クラスで2番。
学年では5、6番…。
これがいつもの俺の成績。
絶対、クラスで2番以降。
一番なんて取れなかった。
「榛ー、何番だったん?」
そう聞いてくるのは、佐渡優斗。
どうせお前が一番だろっての。
聞いてくるのが、ものすごくむかつく。
「……お前、むかつく……」
「なんでやん…っ。こないだまでは榛の方から聞いてきてたやんかっ」
確かに。
俺の方から常にテスト結果とか聞いてきていた。
でも、いっつも優斗に負けてばっかじゃ聞く気も失せる。
ましてや、優斗なんて……。
1番なんだから、負けるわけがないってわかってて聞いてきやがる。

テストの結果を貰った人から、帰ってもいいとのことだったので、俺はそのまま、優斗の問いかけに答えずに、教室を後にする。
「なぁ…怒ってるん?」
「……別に……」
それでも、家の方向が一緒ってこともあるし、普段一緒に帰ってるって事もあって、優斗がついてくるのはしょうがないことだった。
「…今日、俺の家来ん?明日、休みだし」
別に、断わる理由もなかったから、俺は言われるがままに、優斗の家に行く事にした。
「あ、榛くん」
優斗の弟。
わりとノリがよくって俺は好き。
何度か優斗の家に行く度に会ってたから、結構仲良くしゃべれるようにもなっていた。
「啓吾っ。俺、でらおもしろいソフト買ったんよ。後で貸したるわ」
啓吾と俺はゲームが好きで話も合う。
ソフトの貸し借りなんかもしょっちゅうだった。
「……啓……今日、部屋入ってくんなよ」
「…なんでやん。いーやんか」
「…いつも一緒に遊んでるやん。別に啓吾も一緒に遊びゃぁ……」
「いかんっつってんやん」
あまりに優斗が怒った風に言うから、俺も啓吾もなんにも言えなくなっていた。

優斗の部屋まで行って、2人きりになってしまうと、なんだか気まずい。
なぜか、怒り気味に啓吾を入れさせなかったのとか……俺も、テストのことで気が立っていたってのがある。
沈黙をやぶったのはもちろん優斗の方だった。
「…榛……なんか、俺、悪いこと、したん?」
「…は…?」
「いつも…榛が聞くから、テストの結果とか言ってたのに、俺が聞いても教えてくれんし……。それだけじゃなくって聞くと機嫌悪いっぽいし、今日だって、先帰ろうとしてまうし……」
優斗は、優斗なりに、テストの結果とか…教えなきゃならない気とかになってるとか?
俺が……勝てないから、勝手にむかついてるだけだから、優斗が罪悪感とか感じてるのなら、それは違う。
優斗は、なにも悪いことしたわけじゃないし……。
でも……意識しだすとむかつくことがたくさん出てくる。
運動だって、勉強だって、いつも優斗が一番で。
それなのに全然、勉強とかしてる雰囲気とかないから周りからも人気があって…。
美術や音楽だとかも、ちゃんと出来ていた。
俺が、がんばればがんばるほど、届かないのがむなしくなってきて、がんばるのでさえ嫌になる。
「……むかつくんだよ……」
「………なんで……なん……」
そんな風に、聞かれても、自分の子供っぽい……って言ってもまだ実際子供だけど、そんな考え方を言うことなんて出来なかった。
俺って、バカだから……。
言う事も出来ないくせに、自分を隠すことも出来ていない。
そんな自分が、また、優斗に比べると劣ってる感じがして、どんどん嫌になっていく。
「……もう、いいやん。ゲームやろ」
小学校のときは、テストとか…勝ち負けなんて気にしていなかった。
でも、中学に入ると、嫌でも順位をつけられて…俺は優斗より下なのだと知らしめられた。
順位をつけられた時に、一番、近くにいた優斗が、初めて憎く思った。
ただ、昔からずっと一緒に遊んできていたから、少し憎く思うことがあっても、一緒に遊んだりもした。
遊んでいる最中に、優斗を憎らしく思うことはない。
いつも…テスト返しの時だとか、運動能力テストだとか……。
そういったときに、ふと憎らしくなったりする。
それが引き金となって、普段は気にとめていないのに、いろんな人に好かれてるのとかまでもが、むかつく原因になっていた。
俺が、勝手にゲームの準備をしている間、優斗は何も言わずに黙っていた。
その沈黙が嫌で、俺もゲームの準備を止めて、俯きながらもボーっと優斗の隣に座っていた。
「……俺……むかつかれるような事…したん……?」
そんなの……
言えるかっての。
優斗が1位だから駄目とか……
そんなのって優斗だって言われても困るだろうし。
「…してねぇ…よ…。もうむかついとらんから…」
「……じゃ、なんでなん?言ってくれんとわからんやんか」
少し…怒ってるような感じもしたし……苦しそうな感じもした。
だから……このまま俺が黙っているのも、優斗に悪いように思えた。
「………勝手に……むかついてるだけだで…優斗が悪いわけじゃないん…」
「…じゃ、なんでむかつくん…?」
なんか、恥かしい。
俺って、馬鹿みたいだ。
「…テストの成績が悪かったの。どうせ、優斗は1番なんだろ?」
別に、2番なら、悪くはないとも思う。
2番で悪いって言ってたら、それこそもっと下の方の順位の奴にむかつかれそうだ。
「…そんな、悪かったん…?」
「別に……クラスで2番だけどっ」
「ならいいやんかっ」
「優斗にそう言われるのが一番、むかつくんだよ。いっつもいっつも、1番でっ。1番とるのが悪いわけじゃねぇけど、そーゆう奴に、言われんのが一番むかつく。俺の方が成績悪いのわかってて聞いてくるのってホント、嫌だ」
勢いで思っていることを言ってしまっていた。
「……だって……いつも教えあってたし……。……俺…どうすりゃいいん…。どう言ったらいいのかわからんやん…」
1番の優斗には…成績のことでなにをどう言われてもむかつきそうだから、どうにもならない。
優斗には、どうゆう風にも言われたくないと思った。
「…俺、榛と違って馬鹿……だし……」
その言葉にホント、泣き出しそうなほどに腹が立つ。
「…俺と違ってってなんやん…。どうせ、俺は優斗より馬鹿なんだけど?」
開き直って言う俺を、申し訳なさそうに見る。
「……俺……榛に…どう言ったらいいのかわかんなくなってるし……友達がむかついてる理由とかもわからんで逆なでするような事、聞いちゃって……最低やんか…」
俺が勝手にむかついてるのに対して、そう思ってくれる優斗が、本当に……
馬鹿みたいにいい奴で……
やっぱ、こいつには勝てないんだなって、思った。
勉強だけじゃなくって…
やっぱ、こいつは…人に好かれるだけの性格持ってんだなっていうか……。
すべての行動に悪意がない気がした。
「…ずっとな……思ってたんよ…。優斗は、なんでも1番で……クラスでも人気あるし…。…俺……勉強は優斗の次だし…運動はもっと下だし…。クラスで人気者になるような要素とか…全然ないし……」
…ねたんでたのかもしれない…。
「そんなことないやんっ。要素、あるやんか」
ただの、平凡な人でしかない。
勉強だけがちょっと出来て、それさえも優斗よりは出来なくって、運動駄目だし、美術や音楽は苦手分野。
友達とみんなで遊ぶ時だって、リーダーとかじゃなくって、5、6人集まってる中の1人でしかない。
「ねぇよ、そんなの…」
「だって俺、榛が一番好き」
「いい加減なこと言うなよ」
優斗が俺を庇ってくれようとすればするほど、辛くなってくる。
どんどん反発しちゃって、すっごく嫌な奴になってってる。
「一番、好きだで……みんなも榛の事、好きなんじゃ……」
「…みんなが好きなのは優斗だってっ…。優斗は自分だから、わかんねぇだけなんだよ。客観的に見たら…優斗だって、優斗の事、一番好きになってるよ」
自分でも、よく意味のわからない事を口走っていた。
「俺、榛がいないと駄目なんだぁ。テンション下がるし、みんなと仲良くやってけない」
「なに馬鹿なこと言ってんだっての。俺は別にいるだけで、なんの役にも立ってねぇよ」
「いるだけでいいんよ……。榛がいるだけで…俺…安心するし…」
そうは言うものの、俺がいなかったところで、優斗が人気者なのにかわりはないと思った。
でも……そう言ってもらえて悪い気はしなかった。
「…俺……榛の事、好き…」
「…もうわかったから…何度も言うなよ。もういい」
「違うんよ…。そうゆう好きじゃなくって……ホントに…一番好き……」
切ないような目線でこっちを見てそう言うと、優斗は俺の方に顔を近づける。
だんだんと優斗の顔が近くなって、もうすぐ唇が触れるんじゃないかってとこで、優斗がそっと目を閉じる。
俺は気持ちの整理がつかなくって、そのまま動けなくなっていると、かすかに唇が重なり合って、すぐさま離された。
「……な……に……」
「…もっかい…していい…?」
わけもわからないまま、俺は頷くと、優斗はまた俺に顔を近づける。
唇が重なり合った状態で、俺が目を閉じると、よくわからないけど、溢れた涙が頬を伝った。
ゆっくりと入り込む優斗の舌に応えるように、自分もそっと舌を出してみる。
舌が絡まり合うと、体が熱くなってきて、ものすごくドキドキしていた。
時たま、いやらしい音が耳に響いて、恥かしくって、苦しくなってきて……
それでもお互い、確かめ合うように舌を絡めていた。
離れていく舌先から、唾液の糸が引くのが、涙でぼやけた視界の中からでもわかった。
「…榛……好き……」






………って、俺、何思い出してんの…。
優斗が、中学のアルバムとか持ってくるからだっての……ったく。
優斗は、覚えてんのかよ……。
中1の頃だから…もう、6年も前…?
…2年と3年はクラスが違ったから、テストの成績だとかで優斗を意識することもなくなったし、少し離れていた……
むかつくこともほとんどなくなっていた。
あんな…『好き』だとか、そういう話もしなくなっていた。
あえて、好きだとかは言わなかったけど…
……不意にキスされたり……
俺の中では、一番身近にいる友達で…
好きだった。
いきなり抱きついたりだとか、なんでもないのにキスしたりだとか……
その行動にどういった感情が入ってるのかはわからなくなってきていた。

今……前みたいな風に聞いてみたら…
前みたいに……答えてくれんのかな……。