一拓巳



「陸! 帰りに深月と新しく出来たパフェ屋行くんだけど、一緒に行かない?」
「あ……俺…っ」  

 陸は拓耶に誘われて、複雑な表情を浮かべていた。
 そりゃそうだ。

 深月とって。
 行きにくいだろ。
「…2人の邪魔しちゃ悪いし」
「構わないのに。俺は深月と付き合うことで、陸との時間、減らすつもりないから」
「…ありがと。でも、今日はちょっとやめておこうかな。お金持ってきてないし。ちょっと体調悪くて。早めに帰って休むよ」
「大丈夫? 家まで送るよ」
「大丈夫。ちょっと疲れただけだから。行ってきて」

 拓耶は頷いて、自分の席へと戻ろうとする。
 急に振り返るもんだから、後ろに立っていた俺とぶつかりそうになった。

「あれ、拓巳、いたんだ?」
「いたよ」
「聞いてた? パフェ屋行くんだけど…」
「パス」
「もー…」
 2人の邪魔しちゃ悪いって理由で陸が断ってるのに?
 俺が行くんなら、陸も断り損だろ。



 放課後。
 拓耶と深月が、俺らに別れを告げ、教室を出て行く。

 陸も、帰る準備をしていた。
 つい、陸の頭に手を乗せる。
「っ! …拓巳?」
「いや…なんでもねぇんだけど。たまには一緒に帰ろうかと」
「…方向違うよ」
「陸んちの方に、用事あっから」
「……そうなんだ…」
 
 陸はうつむいたまま、俺に顔を見せずに、それでも頷いてくれた。



「今度、パフェ屋、行くか」
「…うん」
「悪ぃな。あいつ、ちょっと空気読めねぇとこあっから」
 俺が謝ることでもない気がするけれど。

「ありがとう。……実際、拓耶が誘ってくれて、嬉しかったんだ。恋人が出来ても、ちゃんと俺のこと、忘れないでいてくれて。けど……あの2人と一緒に遊ぶのは、やっぱりキツいかな…」
「あいつは、陸のこと、大切に想ってるよ」
「…ありがとう。俺も、拓耶が大切だから。拓耶の邪魔、したくないんだ」
 
 泣き出してしまいそうな陸の声を聞いて、苦しくなった。
 健気で一途で。
 
「強いな、陸は」
「弱いよ。拓巳がいなきゃ、とっくに壊れてた」  

 きっと、見守ることしか出来ないんだろうけれど。
「なにか思うことがあんなら、俺に言ってくれれば聞くから」
 ポンっと頭を叩くと、陸はその手を取って、ギュっと握り締めてきた。
「ありがとう」
 
 たぶん、それは友達同士では普通しない行為。
 俺を拓耶と重ね合わせてるんだろう。
 
 俺らは2人、手を繋いだまま陸の家まで歩いた。  

「ありがと、拓巳」
 照れくさそうに陸は笑う。
 頷いて、俺はまた来た道を戻り、自分の家へと向かった。