夜。
テスト週間だというのに、なにもやる気がしない。
夕方、勉強したから別にいっかってな気になるんだよ。
邪魔かもしんないけど、ちょっとだけ、春耶の部屋に遊びに行った。
「…春耶…。その痕、晃がつけたんだよな…?」
首筋に残ってる痕。キスマークだよな。
どうしても気になる。
「そうだけど?」
晃にも、春耶がつけた痕だと思うけど、残ってたよな。
「二人って、別に付き合ってるとかじゃないんだろ?」
「まぁね。俺が、一方的に好きかな」
ベッドに座り込んだ俺の隣に春耶も座って、苦笑いして言った。
よくそうやって、どうどうと人が好きって言えるよな。
「でも、やることはやってたり…?」
「してないって」
「え…」
つい、春耶の顔をのぞきこむ。
俺と啓吾みたいに、付き合ってはいないけど、一応、そんな雰囲気で。
やってたりすんのかなぁとか思ったけど…。
「一回も…?」
「いや、一回はしたけど」
いろいろあるんだな…。
春耶は、晃には、絶対、ずっとやさしそう。
疑ったりしなくて。
好きとかも、しょっちゅう言ってるんだろうな。
こういう甘いのって、歯がゆいけど、ちょっと羨ましい。
「…いいな…」
ついそう洩らしてから、勝手に、ベッドに寝転がった。
好きとか。
啓吾に言われても、信じていいのかわからなくて。
晃は、不安になることとかないみたいだし。
それって、春耶のこと、信じれるからだろ?
「一回して、いいなって何?」
少し、笑って、春耶が上から俺を覗き込む。
あぁ、俺、自分の中で考えてただけで、返答としてはおかしかったな…。
「んー…。晃は、春耶みたいなのが彼氏…ってわけじゃないけど…なんつーか。春耶みたいなのに好かれてていいなってこと」
「深敦は、啓吾にたくさん好かれてるだろ?」
「…そんなことない…」
横向きに寝転がってると、春耶の指先が俺の髪の毛を絡めとる。
「…なんで、1回しかしてないわけ…? 好きだったら、やりたくなんねぇの?」
春耶の方も見ずに、ただそう言う。
「そりゃ、やりてぇよ…。けど、嫌われたくないから…っつーか。ほらさ、体目当てだとか思われたら嫌だし…」
あ、俺は思っちゃったな、啓吾のこと。
啓吾も、そうやって俺に気ぃ使えよな…。
「だから、欲求不満」
「右手が恋人ってやつ?」
「そういうこと」
結構、大変なんだ…?
「じゃ、俺が手伝ってやろうか?」
そう言うと、春耶は、俺の頭をくしゃって撫でて、
「あんま、心にもないこと、口にすんなって」
かるーく笑いながら、そう言ってくる。
「別に、心にもないことなんて、言わねぇよ。人がせっかく好意で言ってやってんのに」
断られたみたいで、ちょっとムキになってしまっていた。
照れ隠しみたいになってるかも。
「悪い悪い。ありがとな…。気持ちだけ、もらっとく」
「…気持ちだけ…?」
なんか、ちょっとふられた気分。
「深敦は、啓吾のなんだからさ。やばいだろ」
「別に、啓吾のじゃねぇよ」
啓吾の名前出されると、なんか、イライラしちまうのが自分でもわかる。
「別に、右手の代わりくらいにはなれるのにさぁ」
「深敦じゃ役不足だとか言ってるんじゃないって。あんま、かわいー事、言ってると、マジで自制聞きそうにねぇから、そろそろ止めな」
「俺、別にいいって言って…っ」
言ってるだろって…
そう言いかけたときだった。
春耶の手が俺の腕を取って、仰向けにさせると、深く口を重ねられる。
「んっ…ン…」
なにも構えてなくって、春耶の舌が中に入り込んできて俺の舌を絡めとっていく。
なんか、変な感じ…。
春耶って、結構、激しいキスするんだ…?
「っんっ…はぁっ…んっ」
何度も、口を重ね直した後、左手はそのまま俺の腕を抑えて、右手がそっと俺の股間を摩る。
「っあっ…春…っ」
「悪いけど、深敦が思ってくれてるほど、やさしい男じゃないよ…?」
「な…にっ…んっ…」
もう一度、口を重ねながら、春耶は、俺のズボンのホックを片手で外し、ジッパーを下ろす。
俺の舌に舌を絡めながらも、片手は直接、俺のを捕らえて、撫で上げていた。
「んっ…んぅっ…んっ…ぅンっ」
口が開放されると、春耶は、両手で俺のズボンを抜き取っていく。
「っ…春耶…っ…俺が…やるんだって…っ」
「右手の代わりに…? どうしてくれるわけ? 手…? 口?」
手…ってのは、なんか、申し訳ないよな…。
「っ口…でする…」
「じゃぁ、俺も、口でしてやるよ…」
春耶も…?
「いいよっ、俺は別にっ」
「欲求不満じゃないから、いらない…って?」
いらない…って、言い方は、悪いよな…。
それに、俺だって、啓吾とうまくいってないし。
知ってるんだろって。
「そういうわけじゃ…ねぇけど…」
それを聞いてなのか、春耶は、俺の股間のをためらいもなく口付ける。
「っ…や…めっ…春耶っ…俺っ」
「深敦がしてくれるって言ってくれたことをさ、俺もやって。なにかおかしい…?」
春耶って、国語とか得意なのかなぁ。すごく納得しちゃう。
おかしくない…よなぁ…。
俺は、欲求不満じゃないので、いりません〜なんて言ったらただのイヤミだし。
「…深敦…。後悔してるだろ? 右手の代わりになるとか言っちゃったの。今ならまだ、いいよ。別に、やれって言わないから」
「っ別に後悔なんてしてねぇよ」
「アキに聞いた? 俺、1回やったってやつ、半分、無理やりみたいな感じでやったんだぜ?」
無理…やり…?
でも、わかんねぇよ。
春耶がそう言うだけで、そんなに無理やりにじゃないのかもしれねぇし。
啓吾なんて、いつも無理やりといえば、無理やりっぽいし。
「いい…からっ。俺、やるって」
「俺が、先。深敦だって…ホントは欲求不満だろ…」
そう言うと、手にした俺のモノを、根元からそっと舐め上げていく。
「っやっ…んぅんんっ…春耶っ…やっ…俺っ」
「…なに…?」
そこでしゃべられると、息がかかってやばいってば…っ。
音を立てながら、春耶は丁寧に俺のに舌を這わす。
こんなつもりじゃなかったのに。
「っや…っ…だっ…やっ…俺っ…変な声…っ出るっ」
春耶に、こんな声、聞かれるなんて。
恥ずかしい。
「っぁアっ…やっ…んぅっ」
俺は、慌てて両手で口を抑えた。
「かまわねぇよ…」
いったん口を離してそう言ってくれて、片手で、重なっている俺の両手をやさしく口からどかす。
「そんなん気にしてたら気持ちよくイけねぇだろって」
たしかに…そうかもしれないけど…っ。
春耶は、俺の膝を立てさせて左右に開けると、股間のを、口に含んで舌を絡ませていく。
「っひぁっんっ…やぅっ…やっ…春…耶ぁっ…」
なんか、一度どかされた手で、また口を抑えるのもなんとなくしにくくて、頭の下の枕に爪をたてていた。
「っはぁっ…あっ…春耶ぁっ…やっだ…ぁっあっ…」
「俺相手じゃ、イけない…?」
そんなことはない。
十分、気持ちいいし。
イかされそう。
それなのに。
セックス慣れしてるせいで、前だけじゃイけそうにないとでも思ったのか、舌で濡らした指先を後ろの秘部にそっと差し込む。
「っっくっぅンっ…や…ぁあっ…春耶っ」
口は離されて、後ろだけなのに。
中を優しく掻き回されると、思考回路がめちゃくちゃになっていく。
「やぅっ…んっっ…春…」
気持ちいい…っていうか、心地いい…。
少し涙でぼやける視界のまま、ボーっと春耶を見上げた。
「足りない?」
春耶は、俺の返事も待たずに、2本目の指を挿入する。
「っあっ…春耶ぁ…っ…」
春耶が掻きまわすたびに、ものすごく感じる所を掠めていく。
「そこ…っだめっ…やっ…っ」
指をいったんひきぬいて、俺を起こすと、春耶は俺を抱きながら、また後ろから指を差し込む。
「っぁんんっ」
「じゃぁさ…どこならいいの?」
だめなんて…。
つい、言っちゃっただけなのに、律儀に聞いてくれなくても…っ。
啓吾だったら、わざと言わすかもだけど。
春耶が、伺うようにして、ゆっくりと中を探っていく。
「っんぅっ…ぁっあっ」
「…深敦…」
催促…してます…?
なんか、春耶って逆らいにくいのかなぁ…。
「んっ…ゃ…ソコっ」
「ここ?」
「あっ…ぅんん…っ。そ…こっ」
俺は、春耶のシャツの背中の部分を握り締めながら、抱きついてしまっていた。
俺だけ、気持ちよくなって、いいのかな…とか、不意に思ったときだった。
俺の下で、春耶のが当たってるのに気づく。
俺見て、欲情してくれた…とか…。
俺が、イったら春耶のするんだよな…。
俺、絶対、脱力しちゃってそれどころじゃなくなってそう。
どうでもいいってなりそうだもん。
やっぱ、こういうのは、先にやっとく方が得だよな。
あとで、おいしい目見るほうが、絶対いい。
「…春耶…っあっのさぁっ」
俺が、話し掛けたこともあり、春耶は指の動きをいったんとめる。
「…なに…?」
「…ソコで…さ。右手の代わりに…なる?」
「…ソコって…ここ…?」
春耶が、少しだけ指を動かして、場所を示す。
「っんっ…そう…」
「…いいわけ…?」
あとから、やるの、結構、面倒な気がするし。
一緒に気持ちよくなりゃいいじゃんか。
って、そういう問題じゃない…?
もう、啓吾以外のやつにやられたことなんて別にあるし。
かまわないよな…。
というか、啓吾を気にしちゃう自分もなんか嫌だな。
「ぅん…」
そう答えると、春耶は指を引き抜き、自分のズボンのチャックを下ろして、俺の足の付け根の双丘の間に高ぶったモノを押し当てる。
「っ…」
「入りそう…?」
さっきまで、濡らした指先が入ってたから、全然大丈夫そう。
「ん…」
両手で双丘を割り開きながら、春耶自身がゆっくりと入り込んでくる。
「ぁああっ…春耶ぁっ」
その刺激に耐えるために、しがみつくようにして春耶の背中に爪を立ててしまう。
春耶は、やさしく俺の背中と頭を手で押さえながら、抱き寄せてくてた。
「っぁっ…春耶…っ」
「ん…俺じゃ、やっぱ、物足りねぇ…?」
軽く笑って、冗談交じりにそう言った。
ぜんぜん、足りてますって…。
「っ春耶っ…ぁっっ」
奥まで全部入り込む。
啓吾以外の相手って、変な感じ。
「春…耶…っ」
「動けそうにない…?」
「…ん…わか…な…」
春耶はそっと俺をベッドに寝転がらせてから、入り込んだモノを、勢いよく入り口付近間で引き抜く。
「やぁあっ…あっ」
なにかを考える隙もなく、すぐまた、奥まで押し込まれて。
抜き差しを繰り返される。
「っあっぁっ…奥っやっ…ぁっ」
「奥…感じる…?」
「っはぁっ…んっ…ぅんっ…ぃいっ…やぁっ…やっ」
何度も、さっき言った感じるところを掠めながら、奥の方かで突き上げられ、もう相手が春耶だとか、わからなくなってくる。
ただ、いつもと違う…啓吾と違う感覚。
「ぅっぁあんっ…やっ…春耶っ…っあんっっあっ」
春耶のピストンの動きに合わせて、俺も呼吸をしながら、声を漏らしていた。
目もあけてられないよ…。
春耶が、俺の髪の毛を指で絡めとるのが感触でわかった。
「っはぁっ…春耶っ…ぁっん…もっ…駄目…っ俺っ」
駄目ってのは、やめて欲しいって意味じゃない。
そんなのはもちろん春耶に通じてる。
激しく突き上げられて、意識がふっとびそう。
「っあっ…ぁあっ…んっ…はぁっ…やっやぁっ」
「イきそう…?」
「ンっ…ぁっイク…っやぁっ春耶っ…やぁああっ」
勢いよく欲望が放出されると同時くらいに、春耶が俺の中から一気に自分のモノを引き抜いていた。
俺の腹あたりに自分のと春耶のが混じる。
「…春耶…」
中に…出さないんだ…?
べつに出してほしかったとかじゃないんだけど。
そんな配慮が、なんだかうれしく感じた。
「啓吾の代わりにはなれねぇけどさ。深敦の右手の代わりくらにはなれると思うから」
にっこり、冗談っぽくだけど、そう言ってくれる。
「俺も…。晃とは、比べ物にならないくらいかわいくねぇけど、春耶の右手くらいにはなってる…よな」
「右手以上だっての」
そう言ってくれて。
それがなんだか無償に嬉しくて気恥ずかしかった。
「春耶さ…。…もし…晃より俺と先に会ってたら、なんか変わってたかな」
春耶は、一瞬、きょとんとしてこっちを見ていた。
なにげなく、そう口走ったあとで、なにを言ってしまったんだろうと、心の中でめちゃくちゃあせるけれど、言ってしまったものは、どうにも取り返しがつかない。
というか、『やっぱなんでもない』とか、言い出すのもおかしいし。
「えっと…っほら。…えっと…別に、変わってなくてもいいんだけど…」
ホント、なに言ってんだか…。
春耶の顔もまともに見れねぇよ。
「もう、自分の部屋、帰るよ」
ベッドから早々に立ち上がる俺の腕を、春耶が引っ張って、引き止める。
「変わってたかもね」
振り返る俺に、にっこり笑ってそうとだけ言うと、俺の腕を開放した。
「…うん…」
帰るって言ったし、その場に立ってるのも、なんだか気まずくて、俺は、別れを告げて春耶の部屋を出た。
掴まれた腕の感触がまだ残ってるや。
変わってたかもね…って。
もしかしたら、俺のこと、好きになってたりしたかもしれないってことだよな…。
そういった解釈であってるよなぁ?
「右手以上だっての」
自分の右手を見ながら。
春耶の言葉を借りて、そう口に出していた。
欲求不満の解消相手としてどうとかでなく。
春耶の俺にとっての存在価値ってのは、俺の右手なんかとは、比べられないものだと思った。
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