宮原×智巳。




「桐生…カレンダーに丸が」
勝手に桐生の机のカレンダーを見ると、明後日の日曜日に丸印が付いていて。
それがなんとなく気になっていた。
「あぁ…ちょっと出かけるから」
「…へぇ。地元?」
「ん…。久しぶりに雅紀と会うんだよ」

雅紀。
桐生の同級生で、水泳部だったから俺もよく知っている。

今は、宮原秀一と同棲中。
アダルトグッズを取り扱う店に住んでいる。
雅紀先輩が店長。

「じゃあ、地元の家で会うわけ?」
「いや、どうせだし2人でどっか出かけるつもりだけど」
「朝から?」
「そうだな。…お前は来るなよ」
「…行きませんよ」

久しぶりに…か。
俺も久しぶりに会いたくなった。
いないならいないで、家にでも帰るし。

日曜日、俺は地元へ帰り、店へと向かった。

休みの看板を確認し、2階へ上がる。
インターホンを押して、しばらくしてから出てきてくれたのは、宮原先輩だった。

「…お久しぶりです」
「…智巳…? どうした?」
「いえ。一人ですか?」
「あぁ。まぁ、あがりなよ」

宮原先輩とはわりと仲がいい…と自分では思う。
深雪先輩のことでいろいろと関わりを持ったし、なにより俺の初めての相手だ。

「今日、桐生と雅紀先輩が会うって聞いたんで。宮原先輩は一人かなって思っただけです」
「あいかわらず突然だな。で。たまには抱かれたくなったって?」
「違いますよ。少し、聞いてもらいたいことがあっただけです」

俺らはベッドを背もたれにして座る。
宮原先輩は、俺の右側に座ると、なんでもないことのように肩を抱いて、その後、俺の髪を撫でた。
「ふっ…そういう態度取るから、いままでもみんな、先輩に食われちゃったんでしょうね」
「なんの話だろう?」
「まぁいいですけど。……深雪先輩、彼女出来たんですよ」

滑らかに撫でていた手が、こわばったように感じた。
が、それもまた一瞬のことで、また俺の髪を弄ぶ。
「……男なんだろ」
「そうですよ。……はは…あろうことか、協力してしまいました」
「どうして?」
「両思いのくせに、通じ合ってなくて。そういうの、見ててイライラしたんですよ」
「智巳は優しいねぇ…」
耳元でそう言いながらも、軽く舌を這わされる。
俺はさりげなくそれから逃れるよう顔をずらした。
「…なんだかんだで、俺も、生徒会長と一緒だったってことっすかね…」
あの人の幸せを優先してしまった。
なんにしろ、この状態で、深雪先輩に来られても嬉しくないし。
「俺は俺でいま、彼女がいるんで、いいんですよ」
「へぇ…。彼女がいるのか…」
「男ですけどね。ちゃんと好きですよ。俺のこと、一番好きって言ってくれてるやつなんです」
「君、2番目に好き…じゃ満足しない子だもんねぇ」
「当たり前じゃないですか。プライド高いんで。深雪先輩が、俺のことを誰かの代わりとして使うくらいなら、いりませんし」
「でもそれって、本当に好きだからこそだよね。だから、代わりに見られたくないんだ?」
宮原先輩の舌が耳から首筋のラインを這うのがわかった。
「っ…ん……っ…なんにしろ、もういいんですけど」
左手はあいかわらず、髪を遊ぶ。

「で。智巳は、俺のことは本当に好きってわけじゃないから、何番目でもいいんだ…?」
言葉を続けながら、先輩の右手が俺の股間をズボンの上から撫で上げた。
「……っ…ん……そういうことなんですかね。というか、別にそういう関係じゃないでしょう、俺らは」

相談相手。
それに、なんだかんだで俺のことすべて知ってくれているから、ラクだった。
そんな中、体を重ねるという行為は普通のこと。
愛があるわけじゃない。
この人が好きというよりは、この人とするのが好きなのかもしれない。
が、もちろん、この人のこの性格も、気に入っている。
彼氏には絶対、したくないけど。


「今の彼女のことは、本当に好きなんだ? 一番じゃなきゃ駄目なくらい」
「好きですよ。ただの負けず嫌いで一番がいいって言ってるわけじゃないですからね」
「結局、智巳の方が桐生より先に彼女作ったんだろう?」
「そうですね…」

宮原先輩の手が、俺のズボンのボタンを外しチャックを下ろしかける。
俺はさりげなくその手を止めた。
「…今日は話をしにきたんです」
「へぇ。やる気はないって? …じゃあ無視して話しなよ。智巳が欲しがらないのならやらないし」
負けず嫌いの性格、直した方がいいんだろうなって自分でもわかっている。
先輩が、俺の性格わかっててそういう風に言ってくるのも。

それでも、俺は乗っかってしまうから。
駄目だな…。
「はぁ…」
ついため息が洩れた。
ゆっくりとチャックが下ろされていくのが理解出来る。
けれど、俺は無視をして話を進めた。
「…俺の彼女、すっごいかわいいんですよ…」
「へぇ。一度、見てみたいな」
「ん…手、出したら俺、キレますから」
「そんなに大切なんだ? ますます気になるね」

「っ…ん……っ……そこ、吸わないでくださいよ…」
首筋を軽めに吸い上げられ、一応、注意する。
この人、わざとだろう。
「…どうしよう?」
「っん……」
「どうやって、付き合いだしたの?」
そう話しを進めながらも、先輩は俺のを強めに擦り上げていく。
「っ…部活の…顧問なんです、俺。かわいかったんで、手、出しちゃいましたね」
「はは。そっか。あいかわらず強引だ」
「でも、それなりには抑えましたよ。いきなり最後までやっちゃうような、先輩とは違いますから」
嫌味らしく言うと、首筋に刺さるような刺激。
「っ! …んっ…」
キツく吸い上げられる。
あぁ、跡、残るな。
「ぃたい……です」
髪の毛で、隠れるから平気といえば平気だけれど。
宮原先輩の右手の指が、俺の亀頭を、押さえつけた。
「っっ!!」
さすがに体がビクついて。
そんな俺の反応を楽しむように、右手で強く擦りあげていく。
「っ…っ…んっ…」
「じゃあ、どこまで初めにしちゃった? とりあえず後ろは使った?」
「さぁ? でも俺……処女には…っ優しいんですよ」
「へぇ。紳士だな。……まだ話し続ける気? 俺とやりたいんでしょ…?」
「やりたいのは、先輩の方じゃないんすか? 俺は、そんなつもりでココ来てませんから」
「そ……」
耳元で、企むように鼻で笑う声が聴こえた気がした。

「じゃあ、話そう。いろいろ聞きたいし」


宮原先輩は、俺の背後へと体を割り込ませ、後ろから俺の股間めがけて、トロトロとローションを滴らせていく。
「っ…ん……どこから…出したんすか…」
「ベッドの上から。ココは学校じゃなくて俺んちだよ? なんでもある」
「紫とか…趣味悪…」
「そ? 智巳には似合うんじゃない?」
ズボンまでたっぷりと湿らされて、その濡れた指先が、奥の窪みを撫であげた。
「んっ…」
「で。桐生の彼女はどんな子なの?」
指が、自然と受け入れまいとしているソコをゆっくりと割り開くようにして押し込まれる。
「っんっ…くっっ」
体が大きくビクついて、涙が溢れた。
感じまいと意識を別の方向へ飛ばす。
「聞いてる?」
「っ…応援…団長ですよ」
「へえ。じゃあ、男らしいんだ?」
「違っ…っっ」
ゆっくりと奥の方まで入り込んでくる指を感じながらも、平気なフリをしようとした。
「っっん…っ…っ!!」
「応援団長って、なんか男らしいイメージだけど」
「ん…なんていうか……美人なタイプですね…っ」
「桐生って、そういうのが好きだったんだ? 智巳も美人だけど」

指先が、探るように前立腺を掠め、体がビクついて。
俺を抱く宮原先輩の手に爪を立ててしまう。
「んぅっ!! あっ…んっっ…」
「どっちから、アプローチしたかとかは?」
「ぁっ……工藤…からっ」
「工藤くんって言うのか」
耳にキスされた。
そう理解した直後、1本だけ入っていた指に沿う形で、もう1本。
2本の指が、今度は一番感じる箇所を避けるようにして、ぐちゅぐちゅと音を立てながら中を押し広げていく。
「はぁっ…あっ…」
「やっぱ、桐生はモテるねぇ。生徒からアプローチされて。見事、両思いって?」
もはや答える余裕などないに等しい。
さっき確認した俺の感じる部分を、まるでメインディッシュでしたといわんばかりにやっと、指先が押す。
「ぁあっ…んっ…ぅんっ…!!」
内側から直接、射精感を高められていく。
出すまいと思っていた声が洩れ、手で口を押さえようとしたが、遅かった。
右手は、宮原先輩が今まさに俺の中を探っているその右手の腕で押さえつけられている。
左手首も、宮原先輩ががっちりと掴んでいた。

「あっ……ぁんっ…ぅンっ」
「…下手に声我慢すると、余計、やらしいんだけど」
耳元で笑いながら、中で何度も前立腺を突かれ、体がのけぞった。
「ぁあっ!! んぅんっっ」
強くソコを突かれると、わけがわからなくて。

生理的な涙が溢れた。
イきたい。
そう思ったのを見計らってか、先輩は指の動きを止める。
最悪だ。

「お茶でも入れようか」
「…はぁ…っ…あ…っ」
「指…締め付けてくるんだけど。して欲しいの…? それとも別にいらない?」
「っ…あいかわらず…ですね…っ」
「智巳も、あいかわらずだ」
ゆっくりと指が引き抜かれていく。
ゾクゾクして体が震えた。

「智巳は、俺が嫌いなもの、知ってるだろう?」
俺を置いて立ち上がり、上から見下ろされる。

「…知ってますよ。でも、俺、今日はやる気ないですから」
この人は、やる気のない相手を無理やりやる…という行為は好まない。
というか、マグロが嫌いだ。
ヤる気にさせて、欲しがらせるのが好きなんだろう。

欲しがらない相手に対し入れるのは、まるで自分が飢えているようで負け犬だと感じるらしい。
わからないでもない。
求められたいタイプだ。

欲しがらなかった俺は、この勝負、勝てた気でいた。
もちろん、体は辛いけど。

そんな俺がわかってか、宮原先輩も企むよう俺を見下ろす。
まだ、負けてないって?

力の入らない俺の体をベッドへと乗せて、ズボンと下着を剥ぎ取っていく。
「宮原先輩、俺に入れちゃうんですか?」
「…どうしよう?」
「宮原先輩がやりたいなら、いいですけど?」
まだ優位な立場でいる俺は、笑顔を作り発言してみせる。
宮原先輩も笑顔で。
「もうちょっと、楽しもうかなぁ」
そう言うと、俺の右手にかけた手錠を右足首に。
左手にかけた手錠を左足首にとかけて、俺は大股開きを余儀なくされた。
「趣味悪いですね」
「そう? いい眺めだと思うけど?」

宮原先輩は笑顔で、俺の目の前にバイブを見せ付ける。
「っ…バイブは反則じゃないですか?」
すべて自分の力で……そうくると踏んでいたから俺も強気でいられたんだけど。
「反則って?」
「…モノに頼っちゃうんですか?」
「んー…。だって、こういう店の2階に住んでるしねぇ」
「自分の指だけじゃ、無理だったから?」
あえてそういう言い方をしてみせるが、宮原先輩は俺に笑顔を向け続ける。
「…悪いけど、俺はね、君みたいにそんな無駄なプライドはないんだよ」
にっこりと笑って。
細めのバイブのスイッチをオンにすると、震えた状態のそれがゆっくりと差し込まれていった。
「ぁっあっ……んぅんんっ!!」
「例えば、ズルして勝っても意味がないとか、言うよね。確かにそれもあるけれど。
ズルをしなければ負ける。だったら、ズルをしちゃうってのが俺かな。もちろん、ズルせずに勝てたらそれに越したことは無いけれど」

睨んでみたが、あまりにも愉しそうだったから、逆に顔を逸らした。
宮原先輩の指が、俺の股間をゆっくりとなぞっていく。
「んっ…ぁあっ」
「トロトロだねぇ。でも、これはバイブ入れる前からだよね。本当は欲しかったんでしょ。俺の勝ちだ。ただ、智巳が負けを認めてなかっただけ」
大きく起立したソレは、いまにもイってしまいそう。
それを俺が我慢したいと思うまでもなく宮原先輩の指がキツく根元に絡んでイかせまいとしていた。
一定に震え続ける振動にプラスして、ゆっくりとかき回されていく。
イきたくて、イけなくて。
なにかがキれた。
もうどうでもよくなる。

「ぁんっあっ…ぁあっ…んっ…ぃくっ…」
「イけないでしょう…?」
「ぁあっ…もぉっ…あっ…やっ…あっ…」
「智巳の理性が崩壊する瞬間って、好きだな。わかる? すごい腰、動いてる」
「はぁっっ…やっ…」
視界がぼやけていた。
声が遠い。
「言ってごらん。どうして欲しい?」
「っ…ぃかせて……」
「駄目だね。智巳は嘘つきだから」
楽しむように、バイブを出し入れさせたまま、亀頭から溢れ出る蜜を吸い取られる。
「ぁあっ…ぃやっっやあっっ」
「いいよ。イっても。…智巳は俺に見られながら玩具で、イっちゃうんだね」
そっと、根元に絡まっていた指を解いてくれる。

頭では理解出来ていた。
これは完全なる敗北だと。
それでも、体は言うことをきかない。
「ぃくっ…ぁあっ…やっ…やぁああっっ!!」


イってしまい、バイブを引き抜かれる。
宮原先輩は、自分がやりたくてしているわけではない。
ただ、相手とこういったやり取りをするのが好きなんだろう。

楽しませてもらったと言わんばかりに笑顔で、俺の手錠を外してくれていた。

入れる気にさせられなかった俺の負けか。

「宮原先輩…。俺が、初めから合意だったら、入れてました?」
「…どうだろうね」
「なんだかんだで、彼女、大事にしてるんすね」
そういう俺の腕を取り体を起こさせると、ジッと正面から目を覗かれた。

「智巳は、昔の方が素直だったね」
「そうですか」
「ストレートだった。欲しいものは欲しいって、言える子だったよね」

髪を撫でられて。
顔をあげると、そっとキスをされた。
少しだけ舌を絡めて、短めのキス。

「智巳…。どうしてココに来たの? 俺は、素直じゃない子の相手をするつもりはないからね」
はは。
やっぱり見抜かれてる。
勝てないな。

本当は、ただ顔が見たかっただけじゃない。
たぶん、何か求めていた。

桐生に彼女が出来て。
俺の中で、なにかが終わって。
腑抜けた空っぽの部分が出来てしまって。
それは俺自身で埋めることの出来ない部分だと思ったから。

俺のこと、知ってくれている人に、頼りたい気持ちがどこかあったのだろう。

「智巳…」
あぁ。
泣きたい。

「………慰めてください」

宮原先輩は、そう言う俺の体をキツく抱きしめ、もう一度、優しいキスをしてくれた。