昔から、コンプレックスだった。
この顔や、この名前。
ホント、女の子みたいにかわいいわね、ってのが親戚に会うたび、お決まりの褒め言葉。
これはもういい加減、慣れちまった。
別に、周りで俺をからかうやつもいないし。
体育や運動でもそれなりに上位で、友達もたくさんいて。
それでも、俺自身、コンプレックスを持ってるのは、弟のせいだ。
一つ下の弟。
小学生の頃から、暴れまわっては親を困らせて。
それでも、そんな小さい頃の行動。
大して誰も責めたりしないから、ただ、元気な男の子ねって。
男の子はそんくらいでないとねって。
周りの大人の言葉は、なんとなく、おとなしく過ごしてきた俺へのあてつけのように思えた。
身長はいつからか、抜かされて。
どっちがお兄ちゃん? なんて、よく聞かれて。
聞かれるまでもなく、間違われたり。
こいつが男らしすぎるんだよ。
大人っぽいせいだ。
俺が、女らしいわけじゃない。
弟と離れられる学校は居心地がよかった。
元々は色が白かった俺でも、水泳部に入り、外で泳ぐ機会が増えると、それなりの肌の色になった。
華奢なわけでもない。
そう。
学校にいる間は、なんら問題なかった。
「エロビデオ、ゲットしてきた」
そう俺の部屋に来て見せびらかす弟。
中学一年の冬のことだ。
「あっそ」
「ここで見ていい?」
弟の部屋にはビデオデッキがない。
俺は、それを許可し、夜遅く、ビデオを見出す弟を無視して、一人、眠りに付いた。
それなのに。
「兄貴―。ねぇ、起きてって」
「あぁもう、なんだよ」
「あんな風にホントに入ると思う?」
そう俺に問いながらテレビを指差す。
見れば、男同士でのHシーン。
「…なんでお前、こんなビデオ、持ってんの?」
「さっき、ゲットしたって言ったじゃん」
「そうだけど、男同士でって…」
「俺、こういうの興味あるから。それよりさ、あんな風にホントに入るのかなぁ」
俺も、実際その行為、光景を初めて目にして、不思議な感覚だった。
だけれど、実写で実際にそうなってるわけだから。
「入るんじゃねぇの」
そうとだけ言い、もう一度、ベッドに戻る。
そんな俺にくっついてくるように弟のナツもベッドに乗りあがった。
「気にならない? こういうのってさ。兄貴、もしかしてもういろいろ経験済み?」
「…ねぇよ」
「していい?」
にっこり笑って、ナツはそう言うと、俺のパジャマの上から股間をそっと撫でてきた。
「なっ…に考えて…」
「だって、いろいろ知りたい年頃じゃん。兄貴だって知りたくない?」
「ばっか…っ。だからって、兄弟で知り合うもんじゃねぇよっ」
「誰が決めたの? そんなこと。知りたい物同士がやればいいんだよ」
何度も布越しに擦られて、免疫のない俺の体はすぐ熱を帯びていく。
それがナツに伝わったんだろう。
企むような笑みを見せ、俺へと口を重ねる。
「んっ…」
舌先が絡まる感触は思ったよりも気持ちよくて、頭がボーっとした。
「ね…兄貴。舌が絡まる音って、なんかやらしいね」
そうナツに言われるが、そんな音、聞いている余裕、俺にはなかった。
あいかわらず、布越しに置かれたナツの手のせいだろう。
今度は、俺のズボンと下着を脱がしにかかる。
「っナツっ」
「兄貴のココさ、すごい硬くなってる」
適当に膝辺りまで衣類を下ろされて、ナツの手が俺のを直に掴みあげる。
俺の表情を伺いながら、上下に擦りあげていった。
「っ…くっんっ」
「一人でやるときって、こんな感じ? みんな一緒かな、やっぱ」
「っんっ…はぁっ…んぅっ」
人にされるのと自分とでは全然違う。
慣れない感触。
人の手でされるその行為に、いつも以上に感じ、息があがる。
「舐められたりすると、やっぱ相当気持ちよかったりするのかなぁ」
単なる好奇心なのか、俺の股間へと顔を寄せ、舌先で一舐めする。
「んっ…!!」
「あぁ、変な味でもすんのかと思ったけどしないや。まだなぁんも出てないからかな」
そう亀頭を撫でて独り言みたいに言いながら、今度はためらわずに、舌で根元から一気に舐めあげられた。
「あっ…んぅっ」
背筋がゾクっとして、体が自然と反り返った。
何度も何度も舌が這う。
全身が強張っていく。
「あっ…んっ…ぅんっ…あっ…ナツっ」
「ねぇ…手と違ってどお? 感じる?」
「はぁっ…やめっ…んっ…」
涙が溢れてきていた。
今度は、舌がピチャピチャと音を立ててソコを舐めあげるのが理解できる。
丹念に舌が絡まって、その刺激に耐えようとベッドのシーツを掴んだ。
「あっ…んっ…ぅんっ…あっ…」
それでも、止めるどころかエスカレートしていくナツの愛撫に、我慢出来そうになかった。
「んっ…あっナツっ…離し…っあっ…んっんーーっっ」
ナツに舐められて、イってしまい、なにも考えられなくなった。
ズボンと下着を脱がされても、危機感がもてない。
「ねぇ。兄貴、キスしよ」
そう言って、今度は俺の顔の方まで体を寄せると、口を重ねて舌を絡めてくる。
「んっ…ぅんっ」
「わかった? 兄貴の舐めたの。こーゆう味。それとも、こっち、実際に舐めてみる?」
精液を俺の腹から拭い取って、その手を見せびらかされる。
「ばっか…なに考えて…っ」
「兄貴にも教えようと思っただけだって」
言い終わると、ナツは指先を俺の股間の奥の方へと潜らせる。
「な…」
「ここだよねぇ。入ると思う?」
指先が、奥の入り口をそっと撫でて示す。
「っ…入るわけ…」
「兄貴、初め、入るって言ってたくせに」
「あれはっ」
「ね。兄貴が言ったんだよ…」
耳元で、俺よりも低い声でそう言うと、ゆっくりと指先を差し込まれる。
「あっ…んっんぅんっ」
「1本なら、痛くないよね? …でも、すごいキツいや…」
ゆっくりゆっくりと、奥の方まで差し込まれていく指先の感触に慣れれず、ナツの腕に爪を立てた。
「くっ…ぅんっ…んっ」
「どこかさ、気持ちいい場所とかないの?」
奥まで入った指先が探るように少し退いて、酷く感じる部分を掠めていく。
「ぁあっ!!」
ビクつくのをナツは逃さないで、掠めた箇所を確認するように、何度もまた指で付近を撫でていく。
「あっ…んっ、ぅんっ…やっめ…っ」
「ホントに、こっちで感じるんだ…? もう1本足しても平気?」
「やめ…っ」
俺が拒むのなんて、意味を成さないのか、ナツの指がもう1本足されていく。
「くっ…ぁあっ…んっ…くっぅんっ…あっ…ナツっ」
「ここかぁ…。すごいビクついてて、なんかかわいいね」
弟にそう言われるのが屈辱的でならない。
だけれど、実際、ビクついてソコで感じてしまい、どうにもならなかった。
2本の指先が、中を慣らすように押し広げていく。
「やっ…ぁあっ…んっ…んっ…ナツっ…やっあっ…」
「すっげぇ、キツ…。こんな中、入るかよ…。でも毎日慣らしたら広がってくかなぁ?」
そうナツが言うのにだって返答する余裕はもちろんない。
「はぁっあっんっ…やっ」
「うん、兄貴の、もうパンパンに硬くなってるし…指だけでイけそうだよね…感じる…?」
「あっんっ…ぁんっ…やっやぁっ」
「すごい、かわいい声…。兄貴っていつ声変わりすんのかな」
俺よりも先に声変わりした弟に、屈辱と羞恥心を煽られる。
嫌味なのか、素で言ってんのかわからない。
「あっっ…ぅんっ…やっ…」
いつまで経っても女みたいな声で。
いまは、女みたいに喘がされて。
口を押さえようとした手は、ナツにどかされて、上から見下ろされる。
顔を背けると、ナツは耳元で、
「もっと声出してよ」
低い声でそう言う。
「や…めっ…んっ…やっやぁあっ…」
強めに感じる所を探られて、声を殺す余裕がなくなっていた。
「ひっぁあっ…あんっ…やっ…あっ…あぁああっっ」
大きな声をあげて、イってしまう姿をナツに見下ろされていた。
こんなの、一方的にナツに遊ばれただけだ。
俺は興味ない。
いや、あるけれど、弟としようとは思わない。
だいたい、ナツは身近で手ごろな相手なら誰だっていいんだ。
「兄貴…気持ちよかった?」
指を引き抜いてそう俺に聞く。
あぁ、俺のこと、こいつからかうつもりではないんだな。
普通に、興味があるんだろう。
だけれど、やるせない。
俺は起き上がり、俺の顔を覗き込む弟の頬を、思いっきり叩いた。
「っ…!!!」
叩かれた頬を、手で押さえ、ナツは泣きそうな顔で俺を見る。
「…馬鹿…っ」
泣いたのは俺の方だった。
そこまで、この行為が嫌だったわけでもない。
だけれど、なんとなく、受け入れられなかった。
自分より年下の弟に、女のように扱われるのが。
「兄貴…っ?」
泣く俺を見てか、泣きそうな声を出して、俺を抱きしめる。
だから、そうやって、男らしい行動すんなっての。
俺が、ものすごく女々しいやつに思える。
「ごめんっ…もうしないから…っ」
俺は、ナツをねたんでるんだろう。
年下のくせに、俺より大きくて、男らしくて。
同じ兄弟なのに全然違うから。
ナツが悪くないのはわかっている。
俺はナツを引き離し、ジっと顔を見ると、不安そうな面持ちでナツもこちらを見ていた。
「…ばかやろ…」
舌打ちして、そうぼやき、そっと口を重ねる。
軽く、触れるだけのキス。
「弟のくせに生意気なんだよ」
「兄貴にいろいろ教えてもらおうと思ってっ」
「頼ってるとでも言いたいのか、お前は。利用してんだろ」
「…違…っ。なんで? 教えて…もらっ」
その後は言葉にならず、ナツまで涙ぐむ。
こいつは、俺よりも純粋なんだろう。
もしかしたら、俺とは反対に、自分の成長に対して『兄貴に申し訳ない』だとか気にしてくれてるかもしれない。
いや、なにも考えてないかな。
でも、それでいいと思う。
気を使われるのだって、意識しすぎで嬉しくないことだし。
こいつは、なにも気にせず、普通に成長した。
俺の成長が遅いだけだ。
一方的な、ねたみ。
謝るのは俺の方なんだろう。
だけれど、これは俺のコンプレックスだ。
弟に対しての。
弟が嫌いなわけじゃない。
もちろん、かわいくて好きなはずの相手だ。
俺のこと、頼ってくれて慕ってくれて。
部屋にも遊びに来てくれる。
それをうっとおしいと跳ね除けるのは、俺が小さい人間だからなんだろう。
「弟のくせに兄貴を抱こうなんて10年早ぇんだよ」
「…うん…」
「知りたいなら、俺がやる」
「ホント? 兄貴、教えてくれるの?」
…こいつは、どっちでもいいのか。
やっぱり、意識しすぎてるのは俺だけ?
こいつは、コンプレックスを持つようなものがなにもないからなのかもしれないけれど。
なんとなく、器のでかさみたいなものを感じてしまう。
自分の方が、考えすぎて子供のように思えて。
これじゃあ、俺、こいつにやられても文句言えないよなぁなんて思うわけだ。
「俺も別に知らねぇけど。また、今度な」
「明日っ」
「…わかったから。もう部屋戻って寝て来い」
ナツは、自分の股間に目をやって、多少困った様子ではあったけれど、なにも言えず、部屋を出て行ってくれた。
…俺だけイって、少し悪いことしたよなとは思うけど。
自分がやられることよりも、自分がやることしか考えられないあたり、俺はナツに対してのコンプレックスを捨てきれないでいるのだろう。
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