梅雨。
うっとおしい雨が余計に俺の気持ちを暗くさせた。
百合音と離れると決めたのは3日ほど前のこと。
2日会わないくらい、いままでだってもちろんあっただろう。
それでも気になってしまうのは、やっぱり『これからしばらく離れる』ということの始まりだからか。
「やっべ、傘忘れたし。あーあ」
朝は晴れていたせいか、そうぼやくクラスメートの玲衣につい、いつもの癖で傘を差し出す。
「使っていいよ」
「マジで? あ、そっか。誠樹、百合音来るもんな。じゃあ遠慮なく借りてくぜ」
そう。
いつもなら急な雨が降れば百合音が俺のところへ傘を持って来てくれた。
しばらく距離を置くことにしたなどと、人には話していない。
……百合音、来ないんだったな。
やっぱり貸せないとも言えず、とりあえず玲衣を見送る。
しまったな……。
俺から行けば、教室にまだいるかもしれない。
傘を借りるくらいなら……。
けど、離れてまだそんな経ってないのに、こんなすぐ会うってのも。
まだたった2日。
これに慣れて、平気になってしまうのかもしれないし。
判断するには早過ぎる。
もう少し離れているべきなのかもしれない。
……というか、本当に百合音、来ないのかな。
離れるとは言っても、傘くらいなんてことないから、持って来るんじゃ。
そう思うと、少しだけ教室で待ってしまう。
5分。
10分。
ものすごく長く感じた。
百合音が来る様子はない。
やっぱり、離れるって言った手前、来ないか。
当然なのに、苦しくなってくる。
クラスが違うから、HRが長引いているのかもしれない。
百合音に会うかは、まだ決めていないがとりあえず、そっと百合音のクラスを覗き見た。
数名の生徒は残っていたが、百合音の姿は見当たらなくて。
ほっとするのと同時になんとなく泣きたくなった。
一度、離れるって決めたら、百合音にとっての俺は、ものすごく小さい存在になってしまったんじゃないかって。
迷ったりしなかったのかな。
俺に、傘渡そうかどうか。
迷って。
教室に残るくらいすればいいのに。
いつも、いちいちわざわざ傘を持ってくる百合音のことをうっとおしく思ってた。
そんな風に思ってしまっていた自分も嫌になる。
今は、すごく求めてるのに。
しょうがない。
少しだけ濡れて帰ろう。
大した距離じゃないし。
ああ、ホントに気分が沈む。
けれど、下駄箱の中に、見覚えの無い折り畳み傘が入っていた。
俺のじゃない。
わからないけれど、こんなことするやつ、百合音だけだろう。
例えば玲衣が、彼氏に傘を貸してもらったんだとしても、俺の下駄箱に入れるのならば俺の傘の方だろうし。
名前なんてのももちろん書かれていない。
……しばらく離れるって約束したから?
離れるってのは、会わなければいいって話じゃないと思う。
たぶん、百合音もそれはわかってるんだよね。
だから、こうやって、傘も、誰が置いたからわからない状態にしたんだろう。
いままではいやだったけど。
いますごくありがたいなって思えるし。
傘があることにじゃなく、こんだけ考えてくれてるってことに。
百合音からの傘だって気付かないフリした方がいいのかもしれないけれど、やっぱりお礼くらいは言わせて欲しくなった。
というか。
まだ、期間はそんなに経ってないけれど、俺の気持ちは定まってきているような、そんな気がした。
百合音のこと、恋愛対象として、意識しているかもしれない。
とりあえず、その傘を使い寮まで戻る。
部屋には、すでにルームメイトの先輩がいた。
そうだ。
俺、先輩に百合音のこと紹介して欲しいって言われてたんだった。
正確には、先輩の友達みたいなんだけど。
あれ以来、なにも伝えていない。
聞かれることもなかったが、ただ先輩が催促しにくいだけなのかもしれないな。
「あの、先輩。百合音のことなんですけど」
「ああ。恋人募集中な感じだった?」
「……すいません、やっぱり、募集してないっていうか」
つい視線を知らしてしまう。
ああ。俺ってなんてわかりやすい態度取ってんだ。
「誠樹が気にすることないって。俺の友達だって百合音くんのことよく知らずに気に入ってただけだろうし。……やっぱ、誠樹のこと好きなんだ?」
もはやごまかす余地もなさそうなので、頷いておいた。
「誠樹は? 好きなの?」
「……好きって、なんなのかよくわからなくて。百合音が俺のこと好いてくれてんのはよくわかるんだけど、俺はそれだけの気持ちに応えられるのかどうかもわかんないし。なんか、傍にいるのが当たり前すぎたりして。うっとおしいって思ってたりもしたんです。今、あえて少し離れて、気持ち確認しようってことになってて」
「離れるって、それは意図的に?」
「はい、二人で決めました」
俺だけがこっそり離れたところで、百合音のやつ、絶対来るだろうしな。
そう、二人で決めたんだ。
「……誠樹、答え出そうなんだ?」
答え。
自分の気持ち。
「たぶん……」
百合音のことが好き。
「けど、俺、百合音が思ってくれてるほどに、思えないかもしれない」
「それはそれでいいんじゃないかな。元々、好きの大きさなんて測れないって」
俺は百合音のためになにが出来ているのだろう。
「誠樹、今この部屋入ってきたとき、すっげぇ暗かったよ。それって、百合音くんと離れたからなんだろ」
結局そうなんだ。
毎日傍にいた百合音が、いまはいない。
うっとおしかったのに、ものすごく不安にかられる。
このまま本当に、離れた状態に慣れてしまったら?
いや、俺が慣れるよりも先に百合音が慣れてしまうかもしれない。
俺が傍にいないのが当たり前の生活を平然と百合音がするなんて、考えられない。
考えたくなかった。
「俺、すっげぇわがままなんですけど。自分が好きかどうかもわかってないのに、百合音には俺のこと好きでいて欲しいって今、思ってるんです」
「みんなそうじゃないかな」
「いままで俺が、あいつに会う理由って……会いたいとかじゃなくて、目的が違ったから」
こないだAVを見てる先輩に居合わせたとき、少し濁して避けたこと。
この人になら言っても大丈夫だと思った。
「俺、結構、百合音に抜いてもらってるんです」
本当は結構もなにも毎回だけれど。
「……そうなんだ? あ、でもいるよね、友達同士でそういうの」
「俺は、百合音のしないんですけど。俺だけ、してもらったりしてて。だから、会いたいっていうより、抜きたかっただけで利用してたのかもしれない」
「ね。それってすごくない? 百合音くんは、抜くわけじゃないのに誠樹のしてくれるんだ? しかも、誠樹からじゃなくって、百合音くんから来ることの方が多いよね。それだけ、好かれてるんじゃん」
それをうっとおしいと思ってた。
けれど当たり前だと思ってた。
本当に、ありがたいこだったんだと実感する。
「……俺は、百合音になにもしてやれてないんです」
「……そう思い悩むってことは、やっぱり誠樹も好きなんじゃないかな」
百合音のこと。
好き……か。
例えば、他の誰かと付き合うようなことがあったとして。
たぶん、あいつって俺が幸せならいいよとか言ってくれちゃうかもしれない。
それでも、俺は心苦しい気持ちになるだろう。
百合音のこと傷つけたんじゃないかとか、申し訳ないような気持ちに。
もう、離れられなくなってんのかな。
その日、夢を見た。
具体的には覚えていないけれど、百合音が出てきて。
いつもみたいに、抜いてくれて。
案の定、夢精してしまう。
最悪だ。
出す前に起きろっての。
しかもやっぱ、そういうことすんのって百合音と……ってイメージになっちゃってるよな、俺。
一人で抜く練習も出来てない。
それにしても、これで丸3日会っていないことになる。
次の日を迎えても。
またその次の日を迎えても。
慣れることなどなかった。
むしろ不安が募っていく。
百合音は、どうしてるんだろうって。
慣れちゃってないかな。
苦しくて。
百合音のことを考える。
百合音と過ごす時間で、印象に残っていることってのはやっぱり抜いてもらったときのことで。
そう思うと、体が少し熱くなる。
こないだ、寝てるときに出しちゃって以来だし。
出来るかも。
お風呂場で、自分のをゆっくりと擦り上げた。
百合音がしてたみたいに。
こういうことの基準は百合音しかない。
百合音より、うまく動かせない自分の手。
嫌になるけど、頭の中で百合音にされていることを考えると気持ちよくなってきていた。
「んっ……ぅんっ! はぁっ」
いつもは擦りあげるだけで。
たまに、舌先で亀頭を舐めてくれる。
あれが本当に気持ちよくて。
そう思い、空いた手で亀頭を撫でると先走りの液でぬるっとした。
「はぁっ! ぁっ」
……焦らされてるみたい。
百合音の舌で、舐めてくれたらって思ってしまう。
『誠樹は本当に、ぬるぬるしたのが好きなんだね』
そう言った百合音の言葉が頭の中に浮かんだ。
視界に入ったシャンプーを手に取り、自分のモノに絡めると、ぬるぬるとした感触になる。
上手く擦れなくなったけど、それは元々だし。
少し強めに掴んで、擦ると腰も揺れてきて、くちゃくちゃといやらしい音まで響いた。
「はぁっ……んぅっ! ……もっとっ」
足りない。
百合音のしてくれたこと、思い出して。
ものすごくいやらしい気分なのに。
後ろに、入れたらもっと気持ちよくなれるだろうか。
百合音がしてくれたとき、すごく気持ちよかったから。
もう片方の手にもシャンプーを絡め、濡れた指先をゆっくりと中に押し込んでいく。
「ぁあっ……んっ!」
もう泣きたい。
ぐっと押さえると、ものすごく感じる場所があって、それを押さえながら何度もまた前を擦りあげる。
「ぁああっ……んっ! んぅっ!」
最悪だ。
自分で、指入れて、擦りながら腰も揺らして。
恥ずかしい。
誰も見てないけど、こんな一人Hの仕方、絶対間違ってる。
けれど、止められない。
もうちょっとで、イけそう。
腰を揺らすと中の指が動いて、押さえっぱなしだった感じる場所を強く弱く突いてくれる。
その変化がまた気持ちよくて、腰が止まらなくて、ガクガクと震えた。
「はぁっあっっ……あっ……ぁっあぁあああっっ!!!」
声を殺すとか、そういうことは考えていられなかった。
ただ、イかなきゃって。
百合音が亀頭撫でてくれたらもっと気持ちよかっただろうに、なんてことが浮かんだ。
……一応、一人でイけたけど。
じゃあ、百合音はもう用無しだなんて、もちろん思えなかった。
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