ずっと夕貴が好きで。
でも、夕貴は友達だから。
たぶん、俺のこと、友達としてしか見てくれてないから。
言い出せずにいた。
でも、夕貴の近くにいれさえすれば俺は幸せで。
だから、言い出さない方がいいと思って。
いつも一緒に行動していた。

友達として。

二人で、2年の数学担当の城崎先生襲ったり。
そうやって一緒になんかしてんの楽しくって。

だけれど、夕貴に愛撫されてる城崎先生見てたら、なんか、少し胸が痛んだ。

また、いつもみたいに2人で城崎に手を出していて。
そんなところにちょうど、1年の数学担当である樋口先生が居合わせる。

俺って、そんなあからさまな態度取ってたわけじゃないと思うんだけど、樋口先生にはなぁんかバレちゃうみたい。

夕貴が城崎先生に手を出してる最中。
俺は樋口先生に捕まえられて、城崎先生が夕貴にされているのとおんなじ様な行動を、取られていた。
樋口智巳にされているのに、俺はもう夕貴にされているような錯覚すら起してしまう。
体中が熱くて。
俺は夕貴が好きなんだと、改めて実感した。


そんな俺に気を使って。
樋口先生は、不意に、この場所を引き渡すようにと、言い放ったわけ。

場所を変える俺たちの移動中。
数学担当教師の呼び出し放送がかかった。

もちろん、城崎は呼び出された場所へと向かうわけだし。
俺らは、それを止めてまで遊ぼうとは思っていない。

それに。樋口先生が、わざと放送してくれたのを俺はわかっているわけだし。

俺と夕貴は残されて。
せっかく樋口先生がくれたチャンスなわけで。

「中途半端だし。やる…?」
そう話を持ちかける。
「んー。ダレやる?」
なんでもないみたいに夕貴はそう答える。
「…いや、俺と」
少しだけ、沈黙。
妙な緊張が走る。
「…泉、やれんの?」
確かに、俺は城崎と違って慣れてないし。
やれるかどうかなんてわからなかった。

「さぁ? でも、嫌じゃない」
軽い感じでそう答える。

寮へ戻り、夕貴の部屋へ。
俺らは友達だから。
雰囲気作りなんてもんもなくって。

ズボンと下着を脱ぐと、寝転がる俺の体の上へ、夕貴が圧し掛かる。

キスもしてくれずに、俺の右足の膝ウラに手を回し、深く折り曲げていく。

「んっ…」
足、痛…。

覆いかぶさる夕貴の左腕に、俺の右足がかかる。
その腕の内側に足を入れたいのに、いまさら動かせない。

夕貴に、伝えたいのに、どう言えばいいのかわからなくって。
夕貴の体が、上の方に移動して、俺の目の前に顔の位置を合わせられると、ホント限界。
「っ…イっ…」
「なに…」
準備するように、夕貴が俺の目の前で、指を舐め上げる。

まだなにもされてないけど、キツい。
「っ痛い…夕貴…」
「…はあ?」
「足っ…」
俺は、右足が引っかかってる夕貴の腕を叩いて示す。

そこで、夕貴も、手を離してくれたら問題なかったのに。
頑固だから。
夕貴の性格はわかっているから、こんなん言ったら余計意地になるだろうなって思ったけど、言わないわけにもいなかくって。
「…痛…っ…」
「少しぐらい我慢しろって…」
「んっ…だめっ…っ…痛いってっ」

つい。
上に覆いかぶさる夕貴を押し退けてしまう。

「…泉…。お前、マジで本気で痛いわけ?」
「…本気に決まって…」
「なぁんか、冷めるなぁ」

そんな風に言われたらこっちだって冷める。
つーか、逆に沸騰するんですけど。
「…しょうがねぇだろ、うっせぇなぁ」
「うるさくねぇだろうが。冷めるっつってるだけだっての」
「……うるさいよ、それ」

最後の強がりで。
そう言い残し、俺はすばやく服を着ると、夕貴の部屋をあとにした。

むかつくのか。
わっかんねぇけど、涙が溢れた。

体の硬い俺が悪いよ?
夕貴だって、ただ軽い感じで言っただけだってわかってる。
実際、俺が逆の立場だったら。
あんな風に痛いって言われたら、気まずいし。
ちょっと我慢して、っつって、やり続けると思う。

だって、痛いって言われて『ごめん』って。
そんなのなんか言えないし。
実際、言われても、気まずいかもしんねぇし。
だから、夕貴が言わない気持ちもわかるけど。

そうだ。
ただのヤリ友だったらたぶん気にならない。
夕貴が好きだから。
こんなにも泣けるんだろう。

結局、その日、夕貴と連絡を取ることもなくって。
翌日も。
俺らは離れた場所にいた。

昨日まではあんなに近くにいたのに。
一緒にいて、楽しかったのに。
こんなに簡単に崩れるもんなんだ?

俺は、自分の気持ちを唯一知ってくれている樋口先生に相談を持ちかけることにした。
というのも、恋愛どうこうでなく、体が硬いことに関して。
友達に相談したら笑われそうだし。

放課後。
いつもなら、夕貴と一緒に遊ぶけど。
今日は一人。
寂しいけど、好都合。
俺は、職員室へ行き、樋口先生を呼んだ。


「どうした? 昨日はちゃぁんとうまくいった?」
もちろん、職員室でこんな話が出来るわけもない。
2人で、どこへ行くでもなしに廊下を歩いていた。
「…全然、駄目だよ」
「…なんで? あのタイミングで誘えば、ノるだろ」
確かに、中途半端にヤりそこねた状態で誘って断る男はそうそういないだろう。
精神的な問題ではなく、肉体的問題だ。
「誘ったんだけど。……俺、体硬くて…痛くて」
「痛いって、体が?」
「足とか、折り曲げられると、キツいし。痛がっちゃって、ちょっと言い合いみたいな」
「んー……なるほどね」
馬鹿にはされないみたいで、少し安心した。
「…樋口先生…。なるほどねっていうかさ…なんか、ねぇの? どうすればいいとか」
「ありますけど」
あっさりそう言うもんだから、つい足を止め樋口先生を見る。
「…あるって…体柔らかくなるまで柔軟するとかじゃねぇよな?」
「お前がまず、謝らなきゃいけないっつー嫌な役にはなるだろうけど」
「…俺が、謝んの? 痛がったから?」
ちょっと腑に落ちない。
そんな俺に気づいたのか、
「痛いってさ。下手って言われてるみたいな気がするし」
なにそれ。
じゃあ、夕貴も、凹んだりしてる…かな…。
「…痛いって言っちゃったのはじゃあ、謝ってくるよ。でも、それじゃどうにもならないだろ。またどうせ痛いんだしっ」
「……お前がはじめっから、体硬いからって宣言しときゃよかったんだよ」
んな宣言してどうすんだよ…。

「鯉の滝登りか鵯越でいんじゃね?」
「なにそれ」
そう言うと、俺をいきなり壁に押し付ける。
「なっ…」
体を密着させて。
「…このまま入れんのが、鯉の滝登り。ただ、処女にはキツいな」
耳元でそう言うと、やっと体を離してくれる。
「…もう一つのは…?」
「あぁ。まぁいわゆるバックだけど。どうせなら顔見たいだろ」
「…見られたくないけど、後ろ向きでソコ見られんのも微妙…」
どっちも、恥ずかしいって。
「立ちバックは? どっちもあんま見られない」
「でも、ベッドでする体位じゃねぇだろ」
すると、ため息をついて。
「騎乗位でいってこい」
そう俺に言う。
「な…夕貴の体に跨るわけ…?」
「そうだろ」
「っ…んなこと…出来るかよ…」
「……相当硬い? 正座から足崩せないタイプ? 屈伸みたいな格好で跨ってもいいし」
「それはかかとつけたまま、しゃがめないから不安定だろ」
「夕貴に支えてもらえよ。手、握ってもらえば?」
んな甘々なこと出来るかよ…。
「難しいよ」
「…やぁっぱ、立ちバックか」
ベッドの上でそれは変だし、ベッドが近くにあるのに、使わないのもなんか微妙。
「…っつーか、体位考えたところで、夕貴に言えるわけねぇし」
「数学準備室使うか。あそこの机なら適度な高さだし。お前、手ついて、後ろから夕貴にハメて貰えばいいだろ。あ、あそこにある俺のロッキングチェアー、ちょうどいいかもな。そこで騎乗位でもいいだろ」
なんてことをつらつら言いやがるんだ、この先生は。
でも、それがいいかもしれない。
体も痛くないし。

「思い立ったが吉日生活。っつーわけで、いまから行ってこい。俺が夕貴を放送で数学準備室まで呼ぶから。お前、待ってろ?」
「なっ…」
「…いまさら迷ってんなって。どっちにしろ、謝る気ではいるんだろ」
そうだ。
こんな状態嫌だし。

俺は、わかったと頷いて、数学準備室へ向かった。


10分くらいたっただろうか。
夕貴が現れる。
「…なに、泉も呼び出されてたの?」
少し、不機嫌そうに。
それでも沈黙が耐えれないのか、俺に聞く。
「いや、俺は呼ばれてないけど…」
「……じゃあなに。お前が、呼んだわけ?」
妙な緊張が走った。
「…話があってさ…」
「お前、放送使いまわす権限とかあるんだ? …昨日、城崎呼び出したのも、お前の差し金…?」
怒ってる…?
そりゃ、俺のせいで、城崎とやるチャンスを逃したわけで、中途半端な思いもさせた。

「…ごめん…」
すべて事実だから。
謝るしかなかった。
「…昨日も、痛がって…夕貴に嫌な思いさせたしっ…」
「別にいいけど。…なにがしたいの、泉」
なにがって。
俺を、壁へと押し付けて。
夕貴の顔が見れない。
俯いている俺の顔を上げさせると、そのまま強引に口を重ねられる。
「んっ…!」
急な思ってもいない行動に、体が大きくビクつく。
舌が絡まって、頭がいっぱいいっぱいで。
夕貴って、こんなキスするんだ…?
夕貴が他のやつとしてるとこ、見たことはあるけど、実際されたことはなくって。
初めて。
激しくって。
「んっ…ぅんっ…」
キスだけなのに、体中が熱くって、やばい。
口を重ねたまま、夕貴の手が、ズボンの上から俺の股間に触れる。
「っ!!」
ベルトを外され、ゆっくりと、チャックを下ろされ。
片手でホックもボタンも外してしまうと、取り出した俺のを直に掴んで擦りあげる。
「んっ…ぅんっ…んーっ」
やっと開放された口から、唾液の糸が引く。
見上げると、夕貴は企むような笑みを見せた。
「どうしたの、泉…。キスだけで、こんな硬くして…」
「っうる…さ…っ」
「へぇ…」
夕貴は俺の前にしゃがみこんで、ズボンと下着を引き摺り下ろす。
と、下から俺へとビンを見せ付ける。
「なに…それ」
「ローション。泉、処女だろ」
「なんで、んなもん用意してんだよっ」

「…なぁんとなく。お前がいるような気がしたんだよな。俺、数学で呼び出されることなんてまずないし?」
「…理由になってねぇよっ」
「お前がいたら、やる準備して、駄目なわけ…?」
そう言って、すでに上を向いてしまっている俺のモノにローションをかけていく。
「っんっ…」
ひやりとした感覚に、体が一瞬、震えた。
トクトクと、流れる液が、足を伝う。
「っ…も…かけすぎ…っ」
「ケチらないでいきゃいいだろ」
ローションを纏ったのか、夕貴の指先が足の奥、入り口をぬるぬると撫でる。
「っ…あっ…夕貴っ…」
「…んな不安そうな声出すなよ…。俺のこと知ってんだろ? Sだよ? んな声出されたら虐めたくなる」
そう言って、指をゆっくり中へと挿入させていく。
「っあっ…んっ…んーっ」
「力抜けよ…。ほぉら…1本、入った…。泉…どお…?」
「はぁっ…わか…んなっ…」
夕貴はしゃがんだまま、空いている手で俺の太ももを撫でて。
中に入り込んだ指をゆっくりと動かしていく。
「っぁっあっ…んっ…」

不意に、夕貴が指を引き抜いて、俺を見上げる。
「な…に…」
また、冷めたとか…?
「…お前、別にこういうこと、俺とすんの、嫌じゃねぇんだろ…?」
「…俺は…っ。夕貴の方だろ、昨日、冷めるとか言ってやめたのは」
「ソレはお前が嫌がったからだろ」
「嫌がったんじゃなくって、痛かったんだってばっ」
……なに…。
夕貴は夕貴で、俺が嫌がったと思って、少しは悩んでくれてたりしたわけ?
「…なにかさ、俺が、痛いことしたわけ…?」
…気づいてないわけ?
「…足、痛いって、言っただろ」
「だから、ソレは俺のせいなの?」
じゃあ、なんでもなくただ、あのタイミングで俺が足の痛みを訴えたとでも思ってるわけ?
なんか、変な言い訳で断ったみたいじゃん。
「…体硬いから。あんな風に足、曲がらないんだよ、俺は」
そういうと、夕貴は一瞬、きょとんとして。
そのあと、少し噴出すようにして、笑う。
「なっ…」
「なにそれっ、泉」
「っなにそれって、なんだよ。俺は真面目に…っ」
「あぁ。わかった。わかったから。俺が悪かったよ」
立ち上がって、俺の頬を撫でてくれる。
「…俺は…ホント、真剣に…っ。お前に悪いと思ったし。どうすればいいのかわかんねぇし」
「じゃあいいよ。お前の痛くない体位にすれば…」
そう言うと、背もたれが大きい角度に開いたロッキングチェアーのようなものに座り込む。ほぼ、寝転がっているような状態だ。
…樋口智巳の言ってたやつだよな…。
「こいよ…。跨れって」
「なっ……跨れって…んなこと…っ」
「だって、お前、体硬いんだろ?」
しょうがなく、緊張しながらも、俺は足に絡まるズボンや下着を抜き去り、夕貴の体を跨ぐ。
立ち膝状態で、夕貴の体を跨いでいると、すかさず夕貴の手が、下から俺の股間を撫でて、指を挿し込んでいく。
「んっ…ぁあっ…」
「わかる…? 2本、入ってんだよ…」
そう言って、その指で中を押し広げる。
「ぁっあっ…くっんっ…夕貴っ…あっんーっ」
「どうした…? 急に不安そうな顔になってんよ…?」
「やっ…あっ、拡げんなっ…」
「ふぅん…。でも、拡げねぇと、俺のが入らないだろ…?」
2本の指が中を探って。
感じる一点を見つけて擦る。
「ぁあっ…」
体がビクついて。
夕貴の肩に置いた手で爪を立てる。
「んー…? どうした…?」
わかってるだろうに、そう企むような視線で俺を見つめて。
無性に恥ずかしい。
執拗に、見つけた感じる所を突いていく。
「ぁっあっ…やめっ…ぁああっ」
生理的な涙が溢れた。
「夕貴っ…あっ…そこ…あ、だっめっ、ぁあっ…」
「すっげぇ、感じてんじゃん…」
ゆっくりと、夕貴の指が引き抜かれて。
俺を見上げる。
「なに…」
「…ちゃんと跨がれよ…」
ここまで来て拒めるような状況でもないので、俺はゆっくりと腰を下ろしていく。
と、夕貴のがあたって、ビクついてしまう俺の尻を撫でながら、
「そのまま、腰下ろせって…」
夕貴がそう強く言う。
手で、押し広げるようにして、手伝ってくれて。
腰を下ろしていくと、夕貴のが入り込んでくる。
「ぁっ…キツ…ぃ…っ」
「力抜けよ…」
これでもかってくらいゆっくりと、奥まで入り込んでしまう。
腰を降ろす俺の手を、夕貴が取ってくれる。

まるで、恋人同士みたいに、指を絡めてくれて。
少し下から、突き上げられ体がビクつく。
「ぁっあっ…」
「泉ぃ…お前、すっげぇかわいいな…」
思いがけない言葉に、顔が熱くなるのを感じた。
「なっっ…」
夕貴は、片方、手を離して、俺の腰を掴んで軽く前後に動かす。
「ひぁっ…ぁっあんっ…あっ」
「へぇ、あん、とか言っちゃうんだ?」
俺は、夕貴が離してくれた方の手で、自分の口を押さえるが、体を揺さぶられてはそんな余裕もない。
「んっ…ぅんっ…」
「泉―…手で体支えないと危ないだろって」
その通りで。
自分の体が、後ろに反り返りそうで。
それを支えるためには、やっぱり口を押さえてられない。
その手を、少し前屈みになり、夕貴の肩に置いて、自分の体を支える。
「ぁっあっンっ…ぁんっ…あぁあっ…」
自分のこの声が、どうしようもなく、たまらなく恥ずかしかった。
いっつも友達で。
一緒にやることはあっても、俺は、夕貴と一緒で攻める側だったから。
自分がこんな風に喘ぐ姿を、余裕の表情で、じっくりと見つめられて。
「やっめ…っぁあっ…んぅっ…もぉっやっぁんんっ」
「なぁに…もしかして恥ずかしいわけ…?」
顔を覗き込まれ、恥ずかしさから、横を向く。
「ばっかっ…ぁあっ…見んなぁっ…やっぁああっ」
「ふぅん。やらしいなぁ。泉」
「あっ…ばかっ…ぁっあっ…やめっ…動かなっ…」
そう言う俺を無視して、下から夕貴は俺を突き上げ、感じるトコロを刺激する。
「やぁあっんぅっ…もぉっっ…やっ…やだぁっ…夕貴ぃっ」
「どうして? ホントに嫌?」
まるで自分の体じゃないみたいで。
耐え難い初めての感覚だった。
「ぁあっ…変っ…やぁっ夕貴ぃっ…体がっ…ぁあっあっ…」
「ふぅん…なにそれ? そんなに気持ちイイの?」
その感覚が、『気持ちイイ』だと夕貴に教えられ、そんなところで感じて、異常を伝えたことが、さらに羞恥心を煽っていた。
「違っ…ぁあっ…っやっ…あんっ…ぃくっ…あっ夕貴ぃ…だめっあっ…んぅっ」
「気持ちいいのかそうでないのかどっちなんだよ」
上手く頭が働かない。
いっぱいいっぱいだった。
「ひぁあっ…ぃいっ夕貴ぃっ…あっぁあっ」
夕貴は企むように笑って。
「ばぁか」
そう言いながら、俺の腰を激しく揺らす。
「やっ…あぁあっ…もっやぁっあっ…」
「んー…? 中、出していい?」
「っだっめっ…やっあっ…」
ガクガクと体が揺さぶられて、頭がくらくらした。
「夕貴ぃっ…あっぃくっ…もぉっやぁあっ…あぁああっっ」


夕貴のが、流れ込んでくるのが理解できた。
こんな風に大きな声を上げてイってしまうのがものすごく恥ずかしい。
けれど、そんなこともちゃんと考えてられなかった。

夕貴が抱きしめようとしてくれるもんだから。
絶対、この体勢から、夕貴へと体を預けたら。
痛いよな…。
そう思いながらも、夕貴の方へと体を倒れこませる。
「泉…」
やっぱり、めっちゃ痛いし。
足、伸ばさないと死ぬって。

抱きしめられている余韻に浸る隙もなく、俺は体を起した。
「はぁ…」
頭が、ボーっとしていた。
「…泉はさ…。別に俺とやるだけで、抱き合ったりするつもりはねぇんだ?」

そう言われてしまう。
なにそれ。
つまり、やるにはやるけど。
抱きしめあったり?
欲求不満の解消にならないことはしないんじゃないかって?
「…そういうわけじゃ…なにそれ」
「いまだって、逃げてんじゃん」
「……だから…それはしょうがねぇだろ。…痛ぇんだから」
「なにがどう痛いわけ? 意味わかんねぇし」
「太ももあたり、痛ぇんだよ。んな風に体曲がんねぇんだって」
ホントに、無理だし。
「んなに、硬いのかよ」
さっきは、笑ってくれたのに。
今度はため息をつく。
呆れた…?

「…っ夕貴が…起き上がってくれれば…」
そう言う俺の頬を撫でながら。
言葉通り、夕貴は起き上がってくれる。
「…つまり泉は、抱きしめられたいわけ?」
「っ…そういうわけじゃっ…。ただ、夕貴が起き上がれば、可能ってだけで…っ」
「あっそ」

つい、言ってしまった言葉に対して、そっけない返事。
嘘。
ホントはたぶん、抱きしめてほしいとか思っちゃってる。
「馬鹿かよ、お前」
呆れるような口調で、また夕貴が俺に言う。
「なっ…はぁ?」
「んな不安そうな顔すんなって。言われなくても抱きしめてやるから」
そう俺に夕貴が抱きつくけれど、なんだか無性に恥ずかしい。
「っんな顔してねぇしっ」
「わかんねぇわけねぇだろ」
やばいって。
んな言われ方したら、体が熱くなる。
「…結局、泉はさ…。俺と、抱き合うつもりはあんの?」
もう一度。
さっきの問いかけ。
夕貴の表情は確認できなかった。
「…なにそれ…」
「だって、俺ら友達じゃん? いままで一緒に他の誰かやってきてさ。相手がいないからって、お互い欲求不満の解消すんのはわかるけど、普通に考えて、抱き合ったりする意味わかんねぇじゃん」
「夕貴は、これ、欲求不満の解消だって思ってるわけ?」
「違ぇよ。例えばだって。俺は、そんなつもりで今、お前とやったわけじゃねぇし」
ものすっげぇ、ドキドキしてんのが伝わってしまいそうで。
だけれど、夕貴が俺の体をキツく抱きしめてくれるもんだから、逃れられなかった。

「俺、夕貴のこと……友達だけど…友達に、見れねぇよ…」
なんとなく、泣きそうな声が出て。
やっと、俺は夕貴の背中に手を回した。
「だから、夕貴と抱き合ったりする意味だってあると思ってる」
「泉…なに、お前、泣きそうな声出してんの…?」
そう言って、頭を撫でてくれて。
涙が溢れた。

「夕貴は、俺のこと、友達って思ってくれてるかもしんねぇけど、俺は…夕貴が…好き…」
夕貴は俺の体を少し離して、そっと口を重ねてくれた。
「んっ…」
「馬鹿か、お前は。なんで泣くんだよ」
なんとなく。
友達を好きになってしまうのは、裏切り行為のように思えた。
それが伝わったのか、
「俺だって、お前のこと前から好きだったし。お前が泣く必要ねぇよ」
夕貴が。
俺のこと好きって…。
「なに、言ってんだよ、夕貴…」
「はぁ? だから、お前が好きだっつってんだろって」
「いつから?」
「だから、前から」
「だったら、なにお前、俺と一緒に他のやつヤってんだよ。早く言えって」
そう言うと、夕貴があからさまに舌打ちする。
「俺と一緒に平気な顔して、他の奴、ヤってる泉に、告れるかっての」
「っ……それはこっちのセリフだろーが。夕貴は、どっちにしろタチだし、俺の方がっ…」
俺は、夕貴と一緒に別の奴、やってたとき、攻める側だった。
だから、まだマシだろっての。俺の方が…っ。
「夕貴が他の奴、攻めてる姿、ずっと見せられてきたんだよ…?」
「俺だって…。泉、こないだ樋口智巳に手、出されてただろ。あんなん見せられてさぁ。平気なわけねぇし」
気づいてた?
城崎とやってて、全然、こっち見てないと思ってたのに。
俺のこと、見ててくれてたんだ…?
それが、なんだか嬉しくて。
もう一度、抱きしめた。

「夕貴…」
「泉のこと…彼女って思ってもいいわけ?」
「ん…俺もいい…?」
「当たり前だろって」
「でも…俺、夕貴と、いままでみたいにいたいし」
「なにそれ。恋人になりたくねぇってこと?」
「そうじゃなくってっ…。付き合いたいけど、いままでみたいな付き合い方もして欲しくて」
「馬鹿かぁ? いままで以上になるんだろうが。友達じゃなくなるわけじゃねぇんだよ」
そっか…。
友達っていう関係が崩れたら。
もう俺らは、仲良くなれないんじゃないかなって思ってた。
だけれど、もともと、俺らってそんな軽い友情じゃなかったし。
離れて行動することも考えられなかったから。
肩書きが変わってももちろん、ずっと一緒にいることには変わりなくって、友達みたいな行動するんだろう。
だから、俺らは恋人同士でもあるけれど、友達でもあるんだ…?

それを確かめるように、お互いまた、口を重ねた。