「誠樹ってさ。百合音くんと友達なんだろ。よければ紹介して欲しいんだけど」

 ルームメイトの先輩。
 俺が帰ってきたとたんにそう言われる。
 百合音は確かに友達……いわゆる幼馴染だ。
「紹介って。え、なんで友達とか知ってるんですか? どうしたんすか?」
「あぁ、俺じゃないんだけど。俺の友達がね、どうも百合音くんのことお気に入りみたい。でも、あんまり百合音くんって一人にならないっていうか、常にお前と居るみたいでさ。百合音一人に声かけるより誠樹通してだったりした方がスムーズかなって。ほら、誠樹なら俺伝いで声かけれそうだし」
 百合音は、先輩にも目をつけられてるんすねー。
 ホント、モテることで。
 同級生や後輩の中でも、百合音が好きみたいな意見は聞いたことがある。
 学祭でなんか発表してたみたいだから、顔が知れ渡ってるのか?
「……でもあいつは」
「あ、もしかして誠樹、付き合ってるとか?」
「いや、そうじゃないんですけど」
 たぶん、俺のことが好き……なんて言いづらいよな。
「ちょっと異常ですよ?」
「え、なにそれ、変わってる子なの?」
「……そうですね。外見のみでいいなぁって思う人にはオススメできません。たぶん、ギャップとかあると思うし」
「ふーん。ってか、誠樹、もしかして好きなの? だったら、まぁこっちは身を引くし」
 俺が百合音を?
 正直、考えたことがない。
 恋愛対象って感覚とはまた違って、ただたんにいるのが当たり前で。
 結構ウザいってなイメージしかなくて。
「俺じゃなくて、百合音の方が……」
「百合音くんに告られたとか?」
 告白ってなると、そこまでのものはないかもしれないが。
 保育園児の頃に『ずっと守るからお嫁さんになって』なんて言われた記憶はあるけれど、あんなのは告白には入らないだろう。
 あのとき、俺ってどう答えたかな。
俺は男だーとか女扱いすんじゃねぇとか言って反発してたっけ?  
そこらへんの記憶はあいまいだ。

「あの……まぁ、友達の範囲だって言っちゃえばそうなんですけど。結構思わせぶりな行動は」
「気になるねぇ、教えてよ」
 どこの範囲まで教えていいのか。
 ホントに。
 友達同士でもするだろうって言われたらそこまでだし。

「一時期、うっとおしく感じたことがあったんです。というか、なんかいろいろあって離れようって思って。中学の頃、選んだ志望校、真似してきたんで変えたんですよ、あいつが受からなそうなところに。そしたらまた真似されて、今に至るんですよね」
「じゃあ、いまココに百合音くんがいるのって、誠樹を追ってきてるんだ?」
「そうなりますね。ただ、友達の範囲って言われたらそんだけです」
 少し考え込むように先輩も頷く。
「ちょっと、微妙なラインだけどね」
「あと、最近で言ったら……。急に雨が降った日、あったじゃないですか。あの日、傘持ってきてくれたんですよ」
「お、優しいね」
「……そうなんですけど。俺も別に傘持ってたんです。それ見てあいつ、自分の傘、ぶっ壊したんですよ。俺の目の前で。それでいて、笑顔で『傘壊れちゃったから入れて』って」
 あいつは異常だ。
「変わった子だね」
「それでくくれる範囲ですか?」
「ちょっと異常だね」
 そうだ。
 決して俺のうぬぼれなんかじゃないと思う。
 あいつの俺に対する考えはちょっと異常だ。

 
 ……俺たちの関係も異常だ。
 好奇心がなによりも優先される子供の時期。
『キスってどんなんかな』なんて言い出した俺らは、口を重ねた。
 ただ知るだけの行為。
 なんでもないみたくお互いが『こんなもんか』なんて理解した。
 それ以降、さまざまなことを2人で知っていくようになった。
 あれはどうだろう、これはどうだろうって。
 もちろん、エロくない普通のこともだけれど。
 お互いにキスマークをつけてみたりもした。
 舌を絡めるのだって、やってみた。
 はじめは少し戸惑ったけれど、拒むのも意識しすぎいる自分が恥ずかしくて、なんでもないことなんだと思うようにした。

 毎回毎回、『どんなんだろう』『知ってみたい』って。
 そう言って、試して、理解して。
 それで終わり。
 
 ただ、ある日、俺が始めて夢精して、どうすればいいのかわからなくて。
 百合音に聞いてみた。  

『百合音って、夢精したことあんの?』
『あるよ。誠樹は?』
『…今朝、初めて…』
『じゃあ、一人Hはしたことないんだ? 教えてあげるよ』
 いままで散々、2人でいろんなことを知ってきた。
 俺が知りたいと思うことは教えてもらったし、その逆もたくさんしてきた。
 だからそのときも、断るという選択肢はなかった。
 もちろん、恥ずかしいとは思ったが、百合音ならまぁいっかって思ったり。
 断るのは申し訳ない気もしたから。  

 そこからだ。
 いろいろとおかしくなってきたのは。

 定期的に俺の様子を伺って、一人Hを手伝ってくれる。
 なかなか『自分でやるからほっとけ』とは言えなくて。
 実際、気持ちいいには気持ちいいし。
 回数を重ねれば重ねるほど断るきっかけを失う。
 
 けれど友達としてはやっぱり異常だと思う。
 友達同士でやるって人もまれにいるみたいだけど。
 ただの一人Hを毎回、友達に手伝ってもらうとか……。

 あいつにも俺にも、恋人がいないからこんな風にだらだらしちゃうんだろうか。
 あいつに恋人が出来れば俺からもう少し離れるんじゃ……。

 そう、俺はこんなんじゃ駄目だと思って離れようとしたんだ。
 それなのに、あいつが高校一緒にするもんだから、ずるずるとした関係はいまも続いている。

 あいつに、誰か紹介して、恋人でも作ってくれれば……。

 異常な百合音を紹介するってのも申し訳ないけれど、とりあえず話してみるか。
 あいつが恋人を作ることに関してどう考えてるのかも知りたいし。
 欲しそうなら全力で協力してやる。
 
 いや、でもあいつは俺が好きなのか?
 それって友達としてか?
 わからないけど。
 わからないからこそ、ここら辺ではっきりさせておきたかったりもする。

「ちょっと、百合音がいま、彼女欲しい感じなのか探ってきますよ」
「お、ありがとー。……まぁ、こっちは誠樹と戦ったら勝ち目なさそうだから、ホント、無理しなくていいけど」


 俺は百合音に部屋にいるかどうかの確認だけ電話して。
 その後、百合音の部屋へ。
 すると、百合音の友達が、俺と入れ違いに出て行く。

「……百合音、友達と会ってたのかよ」
「でも、もう終わったからいいよ」
 終わらせたの間違いじゃねぇの?

「どうしたの? 誠樹から来るって、珍しいね。…そっか。そろそろ、抜こうか?」
 抜こうかって。
 そろそろとか。
 俺の下半身、把握してんじゃねぇっての。

「そうじゃなくて……。いや、まぁ、そのこともなんだけど」
 いままでずるずるしすぎてた。
 それもこれも、ちょうどいいタイミングでこいつが来て流れで抜かれてしまうから。
いま言わなきゃ、またずるずるする。
「あのさ。これからは自分でしようかとも思うんだけど」
「なんで?」
「……なんでって……。普通みんな自分でしてるし」
 してないやつもいるかもしれないけれど。
「でも、誠樹は俺がしてあげるからいいよ」
 いいよって。
 ……よくねぇだろ。
「俺だって、自分でしてみたいしっ」
 百合音の好きそうな言葉を選んでみる。
知りたいとかやってみたいとか。
「誠樹、自分でしたいの……?」
「……したことないから、知っておきたいっつーか」
 こいつにされたくないってのともちょっと違うしな。
 ただ、異常だろ。
 でも、それじゃあこいつ納得しないだろうし。

「そうだね。俺が、怪我して入院しちゃったりしたら、誠樹困るもんね」
 ちょっと違う気もするが。
 ほっとしたのもつかの間。
「じゃあ、してみようか」
「…え?」
 耳を疑う。
「誠樹がちゃんとできるが見てあげる」
「いや、いいって。出来るよ。みんな普通、一人で勝手に学ぶだろ!?」
「誰がそう言ったの?」
 ……別に誰かに聞いて確認とかはしてねぇけど。
「普通、そうだよ」
「ホントに?」
 そう聞かれると、答えづらい。
「誠樹…。いまさら恥ずかしいわけじゃないだろ。わからなかったら教えるから。それとも俺以外に聞く人いるの?」
「……いねぇけど」
「じゃあ、しよう? 誠樹ができないなら、いつもみたいに俺がしてあげるよ」
 そう言うと、俺の体を後ろの壁へと押さえつけ、百合音の手がズボン越しに股間を撫でる。
「っいまは…っ溜まってねぇし」
「溜まってないの? 抜いてないんだろ? だったらすぐその気になるよ。難しければ、このまま俺が…」
 結局、流される。
「っいいって…っ。自分で…っ」
「うん。わかった。ベッド、座ろうか」
 腕を引っ張られ、ベッドの上に座らされる。
「壁、もたれた方が楽だよ」
 いちいちうるさいな。
 うながされるがまま、壁にもたれるけれども。
 どうしろってんだ。
「いまは…いい…っ」
「でも、それなりに経ってるし。一人で出来ないなら俺が……」
「だから出来るってっ」
 とは言ってみたものの。
 ここでやらないと、こいつにこのまま抜かれそう。
 なんで、こんなことに。

 でも、ぶっちゃけすでに見られ慣れてはいる。
 ここで俺が自分で抜けば、こいつ納得するかもしれないし。
 しょうがなく、ズボンのチャックを下ろし自分のを取り出した。
 
 手で掴み、ゆっくりと擦りあげていく。
「んっ! ぅん……っ」
 百合音の視線が突き刺さるのはいつものこと。
 けれど、やっぱりなにか違う。
 自分でしなきゃいけなくて。
 
 百合音の手の方が気持ちよかった気が。
 いや、バカな。
そりゃ他人に触れられる方が、いろいろと過敏になってしまうかもしれないってのは理解できるけど。
 自分の方が、好きなように出来るはずなのに。  

「くっ…んっ…んっ」
 人の手と自分の手と。
 それだけじゃない。
 なんだか、自分の手の動きがぎこちないのがわかる。
 動かさないと…。
出来なきゃ百合音から逃れられない。
そんなことばっか考えてたら、うまく感じられない。

「っ…はぁっ…っんっ」
「手伝おうか…」
 そう言って、百合音が俺の手の上から手を重ねる。
「っいいっ…一人で…っ」
「ん、出来る? がんばって」
 バカにしてんのかよ。
 ゆっくりと手が離れてく。
 隣から百合音が俺の髪を撫でる。
「っんっ…っんっ!」
「たくさん、液溢れてきてるね。感じてる証拠だよ」
 じれったくて、イくにイけなくて、先走りの液だけが無駄に溢れる。
 だんだんと、疲れてきたのか、手の動きもよりぎこちなくなるし。
「っ……っも…っゃっだっ」
 出来なくて手が止まる。
「どうしたの?」
「っ百合音が見てるから、集中出来ないっ」
 やつあたりだ、こんなの。
 最低だ、俺。
「…誠樹が慣れてないからうまく動かせないだけだよ」
「お前がいつもするからっ」
「そうだね…。一緒に練習していこう?」
「っ……自分で…っ」
「手伝ってあげるね」
 俺の手の上からまた手を重ね、慣れた手つきで擦りあげてくれる。
 さんざん焦らされていたそこは一気に射精感が高まった。
「んっ! んぅっ、んっ」
「気持ちいい? 誠樹……」
 気持ちいい。
 なんでこんなに違うんだよ。
「っん…ぅんんっ!! はぁっんっ! んーーーっ!!!」

 すぐにでもイかされてしまう。
 一人でするって言ったくせに出来なくて、恥ずかしくなる。
「誠樹…。俺がずっと手伝ってあげるから、心配しないで」
「いいよ…。自分で練習するし」
「でも、俺も新しい誠樹が知れて、嬉しかったな」 

 こんなんじゃ駄目だ。
 ため息が洩れる。
 体の力が抜け、そのままそこに寝転がった。

 そうだ。
 恋人が出来たら……いや、俺が好かれてるのか?
 わからない。
 けれどとりあえず聞いてみるか。
「あのさ、今日お前のこと紹介してって言われたよ。ほら。お前モテるし」
「そうなんだ」
 
 え、終了?
「いや、そうじゃなくてさ。会える?」
「会えるって……。友達になるの?」
「っていうか、どちらかといえば恋人候補だと思うんだけど」
 だよな?
「誠樹は、それで紹介するって言ったの?」
「……いや、ちゃんとは答えてないんだけど」
「なんで、俺に恋人候補紹介するとか言うわけ?」
「なんでって……」
 怒ってんのか、こいつ。
「……いいよ。誠樹は、頼まれたら断れないタイプだもんね。紹介してくれたら、俺の口から断るから」
 
 断るって。
 わかってて紹介できるかよ。