一拓耶



「ちょっと出かけてくる」
「いまから? 寒ぃし、風邪引くんじゃね?」
「大丈夫だよ。学校に忘れもん、ちょっと取って来るだけだから」

 フロあがり。
 今日、陸から借りた漫画をさっそく読もうとしたとき、カバンに入っていないことに気がついた。
 あーあ。
 俺って、気づくの遅すぎじゃん。
 教室の机の中だな、たぶん。

 まぁ、陸も急ぎで返せって言ってるわじゃないし、いいんだけど。
 陸が勧めてくれた漫画を、忘れてくるってさ。どうなのそれ。
 明日、陸に『読んだ?』なんて聞かれたときに、忘れて読んでないとか、寂しいだろうし。
 陸は、俺のことわかってくれるから、そう責めることはしないだろうけれど。
 俺自身、陸のオススメを見てみたいってのもあった。

 

 夜風が気持ちよく感じたのは、少しの間だけ。
 ほら。
 フロあがりってやっぱ、体熱いから、つい薄着しちゃうわけでさ。
 そのまま出てきたんだけど。
 体が一旦冷えてくると、ちょっと厳しいかも。

 風邪、ひきそう。
 職員室に残っていた先生に頼んで校舎に入らせてもらい、漫画を手にすることが出来た。  
 

 
「馬鹿じゃん、お前」
 体調が悪くなり寝込む俺を、拓巳が見下ろして言う。
「だってさ。陸から借りた漫画…」
「漫画のために、わざわざ出てったのかよ」
「うん」
「まぁ…いいけど」
「拓巳、風邪引くなよ。これ、マフラーしてけって」
「俺は、自己管理くらい出来るんだよ」
 そう言いつつも、マフラーを俺に巻かれてくれる。

「あーあ。陸と漫画の話したかったー」
「明日にしろ。とりあえず寝てろよ」
「はいはい」

 風邪、移しちゃやばいしね。
 しょうがない。
 今日は一日、寝て過ごそうか。