桐生



 雪之が職員室に来るなんて珍しいな。
 そろそろ俺の方からも行きますか。

「須藤さん。ちょっとお願いがあるんすけど」
 寮の玄関を入ってすぐの管理人室へと入り込む。
「須藤さーん、出てきてくださいって」
「……なんですか」

 しょうがなくなのか、繋がっている隣の部屋から管理人の須藤さんが顔を出す。
「俺、寝てるんで」
「起きたでしょう」
「…………で。なんですか。お願いって」
 あいかわらずだな、この人。

「4年3組の工藤雪之丞の部屋、教えて欲しいんですけど」
「そういうのは駄目です」
 すぐさま、隣の部屋へ戻ろうとする須藤さんの服を引っ張ってなんとか止める。
「そう硬いこと言わずに」
「なんでですか。本人に直接聞けばいいでしょう」
「聞けるような関係じゃないんだよ」
「工藤雪之丞の友達に聞くとか」
「バレたくないんで。須藤さんも俺が工藤の部屋探してたって他言しないでくださいね」
「じゃあ初めから聞かないでくださいよ」
 
 この人、結構、難しいんだよな。
「須藤さん、俺も別にタダで教えてもらおうなんて思ってないですよ」
「……見合う物じゃなきゃ教えませんよ」
 見合う物ね。

 俺は自分の携帯を取り出し、データフォルダを開く。
「真乃凍也の寝起き画像でどうですか」
 いきなり振り返った須藤さんに携帯を奪われそうになり、慌てて手をあげる。
「桐生さん、なんでそんな画像持ってるんですか」
 須藤さんと取引するためですけど。
 わざわざ保健室で寝てる凍也、起こしたっての。
「さあ? 凍也の寝起きに居合わせたんで」
「ちょっと、俺の凍也になにしてるんですか」
「あなたのじゃないでしょう」

 須藤さんは少しだけ、考え込んでからスっと立ち上がりパソコンに向かう。
「工藤の部屋、ここです」
 そう画面を指差し教えてくれる。
「ありがとうございます。じゃあ、送りますね」
 携帯を差し出し赤外線で画像を送る。
「黒目の凍也とか、かなり貴重です」
 そうか。普段はあいつカラコンだもんな。
 須藤さんは送られた画像を見てか、やたら上機嫌な様子。
 素直な人だな。
「……俺、もう行くんで」
「ありがとうございますー」

 悪いな、凍也……。
 今度必ず、わびいれるから。