悠貴×凍也。




「…凍也は、真綾の友達みたいだからねぇ。しょうがないから、気持ちよくしてあげる」

裏のありそうな声でそう言うと、もう抵抗する気力と体力のなくなった俺の手錠を外してくれた。


「…なに…友達って…」
「真綾の友達なんだろ」
「…うぜぇよ、てめぇ……」
真綾と俺は確かに友達だ。
だけれど、それよりも、俺とお前の方が、深いだろ。


「…凍也。どういうつもり?」
「ぁあ? …知るかよ」
悠貴は俺の体を床へと押し倒し、ズボンと下着を抜き取っていった。
やっべぇ。
マジで体に力入んねぇし。

こいつとヤるのは初めてじゃない。
というか、もう何度もやった。
だから、こいつも俺のことわかってる。
一度後ろでイかされて、力が抜けてて、抵抗できないってわかってっから、手錠も外してくれたんだろう。

「ヤんの…?」
「ヤるよ」
「…なんで」
「凍也とやるの、好きだから。……真綾と付き合いだしてから、急に冷たくなったよね…」


都合がよかった。

お互いにだ。

智巳先生のことが好きで、他の人とは付き合う気がないと言っていたこいつ。
智巳先生には彼女がいて。
遊びでしか体の相手はしてくれないんだとか。
本気の相手に遊びで相手されるなんて、結構、キツいだろ。

俺はというと、とりあえず面倒だから恋人はいらない、ただ、やる相手は欲しいって思ってた。


保健室常連組みの俺らは意気投合した。

お互いが遊びという条件で。
好きにならないし、好かれても困る。
そうお互いが思っていた。

何度も何度も、数え切れないほどやってきて。
好きという感情はないはずだが、やったりするのが当たり前の、普通の行為になってて。

悠貴が真綾と付き合いだしたとき、なにかがズレた。


別に。
俺だって、ずっと悠貴がフリーでい続けるだとか思ってたわけじゃない。
ずっと智巳先生を思い続けて、彼女を作らないだとか。
本気で思ってたわけじゃない。

だけれど、想像してなかった。

真綾のこと。
別に好きじゃないけど付き合うことになったって。

怒るのも馬鹿らしくてなんでもないフリをした。

どうせ、智巳先生以外の好きじゃない相手と付き合うのなら…。
どうして俺じゃないんだろうって、ふと思った。
そりゃ、フリーでいたいからって初めに言ったのは俺だ。

お互い、好きにならないって決めていた。
当たり前の選択だ。

俺だって、本気じゃない。
ただ、近づきすぎたせいで、離れていってしまうのが寂しかっただけ。

彼女が出来た悠貴と会うのを徹底的に避けた。

悠貴は、真綾がいるからって俺を相手にしないというタイプではなかった。
だけれど、そんな愛人みたいな扱われ方は嫌で。

俺は逃げたんだ。


真綾をかわいがっていた伊集院先輩と。
真綾に悠貴を取られた俺。

利害の一致。

別に真綾のことは嫌じゃない。
憎いとも思わない。

ただ、本気で真綾のこと、好きで付き合ってくれてなきゃ、俺の立場ねぇじゃんって思っちまう。

俺でもよかったんじゃないの? って。
そう思っちまうだろ。

悠貴のこと、好きじゃねぇけど。
好きにならないようにしてただけなんだってば。

だって、好きになったら、俺らは一緒にいられねぇだろ。
歯車、合わないんだってば。

悠貴が俺を本気で好きじゃないのはわかってた。
だってそうだろう?
智巳先生は遊びでしか相手してくれないって。
それが辛かったのは、智巳先生が好きだからだ。
遊びで相手を出来る俺のことは、好きじゃないんだろ?


「凍也…俺は、真綾と付き合いだしてからも、お前に会いに行ったのに」
「…嫌だっつったろ」
「どうして」
どうして。

そうだ。
どうしてだ。

自分は都合よくやれる相手がいればいい。
こいつは本気で真綾を好きじゃなかった。
別に、俺はわざわざ真綾を気遣ったりとかしてたわけじゃない。

こいつのこと、憎く感じたんだ。
智巳先生でもない、いきなり違う誰かと付き合いだしたことに腹が立って。
裏切られた気分になった。

だって、お互いに都合がよかっただろ?
欲求不満の解消できて。
でも、真綾と付き合いだしたら、お前にとって俺は別に都合のいい相手じゃねぇだろ。
とりあえず、俺に付き合ってくれてるだけになる。

「都合、悪くなんだろ」
「なにそれ?」
「お前は別に、俺のこと、もう必要じゃなくなってただろってことだよ。  
俺は、欲求不満でお前とやってたけど。悠貴は、彼女がいりゃ、そっちでヌけっからよ」

悠貴は、顔を近づけて。
「ばぁか…」
また俺を馬鹿にする。
むかつくけど、反論はしなかった。
「凍也…。俺ら、ヤり友だろ? なにかが加わったからって、いきなり避けることないだろ?」
「狂わせたのはお前だよ」
「凍也は、都合がいいってだけで俺とヤってたの…? 俺は周りが変化しても、お前との関係は変わらないと思ってたよ」

それこそ、都合よすぎだ。
「変わるだろ」
「変わらない…」

そう言って、口を重ねてきた。
「ん…っ」
あまったるいキスだ。
頭の奥がボーっとしてしまうような。

懐かしい感じすらした。

「…凍也と、ちゃんと話、したかったんだよ」
「俺は話したくなかった」
「伊集院先輩とはね。真綾を大切にするって、そう話をしたんだよ。
そしたら、許してくれたよ。
今では仲良く話すことも出来る。
…凍也は…? いつまでそう俺に敵意向けるわけ…?」
「…俺のこと、玩具だって…っ」
「真綾がいたからだよ」

あぁ。そうやって彼女ばっか気遣う。
わかってる。
ねたみだ。
嫉妬だ。
ヤキモチだ。

「っ…お前が…嫌いなんだよ…っ」

なんで、ひょっこり出てきたヤツに取られるわけ?

お前に好きって言ったことなんて一度だってないけれど。
でも、わかるだろ?

智巳先生のことが好きだって、言ったくせに。
他のヤツのことは眼中にないって、言ったくせに。
好きになられても困るって、言ったくせに。

好きにならないようにしてた俺は、どうすりゃいいんだよ。



「嫌い…ね。…そっか」

悠貴はローションを纏ったままの指先をもう一度、俺の中へと挿入していく。
「んっ…ぅンっ…」
2本…か。
「…ね…真綾みたいなタイプに声聞かれるのは恥ずかしい…? ずいぶん我慢してたみたいだけど?」
企むように笑って。
今の俺が、声を我慢出来るほどの力がないのもわかってやがるんだ。

何度も塗りたくされたローションのせいで、ぐちゃぐちゃの淫猥な音が響いていた。
慣れた手つきで俺の中を擦って突いて掻き回す。
「あっ…んっ…ぁあっ…ぅンっ…」
俺は腕で、涙が溢れる目を覆い、悠貴の視界から逃れた。

「感謝しなよ…。真綾の前じゃ恥ずかしいみたいだったから、真綾に前立腺突かせるの、極力避けさせてあげたんだよ?」
恩着せがましい。
わかってる。
こいつの指が入り込んでからは、俺の一番感じるところを軽く押さえてくれていて。
そのおかげで、真綾の指がソコに届くことはほとんどなかった。

強く突かれることもなく、醜態を晒さずに済んだと思った。
そこを強めに突かれるのがものすごく苦手だ。
感じすぎておかしくなる。

「悠…貴っ…ぁあっ…ゃめっ…」
「ホント……凍也ってあいかわらずエロい体してるよね…。前立腺の感度良すぎ」
相手がお前だからだ。
「ぃっ…ぁっあっ…んっ…あぁああっっ」
「またイっちゃった…? 今日は何回イけるだろうねぇ…」
愉しそうにそう笑って、もう1本、指を増やしていく。
増やされた指の感触に、体が大きくビクついて。
下半身が熱くてたまらない。
「やめっ…ぁあっあっ…ひっ…くっ…んっ…やっ…やぁあっ」
「んー…どうして泣くの…?」
むかつくから、答えたくない。
俺の体を知り尽くしたこいつに、いいように遊ばれるのがたまらなくむかつく。
「ホントはね…、真綾には見せたくなかったんだよ。こんだけ感じてる凍也をね。かわいすぎるから」
冗談とも本気ともつかない口調でそう言って、指をそっと引き抜いた。

代わりに悠貴のが押し当てられる。
「…やめろ…」
「いいよ…。乱れても。秘密にしてあげる」
「っっ…おかしく…なるっ」
「知ってる」
真面目な顔でそう言って、悠貴は自分のモノをゆっくりと俺の中へと押し込んだ。
「あっっ…ぅんんっ」
「力抜いて…」
「ひぁっ…あっ…んっ…悠貴っ…ぁあっ…」

奥まで入り込んだソレで、悠貴は中を掻き回して、感じるところを擦っていく。
熱くて、気が遠くなりそう。

悠貴が俺ん中入ってる。
涙がたくさん溢れてきた。
精神的な涙と生理的な涙と、両方が入り混じる。
俺の感じるところを、硬い部分が何度も突いたり擦ったりして。

死にそう。
「はぁっあっ…あっ…んーっ…あっ…ぃくっ」
「もう…無意識に何度も、イっちゃってるでしょ…」
わけがわかんなくて。
指摘されたとおり、もう何度もイっちゃってると思う。
腹に自分の出した精液が乗っかっている。
「やっ…ぁああっもぉっ…やっ…んーっ」
「ね…俺も、いきそう…。いい? 凍也…」
「っんっ…やめっ…あっ…ぁあっあぁああっっ」

悠貴が俺の中へと出して。
俺はまた、イっちゃって。

脱力状態だった。
悠貴が俺の体や辺りを近くにあったティッシュやらで綺麗にしてくれる。

それをなんとなく視界に入れたまま、俺は天井をボーっと眺めていた。

「悠貴…」
「…ごめんね、凍也…」
「なに謝ってんの…」

「真綾と付き合いだしたから」
予想外だった。
今、強引にこの行為をしてしまったことに対する謝罪でもすんのかと思いきや。

真綾のこと…?
「別に…」
いまさら謝ってんじゃねぇよ。また泣きそうだ。
「でも、初めに拒絶したのはお前だよ…。フリーがいいって。そう言ってた」

「悠貴が、智巳ちゃんのこと好きだとか言うからだろ」
「そうだね…。凍也のこと、好きだよ」

うざい。うるさい。
そんなん言われても困るっつってんだろって。
お前だって、俺が好きとか言ったらどうせ困るくせに。
好きの意味が友達としてだってのもわかってる。
だからなおさらうざいんだよ。
「…お前なんて、嫌いだよ…」

俺が困るってわかってるくせに、好きとか言う。
友達以上になれないのもわかってたし、なるつもりもなかった。
それでよかった。

お前のせいだ。
馬鹿みたいに簡単に付き合いだしやがって。

たくさん涙が溢れた。
悠貴はキスをしてくれた。

一度も伝えていない気持ち。
伝えても、振られるだけだから。
言わないでおいた。


本当はたぶん。

悠貴のことが、好きだった。