アキラ&オーナー



「アキラー。ツケにしてたやつ飛んじゃってさ。悪いけど代わりに払ってくれる?」
「りょうかーい。いくらっすか」
「んー、だいたい60万? 今月の給料から引いとくぞ」
「あ。オーナー、俺、ちょっと」
「ん? 分割がいい? しょうがねぇからいまなら特別3回にわけてやっても」
「いやいや、そうじゃなくって。ここでの仕事、辞めようかって」
「……どうして。確かにお前、よくツケにされてっけど、それ差し引いてもまあまあの額あんだろ」
「まあ、そろそろ両親の近くで働き口探そうかと」
「一人っ子だっけ?」
「姉と俺2人ですけど、姉はだいぶ前に事故で」
「ふーん。俺としてはお前失うの惜しいんだけど。まあよければお前の実家付近の店、紹介するし」
「いや、俺この職業向いてないでしょ」
「ツケにするような女に好かれやすいだけだって。……両親、体調でも悪いの?」
「……そうじゃないっすよ。別にお金に困ってるわけでもないですし」
「じゃあ……ほかに理由あんだ? あ、別に踏み込むつもりはねぇけど。いままでずっと一緒に働いてたわけでさ。立場的にも、気になるし」
「職場の人はみんな良くしてくれましたよ。ココ、離れようと思ってんのって、ホントただ俺のわがままですから」
「……わがまま?」
「……好きなやつがいるんすよね」
「そいつんとこ行くの?」
「……そいつから、離れようかと」
「なんでまた」
「大好きなんですけど、俺の好きって恋愛的な物じゃないんですよ」
「友情?」
「……家族愛……ですかね。たぶん、なにがあっても嫌いになんてならないし。恋人が出来たとしても、それより優先すると思うんです。変ですよね。恋愛感情で好きだって思ってる人より、大切に思うのに、それって恋愛じゃないんですよ」
「まあ家族だからな」
「姉の息子なんです。あ、向こうはしらないんですけどね。姉がいないから余計に想う部分があるのかもしれません。そいつも、俺のこと好きって言ってくれてるんですよね。でも、それって気付いてないだけで、恋愛感情じゃないと思うんです」
「難しいな。一概には言えない」
「なんていうか、自然と血が引き合ってるって感じに近くて。あいつ、結局母親いないから、そういうのに飢えてんのかもしれないし。甘えられる相手が欲しいだけっていうか。もちろん、俺はかわいがりたいんだけど。甥だし一線って越えちゃいけない気がして。けれど、あいつに言われたら断れないんです。恋愛よりも優先したい子なんで」
「なるほどね。気持ちはわかるけど。離れなきゃいけないの?」
「……このまま近くにいたら、あいつ、俺のこと本気で恋愛対象に見てくるかもしれないし。でもソレって、勘違いなんです。たぶん本能的に、繋がりのある人を求めてるだけで」
「血の繋がりを、本能で感じてるっての?」
「なんとなく、他人じゃないっていうか。そういうのあるじゃないですか。で、求められたら断れないし。ものすごく大切に思ってるけれど、俺がそいつを思う気持ちってのが恋愛感情じゃないってわかったら、あいつ、ショック受けるかもしれない」
「……恋人みたいな関係になってんのか?」
「……少し。あいつの俺に対する気持ちも、恋愛感情ではないんだろうけど」
「言わないつもり? 叔父だって」
「そうですね。俺のこと好きだって勘違いすることもなくなって、あっさり家族として付き合われたらって思うと、言い出せなくて。俺って、最低ですね」
「……人間らしいよ。家族は家族でいいもんあるけどな。でも家族には言えないことってのもあるし」
「結局、俺の方が本気になってんのかもしれないんすけど。てか、もうちょっとで本気になっちゃいそうだから、離れるっていうか」
「……駄目なの? 叔父と甥が恋愛したらさ」
「……姉の子供ですよ。しかも姉はいないし。親みたいな心境で見守ってきてたやつなんです。まあ親になったことなんてないけど。恋愛より、もっと大切なんです」
「そんなに大事で、離れるんだ?」
「俺が、叔父だって言えたらいいんですけどね。でも、あいつに勘違いでも恋愛感情みたいなもん持たれて、それが嬉しすぎて。言ったら、壊れますよ。いままで俺が尽くしてきたことすべて、ただ家族だったからなんだって思われるだろうし」
「叔父だってわかっても、好きだっていう可能性もあるだろ」
「……あいつの感情は、親に甘えたい子供のそれだと思います。ほかでちゃんとした恋愛して欲しいんで」
「いいのか、それで」
「……はい。大きくなって、本当に人を好きになったら気付くと思います。俺は、違うって」
「人の感情なんてわかんねぇよ」
「……けど、ホント俺、親みたいなもんなんで」
「親が傍にいなくていいのか」
「遠くからずっと見守りますから」
「……実家近くで働くからって言って出てくわけ?」
「それなんすよねぇ。ツケが払えなくて飛んだってことにしようかな」
「誰がだまされんだよ。お前、NO2だろ。払えねぇわけねぇし」
「甥、純粋なんで」
「酷い男だね。まあ実際ツケがあったのには、代わりねぇし。じゃあ50万にしてやるよ。10万払えなかったってことで」
「……いいんすか」
「どうせお前、嘘つくのも心苦しいって思ってそうじゃん」
「そうなんすけど」
「10万くらい、お前の人件費削減されたって思えばわけないし。まあお前いなくなると売り上げもホントは減るんだけど」
「すいません」
「ちゃんと、これっきりじゃなく会ってやれよ」
「……そうですね。あいつがちゃんと恋愛出来て、俺のこと叔父だって認識したときには。俺もちゃんと、家族として愛するし、愛されたいですね」
「調子いいな」
「恋愛とは違っても、俺の一番、大切な子なんで」