「あの、湊瀬先輩」
写真部に何気なく遊びに来た俺の耳に、榛を呼ぶ後輩の声が入る。
どうやら写真部の子じゃないみたいなんだけど…。
「あっと、信耶くん。表紙と挿絵…?」
「あ、はい。10月号の…」
10月号…ってことは文芸部の冊子か…?
「うん。秋らしい風景とかだったらこのアルバムだね。持ってっていいよ」
「ありがとうございます。あと…後輩が食べ物の写真があるか聞いてたんですけど…」
「食べ物…? あんま撮らないね…。希望があればすぐにでも撮るから、どんな食べ物か言ってくれれば…」
「あ、じゃぁまた聞いてきます。じゃ、とりあえず…これ、ありがとうございます」
その後輩は一礼して、写真部を出て行く。
榛はなにやら熱心にカメラを調節していて、俺には全然気がつかない。
「…榛…」
後ろから声をかけると、ビクついて、落としそうになったレンズを大事そうに両手で包み込んでいた。
「優斗…いつから…」
「んー。ちょっと前。文芸部の後輩と榛が話してたとこから」
「そ…う…」
やばいな…。もう会話終了…? えっと…。
「榛しかおらんの…?」
「ん…。俺以外は外に今撮りに行ってて…」
なんか、きごちないんだよなぁ。
まぁ、意識してくれるのは嬉しいけど…。
さっき来た文芸部の後輩なんかよりも、俺の方がはじめて会ったみたいで。
俺に背を向けたまま、カメラのレンズを取り付ける姿が少し強張っているみたいなんだけど…。
「じゃ…二人きりだ…」
後ろから、榛の頬を撫でてやると、ビクンと条件反射みたいに逆方向へと顔を背ける。
まぁでもそんなん予想済み。
逆方向を向いた頬へと、そっと口付けた。
「っ…」
「ね…。顔、熱いよ…榛…」
前に回りこみ、カメラを取り上げ机に置き、榛のメガネを外してやって。
両手で頬を包み込み、閉ざされた榛の唇に、自分の口を重ね、舌で割り開く。
されるがままみたいに舌の進入をなんなく許可してくれた。
榛の舌を絡みとると、少しだけ体をビクつかせ、触れていた頬がさらに熱を帯びる。
「っ…ん…んぅ…っ…ぁっ…」
何度も角度を変えて口を重ね直すたびに、小さな声を漏らしながら、慌てて空気を取り入れるような榛がものすごく愛らしくて、口を重ねたまま抱き寄せた。
榛の足の間に自分の足を割りいれて、後頭部に回した手でしっかりと榛の頭を自分の方へと押さえつけながら、もう片方の手で、足の付け根の双丘を捕らえる。
「んっ…っんぅっ…」
嫌がるように、榛は俺のシャツを引っ張った。
すがりついてるようにも見えるんだけど…。
立ってるのもえらいのか、座り込もうとする榛を半ば無理やり立たせているような感じだった。
「ンっ…ぁっ…んっ…」
ゆっくりと、榛の腰を抱きながら、その場に座らせてやって、それに伴い俺もしゃがみこむ。
「もうすぐ…帰ってくる…」
少し俺から顔を逸らして、息も絶え絶えそう言った。
「…へぇ…。それはいい機会ですこと」
俺はそのまま榛を床に押し倒し、体に跨って座り込む。
「なっ…優斗…?」
「いいんじゃない…? 写真部部長、美術部部長と部室で熱愛」
「なに言って…っ…」
俺は榛の方を見たまま、手を後ろに回して、手探りで榛のズボンのボタンを外しジッパーを下ろした。
「やめっ…ホント、すぐ帰ってくるってば」
「別に疑ってないって。だって、みんな信じてくんないんよ。俺と榛が付き合ってるって。いい機会じゃん。見せびらかしたいなぁなんて」
「やだって…」
まぁ、榛ならそう言うと思ったし、俺だって、ホントに見せるつもりはないけれど。
「っていうか…ぶっちゃけると、今すぐ榛のイク顔見て声聞きたいってのが事実」
「な…ぁ…」
「ちゃんとカギしめたで…。イって見せてよ。俺の指で…」
あえて言われると恥ずかしいもんで。
俺が手で榛のモノを擦りあげると、なにげなく自分の腕で顔を隠していた。
「っんっ…ぁっ…あっ…やぅ…っ駄…目だってっ」
ホントにもうすぐ帰ってくるのか、榛はあいた手を俺の暇を持て余している腕に絡めてどかそうとした。
一旦、手を離すと、榛はホッとしたのか、俺の腕から手を離した。
俺は、榛のモノから離した指を舌で濡らす。
榛が、腕を顔からどかして、俺を見た。
「…ね…。イって…俺の前で」
また、ズボンの中に手を差し込んで、指先で秘部をなで上げると榛は、驚きを隠せず体をピクンと反応させる。
「やくっ…な…っやめるんじゃ…っ」
「榛がイったらね」
濡れた指先をそのまま奥へと挿入させ、そっと中をかき回した。
「ぁっ…あっ…優斗っ…駄…目…っ…もぉ…来るって」
「来なかったら…素直にやられてくれた…?」
指を増やして、中を2本の指で突いてやると、空いた手を俺の腕に絡めて、嫌がるよりもその刺激に耐えるように爪を立てた。
「はぁっ…やっ…ぁっ…優斗っ…ぁんっっ…あっ…ん…ンっ…」
「感度、よくなった…? それとも、俺のこと、恋愛対象として、意識してくれてるせい…?」
何も言えずに、ただ顔を背けて。
「…うれしいね…。榛…」
膝を立て、少し腰を浮かせながら、榛は大きく呼吸をし、その度に、艶っぽい声を漏らした。
「ぁっ…あっ…んっ…やっ…ぁっ」
前よりも、声は惜しみなく出すようになった気がする。
声ってのは、恋人相手より友達相手の方が恥ずかしいかもしれない。
もっと聞いていたくって、つい中途半端な刺激を送ってしまっていた。
「んっ…ぁっあっ…優斗っ…ぁっ」
「もっと…した方がいい…?」
「っんっ…」
わかるかわからないかくらいにそっと頷く榛がめちゃくちゃかわいくて、それに従って指先を動かそうとしたときだった。
ガチャガチャとドアを開けようとする音が響く。
チッ…っと、心の中で舌打ちをして、指先を止めた。
「…榛…すぐ開けるって言って」
小声で言うと、榛はしたがって、
「今、手、離せないから…すぐ開けるからちょっと待ってて」
と、声を大にして言った。
外からも、『わかりました』とかすかに声が聞こえる。
声色からして、大きな声で叫ぶようだったが、小さくしか聞こえないのだろう。
「…榛…声、殺しゃぁな…」
そうとだけ言って、俺は榛の体から降り、横から榛のモノをそっと舐め上げた。
「っなっ…ぁっ…」
「…もう…イキそうやん…? すぐ…イカせてあげるから…。いいよ、全部飲んであげるで安心して、イって…?」
榛のを咥え込み、舌先で強く舐めあげながら、唇で挟むようにこすり上げ、前立腺を後ろから指先で突いてやった。
「んぅうっ…ぁっ…あっ…やっぁうっ…ぁっんっ…あんんっ」
指先で内壁を擦りあげながら行き着く性感帯を突いてやると、榛は俺の髪の毛の指を絡め、自然と腰を動かした。
「はぁっ…んっ…ゆ…ぅとっ…やぅっ…やっ…もぉっイクっ…」
榛って、言わずにいきなりイったら失礼にあたる…とか、そーゆう考え方してそう。
だから、ちゃんと言ってくれることが多かった。
いいよって言うかわりに、愛撫を続けながらも、榛のモノをたっぷりと奥まで咥え込んだ。
「んぅっ…あっ…ぁあっ…んっ…ぁっ…んーーーっっ」
俺の頭から手を離して、榛が慌てて口をふさぐのが聞いてとれた。
約束通り、榛の吐き出したモノをすべて飲み干してから、口をそっと離して指を抜いた。
「はぁ…あ…優斗…」
榛は脱力したままで、どうにもならない状態。
しょうがなく、写真部の現像室に連れて行こうとするが、思えば、後輩たちはいま、写真を撮ってきたわけだから、現像しようとするわけで…。
撮影部屋へと榛を連れて行き、ドアもしっかり閉めてから、部室と廊下の繋がるドアを開けた。
「みなさん、おかえり〜♪」
「…あ…部長は…?」
そりゃ、さっき手が離せないと言った榛がいないんじゃ疑問も出る。
「なんか、さっきはレンズ調整で手が離せなかったらしくって、今度は調整したらすぐ撮りたいとか言って、撮影部屋にね」
うん。我ながらいい言い訳。
「じゃぁ、さっき佐渡先輩が、開けてくれればよかったんじゃ…」
ごもっとも。
今、俺が開けたしね…。
「俺はココで寝てたん。さっき、榛に起こされて、カギ開けといてって言付けをね」
なんで人の部室で寝るんだよ…とか、思うけど、まぁ、部員たちも俺が嘘ついてるってくらいもうわかってるだろ。
「さぁ、君らは早く現像を♪」
少し笑いながらも、部員の3人ほどが現像室へと向かった。
「あれ…現像室、君らは行かんの?」
「そんな大人数は入れないんですよ」
そのとき、撮影部屋のドアが開く。
「じゃぁ、今度は俺が出てくから、最後、カギよろしく」
榛だった。
「あれ…部長、もう戻ってこないんですか…?」
「…わからんで…俺は合鍵持ってるで、一応、鍵かって職員室持ってっといて…」
平気なフリしてるけど、なーんか訛り気味で疲れてらっしゃるようで…。
でもまぁ、さすが部長って感じだな。
「榛が今度は野外撮影?」
「…お前も…美術部戻れって…」
そう言われたこともあり、2人で部屋を出て、どこへ行くでもなしに足を進めた。
「榛〜。写真部の部室、出る口実作ってくれたん…?」
「…そういうわけじゃないよ…」
そりゃ、俺は元から写真部じゃないんだから、出て行こうと思えばいつでも出てけるけど…。
「…いきなり…やんなって…」
「んー…。だって、榛…」
恋人同士になってから、俺のこと避けるようで…。
後輩とかとの方がよっぽど仲がいい。
今って、はっきり言って俺が付きまとってるだけみたいで、もし俺が来なかったら榛から来ることもほとんどないだろうし…。
やっぱ…友達だった方がよかったんかなぁって思っちゃうね。
まぁ、やる時に合意的なのはうれしいかもだけど。
こうも普段、気まずくされちゃぁ…。
でも、そんな理由、言えないから、
「後ろ姿見てたら襲いたくなったで」
なんて言ってみたり。
そんな俺の馬鹿っぽい言い方は無視で、榛が歩いていくから、俺もそのままついて行った。
「…ごめん…」
いきなり榛は、俺の方も見ずに謝ってくる。
俺が気ぃ、使ってんのバレバレ…?
俺の嘘が下手ってわけじゃなくって…。
榛だからだよな…。
なんでもわかってくれて…。
やっぱ、好きだなってあらためて思う。
「いいよ…。俺ね、今一瞬、友達のときの方がよかったんじゃないかって思ったん。榛は今もそう思ってるかもしんないけど…。でもやっぱね…今、よかったって思ってるん。好きなんだね…どうしようもなく。でも、少しでも仲がいい後輩とか、嫉妬してまうんだ。俺の方が…」
なんでも言い合える友達だったのになって…。
なんにも言い合えない関係になっちゃったけど…。
「…優斗…。変に意識してまって…ごめん…けど…っ。優斗のこと…ただの友達だと思ってるんなら、気まずくしんやんか…」
そう。
榛が気まずくすんのは、俺のことを恋愛対象で見てくれてるからで…。
「うん…。だから平気。そう…思うで…。でも、たまに不安になるから…そうなったらまた、確認させてな…」
平気。
榛がそうやって俺のことを好きだと少しでも思ってくれれば。
自分の気持ちに嘘ついて友達続けてるよりもずっといいと思う。
「…待ってて…くれれば…嬉しいんだけど…」
ボソっと榛がそう漏らす。
待つって…?
気まずくならなくなるまで…? 慣れるまで…?
初めて告白したのは中1で…
もうあれから6年目。
長いなぁ…。
「待つよ。とことん。いまさらそんなこと聞かんでもわかってるやん…?」
待っててくれれば嬉しいって?
そう思ってくれるのが俺にとっては嬉しくて。
あと何年でも待てる気がした。
「待つからね…。榛は気にしんといて、焦らずにおりゃぁな」
ずっとずっと待ち続けるから。
「…そんなに待てないだろ…?」
「待てるよ。俺はね、いろんな榛が大好きで、今の榛も好きだから」
待ち続けられるのは、榛のことが好きで。
榛も、俺を好きでいてくれるって信じているから。
「じゃ、確認ね」
もう一度だけ、キスをして、今日の榛とお別れをする。
また明日、出会えることを想って……。
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