智巳×浩二。



「樋口先生―…。急に修学旅行に行くってなに考えて…」
 本来3年担当の教師だけがついて行く予定の修学旅行に、なぜか同じ1年担当の樋口智巳がついて行くと言い出したのだ。
「駄目なわけ?」
「いや…俺にとめる権限とかないけど…」
「だから。俺の数学の授業時間に、このプリント、配っといてくれる?」
 めずらしくわざわざ俺の部室に来たのはそういうわけですか。
「…はい」
「嫌なわけ?」
「別に、嫌じゃないですよ。ただ…」
 なんで、こんな突拍子もない行動に出るんだ?
 しかも巻き添えにされてるし、俺。
 さらに不機嫌そうでもあるし。

「……なんか、不機嫌そうじゃ…」
「あぁ、よくわかったね、不機嫌だよ、俺」
 突っ込まない方がよかった…かな…。
 後悔してももう遅い。

「じゃあ、配っときますね?」
「理由、聞かないの?」
「別にいいです」
「っつーか、聞きなよ」
 恐…。
 笑顔のままで、その口調。
 マジで恐いですよ、あなた。

「なに…」
「…たいしたことじゃないんだけど? 嫌な情報仕入れちゃって。渡部先生が桐生先生と幼馴染みだってのは知ってたけど、まさか、昔から、やっちゃってる仲とは思ってなかったから」
 もうそれ、何年も前の話なんですけど。
「昔からって…」
「学生時代、してたんでしょ?」
「そんなにしてないし…。軽いノリで、数回しただけだよ。今だって、してるの知ってるじゃないですか」
「今はいいんだよ。…高校生くらいのころってね、それが一番、嫌なんだけど? 俺が本気で先輩に惚れてた頃だし? なにやってんの?」
 10年前のことで、キれられても…。
 マジ切れしてますか、この人…。
「俺がやったんじゃなくて…あのときは桐生先生の方から手を出して来たから…っ」
 そう言うと、また不機嫌そうな表情を俺に向ける。
「…あのころの先輩に…? なんで?」
 なんでって言われてもなぁ。  
 
黙っていると、俺の受け取ったプリントをまた奪い取り、机に置く。  
俺をジっと見て、壁へと押し付けて。
「悪いね…。どうしても気に食わない」
 直接、なにひどいこと言ってんすか、この人は。

 すると、ズボンの上から股間を撫で上げる。
「っ……な…ぁ…っ」
「拒むわけないよな…? だったら、先輩のときもちゃんと断ってるよな?」

 この人…切れさせると恐いなー…なぁんて考えてる場合じゃないよな。
 どうにか怒らせないようにしないと…。
 いや、もうすでに怒ってるけど。
 なんか口調違うし。

 まぁ1回やるくらいどうってことないか?
 素直に受け入れれば…。
 でも、キレたこの人は相手にしたことないし。

 俺が抵抗しないのがわかってか、ズボンと下着を下ろしていく。
 というか、いろいろ考えているうちに抵抗しそこねたんですけど。
 手が、股間のモノを何度も擦り上げ、その気がなかった俺でも、次第に体が熱を帯びていく。
「っ…んっ…くっ…」
「先輩は…どうして、あなたと?」
「そんなのっ…流れで…っ」
「流れでやっちゃうわけ?」
 違う。
 なんでだっけ。
 初めは…。
「ぁっ…きっかけを作ったのは…樋口先生じゃ…っ」
 樋口先生は、一旦手を止め俺を見る。
「なにそれ」
「…深雪ちゃんが…学校で後輩にやられたって…っ。それで悩んでて、俺はただ口先だけでの心配しか出来なかったから……そんな俺に対して、深雪ちゃんが切れちゃって、俺にも、味わせようって…っだからっ」

「へぇ。そういうこと…。結構、知ってるんだ? っつーか、先輩のこと、そんな風に呼ぶなよ…」  

あぁ。
深雪ちゃんって、高校のころは名前で呼ばせないようにしてたんだっけ?
樋口先生を怒らせないようにとか、いろいろ考えてる余裕がなくなってくる。
目の前で、樋口先生は自分の指先を舐め上げて。
次の行動が予測される。
「ちょっと…」

股間を撫でた樋口先生の手が、ゆっくりと足の間、後ろの入り口を撫で上げた。
「っ…んっ…」
「で? それがきっかけで? 何回かやったんだ?」
「そんなに…っしてなっ」
「ありえないよ…。あのころの深雪先輩が、誰かにやられるならともかく、やるなんて…」
 独り言のようにつぶやいて、樋口先生は指を挿し込んでいく。
「っんっ…あっ…んーっ…」
 その指が、奥まで入り込んで、ゆっくりと中を掻き回して。
 頭がボーっとする。
「んっ…ぅンっ…あっ…あっ」
「そういう声出して、誘った?」
 なにを言い出すんだ、こいつは。
 こういう声は出るだろ?
 もう10年も前だからわかんねぇよ。
 背けていた顔を、樋口先生に向け、顔色を伺う。
 …すっげぇ、にらんでるし。  

「…3本くらい平気だろ?」
 そう言って、今入り込んでいる指に沿うように、2本足される。
「ぁっあぁあっ…!!」
 体中がしびれるような感覚。
 太くて。
 足に力が入らない。
 一瞬、片方の膝がガクっと折れる。
「立ってろよ…」
 そう樋口先生が、俺の肩を強く壁へと押し付け、なんとか持ちこたえた。

 中が拡げられて、いい所を何度も指先が掠めていく。
「ぁっあっ…んぅンっ…ぁあっ…やっ…もぉっ…」
「渡部先生は淫乱だから。これくらいじゃ満足できないだろ…」

 指を引き抜かれて。
 代わりに樋口先生は取り出したローターを挿し込んでいく。
「っなっ…ぁあっ」
「好きじゃない?」
 楽しそうに笑って。
 ってかなんで用意してんだよ。
電源を入れられ、中に入り込んだローターが震え始める。  
振動の刺激が体中を駆け巡るようで。

「ぁあっあっ…やっあぁあっ」
 涙が溢れる。
膝が、ガクガクする。
ゆっくりと、そこに座り込んでいた。
「ひぁっあっ…んーっ…」
あまりに大きな声を出してしまう自分が恥ずかしくて、手で口を押さえようとしたのがバレたのか。
樋口先生は、しゃがみこみ、俺の両手にそれぞれ指を絡め、壁へと押し付ける。
「やっぁあっ…」
見上げると、涙でぼやける視界の中、愉しそうに企む表情。
それから逃れるように、俺は顔を下に向けた。
「んっ…ぃくっ…やぁあっ」
「…俺にねだってどうすんの? イきたきゃいいよ。イって」
 そんな言われ方をすると、一人だけよがってこの人の前でイクのがすごい恥ずかしい。

 でも、もう我慢出来そうにない。
「あっぁあっ…んっ…あぁあああっっ」

 欲望をはじけだして。
 樋口先生ローターを抜き取ってくれてから、俺の目の前に、自分のモノを差し出す。
「…歯、立てたら乳首にピアスでも、あけますかね」
「な…に言って…」
「早く…」
しょうがなく、言われるように、俺は樋口先生のを口に含み、舐めあげていった。
手を抜くと、後でなにか言われそうで。
ねっとりと舌を絡ませ、音を立てる。
樋口先生が、感じるように、手でも愛撫しながら。

しばらく、顎がおかしくなりそうなくらいがんばってみると、満足したのか、やっと俺からソレを引き抜いてくれる。

「…やらしいねぇ。深雪先輩に仕込まれたわけ?」
 すっげぇ怒ってるよな…。
 だけれどもう精神的になにか考える余裕がない。
 ただ、脱力状態で。
「違…」
「じゃ、誰か他にいるわけだ?」

そりゃ、学生時代、相手いたけれど、それを言うのもあれだし。
顔を逸らして答えるのを逃れた。

 やばい。
 わかってるんだけど。  
 
もっと、太いので。  
奥まで。

 欲しい。
「…っ樋口せんせ…」
「…なに甘えた声出してんの…?」
 そう言いつつも、俺を押し倒すと、ゆっくりと樋口先生のモノが入り込んでくる。
「ぁっぁあっ…」
「そんなに欲しいんだ?」

熱くて、太くて。
奥まで入り込んでくる。
「んっ…ぅんんっ…」
 樋口先生の指先が、俺のシャツの中へと入り込み指先が胸の突起を転がしていく。
「んっ!!…やっ…ぁあっ」
「…ホント、いやらしい体だよね…」
 恥ずかしいくらいに体がビクついてしまう。
 熱い。
「やぁっ…あっ…もぉっっ」
「後ろ、ヒクついてるし。動いて欲しいんだ…? 別にわかってるし。わかってて焦らしてんだから」
 動いて欲しいって。
 伝わってるのに。
 動いてくれないで、股間のモノと乳首ばかりを指先で愛撫していく。
「はぁっあっ…んぅンっ…やっやぁっ」
 引き寄せるように、俺は樋口先生の服を引っ張った。
「じれったい…? 体、ビクついちゃってる…」
「あっ…もぉっ…動いて…っ…」
「恋人でもないあなたにねだられても」
「んぅっ…あっ…お願っ…もぉ…やっ…やあっ」

「あぁ、自分でも腰動いちゃってんじゃん? そうやって下から動かしなよ…」
「やっあっ…んんっ」
「だいたいさぁ。敬語で頼めよ」
 めちゃくちゃ恐…。
 尋臣って、樋口先生の彼女だよなぁ。
 すげぇよ、あんた。
 っつっても、尋臣は彼女だからもっといい扱い方されてんのかもしんないけど。

「はぁっあっ…動いて、くださぁっ…」
「…なぁにあっさり敬語使ってんの?」
この人、すっげぇ難しいし。
どうしろってんだ。
「…プライドないわけ?」
少し馬鹿にするように鼻で笑って、しょうがなくなのか、じっくりと腰を動かされる。
「あっ…あぁあっ…」
やばいなぁ。すごい気持ちいい。
掻き回されて、イイ所を何度も突き上げられると、相手が樋口先生だったってのを忘れそうになる。
相手が怒ってるのも、俺が樋口先生の怒りを買ってしまってるのも、忘れてしまう。

「はぁっ…ぃいっ…ぁあっ…やぁっ」
「いいの? 嫌なの?」
「んっ…あっいいっ…あっ…あっんっ…そこっ…やぁあっ」
やっぱ、この人、駄目だ。
すごい、気持ちいい。
頭でなにか考える余裕とかなくなってしまう。
「やっ…あ、んぅっ…あ…ぁんっ…ぃくっ…やぁあっ」
「…いいですよ」
「はぁっ…やっあっ…あぁああっっ」

あぁ。なんかもう、終わってしまって脱力感。

あいかわらず、樋口先生は冷めた感じだし。

少しだけの沈黙を破ったのは、樋口先生だった。
「…実際問題、あの頃の深雪先輩、どうでした?」
少し真面目な口調。
ただ、俺の方は見てくれていなかった。

「……高校生の頃は、ものすごい悩んでましたよ…。でも…なんか、いつも傍にいてくれる人がいて、救われてたみたいです」
樋口先生の弟だ。
あえて、名前は出さなかったが、樋口先生にも伝わっているだろう。
「……そう…」
「どうして…樋口先生は…傍にいなかったんですか」
また怒らせるかもしれないけれど。
聞かずにはいられなかった。
「…いたら諦められなくなるからですよ」
「諦めなきゃいけなかったんですか」
「渡部先生だったら、自分のことよりも他に1番好きな人がいるって、そんな相手の傍にずっといられるわけ? 俺は自分が一番に想われないと無理なんだよ。
諦めたかったんだ。
…でも、結局、深雪先輩が一番好きだった相手じゃない奴が、あの頃の深雪先輩の一番の支えになってたんだよな」
最後は少し苦笑いして。
やっと、俺をチラっと見た。
「…よかったんですか?」
「あぁ…。逆に、一番の支えでしたなんて言われても、困るし。…俺は、深雪先輩を支えたいわけじゃないんだよ。一番、俺のこと好きになって欲しかったわけだから。
深雪先輩が幸せならそれでいいよだなんて考え方も、2番でもいいから傍にいて助けたいだなんて考え方も出来ない」

少しこの人の考え方は理解できた。
俺だって、自分を一番に好いてくれるわけでもない相手の傍にずっとい続けるのは辛いから。
2番でいいよだなんて、なかなか言えないよ。

そう思うと、あの頃から深雪ちゃんの傍にいた弟は、すごい強い考え方をする人なんだなって思った。
「…なんとなくわかります。でも…深雪ちゃんは、樋口先生に傍にいて欲しかったのかもしれない」
「それでも、俺には無理だったから。辛いんですよ。自分じゃない男のことでへこんでる先輩の傍についててあげることが。それはただ、俺が弱いからなんだけど。離れられなくなりそうだし。
そのときの深雪先輩、救ってくれる奴がいてよかったと思う。むかつくけどね。
…でも安心して離れられたから」
どうして、俺にそれを教えてくれるのかわからなかった。
けど、きっとこの人も、苦しかったってのは解るから。
いままで、誰かに話したかったのかもしれない。
俺はそれなりに近い存在だから、いろいろと理解している。
話しやすかったのかもしれない。
だけれど、知りすぎてて、妙に切ないような気持ちになっていた。

「安心…」
「うん…。あいつなら、強いから。大丈夫だってわかってた。俺が出来ないことでも、してやれるって。
平気…ではないんだろうけれど、人のために、自分の気持ち、犠牲に出来るんだよ。強いから」
「強い…ですか」
「あぁ。あいつ、馬鹿だから、逆に俺のこと強いとか言うけどな。自分の気持ち押し通してる兄貴はかっこいいだとか、たまにほざくし」
少し楽しそうに笑う樋口先生を見て、弟の事、好きなんだろうなって気がした。

「悪いね、渡部先生。つい怒り任せにやっちゃって」
「いえ…別に…」
つい会話してて、忘れちまってたし。

「修学旅行はね…。宮本先生が心配だから行くんですよ。俺なんかを好いてくれる子が3年生にいて、そいつに虐められそうだから」
「そんな…」
確かに、去年までは今の3年生の数学担当だった樋口先生が、今年になって宮本先生と入れ替わった。
宮本先生は新任だし、からかわれたりするんだろうか。
「…俺のせいで教師、辞めることになって欲しくないからね」
樋口先生は樋口先生で、罪悪感みたいなものを感じているのだろう。
…でも、わざわざ修学旅行中に解決させる必要はないと思うんだけれど。

まぁいっか…。
「っつーわけで、プリントよろしく」
「はい、わかりました」
「…いろいろ、聞いてくれてありがとう」
…樋口先生が、俺にお礼?
すっげぇびびるし。
「いえ…こちらこそ…」
条件反射みたいなもんで、ついお礼返しをしてしまうけれど。
俺はなんにもないような。

「…まだ、吹っ切れないけどね」
少し寂しそうに笑って、樋口先生は部屋を後にする。

やっぱり、今でも本当は好きなのかな。
深雪ちゃんのこと。
だからこそ、こうやっていまでも怒ったりするんだろうけれど。

1番にはなれないからって。
だったら意味がないってさ。
本当かな。

深雪ちゃんも、はっきり『無理だ』って言ってあげればいいのに。
…無理じゃないから、言えないんだろうけれど。

当事者じゃないけれど、なんだか無性に切なくて、少し涙が溢れた。