ってやつにはバレた」
うそついてもどうにもならねぇし?
バレても支障のないやつらだから、正直につたえた。
「そっか…。桐生先生と会ったんだ…? ノリよくっていい人でしょ…」
いい人…?
確かに、変にノリはいいかもしんねぇけど?
「そうか? よくねぇよ。俺、2人に襲われたんだけど?」
「あはは♪俺と、間違えられたんかな」
軽いノリで、それでもやっぱテンションは低めで、そっと言う。
「拓耶は、普段から、襲われるわけ?」
「違うけど…。ごめんな、拓巳…。すっげぇ疲れたって顔してる…。明日土曜だし、俺のベッドで寝てな…」
そう言うと、ベッドから降りようとする。
「馬鹿、お前、風邪なんだろって。寝てろよ」
ベッドに押し付けるように、拓耶を押し倒し、にらみをきかせると、少し笑って、俺の腕に手を絡めた。
「風邪、うつしちゃ悪いしね…」
「そういうことじゃねぇよ」
「…もううつったりしてない…?」
そう言って、俺の頬を撫でてくれる。
「…別に…平気」
だけれど、もうだるくって。
拓耶はの隣に倒れこむようにしていた。
「拓巳…?」
「やっぱベッド半分かして」
「…うん…」
拓耶は、俺の方を見て、にこにこしながら、頭をなでた。
「なにしてんだよ」
「べつに。…ホントに…ごめんな…」
さっき、俺が、2人に襲われたって言ったのを気にしているのだろう。
「…いいって。別に、なんでもねぇし。最後までやられたわけじゃねぇし、拓耶のせいじゃねぇよ」
実際は、拓耶のせいかもしれないけど。
「…うん…ありがと…」
そう言うと、そっと、俺にキスをした。
「…ん…」
「俺ね…拓巳が大好きだから」
いきなりで、なにが言いたいのかは、よくわからなかった。
言ってる意味はもちろんわかるが。

「…なんだよ、いきなり…」
「ん…。別に。寝ような」
軽くポンポンと、肩をたたかれ、疲れきっていた俺は、拓耶の腕の中で、そっと目を瞑った。
すごくあったかくって。
もちろん、熱があるからとかそんなんじゃなくって、言い方恥ずかしいけど、ぬくもりみたいなもんだと思う。
俺も、拓耶が好きだし。
悠貴や桐生だって、きっと好きなんだろう。
俺は、自分の片割れが、拓耶であって、よかったと思えた。

拓耶の風邪が治ったら。
自分は、深月が好きだって。
ちゃんと伝えようと思う。