観月真綾



「見て見て。彼氏とおそろいなんだ♪」
俺に手の指輪を見せ自慢気に話す友人。
少しだけうらやましく思った。

そういう形のあるペアの物って、俺と悠貴は持っていないから。
「いいね、それ」
「真綾もお揃いで買いなよ」
「…買おうかな」

そんな話をした日の夕方。
いつもみたいに悠貴の部屋を訪ねる。
指輪が欲しい…なんて。
おかしいかな。

考え事をしたまま、抱かれて。
悠貴の手で髪を梳かされる。

「真綾、なにか考えてる?」
あ、やっぱりバレちゃうか。
「うーん…」

ペアリングが欲しいなって。
言ってしまおうと思った。

悠貴の手を取り、お互いの手の平を重ねてみる。
「…おっきいね、悠貴の手…」
「そう?」
あ、大きい方がピアノ弾くのに便利…かな。
よく拡がるわけだし。

指輪って、邪魔になる?
まぁ、そんな頻繁にピアノ弾く人ってわけでもないし大丈夫なんだろうけど。

…綺麗だな。
悠貴の手。
おっきいけれど、すごく指長いから、細く見えるし。
こんな綺麗な手で、あんな力強い演奏、出来るんだ……。

そう思ったとき、嫌な感覚が体を過ぎった。

『あいつ、すっげぇきれいな手、してんだぜ? あの手で…想像つかないような力強い演奏すんだよ』
智巳先生の言葉を思い出したせい。

あーあ。
智巳先生、悠貴の手までちゃんと見てたんだ?

俺は今見てやっと、そういえば智巳先生も言ってたなって思い出すレベル。
悠貴のこと、まだまだ見れてない。

……悔しいな。
あの人にはかなわない……なんて思いたくないから。
俺は俺だけの悠貴を知る。

そう決意し、悠貴の体を抱きしめた。
「真綾?」
「うん……ごめん、なんでもない」

指輪はまだ、おあずけだね。