『ぁあっ…あっんっ…』
「…………ただいま」
ドアを開けたとたんに聞こえた喘ぎ声。
一瞬焦ったが、AVだった。
ルームメイトの先輩が、見ているようで。
……って、やっぱり焦るべきか?
俺って邪魔だよな。
「おかえりー」
出て行こうとしたタイミングで逆にそう声をかけられ出て行き損ねる。
「あー、すいません。俺、出て行こうかなって」
「いや、いいよ。抜けそうにないし」
やたら真剣に見てるかと思いきや。
「……じゃ、なんで見てるんすか」
「んー。元々は抜く気だったからさ。でもなんかいまいちっていうか。中途半端にムラムラするけど、抜けるほどではないかも」
わかりにくいな。
「俺、あんまAV見たことないんですよねー」
あんま……っていうか無いか?
「そうなんだ。じゃあ見とけって」
「なんでですか」
「人生の経験だよ」
そう腕を引っ張られ、座らされてしまう。
……やっぱりエロいよな。
ちょっとムラムラしてくるし。
「……ちょ、俺やばいんで、やっぱ……」
「やばいって? 勃っちゃった?」
先輩の手が、なんでもないみたいに俺の股間に触れてくる。
「っ……」
「んー。別にここで抜いてもいいけど? 俺、そういうのあんまり気にしねぇし。あ、俺が抜いてやろうか? 手コキくらいなら全然余裕」
「っ……それはちょっと」
「じゃ、トイレででも1人で抜くか。ボリューム上げようか?」
……1人で。
たぶん、無理だ。
あぁ、くそう。
AVなんて見るんじゃなかった。
中途半端にムラムラしやがる。
先輩もそうだっけか?
いや、先輩はただAV見慣れてるからだろ。
俺は、1人で抜けないから。
……でも、AVあるし今なら出来るか?
そもそも、俺は手を動かすのが下手だろ。
だったら、先輩に手伝ってもらうってのもありか。
先輩だって、別にいいって言ってくれてるし。
一瞬だけ百合音のことが頭を過ぎる。
「……手で抜いてもらうくらいなら、友達同士でも全然しますよね?」
「するだろ。なに、気になる? っつーか誠樹、彼氏いないし別によくない?」
そうだ。
百合音は彼氏じゃない。
……たぶん。
それに手で抜くくらいなら。
「……じゃあ」
迷いながらも答えかけると、先輩の手がズボンの上からだが少し強めに俺のを掴む。
「っん……っ」
「んー。出しちゃっていい?」
「っん……」
あれ、してもらうってことは、俺も先輩のした方がいいのか。
あ、駄目だ、俺下手だからやるにやれない。
「やっぱ、やめときます……」
「え、やめとくの? 別に抜いてやるのに」
「俺、先輩の手でやれる自信ないですし……」
「別に俺は気にしなくていいのに。誠樹はホントいい子だな。それにAV見てぬるいなとは思ったけど、さすがに人の手で抜かれたらイけると思うよ」
そうは言ってもね。
俺は本当にうまく手が動かせないんすよ。
「俺、下手なんで」
「そんな差あるのかな」
自分でやってて一人でイけないレベルだとは言いがたいな。
「っちょっと、出てきます」
「なに、怒った?」
「そうじゃないですけどっ……。ちょっと理由は言いがたいんで」
「……あ、聞かない方がいい系?」
包茎とか思われてもやだな。
このままじゃなんだか。
「……今度理由言いますんで、変な誤解はしないでください」
「わかった」
とりあえず納得してくれたのか、俺を見送ってくれる。
ああ。
どうしようかな。
って、頼るのは百合音に決まってんだけど。
外歩いてたら落ち着くかな。
でも、さっき先輩にちょっと握られちゃったし。
すげぇ、抜きたい。
こんなのいままであったっけ?
定期的に百合音が来るからなかったよな。
AV見ることもなかったし。
エロ本は……百合音と一緒に見たことはあったっけ。
って、考えれば考えるほど落ち着かないし。
どうしような。
ああ、今日こそ1人で挑戦してみるチャンスか?
部屋には戻りがたいしな。
寮のトイレに入り込む。
入り込んだはいいけど。
なにもおかずが無いわけだし。
うまく想像する物っつってもさっきチラっと見たAVとか?
少ししか見てないし。
手で抜くのって難しい。
自分の手で擦りあげてはみるものの、やっぱり余計に中途半端になっただけ。
……とりあえず今回は百合音に頼るか。
また今度、1人で抜く練習はするとして。
「百合音……? あのさ、今からちょっと時間ある?」
『いいよ。部屋行こうか?』
「いや、俺が行く」
電話で少しだけ話して、百合音の部屋へ。
百合音の部屋を訪ねるとルームメイトの先輩がいたが、俺に気を使ってか出て行ってくれた。
ああ、先輩がいたから百合音の方から来ようとしてくれたのか。
「どうしたの、誠樹」
どうしたって言われてもな。
前みたいに気付いてはくれないか。
いや、こいつのことだから俺の下半身具合把握して、まだ大丈夫って思い込んでるのかもしれない。
そうだ。
昨日、したばっかだ。
それなのに俺、またって。
百合音に溜まるの早いとか思われそうで、急に恥ずかしくなった。
「っ……やっぱいい」
ドア付近で立ったままの俺の正面に立って、心配そうに俺の顔を覗き込んでくれる。
「……誠樹?」
あ、なにか気付かれた?
助かったような、それはそれで恥ずかしいような。
頬をそっと撫でられる。
その手つきがなんだかやらしく感じてしまってゾクっとした。
百合音の親指が俺の唇をそっと撫でて、俺は百合音の視線から逃れるよう俯いた。
「……誠樹。息荒いね。どうしたの?」
俺に体を寄せて、俺の耳元でそう聞いてくる。
わかってる?
「っ……百合……音……っ」
早く『ああ、抜こうか』って言ってくれりゃいいのに。
「なに?」
体をさらに寄せられ、少し後ずさるとドアに背中がぶつかった。
と同時くらいに、百合音の足が俺の股間に軽く触れてしまい、つい擦りつけるみたく腰が動いた。
「んっ……!」
うわ、俺最低だ。
そうは思うけれど気持ちいい。
気付いてなのか、百合音の片足が、俺の足の間に割り込んでくる。
少し腰を動かすと擦れて、気持ちよくてたまらなかった。
「はぁっ……んっんっ……」
なんか、腰止まんない。
けど、もどかしくてたまらない。
早く。
「百合音……っ……してっ……」
「どうして?」
「え……」
予想外の言葉に一瞬体が固まる。
てっきり『こないだ足りなかったの? ごめん』なんつってしてくれるんじゃって思ってた。
見上げると、少し不機嫌そうな百合音の表情。
なんで。
「さっきやっぱいいって言ってたけど。またやっぱりしたくなったの?」
「わかってんなら……っ」
「そう、したいんだ……」
百合音は、俺のをズボンの上から確認するよう掴みかかる。
「んっ……ぅんっ!」
「どうして……? コレ、こんなになってんの?」
完全に勃起しちゃったソレを百合音は軽く揉んでくれるけれど、そんなんじゃなくって早く直接抜けよって思った。
「そんなエッチな顔でにらんでも駄目だよ。答えて」
「なっに……っ」
「だから、どうしてこんな状態なの?」
どうしてって言われても……。
「……っ1人で抜こうとして、無理っぽかったから、こうやってお前んとこ来て……っ」
「で。して欲しいの?」
して欲しい?
なんだよ、いつも勝手にしてくるくせに。
別にお前にして欲しくて毎回頼んでるわけじゃない。
「……百合音……いつもと違う」
「……そうだね」
そう答えた百合音に引っ張られ、ベッドに乗せられる。
なんかしゃくだけど、このまま抜いてくれるならまあいっかって、そう思った。
百合音が俺のズボンと下着を全部引き抜いていく。
「……脱がなくても……」
「こんなベトベトなのに?」
あ。すっげぇ先走りの液出てる。
服汚れるか。
やっと百合音が俺のを直接掴んで擦りあげてくれる。
俺は、求めるみたいに足を開いてしまっていた。
「んっ……ぅんっ……っふぅ……っ」
「ねぇ、誠樹。1人で抜く必要ないってこないだ言ったよね。どうしてしようと思ったの?」
あ、だから怒ってんのか、こいつ。
「ぁっ、部屋で……先輩が、AV見ててっ」
「……触発されたの?」
「んっ……ぅんっ」
「じゃ、先輩にされたりしなかった?」
「少し触られたけど……っ。やめようと思って、1人でっ」
「うん。状況はなんとなくわかった」
そう言うと、いままで擦りあげていた手を止め、指先で焦らすよう俺のをなぞる。
「っぁ……なに……」
「誠樹のこと、俺、甘やかしすぎちゃってたかな」
にっこり笑う笑顔はいつもと変わらないけれど、なんせこいつは異常だ。
笑顔で傘を折る人間だからな。
なに考えてるかよくわからない。
「先輩に触らせて、感じたの?」
「……違ぇよ。ちょっと……服の上から触られただけでっ」
「でも、AVと先輩とで、勃起しちゃったんでしょ」
それはそうだけど。
指先じゃなく今度は爪で竿をなぞられると、体がゾクゾクした。
「んーっ……ぅんっ」
焦らされて、腰が揺れる。
「っ百合……音っ」
たまらず自分の手で自分のを掴み擦りあげた。
だって、百合音がしてくれないのならしょうがない。
「ん。1人でやる練習するの?」
「っ……んっ!」
先走りの液のせいで、クチャクチャとした音が聞こえた。
やらしい、なんて思ってしまう。
けれど何度も擦りあげてみるけれど、焦らされるだけ。
イけそうにない。
涙が溢れてくる。
「百合音っ……っ……して……っっ」
「練習しないの?」
「っもぉっ……ぃきたっ」
やっとまた、百合音は俺の手をどかすようにして掴むと、ゆるゆると擦りあげてくれる。
少しじれったい感じもするが自分よりは充分気持ちがいい。
「誠樹は、1人じゃイけないんだから……。1人でしたいならしたいで俺のところにこればいいんだよ」
「んっ……ん!」
「昨日抜いたのに、AVなんか見て。駄目だよ。ちゃんと誠樹が溜めないよう考えてるのに」
「はぁっ……百合音ぇっ……」
「……じれったい?」
あ、わざとだよな、やっぱ。
「溜まってれば、誠樹はいつもこれくらいでイっちゃうんだよ。溜まってないのに俺に内緒で、1人Hしようとした罰」
罰?
「っやっだ……っ」
「好きだからこそ、間違ったことをしちゃったときには叱れないといけないよね。なんでも許してたら、誠樹のためにならないし」
「ぁっあっ……んっっ」
「……手だけなのに、エッチな声出てるよ」
いつもみたく、刺激されて声を殺しながらイクってのとはわけが違う。
こんなにも焦らされて、声を殺すとかそんな余裕無くなってきていた。
「もっ……やぁっ……っあっ」
腰を動かしても、うまく流されイけないような刺激しか百合音はくれない。
もっと欲しくて、腰が揺れる。
「んっ……もっとっ……ぁっ百合音っ……もっとぉっ」
「わかってる……? 今なんでイけないのか。俺が焦らしてるからじゃないよ。誠樹が溜まってないから」
「んっやぁっ!」
「ちゃんとわかって反省したらイかせてあげる」
確かに、溜まってる状態だったら百合音に軽く擦られただけでイけていたのかもしれない。
けれど、百合音は溜めてないならないで、俺をイかせられるはずだ。
現に、反省したらイかせてあげるって。
だから、俺がAV見たのとか。先輩に触られたのとか。
そういうのが気に食わないのだろう。
結局はやきもちだ。
バカ。
「百合音……っはやく……っ。反省したからっ」
「本当?」
「んっ……。こんなの、百合音としか出来ない……っ」
「1人でも出来ないよね」
「っ……出来なぃ……っ」
そこまで言うとやっと、強く握った俺のをしごきあげてくれる。
さっきの何倍も気持ちいい。
いつもより強い。
やっぱ、いつもは事務的に処理してただけだったんだ?
「ぁっあっ!! 百合音っ」
「ん。もう先にたくさん溢れちゃったね」
そう言うと、俺のを擦りながら溢れ出た液を舌で舐め取っていく。
「ひぁあっ……やっゃあっ!」
「気持ちいい? 言わなきゃやめちゃうよ」
やめる?
また焦らされる?
「っゃっだ……っ……ぃいっ……あっ、気持ちいいっ……百合、音っ……」
「そう。どう気持ちいいの?」
「ぁっあっ……百合音の舌っ、ぁっんっ……ぬるってっ」
「こう?」
舌をたっぷりと絡ませながら、ときたま吸い上げられる。
気持ちいい。
「んーっ!! あっ……ぃくっいくっ、あっ、あぁあああっっ!!」
すっげぇ声を出してイってしまう。
当然のように百合音は俺の出したのを、口で受け止めていた。
「ぅん……百合音……」
「ん……。やっぱり薄いな」
「ん……」
恥ずかしくて、足は百合音を挟んだままだったが、上半身を捻り横を向いた。
「百合音……。俺の自由にさせてくれないの?」
「……誠樹のココも、エッチな顔も、全部俺だけのにしたい」
わかってる。
こいつの考え方は、異常だとは思うけど理解は出来るから。
溜まってないのに1人でしたってのはさ。
溜めないようにしてくれてた百合音の気持ちを裏切ったことになるんだろう。
それだけならまだいい。
それがAVだったり、先輩に触られたりだったり。
百合音が不機嫌になるのも今ならなんとなくわかる。
「百合音。偶然AVがかかってて。ちょっとムラムラしただけだよ。そういうときもある」
「……そうだね。もっと誠樹の体のこと、知らないといけないね。ごめん」
「いや、そう気にしてくれなくていいけど」
やっぱり逃れられそうにないな。
重いくらいだが、やっぱり嬉しい気もするし。
これ以上に俺のこと好いてくれる人ってのもいない気がしてならない。
考え方はもう少し、どうにかなって欲しいけど。
どうせなら俺も。
「……百合音のこと、全部教えろよ」
「うん。知って、俺のこと。……俺にも誠樹のこと全部教えて」
「……うん」
異常だ。
全部知りたいって。
言葉のあやじゃない。
百合音はたぶん、本気で全部だって思っていそうで。
異常だと思う。
けれどだんだんと、この異常が俺たちの正常になってしまうんじゃないかって。
いいとは思わないが、いまはただこいつが隣にいてくれて、すごく心が落ち着けた。
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