悠貴×凍也。



かったるくて保健室に来ると、俺がいつも寝るベッドに見覚えのある顔。

「…お前、昨日もいたよな」
「いたよ。しょっちゅういる」

暇だし。
こいつとしゃべるかーなんて。
はじまりはそんな感じ。

「名前は? 俺は凍也」
「悠貴」
「悠貴ね。お前、付き合ってる奴とかいんの?」
「…いないよ。けど、好きな人はいる」
「そうなんだ…? じゃあ、ヤれないって?」
「いや、そうでもないな。一応、諦めてるし」
あまり深刻そうでもなかったから、俺はちょっと突っ込んで聞いてみることにした。

「なにそれ。完全片想い?」
「そういうことになるな。…智巳先生。俺の好きな人」
智巳先生か。
数学担当の先生で、美人なのにかっこいい。
けれど、彼女持ち。
相手がそれじゃあなぁ。

「…なるほどね。あの人、彼女想いだもんな」
「諦めてはいるけど、他で恋愛する気もないよ。
…そっちはどうなの? そういう話、持ちかけてくるからにはヤれるってこと?」
わかってらっしゃる。
ちょーっと、欲求不満でね。
「まぁね。なぁんか最近、面倒でさぁ。フリーでいたいんだけど。遊びでヤれる人、募集中」
「へぇ……」

ヤるにはちょうどいい。
他で恋愛する気ないってさ。
俺もフリーがいいわけだし?

お互い、ただヤるだけなんだと、言わなくても暗黙の了解で。
確認するよう目を合わせた後、口を重ねた。

あー、こいつのキス、好きかも。
舌が、俺とイイ感じに絡む。
合わせてくれてんのか?
いや、俺も合わせてるけど。

少しボーっとして、口が離れて。
じゃあ、いただかせていただきますかと、そいつの肩を掴み、ベッドに寝転がらせようとした。

……と、俺の肩も掴まれてるんですけど。
「……えーっと」
「やらせてくれるんじゃないの?」
そう聞かれましても。
「いや、こっちがやろうとしてるんだけど」
こいつもタチか。
いや、そうかなぁって思ったけれどさ。
智巳先生が好きってくらいだし。
智巳先生はどう考えても、タチだろ。
ってことはこいつ、ネコじゃないかって。
思ったんだけどなぁ。
どうしたもんかと、手を緩める。

その隙を突かれ、ベッドに押し倒された。
「ちょ…っ! …がっつきすぎだし」
「一歩引いたら、タチの座、奪われそうな気がしたから」
にっこり笑って、言ってくれますね。
その通りですけど。

「…俺あんま、後ろ慣れてねーしなー」
「あんま…ってことは、経験済みではあるんだ?」
あるにはあるし、苦痛じゃねぇけど。
あんま、気持ちよくなかったっつーか。
「イけるかわかんねーし」
「じゃ、気持ちよくなかったら、交代してやるよ」
こいつが、俺で抜いて。
俺がよくなかったら、次はこいつにハメていいってことか。
「まぁ、それならいっか」

悠貴の言い分に了承すると、もう一度、口を重ねられた。
そのまま、シャツのボタンを一つずつ片手で外されていく。
慣れてんなー、こいつ。

口が離れるころには、ボタンは全部外れ、そいつは俺のベルトを抜き取った。
ズボンと下着を引き抜かれ、下半身を曝け出す。
「…マグロのつもりはねぇけど、俺、あんまこっち側慣れてねぇから、そう自分から誘ったりとか無理だぜ?」
「いいよ。充分、誘われる」
「なにそれ」
「肌、綺麗だし」
肌綺麗とか言われたことねぇし。
その言い回しについ、笑いそうになった。
なったんだけど、あまりにもじっくりと肌を見られているのに気づき、笑い損ねた。

そいつの指先が、確認するよう、俺のわき腹辺りを撫でる。
触れるか触れないかくらいの位置で、ラインをなぞられ、体がゾクっとした。
「…っ…」
…雰囲気作り、うまいかも。
なんつーか、チャラけてた周りの空気が変わった気がした。

俺の体に顔を近づけ、アバラ付近、まるで骨をなぞるよう舌を這わす。
「っ! …っ…」
ビクつきそうな体を抑え、俺はなにも言えずそいつの行動を見守った。
「…痕、残して平気?」
「…ん…」
確認を取ってから、いままで舐めていた付近を軽く吸い上げられる。
くすぐったい…に近い感覚だと思う。
けれど、妙に感じるのはこいつの雰囲気作りのせいなのか。
俺の腹を支えるように手を添えて。
位置をずらしながら何度も、吸い上げていく。

「…ね…すごい綺麗」
あまりにもマジっぽいから反論したりチャカしづらい。
「…どこがだよ」
「ピンク色にさ。綺麗な痕、残るね」
そう他のやつと変わらないだろって。

腹をさまよっていた指先が、太ももを這い、付け根の奥をそっと撫でる。
「…キツそう」
「…慣れてねぇからな」
「ヨくなかったの?」
「…まぁ、ある程度はイイんだけど、あんまりっつーか」
「そう。うつ伏せになって」
「え……」
言われるがまま、うつ伏せになると、腰を取られ引き寄せられる。
膝を立て、腰だけを突き出す格好になった。
振り返ると、そいつの顔が、俺の尻に近づいているのがわかって、指先が確認するように触れた秘部へと舌を這わされた。

「っ!!!」
俺は前に向き直って、手元の枕を抱き寄せる。

マジかよ、こいつ。
知り合って間もないのに、ただやるだけのくせに。
んなとこ舐めるとか、ありえねぇ。
中学のころに俺のこと好きだとか言ってきてたやつだって、んなとこ舐めなかったし。

襞を確認するみたいに、じっとりと舐められていく。
妙な羞恥心にかられた。
それなのに、舌先がゆっくりと入り込む。
「っくっ…んっ…!」
なに、これ。
舌の長さなんて大したことねぇだろってのに。
ぬるぬるしたモノが出入りする感触に身震いした。
「ぁ…っ…」
熱い。
体が。
俺、感じてんの?
直接、触られてもいねぇのに、股間のモンが張り詰めてるのがわかる。
舌で濡らしたソコに、ズルりと指が押し込まれた。
「ぁああっ!!」
やっべ。すげぇ声出しちまったし。
不意打ちだったし。
指も濡らしてたのか、難なく奥まで入り込んだ。
枕に爪を立てる。

押し広げるように、中を指がゆっくりかき回す。
前立腺付近を掠めて、自分は感じているのだと実感した。
「くっ…んっ! …はぁ…っ」
気持ちいい。
もっと欲しくなる。
それがわかってなのか、
「もう1本、足すね」
わざわざ教えてくれてから、ゆっくりと2本目の指を差し込んでいく。
「ぁあっ…んっ!」
「…入れるとき、声、出ちゃうんだ?」
俺の横からそう声をかけられ、それを無視していると中に入り込んだ指が今度は2本で強めに押し開いていく。
「くっ…ンっ!!」
「慣れてないって言ってたし。先に1回、イこうか」
なにこの上から目線。

むかつく…そう思った直後、指が中を探るもんだから、体がビクついた。
「あっ!」
「…ココ、気持ちいい?」
確認するよう、指先で感じる場所を軽く突く。
「あっ…ぁあ…っ…ぅあっ…んっ!」
気持ちいい。
なにこれ、知らない。

こんな風じゃなかった。
前はこんな気持ちよくなかった。
全然違う。
涙が溢れる。

不意打ちみたく、空いた手で股間のモノを掴まれた。
「ぁあっ!! くンっ!」
掴まれて実感する。
そこがすごく熱くてたまんなくて。
ぐちゃぐちゃに濡らしてることに。

すっげぇ恥ずかしくてイヤになった。
それなのに、擦りあげられて、クチャクチャと濡れた音を立てる。
「はぁっ…あっ…んっ、んーーーっ!!!」

イかされて放心状態だ。
前、擦られてめちゃくちゃ気持ちくて。
…でも、たぶん、後ろだけでもイけたと思う。

指を引き抜かれ、そいつに体を押されるがまま仰向けに。
なにを言えず息を整える俺を見下ろされるが、ぼやけた視界で、表情がいまいちわからなかった。

今度は正面から、指先をまた押し込んでいく。
「あっ…ぁああっ」
「大丈夫そう…?」
やべぇ。
余裕あんまないかも。
指が中を押し広げていく。
「んぅっ! ぁっ、はぁ…ンっ!」
勝手に大丈夫だと理解してか、指を引き抜くと、悠貴のモノが押し当てられる。
「くっ…ん!」
キツい。
それでもゆっくりと悠貴が入り込んでくる。
「っん…あっ、ぁあっ!」
力抜かねぇと…って、頭ではわかってるんだけど。
うまくいかなくて。
あーあ。
絶対、こいつ『めんどくせー』とか思ってそう。
だから、先に慣れてねぇって伝えたし。

そんなことを考えながら、悠貴の表情を伺おうと顔を上げた。
瞬間、キスされた。
「んっ…」
短めのキスだったけれど、不意打ちで、びっくりして。
さすがに力抜けた。
その隙に、悠貴が奥の方まで入り込む。
「ぁっ! あっ、あぁああっっ」
ゾクゾクして、わけわかんねーし。

気持ち…いい。
なんで、こんな後ろ突っ込まれて気持ちいいんだよ。
前と違う風に感じるし。
あー、体の相性…ってやつ?
…指入れられるだけでも相性とかあるわけ?
こいつがうまいとか。
いや、前のやつが下手?

もういい。
理由なんて、どうでもいい。
とにかくこいつのはすごく好きかもしれない。

少し動かれるだけで、射精感が高まる。
「ぁっあっ…すげ…っんっ! ぁあっ」
「イイ…? 良さそうな顔に見えるけど」
「ぃい…っあっ…やば…ぁっ…あっ…悠貴は…?」
「ん…いいよ…。凍也ん中…すごいね…」
すごいとか意味わかんねぇし。
でも、俺もなにがイイんだって聞かれても、なんかもうなんとなく悠貴のがすごくイイとしか答えがたい。

何度も、出入りを繰り返されると限界だった。
「あっ…悠貴…っぃく…あっんっんーーーっ!!!」

引き抜かれた悠貴のモノからも、たくさん液が溢れてて。
俺たち、2人ともイけたんだなー…なんて。

……全然、余裕でイけたし。
イけるかどうかわかんないなんて思ってたのに。

気持ちよかった。
やっぱり、この感覚みたいなのには慣れてねえから、うまく誘ったり、こいつに合わせて力抜いたりとか、そういうことは無理だけど。
でも、こいつがリードしてくれるんなら。

最高だ。

「…悠貴…また、ヤれるの?」
「…凍也が、俺を好きにならないなら?」
冗談っぽくそう言われる。
「ばっかじゃねぇの? わかってるって。お前、恋愛する気ねぇんだろ。
俺こそ、面倒だから、ごめんだし。一人がいいし」

お互い、気持ちいいことだけ共有できたらいい。
そう思った。
「…悠貴、良かった…」 「ん。またやりたいと思ってる」
「悠貴が、俺のこと好きにならないなら、いーぜ?」
冗談っぽく俺もそう言った。

悠貴は笑って
「わかった」
と、俺の言い分を受け入れた。

好きにならない。
好きにさせない。

じゃなきゃ続かない関係を、俺たちは続けると決めた。

「またね」

気持ちよければそれでいい。
だろ。


あのとき、もしも『好きになりそう』だと伝えていたなら、どう変わっただろうな。
たぶん、あれっきり、体を重ねることもなく、関わることもなく。
終わったんだろう。
悠貴のことを好きだって言うほかのやつらとおんなじ扱いで、面倒にあしらわれるだけ。

だから、よかった。
……これでよかったんだ。