キスくらい。
 たぶん、俺も誰とでも出来る。
 こんなにドキドキするのは、まだ会ってそんなに経ってないからか。
 恐いからなのか。
 正直、よくわからない。
 このまま恋人でもないのに、この人とやったりする関係になっちゃうんだろうか。
 俺はそういうの、どうなんだろう。
 別に、いい……かなぁ。

 付き合ってる人がいるわけでもないし。
 あ、真乃先輩はどうなんだろう。
 お互いいなかったら、こういうのもありなのかな。
 悪い人じゃないと思うし。
 優しくしてくれそうだ。

 俺が相手をしなくても、真乃先輩には他に相手がいるんだろうけど。
 なんかちょっとだけ、寂しいような悔しいような、妙な感覚に陥る。
 自分でもよくわからない。
 近くに俺がいるのに、真乃先輩は俺を相手にせず、他へと行ってしまったから。
 たぶん、ただ負けず嫌いなだけだけど。
 だとしても、なんだか気が気じゃなくて。
 机の上においてある地図を手に取る。

 恐がってあまり話せないでいる俺に、優しくしてくれて。
 いろいろ教えてくれて。
 ご飯もおごってくれた。
 俺のこと楽しみにしてたって、本人からは聞いてないけど、白石先輩が言ってたし。
 俺が今日ここに来るより前に、真乃先輩はどうやら俺のことを見に来てたらしいし。
 だとしたら、期待はずれとかそういうことはないのかもしれない。
 ただ純粋に、楽しみに待っててくれて、俺を歓迎してくれた。
 それなのに、俺はたぶんちゃんと応えられていない。

 部屋を出て、あたりを見渡してみたけれど、真乃先輩の姿は見当たらない。
 どこを探せばいいんだろう。
 俺は、真乃先輩が地図に四角い印をつけてくれた部屋へと向かった。

 インターホンを押して少しすると中から1人、出迎えてくれる。
 もちろん、見たことない知らない人だ。
「……えっと、泉に用?」
 泉……つまりこの人は、泉先輩のルームメイトさん……かな。
「その……真乃先輩、知ってます?」
「うん。知ってるよ。凍也、探してるんだ?」
「はい……ここにいるんじゃないかと思って」
 というか、ここにこれば真乃先輩のことを知ってる人がいるだろうし、本人がいなくても、連絡先とかわかるかなって思ったんだけど……。
「今日は来てないなぁ。携帯掛けた方が早いかも」
「その……俺、真乃先輩の番号知らなくて……教えて貰ってもいいですか」
 その人は少しだけ考えてから『まぁいっか』といった感じで俺に番号を教えてくれた。
「ありがとうございます」
「いえいえ。あ、君、名前は?」
「……架月岬です。今日から真乃先輩のルームメイトになりました」
「あー、聞いてる聞いてる。あれ、今日、凍也、ルームメイトが来るから歓迎会するって一人ではしゃいでたけど。どっか行っちゃったんだ?」
 俺が、追い出したようなもんだ。
「ちょっと……」
 お酒も断っちゃったし。
 なんか、俺、ひどいことしちゃったかな。
 せっかく楽しみにしてくれてたのに。
「まぁ、凍也見たら声かけとくよ。あ、俺、真辺雅ね。4年」
「はい。ありがとうございます……」

 俺は、真辺先輩とも番号を交換して、その場を後にした。

 勝手に番号聞いちゃったりなんかして、よくなかったかな。
 とりあえず自分の携帯に登録するものの、どうすればいいのかわからない。
 白石先輩は、真乃先輩のこと面倒見たがりだって言ってたし、俺が急に電話しても怒らないと思うけど……。

 迷った末、とりあえず電話を掛けてみる。
 掛けてどうするんだろう、俺。
 よくわからないのに。
 結局、応答コール中にまたすぐ電話を切ってしまっていた。

 やっぱり俺とHしましょうって言えるわけでもないし。
 戻ってきてくれたところで、なにかしてあげられるわけでもない。
 真乃先輩、俺の番号なんて登録してないだろうし。
 着信履歴は残っても、知らない番号に掛けなおす確率はたぶん低い。
 とりあえず、俺は自分の部屋へと戻った。

 1人。
 真乃先輩がいて、すごく緊張したしあまり気が抜けなかったけど。
 1人になったところで、なんだか落ち着かない。
 こうしている間にも、真乃先輩は他の誰かとやっちゃったりしてるんだろうか。
 真乃先輩が誰とやろうと自由だけど、せっかく俺を歓迎しようとしてくれてたのに。
 自分でも、どういう感情かよくわからない。
 ただ、もやもやしたものが晴れなでいた。
 電話もかかってこないし、俺は1人、眠いわけではないけれどベッドに寝転がる。

 どれくらいの時間がたっただろう。
 ドアの開く音。
 真乃先輩……?
「あぁ、岬。ごめんごめん。俺のこと捜してたって?」
「え……」
「真辺先輩から聞いたよ。どうした? なにかわからないことあった?」
 ああ、この人、すごく優しい人なんだ。
 というか俺、迷惑掛けちゃってるんだ。
「その……」
「今日、初めてだもんな。いきなり1人にしちゃってごめん。そりゃ不安にもなるよな」
 ベッドに座る俺の頭をそっと撫でてくれる。
 そうじゃないんけど。
 そう……だったのかな。
「俺……」
「大丈夫?」
「……はい。大丈夫です、すいません」
「いや、謝らなくていいよ。じゃあ今日は一緒に寝ようか」
 真乃先輩は、にっこり笑いながら優しくそう言ってくれる。
 少し前の俺なら『この人、おかしな人だな』って思ったかもしれないけれど。
 今は違う。
 すごく面倒見のいい人なんだなぁって感じる。
 促されるようにして、俺は真乃先輩と一緒に寝転がった。

 なんだかすごく子供になったみたい。
 真乃先輩は、優しいお兄さんみたい。
「……ありがとうございます。実はさっき、電話したんです」
「え、あの番号? 岬のだったんだ?」
「はい……真辺先輩に聞いてしまいました。なんかわざわざ戻って来て貰っちゃって、申し訳ないです」
「あぁ、それはホント、いいって。もしかしたら1人の方が落ち着くかなって思って、少し外ブラつこうと思っただけだったから」
 そうだったんだ……?
「でも、嬉しいかも。岬に捜して貰えて」
 そんな風に言われたら、俺だって嬉しくなる。

「真乃先輩って……付き合ってる人とかいるんですか」
「俺? いないよ。まあ、やる相手はいるけど」
「……真乃先輩、いろんな人と出来るんですよね。俺は、したことないんですけど……さっき、真乃先輩が俺とやるのやめて部屋を出てって……他の人、相手にするって思ったら、なんだか寂しくなって……すいません。なんか、どうでもいいこと……」
 真乃先輩は、そっと頭を撫でながら、俺を引き寄せてくれる。
「どうでもいいことなんかじゃないよ」
 なんか俺、すごい恥ずかしいこと言ってる気がするけれど。
「他の人、相手にするつもりで出てったんじゃないし」
「はぁ……」
「これ以上、かわいいこと言ってくれると、ホント、やりたくなるから注意して」
 真乃先輩は、笑いながら冗談交じりにそう言うと、俺の頭をポンポン叩いた。
 その感触が心地よくて、少しだけボーっとしてしまう。
「真乃先輩……キス、していいですか?」
 真乃先輩は少しだけ間を置いて、それから俺に口を重ねてくれた。
 俺の髪の毛に指を絡めてそっと頭を撫でてくれる。

「……岬。どうして、キスしようと思った?」
「なんか……したくなって」
「やりたくなるから注意だって言ったのに」
「俺、別に、かわいいことはなにも言ってません。真乃先輩と同じことしか……」
 真乃先輩だって、キスしていい? って聞いてきたし。
 キスくらいならこの人と躊躇なく出来る気がして。
 理由はわからないけど、なんとなくしたくなって……というよりしてもらいたくなって。
 真乃先輩にしてもらえると、すごく気持ちが落ち着く。
「じゃあ、誘ってくれたわけではないんだ……?」
「そういうつもりはなかったですけど……」
「そっか」
「でも……嫌じゃ……」
「嫌じゃない? H?」
「ん……したことないんで、よくわかんないですけど、嫌って感じじゃないです」
 そう告げる俺の頬を、真乃先輩が優しくそっと撫でてくれる。
「……それは、かわいい事だよ……」
 かわいいこと。
 真乃先輩、かわいいって……やりたいって思ってくれてる?
 俺、そう思われて、嬉しい……のかな。
「……真乃先輩」
「ん……。もっかい、キスしよう?」
 俺が頷くと、真乃先輩は、俺の上へと覆いかぶさるような体勢で、上から口を重ねてきた。

「んっ……」
 さっきとは違う。
 挿し込まれた舌が、俺の舌を絡め取っていく。
「ンっ……ぅんっ」
 真乃先輩が出て行く前にしたキスとも少し違う。
 それより激しい感じがする。
 体がビクついて、俺は真乃先輩のシャツにしがみついた。
 舌が何度も俺の舌と絡まって、頭の中に濡れた音が響く。
 だんだん体が熱くてなってきた。
 口が離れてしまうのが、名残り惜しい。
 俺はぼんやりした状態で、真乃先輩を見上げた。

「……岬……いい? 続きして」
「………はい」
 真乃先輩は俺のシャツをまくりあげながら、胸元に手を這わせる。
「んっ……」
 指先が、何度も胸の突起を掠めて、鼓動が激しくなってきた。
「ぁっ……あのっ」
「ん……? どうした?」
「はぁっ……あんまり……そこ……」
「良くない? 硬くなってきた……」
 顔を近づけて、俺の耳元でそう言いながら、捕らえた突起を指で転がしていく。
「あっ……んっ、ぅんっ……」
「ね……吸ってあげる」
 もう片方の突起に口づけたかと思うと、軽く吸いあげられてしまう。
「んぅっ……!! あっ……んっ」
 そっと摘まれたり、軽く爪を立てられたり。
 舌で舐められたり、歯を当てられると、体が勝手にビクついた。
「……あっ、ンっ……」
 やだ……俺……変な声出る。

 真乃先輩は、一旦、俺の胸から口を離すと、ズボンの上から股間を撫でていく。
「あ……真乃先輩」
「ん……不安?」
「なんか……恥ずかしいです。それに……ちょっと、不安です」
「不安……か」
「こんなことするの……初めてで……」
「うん、大丈夫……優しくしてあげる……ね」
 真乃先輩は言葉通り、優しく丁寧に、俺のズボンと下着を脱がせてくれた。
 露わになった股間のモノは、すでに硬くなっていて思い切り上を向いていた。
 少し恥ずかしい気もしたけど、たぶん、真乃先輩はこういうの慣れてるんだろうし、気にしなくていいのかもしれない。
 躊躇なく俺のを掴むと上下に擦りあげていく。
「あっ……んっ、ぅんんっ……あっ……」
 自分でするのと全然違う。
「気持ちいい……?」
 やっぱり恥ずかしい。
 でも気持ちいい。
 そっと頷いてはみたものの、俺は真乃先輩の視線から逃れるように顔を横に向けた。
「膝、曲げれる?」 
 膝?
 真乃先輩の手が俺の膝裏に差し込まれる。
 深く折り曲げられると、嫌でも腰が浮いてしまう。
 恥ずかしいところまでたぶん丸見えだ。
 俺がダメだと告げる間もなく、後ろの入り口に真乃先輩の舌が這わされる。
「あっ……ぁっ、そんな……とこっ」
「んー……いや?」
「いや……とかじゃ……でも……ん、真乃先輩、いいんですか?」
「俺はいいよ。たっぷり濡らしておこ?」
 そこを使うことくらい知ってはいたけど、いまいち実感出来ないでいた。
 いまやっと、実感しつつある。
 本当に、そんなところで……そう頭で考えるより早く、真乃先輩の舌先が入り込んでくる。
「あっ! んっ……ぁあっ……変、ですっ……やっ」
 舌が入り込んだまま、真乃先輩の指が亀頭を撫で回す。
 ぬめるような感触がして、先走りの液が出ているんだと自覚した。
 後ろも、真乃先輩の舌が動いて、体がゾクゾクする。
「んーっ……ぁあっ」
 俺は、ベッドのシーツに爪を立てて、その刺激に耐える。
 ゆっくりと舌が引き抜かれた後、
「指、入れるからね……」
わざわざそう俺に教えてくれてから、真乃先輩は一回、口に含んだ指を俺の中へとゆっくり挿し込んだ。
「あっ……ぁああっ」
「そう、力抜いて……」
「はぁっ……はぁ、ん……わかん、ないです……」
「んー……大丈夫……ゆっくりでいいよ」
 少し入り込んだ指はそのままに、真乃先輩は俺の太ももに優しく軽くキスをしてくれる。
 落ち着いたのを見計らうようにして、また指が、中へと入り込んでくる。
「あっ……ああ……んぅん……」
「ん……いいよ。上手に飲み込んでる……唾液足そうか。舐めてあげる」
 指を咥え込んでいる箇所を舐めながら、ゆっくり時間をかけて、押し込んでいく。
 少しして、奥まで入りきったのか、動きが止まる。
「痛くない?」
「……はい。でも……はぁ……なんか、キツくて……っ」
「うん。ゆっくり、感じてこ……?」
「はい……」
「岬はいい子だね。素直で、かわいくて……虐めたくなる」
「え……」
 虐めたいってどういうことだろう。
 よくわからないけど、少し真乃先輩が興奮しているようにも見えた。
「俺、好きな子見ると虐めたくなっちゃうんだよね。虐めっ子ってわけじゃないよ? ただのサドなんだけど。哀願されるのとかたまんなくて。だから……岬のこと、虐めちゃいそう」
 虐める……?
 でも、好きなって。
 俺のこと、好きってこと?
 もちろん、深い意味はないんだろうけど。
「なんで……好きな子、虐めるんですか?」
「うーん……その子のいろんな面を見たいから……かな。泣きながらお願いされたいし、そういうの興奮しちゃうんだよね。でも、嫌われたいわけじゃないよ」
「はぁ……」
 難しいけど、そういう性癖……ってこと?
「岬……嫌わないで」
 そう言うと、指を入れたまま、身を乗り出した真乃先輩が俺の口を塞ぐ。
舌が絡まって、また頭がボーっとした。
「ん……んぅ……」
 口が離されて、見上げると、少し不安そうな面持ちの真乃先輩がいた。
 俺に嫌われるのが怖いのかな。
 心配してる?
「……大丈夫……です」
「ホント?」
「あ……でも、痛いのは……」
「そこまで激しく虐めないって。大丈夫。ちょっとからかう程度だから」
 本当に虐めたいなら、ここまでだってこんなに優しくはしない。
 わざわざ前もって言ってくれるくらいだし、真乃先輩なら……。
「……好きだと思える子に対して、そういう気持ちになるんですよね」
「うん……」
 だったら、大丈夫。
「……虐めてください」
 虐めてくれてもいいってだけだったのに、なんか、変な言い方しちゃったかも。
 真乃先輩は、俺の頬に軽くキスをして、それから中に入り込んだままの指をゆっくり動か始めた。
「んぅンっ……あっ、あっ」
「どう? 初めてココ、こうやって指入れられて……」
「あっんっ……俺……」
「なに? 教えて?」
「んん……変、です……っ、こんな……なんか、恥ずかしくて……」
 素直に告げながら、真乃先輩の方を見る。
 大丈夫だよって、また優しく微笑んでくれる……そう思ったのに、真乃先輩は、少し企むように笑ってた。
 なに……さっきと違う。
 よくわからないけど、ゾクゾクする。
「うん……恥ずかしいね」
 真乃先輩に肯定されて、より一層、恥ずかしくなる。
 顔が熱くて、たぶん真っ赤になってるんだと思う。
「岬は初めてなのに、指1本でこぉんなに感じて……」
「あ……俺……感じてな……」
「自覚ない? ちゃんと感じてるよ? どこが気持ちいいのか、言って?」
 そっか……俺、感じてるんだ。
 なんか変な感じするのは、感じてるから……?
 でもどこがって、そんなのわかんないし、恥ずかしい。
「言えないなら当てるよ。ココらへん……?」
 真乃先輩の指の先が、感じるところを的確に突く。
「んぅンっ……あっ……ぁあっ」
「へぇ、ココ、いいんだ?」
 狙いを定めるようにして、何度も何度もソコを指の先で擦られる。
「はぁっ……あっ、あっ、あんっ……!」
 恥ずかしい声が洩れてしまい、手で俺は自分の口を塞いだ。
「ん……恥ずかしい声、出ちゃったね」
 真乃先輩に指摘されて、ますます羞恥心が高まる。
「手どかそうか。息苦しくなっちゃうからね」
 いったん指の動きを止めると、真乃先輩の左手が、口を押さえていた俺の手をどかしてしまう。
 息苦しくなっちゃうからだって、そう言ってくれるけど、たぶん優しさじゃない。
 真乃先輩は俺を虐めたいみたいだし、虐めは相手が自覚していないと成り立たない。
 だから、先に教えてくれたんだ。
 サドだから、虐めるって。
 これは、優しい行為じゃなくて、俺を虐める行為なんだって。
 また、中の指が動いて、さっきの感じるところを強く何度も押さえつけていく。
「あっ、ぁンっ! あっ、だめっ……あっ、ぁあっ」
「なにが駄目だって?」
「あっ……もぉっ……あっ、変、ですっ…そこぉ……だめ…ぁあっ、んっ……あんんっ」
「すご……先走りの液、こんなに溢れてる……イけそう? イけるね」
 イきそう。
 後ろからの刺激がこんなにも気持ちいいなんて。
「はぁっ……いくっ、やぁっ、あっ」
「うん。見ててあげる。岬がイクとこ。イク顔も体も、なにもかも全部、見ててあげる」
「やっ……あっ、見な……でっ」
「我慢しないで?」
「駄目、ですっ…やっ、やぁあっ」
「後ろだけでイっちゃうんでしょ? 初めてなのに……ねぇ?」
 真乃先輩の笑み。
 ゾクゾクする。
 なんで?
 わからない。
 涙で視界がぼやけていた。
 駄目。
 イきそう。
「ぁあっ、やっ……やぁあっ! もぉっ、あっ、あぁあっ!」
 恥ずかしくてたまらないのに、イっちゃいそうで。
 体がビクついて、もうイク……そう思ったときだった。
 真乃先輩が俺の根元に指を絡めて、イけなくしてしまう。
「あっ……なっ……」
「ん? イクの。駄目なんでしょ?」
 にっこり笑ってそう言うと、真乃先輩はゆっくりと指を引き抜いた。
 根元に絡めた指はそのままで、真乃先輩は俺の股間のを優しく舐め上げる。
「やっ……あっ、んぅっ……やっ!」
「たくさん溢れちゃって……イきたかった?」
 音を立てるようにして、先走りを吸い取っていく。
「んぅっ、やぁあっ!」
「……イきたい?」
「ん……」
 俺は、そっと頷いて示す。
「じゃあ、岬の指、濡らしてあげる」
 真乃先輩はそう言うと、俺の右手の指を口に含む。
「ん……なに……」
「ね。自分で入れよ?」
 俺の指を取って、ゆっくりと中へと押し込んでいく。
「あっ…ぁあっ…」
「中、すっごく熱いだろ。そのまま自分で動かして。上手く出来たら、イかせてあげる」
 イきたい。
 だからってわけじゃないけど、真乃先輩に手を押さえられたまま、ゆっくりと自分の指を中で動かしてみた。
「んっ……んぅンっ! あっ……」
 自分の指だけど、気持ちいい。
 真乃先輩は、あいかわらず俺の根元に指を絡めたまま、舌先で強く裏筋をなぞる。
「はぁっ……あんっ、あっ、あっ…やっ、もぉっ……」
「なに?」
「いかせ……あっ……だめぇっ」
「ん……腰動いてきちゃったね」
「あんっ……もぉっ、やっ、やあっ」
「イかせて欲しい……?」
「はいっ……ぁあっ」
「しょうがないねー、岬は」
 真乃先輩の指が、やっと俺の根元から離れていく。
 ほっとしたのもつかの間で、真乃先輩は指が入っている俺の右手からも手を離すと、今度は左手をベッドに押さえつけてきた。
 また真乃先輩が企むような視線で俺を見下ろす。
「……いいよ。自由にイって」
 こんな自分で、しかも後ろに指を入れて、イけるはずがない。
 俺は、真乃先輩の視線から逃れるように、顔を横に向けた。
「ぁあっ……あっ、やっ……俺っ」
「自分ひとりで、イけるだろ?」
「やっ……だめっ」
「なにが駄目?」
「イけなっ……あっ、んうっ……後ろだけじゃっ」
「前も触りたい?」
「……はい……あっ……んぅっ」
 真乃先輩は、空いた手で俺の顔を正面に向けさせ、間近で俺を見る。
「……嘘つき。後ろだけでイけるくせに」
 軽くキスをした後、真乃先輩は俺の指に添うように、指を挿し込んできた。
「ぁあっ……あっ、あんっ!」
「キツいねぇ。でも、だいぶほぐれてるから大丈夫だね。ほら……もっと、ココ、強く擦って……ね?」
 真乃先輩の指先が、感じる所を容赦なく擦って突きあげる。
「やぁあっ……あっ、あっ、ぃくっ……もぉいくっ!」
「ほら……俺がちょっとしただけで、もうイきそうになってる。後ろしか使ってないよ。自分じゃ、上手に出来ない?」
「はぁっ、はい……ああっ、あんっ、できな……」
「いいよ。このまま俺が擦って、押さえてあげるから、イこうか」
 このままじゃ本当にいく。
 でもまた止められるんじゃないかって、そう思うと不安になってくる。
「ぁあっ……あっ……あんっ、ほんとにっ?」
「ホントホント。大丈夫。今度はちゃぁんとイっていいよ」
 真乃先輩は、今度は優しく笑って、後ろの指を強く動かした。
「ああっ、あんんっ……やぁっ……先輩っ! あっ、あぁあああっ!!」
 真乃先輩に見られながらとうとうイってしまう。
 恥ずかしいけど、それ以上に気持ちいい。
 初めての感覚だった。
 自分の指とともに、真乃先輩の指が引き抜かれていく。

「岬……すごいかわいかったよ」
「はぁ……」
「どぉ? 気持ちよかった?」
「はい……」
 全然、体に力が入らない。
「……ぐったりしちゃってるね。じゃあ、今日はここまでにしようか」
 俺を気づかってか、そう言ってくれる。
 たしかにぐったりしちゃってるし、続きをしようって感じじゃないんだけれど。
「でも……」
「気にしてくれちゃうんだ? 初めっから全部やると疲れちゃうから、いいよ。ゆっくりで。ね?」
「はい……」
 ここは素直に甘えさせてもらう。
 真乃先輩に頭を撫でてもらっているうちに、いつのまにか眠ってしまっていた。


 翌日。
 目を覚ますと、俺の隣で真乃先輩が眠っていた。
 昨日のことを思い出す。
 なんとなく流れで、あんなことしちゃったけど。
 すごく気持ちよかったし、真乃先輩にとっては、たぶん大した出来事じゃない。
 だから俺が意識しすぎるわけにはいかないけれど。

 あの後、この人、どうしたんだろう。
 別の人とやりに行ったのかな。
 真乃先輩を起さないようにベッドから抜けると、俺はお風呂に入った。

 俺は真乃先輩のこと、好き……なのかな。
 もちろん嫌いじゃないし、たぶん好き寄りなんだけど。
 真乃先輩は、こういうこと誰とでもする人だ。
 最後までしてないけど、真乃先輩が俺をどう思っているのかは、やっぱり気になってしまう。

 お互い付き合ってる人がいるわけじゃなし。
 誰にも気兼ねなくやれる関係だし。
 ルームメイトで、手も出しやすい。
 ……それくらいかな。

 風呂場から出て行くと、真乃先輩は寝転がったままだったけど、もう起きていて、俺に手を振った。
「おはよう」
「おはようございます。お風呂、借りてました」
「そんな丁寧な物言いしなくていいって。じゃ、もうちょっとしたら一緒に朝ごはん食べに行こう?」
「はい」

 やっぱり優しい人。
 初めの恐いイメージはなくなっていた。
「真乃先輩って、すごく面倒見いいんですね」
「……そぉ?」
「はい。俺のこと、すごい面倒見てくれるじゃないですか。それって、ルームメイトだから……」
 そう言いかけたけど、真乃先輩が俺をジッと見るもんだから、ふと言いとどまった。
 俺、なに言いかけてた?
 ルームメイトだから、面倒見てくれてるんですよねって?
 それ聞いてどうすんだ。
 あたり前だし当然のことでも、真乃先輩に『ルームメイトだからだよ』って言われたくない。
「岬、どうした?」
 なんでこんなに寂しい気持ちになるんだろう。
「……真乃先輩が、優しいから」
「………別に岬のこと、ルームメイトだから面倒見てるってわけじゃないよ? まぁもちろんルームメイトの面倒は見るけどさ。昨日、伝わらなかった? 岬のこと好きだって」
 確かに、好きでいてくれるんじゃないかって思ったけれど。
「でも、真乃先輩はこういうこと……いろんな人と出来るんですよね?」
「……出来るよ。出来るけど……誰とでもするわけじゃないから」
 好きだって思える人とだけ……ってこと?
 真乃先輩が言う好きって、どういう意味なんだろう。
 少し気になったけど、俺も真乃先輩に対して、どういう意味で好きなのかわからない。
「岬は? ルームメイトだから、されてもいいって思った?」
 違う。
 ルームメイトだからって理由だけじゃない。
 真乃先輩だったから。
「真乃先輩なら……いいかなって思ってて……」
「うん……おいで、岬?」
 寝転がる真乃先輩の傍に座り込む。
「岬から、キスして?」
 恥ずかしいけど、俺は、そっと真乃先輩に口を重ねた。
 真乃先輩は、そんな俺の頭を優しく撫でてくれていた。

「ありがと。もう一回、はっきり言っておくね。岬。好きだよ」
「まだ、会って間もないじゃないですか」
「んー……岬が寮の申請出してからだいたい1週間たつだろ? その間にリサーチ済みなんだよね、岬のこと。顔ももちろん知ってたし、恋人がいないのも知ってたし。人見知りするってのも聞いてたから……岬が俺を探して真辺先輩のところ訪ねて行ったのとか、すっげぇ嬉しかったんだよね」
「そうだったんですか……」
 なんか恥ずかしいような嬉しいような。
「1日遅れだけど、歓迎会しないと」
 歓迎会……そういえば、真辺先輩がそんなようなこと言ってた。
「俺の情報じゃ、岬、酒飲めるって話だったんだけどなぁ」
 もしかして、俺に合わせてお酒、出したりしてくれてた?
 昨日の夕飯のチャーハンも、俺が好きってリサーチ済みだったりして……。
「飲めるし好きだけど……すぐ酔っちゃうんで、昨日、遠慮しちゃってすいません……」
「いやいや、それはいいよ。そっか、酔っちゃうんだ? じゃあ、翌日休みの日の夜とかに飲もうか。あと、甘い物好きって情報は? 合ってる?」
 ……誰が洩らしてんのかなぁ、俺の情報。
「合ってます……」
「よかった♪」
 真乃先輩はにっこり笑ってベッドから降りると、冷蔵庫からなにかを取り出す。
「はい。朝ご飯の前に。一緒に食べよ?」
 ショートケーキが二つ。
 机に出してくれる。
「あ……いいんですか」
「岬の為に用意してんだから。いいに決まってんじゃん。これ食べたらさすがに朝ご飯、入んないかもしんないけど。どうぞ」
 真乃先輩に勧められて、一口、ケーキを食べる。
「おいしい……!」
「よかった。それで、岬は?」
「え……?」
「俺、岬のこと好きって言ったじゃん? 岬は?」
 ものすごい直球。
「俺は……」
 なんかちょっと恥ずかしい。
「……まだ、よくわかってないんですけど……好き……です」
「会って間もないのに?」
 そうだ。
 俺の方が真乃先輩のこと全然知らないのに、好きになり始めてる。
「すみません……知らないのに……でも、なんか……」
 なんとなく、好きです。
 とも言えずに言いとどまった。
「じゃあ、これからもっと知ってもらわないとなぁ?」
 また企むような笑みを見せて、俺の頭を撫でる。
「俺のこと知って、嫌いならないといいけど」
 それはたぶん、大丈夫な気がしてる。
 なんとなくだけど。
「お酒飲むとか、タバコ吸うとか……そういうのはもう知っちゃってます」
「それだけじゃないよ?」
「……他にもやる相手がいるとか、好きな子虐めたいとか……そういうのも知ってます。これ以上、なにか普通じゃないこと、あるんですか?」
「んー……普通じゃないことってのは、ないかもしんないけど。改めて言われると、そんなんで好きになれるって、岬も普通じゃないよね」
「だって……真乃先輩、すごく面倒みてくれるし……」
 真乃先輩は俺を見て、楽しそうに笑った。
「ありがとう。もっと、好きにさせてみせるから。楽しみにしてなよ」
 そう言うと、真乃先輩は不意打ちで俺にキスをする。
 ケーキのせいだろうか。
 甘くて、蕩けそうな朝だった。