「優斗…」
「あ、榛。めずらしいやん」
優斗の部屋には、ルームメイトはいなくって、優斗だけがいた。
「その…さ……俺ら…」
「榛? どうしたん?」
優斗は、普通じゃない俺の様子を見てか、慌てながらも俺に駆け寄った。
「…戻りたい…。…元のさ…状態に、戻れねぇかな…」
「…どうゆう…意味…」
「…普通の…友達にさ…。手とか…出すなよ……」
 俺は、少し冷たく言い放った。
 感情的に言うと、一人でムキになってるみたいで…それは避けたかった。

 俺が、いつになく真剣だからか、優斗も冗談で答えるつもりはないみたいだった。
「…無理だよ…」
真面目な声で、そう言った。
「榛が…好きだもん…」
「…冗談なんだろ…? 友達として…だろ…?」
優斗のこと…
そういう対象で見たくないのに…
また、気まずくなる…。
「…ごめんな。ホンキで好き…。友達としてじゃなくて…。好きだから、まったく手とか出さないで友達のフリってやっぱ、俺には無理なんよ…。
榛に、こうやって、中途半端に手、出してまって、悪いと思ってるんよ…。好きだし…気まずくなりたくないし…。
冗談めかしてしか、榛のこと抱けんかった…。真面目にやると…榛、気まずくするやん…?」
 真面目にやられたら…
 優斗の言うとおり、気まずくなるだろう。
 というか…
 友達として、見れなくなる…。
「…優斗とは…友達でいたい…」
 女が男を振るときの、嫌な定番みたいな…そんなんじゃなくって…
 友達同士の、構えてない部分とか気まずさがない関係がいいと思うから…。
「…友達として、優斗が好きだから言うんだよ…。ずっと…友達でいたい…」
 優斗は、切ないような、苦しそうな…
 そんな目で俺を見た。
「…いっそ…あっさり、振ってくれた方がラクだわ…。ずっと友達なんて、やっぱ絶えれんで…。好き…」
「…そーゆう目で見るな…。優斗は…俺と友達じゃなくなっても…いいわけ…?」
「恋人同士になったら、友達じゃなくなるん…?」
 無理…。
 好きとか、意識しちまったら、絶対無理…。
 いままでどおりになんていくわけがない。
「…なくなるよ…。俺は、そんな器用じゃねぇから…友達みたいな対応なんて出来んくなる…。だから…俺は、友達でいたいんだよ…」
 優斗との…友達の関係が大好きだから…。

 優斗は少し俯く俺のアゴを取り、自分の方へと向かせると、そっと口を重ねる。
 まだ…優斗の答えを聞いていない俺は、どうすることも出来ず、入り込む優斗の舌に自分の舌が絡み取られる感覚を、ただ、もしかしたら最後になるかもしれないなどと考えて、味わってしまっていた。

「…榛…。友達は…キスするん…? 嫌がってくれんと…諦められんやんか…」
 嫌じゃ…ないから…。
「…俺は…もう榛の事、恋愛対象にしか見れんわ…。榛が、俺と前の…普通の友達に戻りたいと思ってもさ…。ごめんけど、俺には、フリしか出来んよ…。また、我慢出来んくなって、手だって出すにきまってる」
 フリ…。
 作られた、偽者の友達関係…?
そんなのは、嫌に決まってる。
「…榛にな…嘘つくの、嫌なんよ…。だから…嘘の気持ちでさ、友達関係になりたくないっつーか……。そんな感じで…」
 俺だって、嘘なんてつかれたくはない。
「…もう…戻れないんだ……?」
「…ごめんな…。戻れそうにないわ…」
 フリをされて、中途半端に手を出され続ける…?
「…だから…正直、現状もつらいんよ。冗談めかしてじゃなく…ホンキで榛のこと抱きたいしね…? でも、そうすると榛が変に気まずくしそうだし…。俺ら…やっぱ、離れる運命ってやつなんかなー。中2とかんときみたいに…?」
 少し、おどけて言ってみせる優斗が、逆に辛そうに見えた。
「…榛…賭けてみない…? 友達には俺はもう戻れないと思うから…。このまま、離れるよりは…気まずくなるかならないか、微妙な線に賭けて…。気まずくならなかったらそれでいいし…なったら…諦める…から…」
 このまま、離れるよりは全然いい。
 友達には、戻れないのなら…それがいい…。
「…じっくり…考えて…」
 そう言って、優斗が言うもんだから、少し時間をもらうことにした。



ホントはやっぱり好きだから、ずっと言い出せないでいた。  

安定した道を選んでいた。
この状況が、悪化するのが嫌で、言い出せないでいた。
気まずくなったり、離れていかれるのが嫌で言い出せなかった。
 それでももう限界…。
 優斗が、俺に手を出し続けたら…
 だんだんと意識してしまう。
 このままじゃ、中途半端な状態で気まずくなって…
 そんな状態は、嫌で、優斗に言いに来たんだ…。



優斗の部屋から出た俺の足は、自然と啓吾の部屋へと向かっていた。
「啓吾…?」
「あ、榛くん…」
 啓吾のルームメイトは、外出中なのかいなかった。
 そうだ…。
 優斗の彼女はどうするんだ…?
 俺と優斗が離れたら…優斗はいままでどおり彼女と付き合うだろうけど…
 俺が…優斗と付き合ったら…?
「……少し…ここにいさせて…」
俺と優斗のこの微妙な関係を知ってる…というか、察しているであろう啓吾の近くにいると、なぜか安心した。
「…榛くん…大丈夫…?」
 俺の顔色でも悪いのか、なにか察したのか、啓吾は心配そうに俺を覗き込んだ。
「…あんまり…大丈夫じゃないかも…。今、優斗に会ってきて…はっきりさせようって言ってきたんだ…」
俺は、啓吾に勧められるまま、ベットに寝転がらせてもらった。
「…榛くん…。それで…よかったと思うよ…。中途半端な状態じゃ…榛くんも疲れるだろうし……。兄貴も、いずれどうにかしなきゃって思ってただろうから…さ…」
「…優斗が…」
「……兄貴が……なに…?」
啓吾の聞いてくれる声が、穏やかで優しくて…
優斗に似ていて…
胸が締め付けられるような感じになっていた。
「…優斗が……好き…なんだ…」
潤んでしまってそうな目を、腕で隠しながら、そう言う俺に、啓吾がそっと布団をかけた。

それが引き金となって、誰にも言えなかったことを、口走ってしまっていた。
「…でも…優斗のこと、好きになったら…また、変に意識しちまって…気まずくって…。友達みたいに話せんくなる…。そんなん嫌で…友達みたいに話したいから……好きになりたくなかったのに…優斗が、俺のこと…」
 抱いたりするから…。
 いくら冗談めかしてくれてももう限界…。
「…いいじゃんか…。恋人の期間が長くなれば、次第に気まずさも取れるって。それに…まともに話も出来ないくらい…意識するって…すごいよ…」
 長く付き合えば…慣れる…?
 


「啓っ、榛、見んかったっ?」
バンっと、開かれたドアの音と共に、優斗の声が部屋に響く。
いつのまにか寝てしまっていたようだった。
俺が優斗の部屋に行ってから、だいぶ時間がたっている。
「…優斗…」
 啓吾は、ただ黙って、俺らを見守っていた。
「…榛…いや、部屋にいないから…。別に催促しようとかそんなんじゃねぇんだけど…」
 もうすでに…
 なんだか、意識しがちになってしまっていた。
「まだ、考えてるんならいいんよ。じゃ…」
 ゆっくりと、ドアの閉まる音がやたらと耳についた。  



「…啓吾…」
「…榛くん…。どーする…?」
どうする…?
「ん…。俺、ちょっと行ってくるわ…」
啓吾に見送られて部屋を出た俺は、うろついてる優斗の姿をすぐに見つけれた。



 それでも、意識しだすと、変に声をかけづらい。
昔から、ずっと優斗が好きだった。
なにもかもが優秀で、それがむかついたりしたこともあったけれど、それは、憧れみたいなものも混じってて…
誰にでも好かれるのが、むかついたりで…。
嫌いだからじゃなくって、ただの嫉妬だった。

クラスで目立たなかった俺が、クラスのリーダーみたいな優斗に声をかけられて、一緒に遊んでもらったのは小学生のころ。
誰もが優斗と仲良くなりたがっていて…
そんな中、俺はずるいながらも優斗の弟と仲良くなっていた。
それで、クラスの誰よりも優斗と仲良くなれた気でいたりしていた。

「…優…斗…」
「…榛っ?」
 優斗は俺の方に近づいて、ジッと俺を見る。
 その視線から逃れるように、顔を俯かせていた。
「…榛…」
 優斗は、俺の髪の毛に指を絡ませてから、そっと俺の顔を上げさせる。
「……キス…していい…?」
 なにも言い出さない俺に、わざとこういう聞き方をしてくれたのかもしれない。
「…ぅん…」
 そう答えると、優斗は少しだけ乱暴気味に、俺の口に自分の口を重ね、ゆっくりと舌を差し込む。
 さっきと同じことしかしてない気がするのに、どこか違った。
 いつもは、キスをされても、なにをされても…
 好きにならないようにって、そればかりが頭の中で回っていて…
 それがなくなった今、素直に受け止めれる感覚に、酔いしれてしまっていた。
「ん…っんく…」
 なんていうか…
 6年ぶりの感覚だった。
 優斗は、俺の口を捕えたまま、壁へと俺を押し付ける。
 そっと離された唇を、軽く舌でなぞりながら、連動するように首筋を指で撫でた。
「…榛…いい…?」
 「……悪いけど…しばらくは気まずいままかもしんない…。けど…慣れるまでだから…さ…。優斗は…気まずく思ったりしんといて…」  
優斗にまで、気まずく思われたら…もう、俺らはやってけないのではないかと思うから…。
わかったとつぶやいて、優斗はそっと首筋に口をつけると、痛いくらいの痕を俺に残した。
「…ずっと…一緒にいたでね…? 俺、いろんな榛を知ってるんよ…。全部、大好きだから…どんなに気まずくなったとしても…俺は、榛を好きでい続けるから…ね…」
涙が溢れそうで、声も出なくって…
ただ、そっと…小さく頷いた。




優斗の部屋まで、ただ、沈黙のまま、2人並んで歩いていく。
それはやっぱ、あの時みたいに気まずさを感じていた。
「…榛…。俺はね…。もう友達のフリとかしないから…。わざと友達のフリとかしても…逆に、榛って、気ぃ使ってどんどん気まずくするやん…?」
そっと頷く俺の頭を撫でて、優斗は、自分の部屋のドアを開けた。

いつもは、なにかと言い合いながらするのに…
優斗は、何も言わないで、ベットに寝転がる俺のシャツを上から順にはずしていく。
俺の方も、何も言えないで、ただ、その指使いを目で追っていた。
「…榛……いい…? 俺のモノにしていい…?」
 いつもだったら…『なに、わけわかんねぇこと言ってんだって』とか…言ってるだろうけど…。
 優斗は、俺を好きでいてくれて…。
 それは、友達としてじゃなく、恋愛感情で…。
 俺も、優斗が好きだから…何も言えずにそっと頷いた。

 優斗は、俺の体にかぶさって、首筋や胸元に何度もゆっくりと時間をかけたキスをする。
 いつも、悟られないようにしていた胸の鼓動を、たっぷりと、聞かれているようで、余計に高鳴った。
「っ…ん…ぅ…っ…ん…」
「…彼女が出来たら…榛のこと、諦めて、友達として見れるようになるんじゃないかと思ったん…。でも…無理だった…」
 優斗は、俺の体にいくつものキスマークを残しつつそう言うと、俺のズボンに手をかけ脱がしていく。
「ぅっ…くっ……」
 取り出した俺のモノを直に、やさしくこすり上げ、音を立てながらゆっくりと何度も舌で舐めあげられて…。
 いつもより丁寧な愛撫に、いつも以上に体が感じてしまっていた。
「…だから……どうしてもな…一番初めに…榛とやりたかったん…。ホントは、俺がリードしたいから練習させて欲しいとか…そんなんじゃなくって…。榛とやりたかったん…」
 優斗は、自分の指を、丁寧に舐めあげると、そっと、俺の中へとさしこんでいった。
「っんぅうっ…っぁくっ…」
「榛の中……狭くて…暖かくって…すごい…気持ちいいよ…」
 恥ずかしくなるようなセリフを真面目に吐きながら、中を拡げるようにかき回す。
「っはぁっ…ぁっ…んぅっ…んくぅっ…」
 体が変にしなってしまい、膝を立て、腰を浮かしてしまっていた。
「…かわいいよ…。榛、すごく…」
 足を折り曲げて露わになった、俺の内股あたりにまで、キスをしながら、優斗は指を増やして、奥の方まで指で突く。
「っゃっ…うンっ…はぁっ…優…っ…ゃあぅっ…」
「榛が、感じてくれると、俺も嬉しいで……もっと…感じて…。気持ちいい…?」
 優斗は、俺の感じる部分を何度も指先でこすりながら、そう俺に問い掛ける。
「…ぁんぅっ…ひ…ぁん…っ…くっぅン…っ」
 そっと、頷きながらも、その感覚に耐えられず、近くにあった枕をギュっと掴みあげた。
「…そうやって…榛は、いっつも枕掴むよな…」
 軽く笑ってそう言うと、俺から枕を取り上げる。
「っな…ぁ…」
「…枕じゃなくって……俺にしてや…」
 優斗は、俺の腕を掴んで、肩の方へとまわさせる。
「…俺に…しがみついて…」
 指を引き抜き、俺の体を起こさせて、優斗は力強く俺を抱きしめた。 
「いい…?」 
 耳元でそう言われ、小さな声で、『うん』と答えると、優斗は、自分の昂ぶりを、ゆっくりと俺の中へと収めていった。
「っぁあっ…んぅ…」
 優斗の背中や頭に回した手が、つい爪を立ててしまっていた。
「ぁっ…ん……優斗………いいのかよ…」
「…なにが…?」
「…俺…っ…」
 優斗は、少しずつ俺の体を揺さぶりながら『なに?』って、やさしく聞いてくれる。
「ぁっあっ…くぅン…っ…優斗の…ことっ…ぁっ…好き…」
 前みたいな友達には、もう戻れない。
 それでもいい…?
「…いいに決まってるやんか。…大丈夫…。たとえ…俺らが前みたいに…言い合ったり出来なくなっても…榛は…俺の一番好きな…友達だから……」
 優斗に…
 一番の友達って言われるのが、ものすごく好き。
 恋人と友達は違うから…
 優斗のこと、好きになって…恋人同士になったら…
 もう友達としては、一番じゃなくなる気がして…
 そんなの嫌で…
「…好き…だから…。友達としてもずっと一番、好きだからな…」
 友達としても…
 俺は、わがままだから…恋人としても友達としても、どっちも1番でありたくて…。
 優斗には、俺の考えなんて、すぐにわかっちまう。
 そう言ってもらえて、俺は、少し安心するように、優斗にギュっと抱きついた。

 何度も、優斗は、俺の体を揺さぶって、突き上げる。
「あっ…はぁっ…優斗…っんぅっ…ぁンんっ…駄…目っ…やくっっ…」
 絶えがたい刺激に、強く優斗に爪を立ててしまっても、優斗は何にも気にせず、その行為を繰り返す。
「ぅっ…ぁあっ…やっ…やっ…ぁっ…はやぃ…っぁんぅっ」
 そうは言っても、優斗は何度も俺の体への抜き差しをして、そのせいでか生理的な涙がポロポロと頬を伝った。
「ひぁっ…あっあっ…やぅ…おか…しぃっ…あっ…優斗ぉっ…」
 こんなの…知らない…。
 そっと俺の涙を、舌でぬぐって、耳元でやさしく『大丈夫』だとささやく。
「ぅんんっ…はぁっ…あっ…ぃっ…やぁあっ…あっ…ぁああぁっっ」
 強すぎる刺激に、わけもわからず、イってしまうと、そのまま、気が遠くなりかけて、優斗の方へと、ぐったり体を預けていた。


 
「今までは…な…。榛のこと、これ以上、好きにならんように、すっごい自制してたから…こうやって抱けるの…すっごい嬉しいんよ…」
 あぁ…今までのは…少し、抑えられてたのか…。
 たしかに…こんなんやっちゃったら…友達なんて思えなくって…すごい…好きになる…。
「榛……好き…」
 深く口を重ねられ、 お互いを確かめ合うように、舌を絡ませあった。

 いつ終わるのだろうかと思わせるくらいの、長い口付けを……。





 次の日。 
 優斗とクラスが違って、よかったと思ってしまっている自分がいた。
「榛…? ボーっとしてるよ」
 授業前に、和奏が、俺の席の前へとしゃがみこんで声をかける。
「あ…ぁ…。ちょっと…」
「昨日、どうなったの? なんか…よかったみたいだね」
 楽しそうにそう言うけど…ボーっとした俺を見て、どうしてそう思うのか…。
「…な…んで…」
「首筋に、痕残ってるし。それに、新聞にちゃっかり」
 そう言って、和奏は、俺の前へとB5版の新聞を見せびらかす。
「…な…」
 そこには、『熱愛宣言』という大きな見出しと、優斗の写真…。
「…なにこれ…。誰が撮ったんだよ。デジカメ?」
 いつも、新聞部への写真提供は俺か、写真部の3、4年あたりがすることが多いから…。
「注目するとこは、そこじゃないだろ〜。優斗が自分で撮ったみたいだけど。インタビューが載ってるよ」
自分で撮った? 
よくよく見ると、下の方に撮影者の名前として優斗の名前が載っていた。 
『榛は、恥ずかしがって言えないみたいなので、俺がソロでインタビュー受けます』
なぁんて、書かれてて…。
「…和奏……。俺のこと、新聞部に売った…?」
「まさか。優斗が、自分から言い出したんじゃないの? 熱愛宣言ってからには…」
 俺が、その記事を読みかけたとき、
「榛ー♪」
 優斗の声が、教室に響く。
「な……」
 クラスの奴らも、『新聞の奴らだ』と言わんばかりに視線を向けた。
「あ、もう読んでくれてるん? ほらぁ、榛に迷惑かけんように、俺が全部、インタビュー受けたんよ? 感謝?」
 感謝?
 じゃねぇっての…。
「お前が、宣言したんだろ? 下手な写真撮りやがって。なんだよ、熱…愛……って…」
 つい、昨日のことを思い出しちまって、声が出なくなる。
 それを見てなのか、優斗は、そっと俺の頭を撫でてくる。
 いつもなら、変な冗談を言って、それに対してまた、言い返して…ってな感じなんだけど…。
「元気でよかった」
 にっこり笑ってそう言った。
「ほらな。俺ら、大丈夫やん?」
 どういう顔して会えばいいって…。
 この馬鹿な新聞と、優斗の冗談が… 
 そんな不安を吹き飛ばしていてくれていた。
「榛…? 黙らんといてや。あぁ、怒ってる? あ、今日、弁当作ってくれた? かばんの中からもらってっちゃうよ」
 俺を気にしてなのか、とめどなく、いろんなことをしゃべり続ける。
 それなのに、俺は、全然、話せなくって…
 それが、なんだか申し訳ないような気持ちにさせられて、苦しくなる。
「…榛…。榛は黙ってても、聞いてくれるだけで嬉しいから…いいんよ。ただ、いるだけでいいからな」
 そう言うと、俺の頭を撫でてから、弁当を持って、教室のドアの方へと体を向けた。
 申し訳なさと、そう言ってくれた嬉しさとが混じって、涙が溢れそうになっていた。
「…優斗…っ」
 何も言えないのに、つい、呼び止めてしまう。
 振り返られても、俺は何も言えなくて……。
「またな。弁当、ありがとさん」
 そんな俺に、にっこり笑ってそう言うと、優斗は教室を出て行った。



「…優斗は、いい人ですなぁ。榛、よかったじゃん」
 和奏も深くは聞かないで、俺の肩をポンっと叩くと自分の席の方へと戻った。

 残された新聞を見て…。
 俺も優斗が好きなのに、『強引にせまってOKもらったんです』だとか、俺がしょうがなく付き合ってるみたいな内容で…  

 こういう風に、まわりに知らされるのは、少し気楽でいいと思ったりもした。
『お互い、ずっと好きあってて』なんて書かれた日には、恥ずかしくてしょうがない。  
俺が恥ずかしいだとか、気まずさを感じるような内容は、新聞には載っていなかった。

 馬鹿…。
 
 遠目で新聞を見ながら、心の中で、そうつぶやく。

 大丈夫…。
 自分にそう言い聞かせて、俺は、その新聞を、そっとファイルへとしまい込んだ。