「お前、よくわかんねぇよ」
「そう?」
「俺に気ぃ使いすぎっていうか」
「そりゃあ……もう泣いて欲しくないからね」
え。俺?
別に、泣かないんですけど。
もうって…?
俺、一度でもお前に泣かされました?
ため息がてら、顔をあげると百合音が俺の上にかぶさるようにして見下ろしてくる。
「キスしてもいい?」
「……なんで」
キスくらい、なんてことないけど。
いままでさんざん単なる好奇心でいろいろしてきたし。
ただ、こう見下ろされて聞かれるといつもとは違う気がして。
「させて」
百合音がそう言ったのに俺が答える間もなく、口が重なった。
「ん…」
舌が入り込む。
なんか、俺が下にいるせいか、唾液が送り込まれてくるようで、初めての感覚に顔を逸らした。
「はぁ…っ」
「どうしたの、誠樹」
「ん、なんか、唾液が…たくさん来て…」
いままで、新しいことはなんでも一緒に知ってきた。
だからいまだって。
答えなきゃいけないような気がして、自然と伝えてしまう。
「下にいると、たくさん入っちゃうのか」
やっぱり、好奇心の範囲……?
ただ、知りたいっていう。
そう思ったときだ。
「誠樹。そろそろ、Hのことも知りたくない?」
上から見下ろされ、そう言われてしまう。
そろそろ。
「え……」
そりゃ、友達同士でやってるやつもいる。
恋人が出来たときに、戸惑うのだって嫌だ。
なんだって、2人でしてきた。
けれど、さすがにこれは……っ。
言わないと、また流される。
「あのさ。知りたい知りたいってお互い思って、好奇心からいろいろしてきたけど。Hはさすがに……そういう理由じゃ……」
言葉を濁すと、理解したのか苦笑い。
「もしかして誠樹、勘違いしちゃってた?」
勘違い?
俺が?
「なんで?」
「確かに好奇心もあったよ。知りたいって思った。けど知りたいのはその行為自身じゃなくて、そのときの誠樹のことだし。 だから、安心して。ただ経験したいってだけで誠樹といままでいろいろしてきてたんじゃないよ。ちゃんと、誠樹のこと好きだから」
好きだからって。
はっきり言ったね、こいつ。
安心してって?
なに。お前は初めからそのつもりだったのかよ。
なんだよそれ。
俺の方が勘違い?
っつーか、恋人きどりかよ。
「なに言って……っ」
つい体が固まる俺をよそに、百合音の手が、出しっぱなしだった俺のをまた優しく掴む。
「っ俺、まだ……っ」
はっきりと嫌だとか言えないあたり、俺も人がいい……なんて思ってしまう。
「まだ?」
「っHは……もうちょっと日を置いてからの方が」
変な言い訳は通じそうにないから、とりあえず先送りして時間を稼いでみる。
「わかった。誠樹がそう言うなら今度ね。じゃあその前に、口でしてあげるよ」
今度って。
どうすんだよ、俺。
の前に、口でって?
俺が理解するより先に、百合音が掴んでいた俺のモノへと舌を這わすのが視界に入った。
「っっ……!」
うそだ。
百合音が俺のを舌で。
「っんぅっ! ゃめっ……っあっ!」
「…ん、かわいいね、誠樹の声。普段、あんまり声出さないもんね」
普段なら我慢できる。
けれど、こんな舌でとか……っ。
自分の手の甲に噛み付いて、声を殺す。
息苦しい。
百合音の舌が亀頭に突き立てられて、チロチロと先を刺激した。
尿道に入ってしまうんじゃないかってくらい。
「んーーっ!!! んっ、ぅん!」
「誠樹」
愛撫をやめた百合音の声に顔を向ける。
俺の手を取ると、歯型のついた部分へ舌を這わした。
「痛そう。噛んだら駄目だよ」
俺のその手へと指を絡めて、もう片方の百合音の手がまた股間を撫でていく。
「っ……んっ!」
百合音に取られていない方の手で口を押さえようとすると、不意にその手も取り押さえられた。
「歯型もだし。息苦しくなっちゃうから、やめよう?」
顔を横に振ると、それが合図みたいに手首にコードが絡まる。
携帯の充電器か?
「なに……」
百合音にSM的な趣味があるとは思えない。
たぶん、これは俺のためとか言うんだろう。
考えがまとまらないうちにも手首を束ねられたコードはベッドの柱へと括られる。
「っいてぇしっ」
「暴れなきゃ痛くないよ」
「はずせって」
「はずしたら、噛み付いちゃうでしょ」
「っ……だってっ」
「だってじゃないよ」
俺の手を固定するとズボンと下着を引き抜いてく。
「っな……っ」
「大丈夫……」
「Hはしないって…っ!!」
「うん、しないから」
また俺の足元に寝転がると、俺のに舌を絡めながら指先でも弄られる。
「んっ、ぅんっ! あっ!」
つい癖で手で口を塞ごうとするのに、手首に絡まったコードがそれを許してくれない。
「あっ! んぅっ! ぁっ」
「気持ちいい? 誠樹の声、ホントかわいいね……」
嫌だ。
こんな声。
スルーしてくれりゃいいのに、百合音は聞き逃してくれない。
「ゃっだ……っぁっ! んーっ!」
「我慢する癖ついちゃってるよね、誠樹って」
そりゃ、普段から百合音に抜かれてて。
声、殺してて。
あんまり聞かれたこと無くて。
それなのに今、聞かれてる。
嫌で、もうなにも反応したくないのに、百合音の指が竿を撫で、袋と後ろの入り口の間辺りをぐっと押さえると、体がビクンと跳ね上がった。
「っ!! あ……っ……やだ……っ」
そこ。おかしい。
「どうして……?」
舌を這わしたまま、ぐにぐにと押さえつけられるたび、体が震えてしまう。
「ぁっ! あ、っんぅ……っ」
「ん……。ココね。前立腺、外からなのにすごい感じるんだね。あとで中から直接突いてあげる。その前に、濡らそうね」
理解できない。
できないまま、百合音の舌が俺の後ろの入り口を舐めていく。
「はぁっ……っあ……今度だってっ、今はしないって言ってるだろっ」
「うん……今度するんだよ。準備しておかないと……」
指先が亀頭をすべる。
前立腺を外から押さえられ、秘部へと舌先が入り込む。
「んぅっ!」
んなとこ舐めるとか。
「やだ……っ百合音っ。んなとこっ……」
「んっ……。ココより、こっちの方がいい?」
そう言って、秘部の中まで入り込んでいた舌が、また竿に絡む。
「あっ! ぁっんっ!」
「溢れて来てるね……。コレ、飲んでいい?」
なんでもないことのように、溢れ出る液へと舌が這った。
「や……めっ」
「どうして? 飲ませてよ」
溢れ出る液を百合音が、音を立てるようにして吸いあげてしまう。
「んぅんんっ!!! ゃっっ」
「ん……変わった味だけど、誠樹のだと思うとおいしいく感じるよ」
おいしいとか、バカだろ、こいつ。
最低だ。
「もう、ソレ、飲むなよっ」
「わかった。そろそろ直接撫でてあげるから」
別に、早くしろって言ってんじゃねぇっての。
「意味わかんねぇし」
「ん、ちゃんと説明した方がいいかな。指入れて、中から前立腺撫でてあげるよ」
説明求めてるわけでもねぇし……っ。
「指……入れんのかよ……」
「今度するとき、イキナリじゃキツいし。だから今日は指1本だけにしておこうね」
「っ……それも、今度でいい……っ」
百合音は俺の足元で、いままさに指を入れてしまいそうな体勢のまま俺を見る。
「怖いの? ゆっくりしてあげるから……」
俺の言い分を無視して、言葉通り、ゆっくりと俺の中へ指先を押し込んでいく。
「ンぅっ!! くっ」
「力抜いて……」
入り込む指に唾液を絡めながら、空いた手で俺のを擦りあげていく。
「んっ……ぅんんっ!! あっ!!」
「ここ? 誠樹、感じる? すごい今、ビクンって、おっきくなった」
場所を示すよう外からまた、前立腺を押さえる。
中からも直接撫でられて、体が大きくびくついた。
「ひっぁっ!! んーっっ」
「すごいね、誠樹……。舐められるの好きだよね? ちゃんと口でもしてあげるね」
嫌だと首を振るのに聞き入れてくれそうにない。
とがらせた舌先が、チロチロと亀頭を這う。
「ぁっあっ!! っん!! ……あっ」
「声、かわいい。ね、もっと声出して。イっていいよ」
容赦なく、中から指が何度も前立腺の付近を行ったり来たり、押さえつけたり。
口の中に含んだ俺のものにたっぷりと舌を絡め、吸い付かれると限界だった。
「ぁあっ! んっ! あっ、ぁあっん! やぁああっ!!!」
こんな風に声をあげてイってしまうのは初めてだと思う。
恥ずかしくてたまらない。
百合音は、なんでもないことのように俺のを飲み下す。
最後の最後まで搾り取られるんじゃないかってくらいに、吸い上げられる。
「んっ……ぅんん……」
「はぁ……。誠樹……。気持ちよかった?」
悪気はないのだろう。
無理矢理やってしまったという罪悪感なんてこいつには無い。
わかってる。
「……手、外して」
「うん」
コードを解かれ、手首を見ると、少しばかり跡が残っているが、それほどキツく縛られたわけでもない。
痛くはなかった。
自分の歯型の方が、しっかり残ってやがるし。
百合音は、淡々と濡らしたタオルで俺の体を拭いてくれる。
「っ……自分で拭くし」
「いいよ。そのまま寝てて」
百合音がわからない。
俺のこと好き……なんだろうな。
俺は?
百合音のこと、うっとおしいって思った時期もあった。
ただの友達なのにまるで恋人気取り。
お前はいつ俺の恋人になったってんだ。
百合音にその気があるのなら、もっと早い時期にそういう話が出てもおかしくないだろう。
恋人になろうだとか、付き合おうだとか。
その気がないのなら、これ以上は困るし。
ってか、すでにこいつその気っぽいんだけど。
「おかしいよ、百合音……」
横を向いて寝転がったまま、そうぼやく。
好きの意味がわからない。
「誠樹?」
「お前は異常だ。異常だよ」
「どうしたの……?」
重い。
「俺のこと、構いすぎじゃね?」
ぶっちゃけ、たとえ恋人同士であったとしても、傘壊したり、おかしいだろ。
「そんなことないよ」
「そんなことあるってば。なんでお前……っ」
俺の恋人ぶってんだよって。
言いそうになったけど、こいつが傷付きそうで言えなかった。
こいつのこと傷つけたくない。
ずっと、俺の中でそういう想いがあるから、なにもかもちゃんと断れないんだ。
好きだから傷つけたくないのかもしれない。
好きの意味はまだよくわからないけれど。
なにも言えずにいると、百合音の手が、そっと俺の手を掴んだ。
「誠樹は強くて、いつも俺のこと引っ張ってくれてさ。そんな誠樹が俺のことで泣いちゃったとき、すごく衝撃的で。泣かせたくないってのは、誠樹のために聞こえるかもしれないけれど、俺のためでもあるんだ。俺が、誠樹の泣く姿、もう見たくないから」
……感傷的に語ってくれてますけれど。
泣いた?
俺が? いつ? お前のことで?
こいつがバカみたいに俺に構うのは、ちゃんとそれなりの理由があったってこと?
それ、覚えてないんだけど。
……とはさすがに言えないし。
記憶にないってことは、だいぶ昔のことなんだろう。
「……もう、大丈夫だから」
とりあえず、つじつまが合いそうな言葉を選んで、答えてみる。
「うん。もう誠樹も俺も高校生だもんね。でも、俺の気持ちはずっと変わってないよ。誠樹のこと、ずっと守るから」
『ずっと守るからお嫁さんになって』
かなり昔に言われた言葉を思い出す。
お嫁さんになって……とはさすがに今は言わないだろうけれど、こいつ覚えてんのか。
もしかして、俺ってその言葉にオッケーとかしちゃってたりするんだろうか。
だとしたら、こいつが恋人気取りなのも、納得できるっていうか。
俺って、こいつと付き合ってんの?
「……そのときのこと……しっかり覚えてんの?」
寝転がったまま、百合音から顔を見られないよう俯く。
「覚えてるよ。誠樹が覚えてなくても、俺は覚えてる」
っこいつ。
俺が覚えてないって、わかって……っ。
いや、いまバレたか?
それとも俺が、百合音に恋人候補紹介するとか言ったから?
そもそも、覚えてなくて当たり前か?
「ごめん……。覚えてなくて」
「それでも、ずっと傍にいてくれた。それで充分だよ」
俺は離れようとしたんですけど。
お前が勝手にくっついてただけのような。
「あんま覚えてねぇけど、その言葉だけは覚えてるよ。お前が、俺に言ったやつ……」
百合音が俺の頬を取るもんだから、正面から顔を見られてしまう。
「それ以上は、思い出さなくていいよ。泣き止んでくれて、いまがあって。それでいいよね」
頷くとまた、口を重ねられた。
友達の範囲超しちゃってるっていうか。
すでに恋人の領域?
「はぁ…。ホント、意味わかんねぇ」
けど、結局、こいつのこと傷付けたくないってのはかわんねぇし。
逃げれそうにもないって思ってるし。
逃げる気もそろそろ失せてるし。
このままでも、悪くないかな。
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