夏彦×智巳。



「覚えてる…? 兄貴が俺に、10年早いっつったの」
めずらしく、俺が一人暮らししている住まいへ弟が来た。
「…なんの話だよ」
「弟のくせに兄貴を抱こうなんて10年早ぇんだって。昔、言ってたよな」
そんなの。
もう15年ほど前だろ。
だいたい、言葉のあやだ。
「で? 10年以上経ったから抱こうとか?」
「そういうこと」
ナツはにっこり笑って、俺をベッドに押し付ける。
「…彼氏、いるんだろ、ナツ」
「俺、普段抱かれる側だから。兄貴は抱く側だろ。反対だと、後ろめたさ減少しない? …兄貴に彼氏のこと聞かれるとは思わなかったな」
「普通だろ」
「そう?」

ナツはそのまま俺へと口を重ねる。
思いっきり抵抗するのも馬鹿らしくて。
だいたい、してみたところでこいつの腕力にかなうかどうかわからないから。
腕には俺も自信があるけど。
抵抗して、それが無駄になるなんてこと、プライドの高い俺には無理だ。

「んっ…」
舌先が入り込んで、俺の舌を絡め取っていく。
むかつくことにこいつのキスは心地が良い。
深く口を重ねるもんだから、無駄に鼻から声が洩れる。
いわゆる恥ずかしいキスだ。
わざとだろう。
「んっ…ぅんっ…」

やっと口を離すナツをジっと見上げる。
本当は、ボーっとしてしまいそうだったけれど、そこはまぁ必死で、なんでもないフリ。

「兄貴…いい?」
「なんでヤるんだよ」
「だから、10年過ぎたから」
「だからなんでだよ。…経験相手増やしてぇの?」
「俺、兄貴のことも好きだから」
にっこり笑って、軽いトーンで言うそいつに、顔が引きつった。
「…馬鹿じゃねぇの」
「兄弟愛ってやつ? 恋人とも友達とも違う感じ。でも好き」
俺だって、弟に対して、むかつくだとかそういう感情は多々あるが、嫌いだという感情を持ったことはない。

「…やらせてよ」
企むような笑みを見せられ、不覚にもドキっとした。
「兄貴だって、知りたくない? 俺がどう攻めるか」
「んなの別に…」
「深雪ちゃんのこと、どう攻めてたかは?」
そう言われ、体がこわばった。

俺が好きな深雪先輩と、こいつは俺以上に体の関係を持っていた。
だけど、そんなの今、関係ないだろ。

「知りたくねぇよ」
そう言うのを無視するようにズボンと下着を脱がせていく。
俺は無気力で、マグロ状態。
「…やめろって」
一応、口だけそう告げる。

ナツは、俺の股間に手を触れて、
「…ね…やろうって」
そう言うが、俺は、もちろん、そんな気はない。
「やらない」

あくびして、ため息ついて。
顔を横に向けてると、ナツの指先が、奥…入り口へと伸びる。
「…っ!!…やらないっつってんだろ…」
「さっき指濡らしたから、大丈夫…。入れるよ?」
そう言い、ゆっくりと指を押し込んでいく。
「んっ!! …んっ…ぅんっ」
最悪だ。
「っなにしてっ…お前っ」
「やぁっとまともに焦ってる?」
「抜け、馬鹿。お前、昔とホント変わってねぇなっ」
「そう? でもテクニックはついたと思うけど? 兄貴は、昔みたいに初々しいね。あんまり使ってないの?」
中を探るように指が蠢く。
その刺激に耐えるように、顔を横に向け、近くのシーツを掴んでいた。
「ぁっ…んっ…んっ」
「あぁ、キツいけど柔らかくなってきてる…。なんだ…兄貴、やっぱりこっちも結構やってたんだ?」
高校、大学時代のころの話だ。
社会人になってからはほぼ皆無。

久しぶりすぎる感覚に体がビクついた。
「あっっ! ……んぅっ」
「もっと、声出してって。兄貴の喘ぎ声ってかわいいよね。声変わりする前みたい」
恥ずかしいことを言われてるのはわかるが、今、手で口を押さえれば恥ずかしがっていると肯定してるようなもので。
そんなことも出来ずにいると、ナツが理解してか、耳元で笑う。
「拡げようか」
2本目の指を挿入され、拡げるように中を動き、前立腺を擦っていく。
「ぁっあっ…んっ…あっ」
「いやらしい声になってきたよ…ね、わかる?」
むかつく。
だけれど、反発するのもむかつくし。
だんだん、頭がボーっとしてくる。
「ぁっ…んぅっ…あっ…ぁあっ」
「気持ちいい?」
気持ちいい。
意識飛びそう。
なにこいつ。
深雪先輩もこんな風に…?

冷めればいいのに、なぜか余計に感じてしまう。
「あっ…んーっ…やっ…めっ…」
「やめて欲しい? やっと、感情表してくれたねぇ。でもやめない」
何度も何度も感じる所を突かれると限界だった。
「んっあっ…ぁあっ…んっんーっっ」



イってしまうともう脱力状態で、なにも考えたくなかった。

「…出てけよ、ナツ…」
「昔の俺とは違うよ?」
「早く指抜けって」
「どうしようかなぁ」
「やる気のない相手にハメてお前は楽しいの?」
「兄貴は? 他の男の事考えてる人、ヤって楽しかった?」
深雪先輩のことを言っているのだろう。
ナツは、企むような笑みを見せてくる。
「…いい加減、抜けって、お前」
「そういう兄貴見てると俺、欲情しちゃって、もうやばいんだよね。そんなにイヤ? 俺とするの」
「別に」
「兄貴って、自分がちょっと女顔なのとか、気にしてるよね。まぁ、どう見てもタチだけど。俺みたいに両刀だと、かわいくてしょうがないわけ」
「お前、両刀なんだ?」
「うん。まぁ、女は面倒だから、男の方がラクで好きかなとは思うけど。兄貴さ、下手に抵抗しても俺に腕力で勝てないのわかってるでしょ」
わかってるから、下手に抵抗してねぇんだろっての。

「…いいから、とっとと抜けって」
「…そっちでしょ。締め付けてんの」
「んなわけねぇだろ」
「そう?」
ナツはまた、指先で緩やかに前立腺を撫でて示す。
イったばっかで敏感な体が、嫌なくらいにビクついた。

「んっ…」
「すごい、兄貴って、やばいよね」
意味が解らず、ナツへと顔を向けると、舌なめずりをして、笑みを見せられる。
「そりゃあね、俺もそんな風に、やる気ないみたいなことばっか言われたら、それなりに普通萎えるんだけど。すっごいエロい顔してんだよねぇ」
上半身をひねって、横を向き、なるべくナツの視線から逃れようと思った。
「もう、やめ…っ」
「見られて、恥ずかしい…? いいよ。それでも」
そう言うと、指を引き抜き、俺をうつ伏せにした状態で、圧し掛かる。
「後ろから、入れたげる」
「ばっか…っ!」
振り返る前にナツのが押し当てられて、体がこわばった。
「やっ…!!」
「どうしたの、兄貴…? まさか、恐いとか言わないよねぇ」
「入れ…んなよ」
「声、震えてる?」

弟が憎い。
深雪先輩のこと、取ったから。

心までは奪われてないけれど、深雪先輩の肉体は、ナツのモノみたいになってて。

俺は、すべてが自分のモノにならなくて1番じゃないのなら、いらないと思った。
だけれど、体だけでも自由に手に入れたナツに対して、やっぱり少しは悔しいとか思う。

そのナツ相手に、俺が、よがるわけにはいかないんだよ。

そういった精神面を抜きにしても、この行為自体、慣れていない。
不慣れな状態を弟に晒すのにも抵抗があった。

それなのに、ナツは体を進め、ゆっくりと押し入ってくる。
「あっ…んっ!! んーっ」
「力抜いてよ、拒んでるの? それとも、慣れてないから?」
「ぃっ…んっ…」
「痛い…? すぐ慣れるよ…?」
優しく言い聞かせるのは、決して優しいからじゃなく、わざとなのだろう。
「んっ…んっ」
布団にしがみつく。
どこまで入ってくんだよ。

生理的な涙が溢れてきていた。
「すごい…奥まで入った。兄貴、わかる…?」
わかりすぎんだよ。
奥すぎて、いっぱいいっぱいだ。
「はぁっ…抜…っ」
俺が少し逃げようと体を前に進めると、それに反発するように、腰を掴んで、中を突き上げる。
「ぁああっ」
腕がしびれたみたいに力が入らない。
ただシーツにしがみつく。
ゆっくりと、出たり入ったり。
内壁を擦られ、体がビクついた。
「ぁっあっ…んっ…ぁあっ…」
「兄貴、やっぱり顔、見せて?」
そう言うと、一旦引き抜いて、俺を仰向けに押し倒す。
「な…っ」
「あれー…。結構、泣いちゃってたんだ?」
からかうようにそう言って。
俺の涙を指で拭う。
「もっかい、入れたげる」
正常位で、もう一度、奥に入り込んでくる。
「あっ…ぁあああっ」
なにも考えられず、反射的に口を押さえようとした手は、あっさりとナツに取り押さえられていた。
ナツが腰を動かして、感じすぎるトコロを、硬い部分が何度も擦っていく。
「ぁっあっ…やっ…あっ」
「泣きすぎ。兄貴、ホントかわいいよ。気持ちいい?」
気持ちいい。
「やっめ…っぁんっ…んーっ」
「そう、気持ちいいんだ…? もっと、声出してよ」
「ひっ!ぁっあっ…あっあぁあああっ」

前立腺を思いっきり突き上げられ、すぐにイかされていた。
わざとなのだろう。
俺がなにも出来なくなるように、先にイかせてくれたに決まってる。

俺の腕を引っ張って、体を起き上がらせて。
ナツの体を跨がされるが、逃げる力がない。

下から見上げられ、軽く突き上げられると、体が大きくビクついた。

「ぁあっっ」
「ぐちゃぐちゃだ…。ココ。すごいやらしぃ音してる」
こんなにも泣いたのは久しぶりだ。
ナツの体に涙が落ちる。
俺の腰を掴んで、ガクガクと揺さぶられる。
拒む力なんて、残ってない。
「はぁっあっ…ぅんっあっあっ」
「まぁた、硬くなってきた」
体がおかしくなる。
死にそう。
「やめ…っぁっ…あっあぁあっ」
下から突き上げられて、なんとか自分の体を支えていた。
「顔も声も、エロすぎ」
ナツに、じっくりと見られて、屈辱と羞恥が入り混じる。
「はぁっ…ナツっ…んっ…あっぁあっ…」
「またイきそう? いいよ。俺も、兄貴ん中、気持ちよくて、イっちゃいそうだから」
「んぅっ…あっあぁあああっっ」





イかされて。
ナツがイって。
あぁ、やっと終われたって。
そんな感じだ。

ぐったりと、後ろに倒れこんだ。

「兄貴…またしよ?」
ナツは、俺の隣に寝転がって。
俺の手を握った。

憎いけど、嫌いじゃない。
気持ちいいし。

だけど俺までナツと何度もヤるような関係になったら、駄目だろ。
「ヤらない」
「なんで? いいじゃん」
なんでかって。
たぶん、深雪先輩のことが好きだから。
過去のことだし、深雪先輩とどうにかなろうって思ってるわけじゃないけれど、駄目なんだよ。

「お前と、やりたくない」
深雪先輩を奪ったこの行為に、俺までもが溺れてたら負けを認めたような気がして。
いまいち、気分がのらない。
望んでするべき行為ではないだろう。

深雪先輩のこと、全部綺麗に忘れられたらラクなんだろうなぁ。
「ヤりたいなら、俺がお前をヤるから」
「また、それ? でも、俺、彼氏相手にも女役だしさ」
「それがイヤなら、俺とヤろうだなんて思うな」

風呂にでも入ろうかと、体をやっと起す。
「いいよ」
後ろから、少し遅れて、ナツがそう言った。
「…なにが」
「じゃあ、俺のこと、犯してよってことだけど」
「…なんで」
「俺が女役なら、相手してくれるわけでしょ」
「……ヤらねぇよ。言葉のあやだから」
立ち上がる俺の腕を、ナツがベッドに座ったまますかさず取るもんだから、しょうがなく振り返る。
「怒ってる…? 兄貴の…深雪ちゃんと仲良くなっちゃって」
「別に」
「深雪ちゃんのこと、俺、好きだったから」
「別に怒ってないし」
「兄貴…俺のこと、見て」

避けていた視線を、ナツに合わせる。
「なに…」
「ごめんね、兄貴…」
「…別に。俺は自分で考えて、深雪先輩に手を出さなかった時期があったわけで、お前は関係ねぇし」



「ずっと…兄貴のこと、怒らせてんだろうなって、気がかりだった」
こういうとき、やっぱこいつって大人っぽいけど、俺の弟だなぁって思う。

「怒ってねぇよ。…嫌だったら、高校生のとき、お前にちゃんと言ってた」
「…いつ頃から、気付いてた…?」
「…んなの、すぐ気付くに決まってんだろ。バレバレなんだよ。深雪先輩が初めて家に来たときから、怪しいって思ってたし」
「…そう…」

軽く頭を撫でてやると、不意に甘えるような視線にかわる。
体を屈めて軽く口を重ねてやると、それ以上、して欲しいと言わんばかり。
「…風呂入ってくる」
ナツの視線を無視して、背を向けるのに、ナツは腕を離してくれない。
「…兄貴…」
「……離せって。洗い流すから」
「………うん」
しょうがねぇなぁ。
「…お前も、とっとと風呂入るか」
「うん」
そう答え、ナツは後ろから俺にしがみついた。
「離せ。動けないし」
「一緒に入っていいの?」
「いいから」

しょうがないから、風呂場で。
かわいがってやりますか。