「慎之介がやったって」
総一郎がいる寮の近くまで行き、携帯で呼び出した喫茶店で、そう告げる。
「やった…って」
「んー。なんか、知り合いとHしちゃったってさ。で、俺もしたけど」
総一郎は、いやなもんでも見るような視線を俺に向けていた。
「なに?」
「知り合いって、なに」
「だって、恋人でも好きな相手でもないみたいだったから?」
「で。兄さんも、やったんだ」
「お前も、どうせ俺のいないうちに手、出したんだろ」
「…最後まではしてないよ」
「なぁにぬるいことしてんだ、お前は」
「別に…。そんなこと伝えに来たの?」
総一郎は嫌そうにかったるそうにそう言いながら、頼んだコーヒーを口にする。
「……総一郎…。どうして俺が慎之介に手、出したかわかる?」
「なに…」
「やっぱ、弟の初、奪っちゃうのもかわいそうだしなぁ? 知っちゃった慎之介は、都合よかったってのが、三割くらい」
煙草を吸いながら、総一郎を見る。
冷めた目つきのまま、俺の方から少し視線を逸らしていたが、聞いてはいるんだろう。
「残りは、慎之介、顔はあんまり似てないくせに、あんときの声はお前に似てるから。それと、お前がいなくなって1年。俺も寂しかったから」
そう言い、頬に手を当てると、思い切り振り払われる。

「そろそろやめません?」
今度はわざとなのだろう、笑顔で俺を見て、そう言った。
機嫌が悪くなるのと敬語で話す癖も、そのままだった。
なつかしいな。
「なにお前。好きな相手でも見つかった?」
「…別に」
「いいだろ。お前の初は、俺が奪ってやったんだよな」
「…慎之介とはずいぶん対応違いますね」
「お前がかわいいからな」
「…いい加減に……」
「とにかく、行くぞ」

俺は、総一郎がコーヒーを飲み終えているのを確認して、レジへと向かい会計を済ました。

一応、ついて来てくれる総一郎を車の助手席へ乗せる。
「総一郎、学校はどう? あんな男子校で寮生活でさ。やっぱやったりやられたりしてんの?」
「それなりに」
「……へぇ…」
そのまま、助手席の方へと身を乗り出し、総一郎の頬を取り口を重ねる。
不満そうに閉ざした口を舌で割り開く。
舌先を絡めていくと覚悟を決めたのかどうでもよくなったのか。
俺に応えて総一郎からも舌を差し出してくれていた。

濡れた音が響く中、右手で総一郎の股間をズボンの上から撫で上げていく。
「んっ…ぅんっ…」
「…ん…お前、手、出しな」
あいかわらず、なんでだと言わんばかりの冷たい視線で俺を見て。
俺はそれを無視するように総一郎の右手と自分の左手に手錠をかけた。
取り出したローターを総一郎の見守る中、舐めあげていく。
「…それ…」
「入れるよ」
一応そう伝え、総一郎のズボンのホックを外しチャックも下ろす。
下着の中へローターを持ったままの右手を突っ込み、ゆっくりと奥…総一郎の中へと押し込もうとするけれど、結構、キツい。
「んっ…くっ」
「なに、お前。あんまり使ってねぇの?」
「はぁっ…あっ」
「へぇ。高校ではやる側?」
ゆっくりゆっくりと押し込んで、奥までは入れすぎず、前立腺に当たる辺りで止めておく。
それだけの行為で息を荒げる総一郎の隙を狙って、もう一つ持っていた手錠を総一郎の左手と助手席のドアの取っ手に引っ掛けた。

ルームミラーの向きを変え、総一郎が見えるようにして。
エンジンをかけると、俺を見ないまま、
「…どこ行くつもりですか…」
そうとだけ聞く。

「人気のないとこ。運転の邪魔するなよ?」
そう告げ、ローターのスイッチをONにすると、急な刺激に過敏にビクついて。
悟られないようにしたいのか、俺と反対側へ顔を背けた。

「んっ…ぅんっ…」
「あぁ、トラックとかからは丸見えだからなぁ。せめて、チャックは閉めとくか?」
総一郎のズボンのチャックを閉めてやってから、俺は車を走らせた。

「んっ…あっ」
車のエンジン音のせいであまり聞こえないが、かすかに総一郎は声を洩らして。
左手は、強く取っ手を握っていた。
ローターの刺激を強め、ビクつく総一郎を確認しながらも、無言のまま運転し続ける。
総一郎の方も、俺になにかを聞く気がないのか余裕がないのか。
わからないが、助手席の窓へと自分の頭をくっつけるようにして、下を向いていた。
「はぁっ…んっ…ぅんっ…」
「イきたきゃイけよ? …着替えとか、買ってやるから」
「あっ…くっ…」
俺を見ないままだが、聞こえてるだろう。
総一郎が、足を開いて無意味に床を踏みしめていた。
「あっ…あっんっ…」
俺の左手に繋がったままの右手が、シフトレバーを握るもんだから、俺はそっとその手をどかしてやる。
「…お前、危ないから」
そのまま、左手でズボンの上から股間を擦ってやると、過敏にビクつくのがわかった。
「はぁっあっ…んっ…」
あいかわらず、俺を見ないまま。
横を向いて、俯いたまま。
「んっぅんっあっ…やっ…あっ…んーーーっっ」

体を大きくビクつかせ、総一郎がイってしまったのだろうと予想がつく。
とりあえず、ローターの電源を切ってやり、脱力状態でドアにしがみつくような総一郎をミラー越しに見守った。


繁盛していないショッピングセンターの駐車場。
ほとんど車の止まっていない立体駐車場の屋上から1つ下の階へと車を止める。

手錠を2つとも外してやり、俺は一旦、車を降りる。
助手席側のドアを開け、やる気なく俺を見上げる総一郎の手を取り、後ろの座席へと移動した。

総一郎のズボンと下着を全部脱がせて。
総一郎の右側の座席へと座り、総一郎が出してしまったモノを右手に取る。

「…気持ちよかった?」
顔を逸らそうとする総一郎を許さず、左手で顎を掴み、総一郎の目の前で、その精液を舐め取っていくと、視線を逸らし、それでも視界に入るのか、目を瞑った。
「俺の前で、目、瞑っていいの? なにするかわからないよ…?」
濡れた右手で、総一郎の股間を撫でてから、ローターのコードをゆっくり引っ張り、取り出していく。
中から出てきたローターを左手に持ちかえて、右手の指を2本、そっと押し込んでいった。
「んっ…ぅんっあっ…」
「総一郎…これ」
そう言うと、目を開け、やっぱり嫌そうに俺を見て。
目の前にあるローターを見つめてくれる。
「どうしような」
そのローターに俺は舌を這わして、
「これ入れたまま俺の入れようか。もう一度、濡らして…?」
電源を入れた状態で口元に差し出すと、俺の意図がわかったのだろう。
それでも躊躇っているようだったから、一旦、俺が口に含んだローターを総一郎の口の中へと押し入れた。
「んっ…ぅんっ…」
「口、ちゃんと開いてて」
震えたローターの先を掴み、舌の上を撫でてやって。

拒みそうになかったから、俺は総一郎の中に入れたまま動かさなかった指で中をほぐしていく。
「んっあっ…あっ…んっ」
薄目がちの目が潤んでいた。
総一郎の唾液が、ローターを通して俺の左手を伝う。
「あっ…んっ…ぁあっ…はぁっ」
「ベトベトだな。総一郎…。そんなにヨダレ垂らして、いやらしいな」
耳元で声をかけると、恥ずかしいのか目を瞑り、涙が頬を伝っていた。

軽くキスをしてやってから、右手を引き抜いて、今度はまた変わりにローターを差し込んでいく。
「総一郎、お前、俺の上またがれよ」
「はぁっ…あっ…んっ」
抵抗する力のない総一郎の体を強引に引っ張り、自分の上へと跨らせる。
俺の肩に手を置いた総一郎は、俯いたまま。
わずかに腰を揺らす。
キスをしてやって、自分の取り出したモノをゆっくりと押し込んでいくと大きくビクついて俺の肩に爪を立てた。
「はぁっんっ…んぅんっ」
「気持ちいい…?」
「やめっ…んっ…もうっ」
「…ここまで大した抵抗もせずやられといて、いまさらそれはないだろう? 昔みたいに欲しがりな?」
「はぁっあっ…」
「なぁんか恥ずかしいわけ? もう俺はお前のこと、全部知ってんだから、いいだろ」
奥まで全部入り込むと、自然と総一郎の方から腰を揺らして俺を欲しがってくれていた。
「はぁっあっ…ぁっんっ…くっ」
「もうイくとか言うなよ…。このまま、ローター抜いてこうな?」
目を瞑ったままで、それでも総一郎は頷いて俺にしがみ付いた。
ここまで来たらもうこいつは落ちたも同然。
「だいぶ、時間かかるようになったな、お前」
少しローターのコードを引っ張ると、ビクついて腰を止める。
「んー…お前は、そのまま腰動かして…」
「はぁっ…んっ」
ノロノロと腰をがんばって動かしてくれていた。
強くローターのコードを引っ張ると、自分の入れたままのモノの横をゆっくりと移動していく。
「くっぁあっ…やっあっあぁあっ」
「拡げるとイっちゃいそう? もうちょっと我慢な…? ほら、力抜いて…」
「ぃくっあっやっ…ぁんっ」
「ばぁか。いかせてくださいって言ってみな」
「はぁっあっ…やっ」
思い通り拒んでくれるこいつに、つい笑みがこぼれた。
懐かしい。
「お前って、理性失ってても、そういうことは滅多に言ってくれないよなぁ」
ローターを全部抜き取って、総一郎の腰を掴み、下から突き上げてやると、俺の髪を掴んで、拒んでいるのか求めているのか。

「ぁっあんっ…あっんーっ」
何度も何度も突き上げるたびに、総一郎は甘い声を洩らす。
「ぁあっんっぅんっあっ…やっ」
「中出しするからな…」
「やっ…あっんっっ」
久しぶりでも、こいつはうまぁく俺のを受け入れて、腰を動かしてくれていた。
「んーっ…くっあっ…ぃくっあんっ…あっあぁああっっ」

そんな大きな声出してイっちゃって。
結構、余裕ないんだろう。
俺も総一郎の中へと自分の欲望をはじけだしていた。

総一郎はやられっぱなしで。
無気力状態だ。

そう思ったが、俺をジっと見て笑う。
「満足しました?」
「…なんだ、それ」
「別に…」
「ちゃんと待ってろよ…。着替え、買ってきてやるから」
総一郎を車へ残したまま、俺は、ショッピングセンターへ。
適当に必要そうな物を買い、早めに車へ戻った。

濡らしたタオルで体を拭いてやると、そそくさと総一郎は俺の買った服のタグを歯で噛み切って、着ていった。
「…お前、歯、痛めるぞ」
「平気ですよ」


お茶を差し出しても、あいかわらず不機嫌そうに受け取った。

「…なにお前」
「…あんまり慎之介に手、出さないでくださいよ」
目を逸らして、そう洩らす。
「…どうしてだよ。慎之介、やるの好きになったみたいだけど?」
「兄さんが好きにさせたんじゃないんですか」
まぁそれも一理ありますが?
「…総一郎は? 俺に、好きにさせられた?」
答えられずに顔を背ける総一郎の頬を撫でて、軽くキスをした。
「総一郎…? 聞いてる?」
「ん…」
「お前は、慎之介がかわいいから、俺が軽い気持ちでやるのに不満なのか?」
「そうですよ。俺は慎之介が…俺みたいになって欲しくないから、好きな人として欲しくて、手、出さなかったのに…」
やばいなぁ。
俺も、結構ブラコンだ。
総一郎がかわいくてたまらない。
「ごめんな、総一郎…」
抱きしめて頭をなでてやる。たぶん、こんな風に子供っぽい扱いされるの、恥ずかしかったりするんだろうな、こいつ。
「もう、いいよ…」
「いや、慎之介のこともだけど。お前のことも、いままでやってきてさ。俺が総一郎をこんな風にしたわけだし。そういう自分が嫌だってことなんだろ」
総一郎自身が、『俺みたいになって欲しくない』って。
そう言ったっつーことはそうだろ。

「俺は、いいよ…。慎之介と違って、真面目じゃないし…」
「…昔っから、お前は慎之介のこと、かわいがりすぎだよ。わかる? だから、俺はお前のこと、やったの」
「え……」
どういう意味だと、迷いを溜めた瞳が俺を覗き込む。
「お前ら2人、歳も近いし俺よりも仲イイだろ。ちっちゃい頃は、俺がすっげぇかわいがってやったのにさ。だから。こっち、向いて欲しかったんだよ。わかるだろ?」
総一郎は、かすかに頷いてくれた。
「総一郎が、大事にしてる慎之介も、壊したくなった。まぁ初めに言ったように、お前の声と似てるってのもあるけど。…俺だって、慎之介はかわいい弟だよ。大好きだし? 
…一応、初めてはとっておいてやったんだよ」
「俺…だって…」
急に切なそうな声を出して、顔を逸らす。
「…どうした?」
「兄さんは…俺だけにするんだと思ってたのに、慎之介にもしたって…」
それで不機嫌だったのか?
もちろん、こいつが慎之介のことかわいがってるのも事実だし、さっき総一郎が自分で言った『俺みたいになって欲しくない』という想いもあるのだろうけれど。

口を重ねてやると、素直に舌を絡めてくれる。
なんかもうかわいくてたまらないな。

こいつ、やきもち妬いてくれてたってことだろ。
「お前だって、初めに自分で慎之介とずいぶん対応違うんだって言ってただろ。わかってんだろって。総一郎みたいに、長い期間やってねぇよ」
「ずっと、会いに来てくれなかった」
「お前だって、家、帰って来なかっただろ」
変なとこ、似てるんだろうな。考え方とか。

「…また、会いに来るから」
「……うん…」
「兄離れしろよ?」
「…兄さんこそ…」
弟離れしろってな。
もう一度だけ口を重ねて、俺は総一郎を寮へと送った。