言われると思った。
深月。
中学時代の俺の恋人で。
陸も知ってるやつだった。
「だから、たぶん…素直に受け入れれない…。きっと、お前は、深月にもこんなことしたんだろうなって…そればっか、頭ん中でぐるぐる回って。嫉妬心ばかりがきて。お前のこと、うまく感じれない気がして…。それが、怖くて…」

もちろん、今、俺が好きなのは陸だけで。
深月とはきっぱり別れた。
陸を抱くときに、深月と重ね合わせたりすることもないし、まったく違う対応してる。
それでも。
陸にとって、そういった不安があるのは、理解できる。
「ごめん…」
「深月が知ってて、俺が知らないことが、あるのも嫌だけど…。でも、素直に感じられないのも嫌なんだ…。ごめん。我侭だろ」

陸だけが好き。
それが伝わらなくって。
伝えられなくって。
陸も、理解はしてるんだろうけど、心のどこかで不安な部分は、やっぱり取り除けないんだろう。
「…陸…。お前は、深月と違うよ」
「うん。深月みたいに、かわいくないからね」
陸は、いやみでもなく、本心からみたいにそう言った。
「かわいいよ…」
なんで俺、また、泣きそうな声ばっか出てくるんだよ。
「深月みたいに?」
そう聞かれたら、俺はどう答えればいいんだよ。
うん…なんて言えないだろ?

少しだけ、陸は笑って。
俺の腕を自分の体からどかす。
「ごめん、拓耶。…拓耶が深月を思うよりも、俺の方がずっと深月のこと、考えてるのかもしれない」
「もう、深月と別れてから3年もたつよ」
「俺は、3年たっても、ずっと深月のこと、忘れられないんだよ。拓耶は、忘れられるの…?」
あいかわらず、冷静に、落ち着いた声で、陸は俺に聞く。
「拓耶を…ホントは、困らせたいんだ…。俺のことで、困ったり焦ったり…して欲しくて」
それでも、普段だったら言わないようなことを言ってくれるあたり、口調とは裏腹に、感情が昂ぶってるに違いない。
「陸…」
素直に感じれないかもしれないけど。
「俺のこと、知って」
「…ぅん…。知りたい…」
そっと振り返る陸の口に自分の口を軽く重ねる。
普段なら目を離すところだが、口が離れた直後、陸の表情を伺うと、不安そうな、泣きそうな顔していた。
「陸…。好きだから…」
「……っ…しても…ぃいよ…。だけど、やっぱ、忘れることなんて、出来ない…」
俺の視線から逃れるようにして前に向き直った陸は、泣きそうな声で、そう言う。
もしかしたら、泣いてるのかもしれない。
「拓耶が…深月のこと、好きだったの…知ってるから…」
中学時代。
一番仲のいい友達が陸だった。
深月のことは、いつも相談していた。
必要以上に、なんでも話してた。
そのとき、陸が俺のことを好きでいてくれたのにも気づかないで。
辛い思いをさせてきて。
いまもまた、俺は陸に、辛い思いをさせてるんだ。

「陸の方が、好きだって…気づいたから、別れたんだよ」
「…嘘…」
「深月自身は、はじめから俺のこと、それほど好きじゃなかったみたいだし。ただ…ちょっと付き合ってもらってただけで…」
「じゃぁもし、今、深月が拓耶のこと好きだって言いに来たりしたら、拓耶は、どうするわけ?」
「俺にはもう陸しかいないよ」
もう一度、振り返る陸に軽くキスをして。
自分の口にいったん含ませた指をそっと、前から陸の足の付け根の秘部に這わせる。
「っ…」
「…大丈夫…?」
「…っ…待ってよ…」
「…陸…好きだよ」
「分かるよっ。そう言ってくれるの、嬉しいし。信じてるよ。拓耶が、俺の為にいろいろ気ぃ使ってくれるのとか…申し訳ないなって思ったりもしたけど、嬉しいし…。でも、駄目だよ。無理だよ」
陸の表情はうかがえないけれど、きっとすっごい不安そうな顔で、泣いてるのかもしれないのが声でわかる。
「陸…」
「…同じ言葉、何度も何度も聞かされたんだよ…? 『深月が好き』って。あれは嘘じゃないし、今、俺を好きだって言ってくれるのも、嘘じゃないって思ってる。ただ…同じなのかと思うとよくわからなくて…っ」
俺は、陸の体を無理やりこっちへ向かせて、そっと口を重ねる。

深月が好きだったのは本当で。
それを嘘だとは言えない。
そんなことを言って、陸の不安が取り除けるわけではない。
逆に、言ったら、なにもかも信頼を失いそうで。
嘘で好きだとか言っていたやつだとは思われたくない。
というか、実際、嘘で好きだとは言っていない。
深月は好きだった。
今は陸が好きなんだ。

「跨いで…?」
「っ…出来ないっ…」
「陸…お願い…」
そう頼むと、なにも言わずに、向かい合わせに俺の足を跨ぐ。
俯いたままの陸の顔を、無理やり上げさせて見ようとは思わなかったけれど、少し伺える。
泣いているようで。
俺が泣かせているのだと思うと、ものすごく胸が痛む。
強く抱きしめてやると、そっと陸が俺の背中に手を回した。

泣いてるせいか、少し荒めの息遣いが耳につく。
「気づくのが遅かったんだ…。陸が傍にいてくれないと、なにも出来ない…」
「…っそれは…好きってことなの?」
「そうだよ。好きだよ。いなくちゃ困るんだ…」
俺は後ろから陸の中へと、そっと指先を差し込んでいく。
「っんぅっ…待っ…」
話がまとまってないのに、こんな風にやっちゃうのもどうかと思う。
だけど、このまま言い合ってもどうにも進まない。
やりたいからってわけじゃない。
やらなければわからないこともあって。
きっと先に進めないんだ。
このまままた止めて。
これじゃあまた、繰り返し。

「っやぁっっ…待っ…」
刺激に耐えるように、背中に爪を立てられる。
奥まで入り込んだ指先をそっと、ゆっくり動かして。
「ぁっ…はぁっ…やだ…。…やめ…」
嫌がる陸を無視して、俺は陸の中を掻き回した。



『宮川深月です。よろしくお願いします』
中学2年のときだった。
転校生。
男子校のココにとって、乾きを潤してくれるような、かわいらしい奴。
女みたいなわけじゃない。
だけど、かわいいやつだった。
なんつーか釘付けで。

目が合ったとき軽く笑ってくれる笑顔がたまらなくて。
『拓耶、あぁゆう子、好きなんだ?』
隣の席にいた陸がそう聞いてくれた。
『なんで? わかる?』
『なんか、見とれてるっぽいから』
『あはは♪うん、そうだねぇ』
陸は、俺のこと、すぐわかっちまう。
そのときも、バレバレだった。
『深月くん、かわいいもんね』
『あ、陸は? 好きなタイプとか』
全然、そういった話、したことなかった。
『俺は…ノリがよくってやさしいやつかな』
『へぇ。俺みたいな?』
『ばーか』

そこで、気づくべきだった。
俺ってなんて馬鹿だったんだろうと、本当に思う。
だけれど、そんなん自惚れもいいとこだろ?

『双子なんだね。そっくり』
俺と、拓巳を見比べて、そう言って。
双子だということで、注目されたりするのが好きだった俺はうれしかったけれど、俺とは逆に拓巳は少し、不機嫌そうにしていた。



『陸、男同士ってどう思う?』
『どういう意味で?』
『付き合うってことだよ。変かな』
『別に、いいんじゃない?』
陸にそう言われて。

俺って馬鹿だ。
思い返せば返すほど、馬鹿だと思う。
後悔してる。
『深月に、告白でもするの?』
陸の方からそう聞いてくれていた。
『うーん…。でもやっぱ、男同士って、どうなのよ』
『だから…俺はいいと思うけど…』
『陸は男が好きなわけ?』
『拓耶の方だろ、それは』

陸がなんでもないみたいに振舞うから。
もちろん陸のせいじゃないけれど。

『すればいいじゃん、告白』
『振られたら、怖いだろー』
『大丈夫だって。どうしてこういうときだけ、変に消極的なんかなぁ』
『だって、陸、いきなり男に告られたらどうする?』 
『拓耶にならいいけど』
冗談っぽくそう言った言葉は、きっと本気だったのだろう。
『あはは♪でも、陸にそう言って貰えるとなんか、勇気づいた』
なんで気づかねぇの? 俺。
馬鹿すぎじゃん。



「はぁっ…やだっ…拓耶ぁ…」
耳元で陸の嫌がる声が響く。
集中出来ない。
いろんなこと、やっぱ思い出しちまう。
「陸…」
左手で、陸の体を強く抱いて、そっと2本目の指を差し込んだ。
「っひぁっ…ぁっやだっ…っぁっ…」
「…陸…痛くない?」
「っぅん…っ平気…でもっ…」
背中に回した手に力を入れて、そっとすがり付く。
「わかんないよ…」
奥まで入れた指の動きを止め、陸の頭をそっと撫でてやる。
「わかんない?」
「…俺、したことないから、比べようないけど…っ…気持ちいいよ…。キスだって上手いしっ…。そういうのも、俺にとっては不安材料なんだよ…」
やり慣れてるって…?
「…ごめん…。ごめんとしか、言い様なくって…」
「拓耶が悪いんじゃないよ。俺が…忘れられないんだ…」

俺だって。
忘れられない。
やっぱ、こうやって陸をやろうとしてる今、深月のときどうやったかとか思い出す。

深月を思い出すというよりは、その時の自分。
それと、そのときの陸。
俺の事、どう思ってくれてたんだろうとか、昔の陸を思い出していた。


『陸、振られちゃった』
『え…』
『でも、男同士が嫌とかじゃないみたい。もうちょっと押したら大丈夫かも…なぁんて』
全然、なんでもないフリしても、ホントはその時凹んでて。
そういうのも、見抜かれちゃってたみたいだなぁ。
『そっかぁ。じゃ、がんばりなよ』
『でも、もういいや。あんましつこいのもさ…』
『いいじゃん、しつこくても。それともさ、ホントにもういいの?』
なんであんなに応援してくれたんだろ。
自分のことより、俺のこと、考えてくれたんだよなぁ。


「やめないで…いいよ…っ。いやだけど…やりたいんだ…」
深月のことを思い出すのと、俺のことを知ろうとしてくれるのと。
きっと心の中で葛藤してるんだろう。
「うん…」

『昨日、初めて、深月とやっちゃったよ』
『なにを?』
『なにって、あれだよ』

たぶん陸も俺と同じこと、思い出してる。
泣きそうだ、俺。
周りが見えなくなりそう。

昔、陸に話した言葉がぐるぐる頭を回る。

『はぁあ、俺、緊張しちゃって、全然うまく手とか動かねぇの』
『初めてだったんだろ。じゃ、しょうがないじゃん』

今は?
自分が慣れた手つきをしているのがわかる。

過去のことだと割り切れない。
陸が俺のこと知り過ぎてるから…。
俺が、深月を好きだったこと、知ってるから。
だからって、隠してた方がよかったとは思わない。
やっぱ、隠し事みたいなのは嫌だから。


「陸…」
もう過去のことだよって。
俺が言える立場じゃない。

「俺のこと…一番知ってるのは陸だよ…。わかってる?」
知ってるからこそ、傷つくんだ。
「っ…わかんな…」
「そりゃ、こういうことするのは初めてで、体とかは深月の方が知っちゃってるかもしれないけど…そういうのは、今からすぐにでも追いつけるだろ」
「……ぅん…」
少しだけ、納得してないようだけれど、そっとそう言い頷く。
「なんでも隠さず言ってきて。…すべて陸にさらけ出したよ」
「うん…」
「全部、言ってきちゃったから、陸はいろいろ言い出せなくなっちゃったんだよね」
俺が、深月を好きだって、わかっちゃったから。
だから、陸は俺を好きだとなかなか言えずにいたんだろう?
「どう思う…? 俺、隠した方がよかった…?」
ぎゅっと、もう一度、抱きしめなおして、そっと耳元で聞いてみる。
「陸のこと考えずにいろいろ言っちゃったのは、やっぱ後悔してるけど…。でもね…陸に隠すなんて嫌だったし…。わかる?」
「…わかる」
ギュっと俺に抱きついてくれて。
「俺も…拓耶に…言ってもらえて、よかった…」
そう言われて、気持ちが少し軽くなるのを感じた。
「…陸、少し、動かすよ…」
そう教えてやってから、そっともう一度、指で中を探る。
「っあっ…ぁあっ…拓耶ぁっ…」
刺激に耐えるように、陸が必死にしがみ付いてきて。
「大丈夫?」
「ひっぅっ…やっ…やぅっ…拓っ」
かわいくてたまらないから、強く抱きしめたまま、放してやらない。
「なに…?」
「…っぃきそぉっ…やぁあっ…駄目っっ…やあっ」
「…好きだよ…。イっていいからね…」
そっと頬にキスをしてあげる。
「っぅンっぁっあっ…やぁあっ…あぁあああっっ」

陸がイったのがわかる。
恥ずかしがるとかそんなんより、放心状態。
そっと、俺にしがみ付いてた力が少し緩むのを感じた。