「陸〜♪ほら、コレ。かわいいっしょ」
インターホンの音がして、ドアをあけた先に立っていた拓耶が、いきなりすっごいロリ服を見せびらかす。
「……まぁ、かわいいけど…なに? 写真部の…?」
「そ…。陸、着て♪」
「嫌」
拓耶に背を向けて、部屋の中へとまた、入り込む。
「即答しんでもいいじゃん…? な…陸…」
後ろから…ギュっと抱き締められて…
「…ちょ…離し…」
思いっきり振りほどきたいのに、それってなんだか…
力の問題もあるのだろうけど、いろいろと無理で…。
「陸…今日、美術部にさ、写真部の子が来てさ。それでその子の相談相手になったんだよな」
そう、しゃべりながらも、拓耶の手がそっと下の方…俺の股間へと触れる。
「…っ………や……」
「…急に…おとなしくなるよな…陸は」
悔しいけどそのとおりで…。
こうゆうことされると、なにも言えなくなる…。
「奥に…ルームメイト…が…」
「ふぅん……声、聞かれそうだから、やめとくな?」
俺の体から離れると、俺のことも置いて、拓耶は部屋の奥へと入っていく。
拓耶にとって、こういった行為はただの冗談なのかもしれなくって…
本気なのかもしれない。
たまに、それが分からなくって、妙に切ないような気持ちになっていた。

「ゆきちゃ〜ん、ちわっす♪元気だった??」
「拓耶先輩、ちわっす〜♪元気元気………って、昨日も会ったのにぃ…」
ゆきちゃんってのは…俺のルームメイトで、名前、ゆきじゃないのに、拓耶は『ゆきちゃん』ってあだ名をつけている。
まぁ、本人が嫌がってないんなら、俺が口出しするまでもないけどさ。
ホントは、『せつ』って、これまたかっこかわいい名前なんだけど…。
漢字が『雪』なもんだから、拓耶は、ゆきちゃんって言っていた。

「あぁあ、ゆきちゃんは、今日もかわいいねぇ。美術部おいで。デッサンのモデルにさぁ? 部長もいい人だし、お菓子くれるよ」
菓子でつるなっての…。
拓耶は、いい子いい子するみたいに、雪の頭を撫でる。
「これ、着てみない?」
そう言って、さっき俺に着せようとしたロリ服を雪に見せる。
さっきは、俺に言ったくせに…誰でもいいのかよ…。
「かわい〜。着てもいいの?」
「いいよいいよ。陸、着てくんないし」
俺の方も見ずにそう言って、拓耶はずっと雪としゃべり続ける。
いつもいつも…。
俺に会いにきてるのか、雪に会いにきてるのか、わからないって。
「…ちょっと出かけるわ」
そう言い残して出て行こうとすると、拓耶も雪になにか言い残してから俺についてくる。
「…なに…?」
「なにって…さ。俺、陸に会いに来たんだけど。陸がいないんじゃ困るじゃん」
ドア付近で、そっと俺にだけ聞こえるような声で真面目に言う。
あぁ…
こいつって、ベラベラしゃべるけど、それってホントはわりと気ぃ使ってて…
疲れるんだろうなぁなんて思う。
「不意に、真面目んなって言うなよ…」
「…俺は、いつも真面目だって」
軽く笑ってそう言うけど、誰がどうみてもいつもふざけてる。
でも、ホントは、いろいろちゃんと考えて、それでいてふざけてるってのは分かってる。
どこに行くでもなかったけど、とりあえず2人で、部屋を出た。

「陸……機嫌悪い…?」
「…別に…」
「キスして?」
「嫌…」
誰がするかよ。
「…じゃ、俺から」
拓耶は俺を、壁に押し付けて口付けようとする。
「…っ…」
俺は、それから逃れるように、思い切って下を向く。
「……陸……」
目を瞑って構えていると、そっと首筋に触れるのが分かる。
「っ…あ…拓耶…」
首筋の感じやすいところを吸い上げられて、体に力が入らなくなって…
「ンっ…ぅくっ…」
手とか、痺れるような感じがして、耐えられなくって指を噛む。
「…どっか、遊びに行くか」
口を離すと、何事もなかったみたいに、俺の方も見ずにそうやって言った。
「…ん…」
俺の方は力が抜けちゃってるんだけど…。
拓耶の少し後ろをついて歩いた。
「…拓耶…」
「…なに? あー、美術室か、保健室か、化学室か、写真部部室あたりにする?」
あいかわらず、元気よくそうやって俺に聞く。
首筋にキスした後、こうやって何事もなかったみたいにするのは、俺が嫌がるからだ。
キスした後に、変に余韻を残して見られると恥ずかしくてたまらなくなる。
ほっといて欲しいとか思う。
拓耶は、それをわかってくれて、俺の少し前を歩いてくれていた。
俺が自分から出来るのは、その後に、少しだけ早歩きで、拓耶の横に並ぶくらいで…。
拓耶のためにしてやれることなんてなにもなかった。

俺よりもずっとたくさん、拓耶は俺のためにしてくれて…
俺はなにもできなくて…。
自己嫌悪に陥る。
こんなことくらいなら、付き合わないで、ずっと友達のままだった方が幸せだったんじゃないかって…。
思うことが最近よくある。
拓耶が、俺に気を使ってくれて…
俺には、それがちょっと重荷で…。
「…保健室…」
「柊先生、いるかな♪」
一緒にいて、嫌なわけじゃない。
友達としては、すっごく付き合える。
ただ、性的関係になろうとすると、俺がどうも恥かしがるから…。
それでいて、それに対して気を使う拓耶がいた。

「…拓耶……。そのさぁ…俺たち……」
「なに…?」
いつもいつも…いつも…
そうやって、さわやかに楽しそうに…
そんな笑顔が、辛くって、何も言えなくって…
「陸…」
一旦、振り返って俺の方を見て、また前に向き直る。
「…そーゆうさ…苦しそうな顔、陸にされると、いくら俺でも、作り笑いとか出来なくなるから…」
「ん……ごめん…」
そっと、掴まれた手に指先が絡まって…
少し、恥かしさもあったけれど、俺はそのままで、振り払おうとはしなかった。

拓耶は俺を好きでいてくれて…
俺も拓耶を好きなのに、上手くいかなくって…
俺が、素直じゃないせい?
頭が重い。
遊びに行くという予定だったが、保健室につくころには、本格的に頭が痛くなってきて、休みたくなっていた。


「うぃっす♪柊先生、今日は陸を連れてきた」
「あれ…。陸…今日…」
そう…。
今日は、頭が痛くて、部活を早退した。
部活の顧問である柊先生なら、それを知ってて当然だろう。
でも、俺は拓耶が部屋に来て、雪と話していて…
居づらくなったわけじゃないけど、変に嫉妬したのか?
雪に対して『かわいい』とか言ってたり…
俺に会いに来たとは言うものの、誰に会いに来たのかわからない態度を取られたり…
部屋から出たくなっていた。

拓耶は誰にでも優しくて、誰にでも良くしてやれて…
だから、誰にでもわりと好かれて…
それが、俺には嫌だった。
だけれど、独り占めしたいだなんて、わがままなことは言えなかった。
それでいて、手を出されると拒んでしまう自分がなおさら嫌だった。
「…ちょっと…ベット借ります…」
俺はそうとだけ言って、ベットの方へ行く。
「…陸…どっか…悪かった……? ごめんな。俺、部屋に行って…」
「別に…それは構わないよ…」
寝転がる俺のオデコにそっと、キスをして…
また、何事でもないように、別の場所に目線をやって、俺と目を合わせないようにする。
その代わりに、軽く肩を叩いてから、ベットを離れ、柊先生の方へと行った。

なんでもない会話を柊先生と拓耶がしているのが聞こえた。
俺はというと、気持ちの整理がつかなくて、寝るに寝れない状態。
「…陸? 起きてる?」
不意にカーテンの外から拓耶の声がかかるが、答える気力もなくて、ボーっとしたまま、答えずにいた。


「…寝てる…かな…。拓耶…大丈夫…?」
「…ん……正直、辛いよ」
2人の会話が、妙に耳についた。
辛いって…?
俺の…こと…?
柊先生と拓耶が、俺が寝たのを確認してから、言い出したのがものすごくそれっぽかった。
拓耶は、辛いって言いつつも、いつもの高いテンションで冗談めいて言っていた。
「…うーん…ホントは陸のためにどうしてやればいいのか、よくわかってるつもりなんだけど…出来ないんだよね」
「…拓耶はね…。そーゆうの、出来ない性格だもんな…。ほら、どうしても、みんなに優しくするだろ…? もちろんそれが悪いわけじゃないけどさ…」
あぁ…
そうゆうの…拓耶も考えてたんだ…。
拓耶も、考えてくれてるのに…
拓耶はちゃんと考えてくれてるって、わかってるつもりだったのに…
俺、自分勝手だな…。
でも…
独り占めしたいだとか…思っちゃうのは、しょうがないだろ…?
「……そうそう。あいつがさ…しょっちゅう、別れを切り出しそうになるんだよ。そのたびに嫌で、怖くてさ。いつも、笑顔で『なに?』って答えるんだよ。真面目に、『なに?』なんて聞き返したら…本当に言われそうで…。陸が、俺を思ってかさ、笑顔の俺には絶対、悪い知らせは言わないっていうか…そうゆう感じなんだよ」
「わかるわかる…。機嫌のいい奴に、別れ話なんて言えないしな…? そりゃ、機嫌悪い奴にもいいにくいけど…」
「…ん…。俺は…ずるいからね。そうわかってて……わざと陸に別れ話させないようにしちゃってる部分があるんだ」
軽く、笑いを混ぜて拓耶は言い続けた。
拓耶は…俺と別れたくないって、思ってくれてる…?
俺は…拓耶が好きだけど、今の関係は微妙で…。
でも…好きなんだよ…。
「みんなに…いい顔し続けていいのかな〜…俺…」
「…ん…。難しいね…。みんなの前でも、堂々と恋人ってな風でかわいがれるんなら、いいんだろうけど…。陸、嫌がるんだろ?」
「…ん…。人前でいちゃついたりすんの、嫌っぽいし? だから、馴れ合わないようにしてるし…。そうすると、ソコにいる別の子と一緒の対応しかとれなくなるし…」
うん…。
恋人なのに…。
他の人と同じ対応なんて嫌だ…。
でも、そうやって、いちゃついたり…
そうゆうのも嫌で…
拓耶は、俺のことで、こんなに悩んでくれるんだ…?
「……2人きりの時はどうなの…? そーゆうときに普段、他人にしてないくらい、かわいがってやれば…」
「……あー…。陸は……さ…。…性的なことは、苦手だから…」
軽く、苦笑いでもしてそうなのが浮かぶ。
そう…だよ…。
もし、俺が2人きりのときに、拓耶にいろいろやられてたとしたら…
普段、他の人と同じ対応とられても、なんにも思わないというか…
2人きりのときがあるから平気って思える気がした。
「まぁ…2人の関係をさ、深くまで聞こうとは思わないけど…。好きなら、後悔しないように…しろよな…」
「…ん……。ちょっと……この部屋、貸してくんない…?」
「…いいよ…。じゃ、俺は職員室で、宮本先生と遊ぼっかな…」
そう言って、柊先生が保健室を出るのがわかった。



拓耶がベットの方に来るもんだから、俺は妙に緊張していた。
横を向いて寝転がっていたおかげで、目を開けていても、拓耶からは寝ているように思われるだろう。
予想外にも、横を向いた俺の視界にちょうど入るベットに拓耶は寝転がる。
拓耶は仰向けになって、自分の腕で目を隠していた。


「…拓耶……」
横向きになったまま、俺が声をかけると慌てて拓耶は俺の方を見る。
「陸…っ…。起きて……あ…柊先生、今ちょっと職員室行っちゃって…。陸も寝てるし俺も寝よっかなぁなんて」
元気よく…
いつもの高いテンションで拓耶は口に出すけれど
少しだけ目が潤んでいるように見えて、無理やり笑顔を作ってるのがわかった。
柊先生と、話してるとき、無理やり冗談っぽく…何でもないみたいに話してたんだなぁって…。
「…もう……無理…すんな…」
「…無理って…なに?」
笑いながらそう答えて、拓耶はベットを降りる。
「……お前の……作った笑顔が…嫌い…」
拓耶の方を向いてた俺は、天上を見上げて、目をあわせないようにしていた。
「なにもかも、1人でかかえこんで…。悩んでるくせに、そんなそぶりは見せなくって…。疲れるだろ…?」
誰にでも…優しくて、笑顔でいつも笑ってて……
「…別れた方がラクなら…別れようと思う……」
あぁ…
俺、言ってて涙が溢れてきてる。
別れがこんなに辛いなんて…想像もつかなかった。
「…陸…」
「…あ…」
拓耶は、ベットの横から俺を見下ろして、力強く俺の口に口を重ねる。
「んっ……んぅっ…」
反射的にどかそうと拓耶の肩におきかけた手を、拓耶に取られベットに押し付けられてしまう。
「陸……」
口を離すと、力尽きたように、拓耶は近くのイスに座って俺の寝ているベットに顔を伏せた。
「…拓耶…」
「…いつか…そう言われるんじゃないかって…思ってた…」
「……拓耶が……他の人に優しくしたりする気持ちもわかるし……嘘で笑顔を作ったり……そーゆうのもわかるし…。…気を使ってくれるのは嬉しいけど……あまりいい気がしない…」
拓耶は、俺の取ったままの手に、指を絡める。
「…ごめん……どうすればいいのか…わかんねぇ…」
こんなテンションの低い拓耶は久しぶりだった。
「でも…俺は、陸と別れたくない…」
「…拓耶……俺と付き合ってて…辛いだろ…」
「…辛いわけない…じゃん…?」
「…無理やり笑うな…って…。俺は…辛い…」
恋人ってなに…?
「…陸が辛そうにしてんのは分かるよ…。だから少しは俺も辛いけど…それは、陸が辛そうだからであって……。俺自身は、陸と付き合ってたいし…。陸が辛そうにしてんのは…俺のせい…だろ…?」
あぁ…
拓耶のせい…。
拓耶が辛いのは、俺のせいで…。
俺ら…上手くやっていけない。
でも、それは、俺らが、相手のことを想いあってる証拠でもあるんじゃないかとか考えてしまう。
なんとも思っていない相手だったら、辛いなんて感情は生まれてこない。
「…陸……好きだから……辛いんだ…」
「…ん……」
「…俺はさ…誰にでもつい、いい顔しちゃって…。陸には悪いって思ってるよ…。陸は、辛そうなくせに、俺に何も言ってくれないから…。陸がそーゆうの、言うようなタイプじゃないってわかってんだけど…辛い…」
辛い…?
「…俺は…拓耶が誰にでもいい顔するのが悪いって思ってるわけじゃないよ…。ただ…ちょっと……嫉妬してた…」
言ってて、恥かしくなってきていた。
でも、実際、俺って周りの人たちに嫉妬してたんだよ…。
「…それで…拓耶がまた、俺に気を使って……いろんなこと、やらないでいてくれるのって…嬉しいけど、そうすると他の人と俺って変わらなくって…。むしろ、他の人の方が、拓耶にかわいがられてるように思えたし…。…俺といても気を使わせるだけだろうって……」
そう思った…。
「拓耶は自然なフリしてるかもしれないけど……俺にたくさん気を使ってくれるのが、重荷すぎる…」
付き合うって…
こんな辛いもんなのかなぁ…。
「…別れ…」
「やだ…」
言葉を全部言い終わる前に、拓耶がそう答える。
「…拓耶…?」
拓耶は人に気を使って、あまり自分の感情を表に出さないから、そうやって『やだ』とか言うなんて思わなかった。
「俺は、別れたくない…。別れる方が、何倍も辛い」
あぁ…別れたらもっと辛いんだろうか…。
初めから、付き合わなければよかったなんて思えてもくるよ…。
「…もう……これから……他の人にはいい顔しないから……」
俺の…我がままだよな…。
「…そんなの…お前じゃないよ…。気ぃ、使うなって…言ってるだろ…?」
矛盾してる。
気は使って欲しくないのに…
他の人をかわいがって欲しくなくって…
それはつまりは、俺のためにいろいろ気を使ってくれることと繋がってる。
「…どうすればいい…? ごめん…。わかんねぇよ…。でも…別れたくない…」
どうされれば俺はいいわけ…?
「…今の…拓耶が…いい…」
素のままの状態の…。
「…気を使って…自分隠して無理やり笑ったり…。そんなんじゃなくって、俺といるときくらいは…もっと、さらけ出せよ…。笑いたいときだけ笑って、そうじゃないときは笑わなくていいし…泣きたかったら我慢なんてするなよ…。俺といるときぐらいは…気ぃ、使うな…」
「…それで…いいの…?」
それだけで…救われる。
普段笑って、他の人にいい顔する拓耶を見ても…
本当は、真面目で弱いって…それを見せてくれるのは俺だけだって…
そうゆうのがあれば、辛くない…。
「…そうゆう拓耶を………俺だけが知りたい…」
「ん……。今の状態だって……こんなん、陸以外に見せた事ない…」
「…今は、感情が昂ぶって…気が回らないだけ……だろ…? そうじゃなくって…普段から、もっと…笑ってない拓耶も見せて欲しい…」
拓耶は、そっと微笑んで、軽く頷いた。




ほとんどなにもしゃべらないで、俺たちは寮へと戻ったが、気まずさとかはなく、なごやかさみたいなものを感じてた。
拓耶といて、こんなにも話さないで時間がたつのは初めてなくらいだった。
「憂〜…今日は会長のとこ、泊まるんだって?? やったね♪」
「なんで知ってっっ…」
「ほらぁ。ルームメイトのことは何でもお見通しってやつ? っていうか、会長発、部長経由、俺着って感じ?」
拓耶のルームメイトである憂は生徒会長と付き合っていた。
そして、その生徒会長が、拓耶の部の部長と仲がいいわけだ。
それにしても、こいつのいきなりのテンションの変わりように少しびっくりしたり…。
テンションが高い拓耶が偽物で、他の人に嘘をついてるとかじゃないけれど…。
少しは、『テンションあげるかっ』とか、心の中で考えてるんだろう…?
テンションは、心の中で決めてあげるもんでもないんだろうけど、拓耶はそーゆう部分は考えてると思う。
もちろん、普段、普通にあがるときもあるだろうけど…。
なんにしろ、ちょっとだけ作られた人工的なハイテンションで対応する拓耶を見ていると、少し気を使ってるんだなって思ったりして……気を使ってない、本当の拓耶を知ってるのは、俺だけなんだよって、思えてくる。
たとえ、このテンションが、人工的でなく、本当にあがったものだとしても、俺といるときとは違う対応で、俺だけが特別な気がして、なんだか嬉しくなっていた。

「優、かわいいよ〜。ほら、がんばっといで」
そう言って、拓耶は優を部屋から送り出す。
かわいい…ね…。
「…陸……? 怒ってる…?」
急に、真面目に聞いてくるもんだから、さっきのテンションはやっぱ偽物なんだなぁってあらためて思う。
「…別に…」
「怒ってるっぽい…。陸にはさ…あんまりかわいいとか言ってやれてないけど……冗談で陸に言うのはあんまり好きじゃないから………。でも…誰よりもかわいいと思ってる…。真面目な状態では、陸以外の誰にも言ってないから…」
よくもまぁ、恥かしいことを言うもんだな…。
それでも嬉しいから…
「…あり…がと…」
恥を偲んで……
それでも恥かしいけど、小さな声で自分の気持ちを素直に伝えてみる。
「どう致しまして♪」
拓耶は、笑顔でそう答えた。