一拓巳



「ただいまー」
「おかえりー」
 家に帰ると、今日は風邪で学校を休んだ双子の兄、拓耶が出迎えてくれる。
「…っつーか、拓耶、立って平気なのかよ」
「喉痛いけど、それなりに大丈夫。あれ、マフラーは? 忘れてきちゃった?」
 今日は、拓耶がいつもしているマフラーを俺に貸してくれていた。
 相当のお気に入りなんだろう。
「人にやった」
「えー! なんで? 俺のなのにっ」
 やっぱり怒ってる?
 つい、笑いそうになってしまう。
「笑いごとじゃないよ、拓巳っ」
 あぁ、俺、軽く笑ってた?
「もー! 人が貸した物を勝手にあげちゃうなんて…っ。無くしたって言われた方がまだよかったよ」
「悪ぃ。陸が寒そうにしてたから」

 そう言うと、いままで怒っていたのが嘘のようにコロっと笑顔を見せる。
「なんだ、陸だったの。ありがと」
「ありがと、ってなに?」  

「いや、ほっといたら風邪引いてたかもしんないし。あげてくれてよかった」
 あぁ。
 そういうことか。
「陸、すっげぇマフラー喜んでた」
「ホント? 明日、してきてくれるかな」
「どうだろう? …なぁ…あげてもよかった?」
「いいよ。陸なら」  

 なんだかんだで、こいつも絶対、陸のこと好きなんだろうなぁ。