■昼休み■
宮原(樋口智巳の高校時代の先輩。恋人と同棲中)
片山(教師。3年学年主任。恋人→城崎先生)
樋口智巳(教師。1年数学担当)

宮原「すみません。忘れ物を届けに来たのですが……」
片山「よければ預かります。もしくは呼び出しましょうか。昼休みなのですぐ対応できますよ」
宮原「そうですね。直接渡したいので、呼び出しとかしてもらった方がありがたいです」
片山「わかりました。それでは、クラスとお名前を」
宮原「何組だったかな。1年担当だったと思うんですけど、樋口智巳っていう……」
片山「あ……教師ですか」
宮原「はい」
片山「それでしたらすぐ……いや、職員室にはいないみたいですね。ちょっと待ってください。スマホに連絡してみます」
宮原「そのスマホを届けに来たので、出ないかと」
片山「そうでしたか……では、少々お待ちを」
宮原「その前に少しいいですか?」
片山「はい……?」
宮原「あなたに似た男優を知っているのですが、もしかしてご兄弟ですか?」
片山「え……」
宮原「あ、そっち側の人間なんで知ってるだけです」
片山「そっち側……ですか」
宮原「小道具や場所を提供してるんです。ときどき現場にも入るので。まあ裏方ですけど。本人から、自分に似た弟がいることもちらっと聞いてたんですよね。仕事の話もしてるって」
片山「そうでしたか。顔はあまり出していないはずですが、それなら知っていても不思議じゃないですね」
宮原「男前ですし、隠さなくてもいいんじゃないかって話になったこともあるんですけど、まあ……これだけ似てると、教師がそういう動画に出てたとか、変な勘違いされても困りますもんね」
片山「兄の足を引っ張ってしまって申し訳ないのですが」
宮原「それに関しては、大丈夫じゃないですか。本人もとくに注目されたいとか、顔出ししたいと思ってるわけじゃないみたいですし。サングラス越しでも充分、いい男だって伝わってきます。あと、体もいいので、人気あるみたいですよ」
片山「なんだか恥ずかしいですけど……よかったです」


樋口「……なにしてるんですか」
片山「あ、樋口先生。いま呼び出そうとしていたところだったんです」
宮原「俺の気配でも感じた?」
樋口「なんかかっこいい部外者がいるって生徒が騒いでたんで見に来ただけです」
宮原「光栄だね」
樋口「片山先生、変なこと吹き込まれませんでした?」
片山「いえ……」
樋口「なに話してたんですか」
宮原「智巳には教えない」
樋口「そうですか」
片山「……意外ですね。樋口先生のことだから、もっと探ってくるかと」
宮原「興味ないフリしたいんだよね?」
樋口「本当に興味ないだけです」
宮原「嘘つき」
樋口「……なにしに来たんですか?」
宮原「智巳に会いに。引き合わせくださってありがとうございます」
片山「いえ、それでは私はこのへんで……」


樋口「マジで、なにしに来たんですか」
宮原「忘れもの。ほら、スマホ」
樋口「それ、ゲーム用です」
宮原「だとしても必要でしょ」
樋口「必要ですけど、職場までわざわざ持ってこなくても」
宮原「困るんだよね。こういうのうちに置いてかれると」
樋口「……知り合いのだって言えばいいじゃないですか」
宮原「んー……また俺んち来る口実欲しかった?」
樋口「そんなつもりで置いてったわけじゃないです」
宮原「そう? まあいいけど。ところであの先生、かなり理解あるでしょ」
樋口「どういう意味ですか?」
宮原「一見堅そうだけど……頭、柔らかい感じ」
樋口「まあ、生徒とやりまくってた淫乱教師を前にしても、ひかない程度の理解はあるかと」
宮原「だろうね」
樋口「どうしてですか?」
宮原「さあ? 自分で確かめてみたら?」
樋口「……むかつくんで、もう帰ってください」
宮原「はいはい。またいつでも遊びにおいで?」



智巳「…………」
片山「樋口先生? どうしたんですか?」
智巳「片山先生、すごく理解あるみたいじゃないですか」
片山「なんのことですか?」
智巳「ちょっといろいろ聞いちゃいまして」
片山「もしかして……あの、別に隠しているわけではないですけど。生徒には言わないでください」
智巳「……どうしよう」
片山「言わない方がいいってわかりますよね?」
智巳「俺のエロ話とか、城崎先生の淫乱具合にひかなかったのも……」
片山「まあ兄がああだと、多少耐性は……」
智巳「…………兄」
片山「…………樋口先生、もしかして本当はなにも聞いてなかったりします?」
智巳「かなり理解ある人でしょ、とだけ」
片山「なるほど……騙されるとこでした」
智巳「どうして最後まで騙されてくれないんですか。兄がああって、なんですか?」
片山「…………」
智巳「俺も理解ある方かと」
片山「でしょうね。あの人と友人なら、いずれ知るかもしれませんし……」
智巳「教えてくれないと、変な想像しそうです。実は兄が犯罪者とか」
片山「やめてください。その……男優ってだけです」
智巳「男優? それとエロに理解あるのとどう……」
片山「……そういう男優だからです」
樋口「ああ……え、マジですか」
片山「誰かに話したりしないでくださいね」
樋口「柊と桐生には話したいです。渡部先生とか喜ぶかと」
片山「ああもう……城崎先生には言わないでください。言うときは俺から言いますので」
樋口「片山先生が兄のことを教えてくれたので、俺も弟のこと教えます。さっきの人が住んでるとこ近辺仕切ってたチームの元総長で、いまも結構、幅きかせてます」
片山「え……そうだったんですか」
樋口「喧嘩が強いだけで、本当にやばいことはしてないっつーか、させてませんけど。もしかして、ひいてます?」
片山「いえ……少し驚きましたが、樋口先生がいろんな生徒にすごく理解があることに納得がいきました」
樋口「この学校の不良なんて、かわいいもんです」