「…あ、優ちゃん……。さっき榛が来たよ」
俺が保健室に来て少したった時だった。
優ちゃんってのは優斗。どうやら優斗が来たようだ。
俺は、カーテンで仕切られたベットで寝転がったまま、聞き耳を立ててしまっていた。
「…やっぱ…?」
優斗は、俺が来ることを予測してたかのようだった。
知っててきたのか、自分も気分が悪いのかサボりたいのかはわかんねぇけど…。
「ん……かなりお疲れさんみたいだったけど…昨日の相手、優ちゃんなんだろ…?」
「…んー…ちょっと張り切りすぎた」
優斗が、カーテン越しのすぐ近くのイスに腰をおろすのがわかった。
「…柊先生は…? 芳ちゃんと付き合ってんだろ? 最近どうなわけ?」
「…なんで知ってんの……?」
「…教えてくれてもいいやんか。…凪に教えてもらったけどさ…」
「…まぁ、聞かれれば言うつもりだったよ。優ちゃんに隠さないって。最近…忙しいからご無沙汰かも…」
忙しい?
あぁ、芳ちゃんの方がかな。
柊先生はいたって暇そうだし。
「…じゃぁさ…柊先生相手してよ…」
どっちが、女役なんだか…。
「…優ちゃん、昨日張り切ったんだろ…?」
「…そうだった…。あぁあ…俺も榛にやられたいんだけど」
「その考え方、理解しがたいね…」
一瞬、眠気が吹っ飛んで、耳を疑った。
柊先生が言うように、かなり理解しがたい。
俺に…やられたいって……?
「俺はね……実は甘えたがりなわけ」
あんだけ、わがまま言っといて、実はもなにもないだろう?
でも、俺以外といるときって、あんまりわがままじゃないかもだよな…。
「優ちゃんが…? 似合わないね。いつも部員の面倒とかしっかり見てるし……」
「俺って、下に3人もいるんよ。1つ下の弟と、3つ下の弟と、4つ下の妹…。昔、『お兄ちゃんなんだから我慢しなさい』とかそーゆう系統のこと言われてたわけ。1つしか違わないのにさ。でも、弟がさ。俺が譲ったりするとすっごく嬉しそうにしてくれたりするんだ。我慢なんて全然、苦じゃなくなってたんよ」
「…じゃぁ…なんで…? やっぱ、甘えるより甘えられる方じゃないの…?」
「…だからさ…。人に甘えたことってあんまなかったんだ。甘えられる親とかは弟に取られてたって言い方はおかしいけど、そんな感じだし…。いつのまにかリーダー質になってんのか、学校とかでも班長とかそーゆうのに自然になっちゃってたし……」
みんな、優斗に頼ってる部分があったし、優斗がひっぱってたからだろう…?
それって、いつのまにかリーダー質になってたってことか…。
「…なるほどね…」
柊先生は、妙に納得したみたいだった。
「でも、なんで榛には甘えれるわけ…? 今の優ちゃんの話聞いてると、誰にも甘えれてないみたいじゃん…?」
「……俺に…甘えるってことを教えてくれたんが榛なんよ…。昔、風邪で学校休んだときにさ…榛がプリントとか連絡帳とか届けに来たんよ。一応、客なわけじゃん…? 俺がお菓子とか用意しようとしたらあいつ、『馬鹿』って…。寝てろって俺のこと制すわけ」
なんか恥かしくなってくる。
優斗は、なつかしいのか、少し楽しげに話しているようだった。
「風邪で精神的にも衰弱してたんだろうけどさ…すっごい嬉しくって…。それから俺、榛にだけ、わがままになっちゃったんよ…。ついでにまだ小さい弟たちの相手もしてくれたし…。榛って…俺だけじゃなくって弟たちにとっても結構、甘えれる相手なんよ」
そりゃ…透も啓吾も由架も…。
優斗の弟たちはみんな好きだ。
「…そりゃ、榛も大変だな」
「榛は一人っ子だで、俺みたいに兄弟とか欲しいんじゃないんかな」
兄弟…って…。
確かに昔は欲しかったけど、今ではそんなこと考えるの、やめていた。
「…そんな風に、リーダー質の優斗に甘えられてる榛の方がよっぽど、人に対して甘えたいって感情あるんじゃないの…?」
柊先生は、俺の心を的確にあてて、優斗に言った。
「…やっぱ…? 俺、甘えない方がいいんかな…」
「優斗は、甘えられるの好きだろ…?でも、たまに甘えたくなるって…そうゆう感じだろ…?」
「うん…」
「…榛も一緒じゃないの…?甘えられるってのはさ…信頼されてるって気がして嬉しいと思うよ、俺は…。甘えたくなるのは本能みたいなもんで…」
「…だから…俺、榛に甘えたいし、榛に甘えられたいんよ…」
わけのわかんねぇことを…。
「たまには…俺のこと犯してかわいがって欲しいってやつ」
「それ、マジで似合わないって…」
柊先生も優斗も、笑って話してるけど、俺は全然笑えなかった。
「わかってる…。俺もいまさらかわいらしく受けるようなキャラじゃねぇし…。そんな風に素直になれないと思うし…。もちろん、榛も俺に甘えて欲しいよ…。ねだって欲しいし、もっと俺のこと頼って欲しいし…」
「言わなくっても…榛に伝わるんじゃないの…?優ちゃんの気持ちってのはさ。そりゃ、言った方が伝わるけど…?」
「酔いでもしない限り言えないって」
「そ…? じゃ…俺、ちょっと出かけてあげるから…」
あげるって…まさか…さ…。
「ベットで休んでな」
カーテンのすき間から俺を見て柊先生はにっこり笑った。
俺…絶対、顔赤くなってたりしそう…。
柊先生がドアを閉める音がして、優斗がイスから立つのが音でわかる。
俺は、とりあえず体を横に向けて、寝てるフリをするしかなかった。

「……榛……?」
後ろから声がかかる。
あぁ、後ろ姿でお前は俺だってわかるんだ…?
「榛やん…? ちょ…こっち見てや…っ………って、起こしちゃかんか…」
途中から、独り言みたいにつぶやくと、そっと俺の体を自分の方へと向けさせる。
寝てなかった俺は、熱があるせいでしっかりしない視界の中、優斗をとらえた。
「…榛…起きて…たん…?」
「…ん…今、起きた…」
「あ…ごめ…ん…」
優斗は、俺のオデコに手を当てて、熱を測る。
すぐさま、タオルを濡らして俺のオデコにそれをのせた。
ホントだ……。
熱あると、精神まで衰弱してんのかも…。
これだけのことが、すっごく…嬉しい…。
そんでもって……、一人にされるのがすっごく心細くなるのって、俺だけ…?
「…優斗…」
「…なに…?」
俺だって、甘えるようなキャラじゃねぇよ…。
いまさら、そんなん恥かしいだろ…。でもさ…。
「…いて……」
ここに…。
そう言ってしまう。
こんな恥かしいことを泣きそうな口調で言ってしまった俺を、からかうでもなく優斗は、『わかった』って言うと、ベットの傍にイスを持ってきて腰を下ろした。
仕切りのカーテンの中に入ると、そっと俺の手をとる。
あったかくって、安心出来て…。
なんか、泣けてくる。
「もう寝てな…」
そう言うから…
寝てるうちにどこかに行ってしまうんじゃないかって不安になる。
どこにも行かないで欲しいという気持ちからか、優斗の指に指を絡めた。
「……いるから……ここに…」
指を絡め返されると、俺は軽く頷いて、目を瞑った。
「…榛も……いてな……?」
ボソっと優斗がそう言うから、了解の意味を込めて、俺はまた指をキツく絡めなおしした。
俺にはやっぱ、優斗が必要だとあらためて思った。




「ん…優斗…?」
何時間眠ったんだろう。
もしかしたら、30分くらいしか寝てないかもしれないけど…。
優斗は、俺の手に指を絡めたまま、眠っていた。
俺はというと、深く眠れたからか、すっかり元気になっていた。
安心出来たんだろうか…ね…。
「…優斗…」
「榛、起きた…?」
カーテン越しにそう聞いてきたのは、柊先生だった。
「…あぁ…はい…」
俺は、寝転がったままカーテンをめくって柊先生を確認する。
「…聞いてたろ…? 優斗の気持ちさ…」
俺は、優斗が眠ってるのを確認してから『はい』と答えた。
「…たまには、素直に受け入れてあげれば…?」
「……彼女いるんですよ……俺も、優斗も…」
優斗の彼女にも、俺の彼女にも…
優斗にも悪いじゃないか…。
「…でも…彼女とは違った意味で、優斗のこと、好きだろ…?」
違ってればいいのかよ…。
そうゆう風に…わりきっちゃっていいのか、自分の中で、まだ整理がつかない。
「……そうゆうの…先生に言うつもりないんで…」
俺は、優斗たちと違って、先生とコミュニケーションをとるのが下手だ。
別に嫌いなわけではないけれど、フレンドリーになんてなれないっての…。
「…あいかわらず…そっけないね…」
軽く笑ってそう言うと、俺が理解するより早く、柊先生が俺のあごをつかみ取り、口を重ねる。
「…んぅっ…」
なに…こいつ…。
信じらんねぇ。
手が早いやつだとは聞いてたけど…。
「…口、開けてくれてもいいのに…」
誰が開けるかっての。
ずっと口を閉じていた俺に笑うと、ズボンのベルトを外してチャックを下ろされる。
「…ちょ…っ…なにし…」
俺は、自分の体を起き上がらせて、柊先生をどかしにかかるが無理…。
「声…殺さないと、優斗に聞かれるよ…」
そう言ってから、俺のペニスを取り出して、なんのためらいもなく舌をつけた。
「っ…ん……」
今まで味わった事のない、優斗以外の人の舌の感触が、妙に生々しくて、ゾクゾクする。
生々しいもなにも、生なんだけど…。
「はぁっ…ンっ…んぅ…」
優斗に聞かれるとか以前に、おまえなんかに声、聞かれてたまるかっての。
必死で、指を咥えて声を殺す。
「んっ…ン……ん…」
でも駄目…。
こうゆうのやられると、なんにも考えられなくなっちまう。
腰やら背骨やらが辛くなってきて、俺はまた、ベットに寝転がった。
「…榛って…抵抗しずに絶えるタイプなんだ…?」
目がもううつろになってる俺を見てから、ズボンを引き抜いていく。
「…や…るの……?」
…俺、いま、すっごい、不安そうな声出しちゃってる…。
「やるよ…。優ちゃん以外にやられでもしないと……榛、わからないだろ…?」
「…な…にが…」
「榛にとって、優ちゃんがどれほどの存在かっての…?」
わかるから…。
わからないでいようと思ってたけど…っ。
もう、わかったって…。
俺にとって、優斗は大切な存在。
「も…わかってる…から…。やったって、どうにも変わんない…」
やったところでどうなるってんだ?
でも、そんなのおかまいなしで、ベットに乗りあがると、これ見よがしに、クリームを指先につける。
「…先生が…そうゆうことしたら…やばいだろ…?」
「…じゃぁ、榛は、教育委員会とかに俺のこと、訴える…? 犯されましたって」
そんなこと、言えるわけがないじゃないか…。
黙り込む俺を見ると、軽く笑って、俺の片方の足の膝裏を手で掴む。
お腹の方まで持ち上げられて、指先がアナルに触れると、抵抗するとか、そんなこと考えてられなくって、不安だけが押し寄せてきていた。
「…せんせ…」
「榛ってさ…。普段とやられる時と全然違うね…。すっごい…雨の中に捨てられた犬みたい…」
わけわかんねぇ…。
いやらしく入口を撫で回した後、ゆっくりとその指先が中に入り込んでくる。
「っぁっ……んぅ…」
馬鹿…。
ホントに入れんなよ…。
優斗しか駄目なんだって、わかったから…。
わからせたかっただけじゃないのかよ…。
それとも、やりたくって、優斗と俺のためみたいなのはただの言い訳?
優斗でさえ、いまだに不安が残るのに…。
「やっ…ん…ん……っや」
怖い…。
容赦なく、もう1本、指を足され、2本の指で探るように中をかき回される。
「ぁっ…やっ…やぁ…っ…ん」
かろうじて、優斗が傍にいてくれるのだけが救い…。
馬鹿…。
さんざん好きとか言ってたくせに、こうゆうときに眠りこけやがって…。
俺は、ベットと優斗の手に爪を立ててしまっていた。
「はぁっ…ンや……っ」
優斗…。
起きろよ、馬鹿。
起きて、こいつから俺を救い出して欲しい。
でも、もし起きたときに…
普通に、『じゃぁ、3人でやるか…』なんて言われたら…?
駄目…。
俺は、優斗しか、駄目なんだって…。
「っやっめ…ぁっ…んぅっ…」
こいつにやられながら優斗の名前を呼ぶなんて恥かしいことは出来なかった。
・・・ただ起きてくれることを願って…。
「…優ちゃんは…榛が起きる少し前まで、ずっと起きてたんだよ…。優ちゃんだって、疲れてるはずなのにね…。榛の熱が下がるまでは、ずっとソコで見守ってたんだ。…だから…そうそう起きないんじゃないの…?」
熱が下がるまで…?
俺、1人が疲れてる気がしてたけど、優斗も疲れてるんだよな。
それなのに、起きててくれたんだ…。
だったら、今起こすのはかわいそう…ってことになるか…。
柊先生は、俺より年上で、優斗よりも年上で、経験もきっと豊富で…。
保健の先生だし、きっと無理なことはしないだろうと思う…。
1回くらい…我慢出来るさ。
俺は、覚悟を決めて、せめて口を押さえていようと優斗に絡めた手を抜き取った。
「…ん…榛…?」
指先が離れると、優斗は意外にもあっさりと目を覚ましてくれる。
わけもわからず涙が溢れて、俺は腕で自分の顔を隠した。
「榛…?…どうしたん…?」
優斗の目には俺しか写ってないらしく、やさしくそう聞いてくれる。
「優斗……ぁ…っあっ」
俺は、顔を隠したまま、余っている方の手で、足元の柊先生を指差した。
「ん……え……あ…柊先生…っ??」
「すぐ気づけって…」
このときだけは、柊先生と同じ意見。
「なにし……っ…ちょっ…はよ抜きゃぁってっ」
優斗は、少し混乱気味になって、焦っている様子だった。
「あ…っ、ゆっくり抜きゃぁなっ?」
早くだとか、ゆっくりだとか…
行き成り勢いよく引き抜かれるのは苦手だ。
優斗が俺を気づかってるのは、よくわかった。
「んぅ…っ…ぁ…ん…っ」
ゆっくりと、名残り惜しむように、指を引き抜かれ、生理的な涙と精神的な涙がごちゃまぜになって溢れてくる。
俺を気づかってか、優斗は隣のベットから持ってきたらしい掛け布団を俺の体全体にかけた。

「な…んでやん…。柊先生、なんでそーゆうことするんよっ」
俺が、『じゃぁ、3人で…』って言われたら…なんて心配は無駄なもので、優斗は怒っているようでもあったが、それよりもわけがわからない風に、柊先生に問い詰めていた。
「…お前らさ…見てるとなんか、苦しいんだよね…。特に、榛さ…。自分を隠しすぎっていうか…。ホントは好きなくせに、優ちゃんが言うからしかたがなく付き合ってるとかそんなそぶりじゃん…? そうゆうの、見てて苦しいんだって。ま、余計なお世話っちゃぁ、そうなんだけど…。優ちゃんしか駄目なんだろ…。それを…もっと自覚して欲しかったってわけ…。もともと最後までやるつもりはなかったって」
優斗しか…駄目……って……
確かに、柊先生のおかげでかなり自覚したけど…。
俺は、布団から顔を少し出して優斗を見た。
「…いいんよっ。榛が俺にしょうがなくで付き合ってくれてたとしても…っ。柊先生が俺らのためにそうゆうことしたんはわかるけど…別の方法なかったん…? 最後までやらんでも指も入れちゃかんって。…榛に…そーゆうことしちゃかんよ…っ」
俺の代わりに優斗の方が、感情が昂ぶっているっぽかった。
泣きたいのは俺の方なのに…って、もう泣き終わってるけど…
優斗が泣きそうになって、柊先生につっかかっていた。
「…ん…。悪かった…。凪ちゃんやっても優斗大して怒んないじゃん…? なんか…わりとそーゆうノリでいちゃってた…」
「凪と榛は違うんよ…。凪は、精神的に繋がってれば浮気とかよくって…。榛は…なんか違うんよ…。ちょっと…榛と2人にしてや…」
苦しそうな優斗を見てか、柊先生は部屋を出て行ってくれた。


「…榛…?」
俺を気遣ってか、さっきまでの感情的な優斗とは別人で、なにごともなかったかのように、やさしくにっこり俺の頭をなでる。
「……ん……」
俺はもう…なんていうか、体に力が入らない状態になっていた。
そんな俺を見てなのか、体を起こして優斗が抱きつく。
「…榛……泣かんといてや……」
「……ん…。…お前の方こそ…」
……『たまには素直に受け入れてあげれば…』…か…。
優斗がどれほどの存在か…。
わかってるって…。かけがえのない存在。

俺は、優斗のシャツを引っ張って、優斗の口に自分の口を押し付ける。

自分の方から優斗にキスをした。
結局は…柊先生の思惑通りというかなんというか…。
俺は優斗に大して、少しだけ素直な気持ちでいられるようになった気がした。
「……榛……?」
「……ん…。俺…優斗じゃないと駄目だわ…」
笑ってそう言う俺に、優斗は笑えずにいて、ただ、もう一度、俺をきつく抱き直した。