一拓巳



「拓耶―」
「ぁあ? 違ぇし」
「あ…悪ぃ。拓巳か。いつも、拓耶がしてるマフラーしてっから…」

 双子の兄、拓耶と間違えられることはしょっちゅうある。
 今日は特に。
 兄貴が休みで、俺が兄貴のマフラーを借りてきたからか。
 俺と違って兄貴が休むなんて、まれだし。

「おはよ。拓耶より拓巳が先に学校来るの、珍しいね」
 クラスメートの陸だ。
 拓耶といつもつるんでて、俺ともそれなりに仲がいい。

「…いまの聞いてたんだ?」
「え、今のってなに?」
「さっき、拓耶と間違えられたから」
「そうだったの? 聞いてなかったけど」
 そういえば、こいつには間違えられたことがない。
 いまだって。
 どっちかまったく迷うことなく、完全に俺が拓巳だってわかった上で、話しかけてるんだろうし。
「…なぁ、陸。お前ってさ。俺と拓耶、どっちか迷わねぇの?」
「なに、迷うって。そりゃ似てるけど。雰囲気とか、全然違うし」
 そういうもん?
 周りのやつらもよく間違えてるし。
 見た感じ、結構なレベルで似てると思うんだけど。

「みんな間違えるぜ?」
「俺は間違えないよ」
 
 なんで。
 
 ……あー…陸って、もしかして兄貴のこと…好きとか。
 すっげ、仲良さそうだもんな。
 そういうことか。
 
「今日さ。拓耶のやつ、休みなんだ。珍しいだろ」
「風邪?」
「そう。拓耶のマフラー無理矢理まかれたし」
「あはは。そのマフラーしてるとちょっと拓耶っぽいね」
 ちょっと…か。
 俺はマフラーを外して、陸の首にかけた。
「…拓巳?」
「やるよ、それ。今日、寒いし」
「拓巳だって…っ寒いじゃん」
「俺は平気なんだよ」
「…俺が、拓耶っぽいって言ったから?」
「違ぇよ。間違えられるのはイヤだけど、別に拓耶と似てるって言われるのは、イヤじゃねぇし」
 よかった…というように、陸も頷いてくれていた。
「でも、これ、拓耶のだろ? 勝手に俺にくれるとか…っ」
「いいよ。あいつはそういうの気にしないタイプだし」
「拓巳のならまだしも…」
「…拓耶のだから、陸にやるんだよ。あぁ、別に俺だって自分のモンあげたくなくて兄貴のモンあげるってわけじゃねぇけど。 陸、欲しいかなーと思って」
 陸は、わかりやすく少し頬を赤らめた。
 俺に悟られたってのがわかったんだろう。

「…いいの…かな」
「いいよ。どうせ陸、拓耶に頂戴とかは言わないだろ」
「うん…。拓巳、ありがとう」

 陸は大事そうにマフラーを握り締めていた。