「大丈夫? 静紀…」
篠宮先輩はいつでも俺を気遣ってくれる。
頷く俺をそっとベッドに運んでくれたり。
体を拭いてくれたりして。
俺は疲れてそのまま寝ちゃうんだ。

起きたとき、隣で眠っている篠宮先輩を見て幸せを実感する。

この人は、俺のことすごく好きでいてくれてるんだろう。




出会ったのは、今年の夏休み期間中に図書室で。
篠宮先輩の方から積極的に声をかけてくれていた。

こんな風に求められるのってやっぱり嬉しいし。
でも、不安もあった。

前の彼氏だってすごく優しい人だったんだよ。
だけれど、俺ばっかりがしてもらって、なにも返せなくって。
そのときはそれでいいと思ってた。
なにも言われなかったから。
俺ばっかイかせて貰っちゃって、そのまま眠らされて。
甘え過ぎてたんだ。

自分ばっかり気持ちよくなってんなって言われた。
たぶん、満足してたのは俺だけで。

人が恐くなった。

俺が何度も早くイっちゃうのがいけないのかな。
でも、しょうがないっていうか。
……我慢しようとは思うけど。
好きな人にそんなことされたら、気持ちいいからすぐにイっちゃうし。

イったあとはぐったりしちゃうし。
ぐったりしちゃってる俺に、手とか出しにくいんだろうなってのはわかってる。

前の彼氏同様、篠宮先輩だってたぶん、すごく気を使ってくれてて。

構わないから寝ていいよって言ってくれるんだ。
それって嬉しいけれど、罪悪感が生まれる。
またどこか心の奥で、本当は俺のこと……っ。

もう嫌われたくないんだよ。

篠宮先輩には元カレの話もした。
だから、わかってくれている。
俺が、そういう経験してきたこと。

あのときは辛かったんだ。

『静紀が気持ちいいならいい』
そう言ってくれた篠宮先輩のこと、全部信じきるのってやっぱり恐いんだよ。

篠宮先輩…自分も気持ちよくなりたいって言い出しにくいのかな…。
俺が、傷ついてるから。
だから、優しいのかなぁ。


篠宮先輩のこと、俺も気持ちよくさせたい…。
させなきゃ。

金曜の夜は、決まって篠宮先輩の部屋に泊まっていた。
ルームメイトはいつも出ていってくれる。

「静紀♪ いらっしゃい」
笑顔で俺を出迎えてくれて。
そのまま抱きしめられて、口を重ねる。
篠宮先輩のするキスは、なんだかすごくいやらしい。
……俺だけがそう思ってるのかもしれないけれど。
頭がボーっとして、すぐに体が熱くなる。

このまま、いつも足のもつれる俺をベッドに運んで、丁寧に愛撫してくれる……んだけど。
「っ…待っ…」
ちょっと強引に、篠宮先輩を引き剥がす。
「…静紀…?」
このまま流されちゃいけないんだ。
これじゃあ先に進めない。

「どうした? 静紀…。いや?」
そんな心配そうに見つめないで欲しい。
いやなんかじゃない。
「違う…んだけど…っ。俺…いつも一人だけ気持ちよくなっちゃうんで…っ」
「いいよ。かわいい静紀が見れるから」
「っ…だめ…こんなんじゃ…っ」
俺の腕を取る篠宮先輩の手を、つい勢いで振り払ってしまう。
「静紀……」
「っ…違っ…。ごめ…んなさい…。俺…」
篠宮先輩に嫌われたくないから。
篠宮先輩が俺にしてくれることを拒むつもりはないのに。

「俺…篠宮先輩にも、ちゃんと気持ちよくなって欲しくて……。だからっ…今日は俺が…」
恥ずかしいけれど、篠宮先輩の手を取って、ベッドへと連れて行く。
「…駄目……?」
「駄目じゃ…ないけどっ。俺は別にいいんだよ?」
ベッドの上で座る篠宮先輩の足の間へと座り込んで、先輩のズボンに手をかける。
ベルトを外して、チャックを下ろすと、下着越しに篠宮先輩のソコが硬くなっているのがわかった。

いつも…こうなってたのかな…。
なのに、俺のために我慢してくれてた?
俺、やっぱり怒られてもしょうがないんだ。
こんな状態で、ほっとかれて、先に寝ちゃったり。

怒られたくないとか嫌われたくないって理由だけじゃない。
本当に、この人のこと、気持ちよくさせたいって思ってる。

俺のことすごく気遣って、可愛がってくれる大好きな人だから。

「…出していいですか?」
「いいよ…」
そう言ってくれる篠宮先輩を確認してから、そっと下着をおろして取り出した。

初めて触れる篠宮先輩の。
というか、人のに触れるの自体はじめてだ。
熱くて大きくて。
俺のと全然違う。
どれくらいの強さで握っていいのか、自分のと違うからいまいちわかんない。

なるべく優しく握って、そっと上下に擦り上げてみる。
「っ…静紀……」
俺を呼ぶ篠宮先輩の声は、なんだか色っぽくて体が熱くなる。
右手で何度も擦りあげてると、篠宮先輩は俺の左手を取った。

「かわいいね…静紀…。すっげぇ指細いし。静紀の手が一生懸命、俺の擦ってんの…すごくいいよ…」
そう言って、俺の左指に舌を這わす。
「っ…!」
今、すごくゾクってした。
指が、篠宮先輩の口に含まれてしまう。
「んっ…やっ…」
右手、上手く動かせなくなるよ。
舌が絡まって、気持ちよくて。
「っ…やっだ…っ吸わないでくださっ…」
「ん…どうして…?」
しゃぶったまま、しゃべるからいやらしく唾液の絡む水音が響いた。
「…っ出来なく…なっちゃうんで…っ」
「…そぉ? 静紀も、もう熱いんでしょ…? 一緒にしよ…」
熱い。
一緒に?

言われるように自分のを取り出す。
もうすごく濡れてて恥ずかしくなった。
篠宮先輩に体を近づけて、篠宮先輩のモノと自分のモノが触れる。

熱い。
「っ今日は、俺が…するんで…っ」
「…わかった」
とはいえ、いまいちわかんないんだけれど。
今度は両手で2本、一緒に持って、擦りあげてみた。
「ぁっ…つぅ…っ」
熱い熱い。
俺のが熱いの?
篠宮先輩の?
わかんない。
手が動いてんのか腰が動いてんのかも。
自分の手で擦られるのと、動いてしまう腰のせいで、篠宮先輩の裏筋が俺の裏筋を擦ってくれるのと。
2つの刺激が、交じり合う。
「あっっ…やっ…やぁっ」
なにこれ。
気持ちいい。
「静紀…気持ちいい?」
そう聞きながら、先輩の指先が俺の亀頭を撫でる。
「っぁあっ!!…だめっ…そこ…っ」
ぬるってした。
「どうして?」
「あっ!……やぁああっっ!!」

駄目だって、言ってるのに。
篠宮先輩が触るから。
俺だけ、イってしまう。

涙が溢れた。
「静紀…。どうして泣くの」
「っ…また…っ…俺だけ…っ」
「気にしなくていいんだよ。そんな負い目感じるなって」

どうしてそんな優しいこと言うの?
「俺が、元カレに傷つけられたから…? だから、優しいんですか?」
そう聞く俺の体をそっと抱きしめてくれる。
「…静紀…。同情で優しくしてるわけじゃないよ? 単純に静紀が好きだから」
「…怒らない…?」
「怒らないから」
ずっと、引きずってた。
前、自分のことしか考えられなくて、怒らせて恐くて。
篠宮先輩も、いつか怒るんじゃないかって、恐かった。

でも、怒らせないようにすることももちろん、大切だけれど。
篠宮先輩のことちゃんと好きって想う気持ちの方が大事なんだよね…?

「篠宮先輩…もう中…入れてください…」
「ちょ…静紀、いきなりキツいだろ」
「でもっ…」
前はイけば満足だったかもしんないけど…。篠宮先輩がイってくれないと満足出来ない。
たぶん、こう思える時点で、前とは違うんだ。
イって、疲れちゃうこともある。
だけど、消化不良なんだよ。

相手に気持ちよくなって欲しいって。
その気持ちが強く膨れ上がる。

けれど、言ってみたものの、自信はない。
いきなり入るわけでもないし。
また指だけでイかされちゃいそうだし。

「じゃあ…篠宮先輩の…舐めさせてください」
「あ…いや、いいんだけどっ。もうちょっと言い方とかっ…。いや、いいんだけど…っ」


俺は、篠宮先輩の前に屈んで、硬いままのそれに目線を合わせる。
横から、そっと舐め上げた。
篠宮先輩の手が、俺の髪を掻きあげて、頭を撫でてくれて。
その感触ですら心地よかった。
「静紀……気持ちいよ…」
「んっ…ほんと…?」
「ほんと」
俺の手で大きくなって硬くなって。
舐めあげると熱くて。

先の方から溢れる液。
…本当に、感じてくれてるんだ…?

好きな人が自分の愛撫で感じてくれてるって、こんなに嬉しいもんなんだな…。
じゃあ、篠宮先輩も、感じてる俺見て、嬉しいって感じてくれてたかな。

先走りの液を、確認するよう口付けて軽く吸うと、篠宮先輩の体が軽くビクついた。
俺を撫でる手が止まって、代わりに頭を掴まれる。

咥えれる…かな。
歯を立てないよう咥え込んで、舌を絡めた。
「ん…っ…静紀…やばいよ…」
「はぁっ…ぃい…ですか…?」
「ぅん…っ…ぁ…イきそうだから…っ。口、離し…っ」
イきそうって。
その言葉が嬉しくて、イかせたくて。
口付けたまま、舌で舐め上げたまま、竿を手で擦りあげる。
「んっ…静紀…っ…イくから…っ離して…?」
感じてる篠宮先輩の声。
その声で、自分の名前を呼ばれるのはものすごくたまらない。
篠宮先輩は優しい口調で、そっと俺を引きはがそうとした。

先の方を咥えたまま上を見上げると、色っぽい表情の篠宮先輩と目が合った。
俺がこのままがいいっての、わかってくれたのか、そっと頭を撫でてくれて、俺もまた、下を向いて篠宮先輩の愛撫に専念した。

舌を絡めて、軽く吸い上げて。
篠宮先輩の荒い息遣いが、耳に届いていた。

「静紀…ぁっ…出すよ…。ぃい? はぁっ…あっ…くっ…んんっ!!」
「ンぅんっ!!」
口の中に、篠宮先輩のが流れ込んで、その衝撃につい口を離してしまう。
上手く飲みこめなくて、残ったモノが顔にかかった。

「っ静紀っ…。大丈夫?」
「俺…っあっ…全部、飲もうとしたんですけど…」
全部飲んで、最後まで吸い上げて、感じさせたかったのに。

「すごい…気持ちよかった。静紀…ありがとう」
「…はい……」
「でも、無理しなくていいからね。俺は、静紀が好きだから。苦しまないで」

好きな人が、気持ちよくなってくれるのが、こんなにも嬉しいだなんて。
不思議な感覚だった。
自分も気持ちよくなりたいなって気持ちも多少生まれるけれど。
…これが、何度も続くとそういう気持ちが膨れちゃうんだろうな。

だから。
いずれはちゃんと、2人で一緒に気持ちよくなれたらいい。
そういう思いとは裏腹に上手くいかないことも多いんだろうけど、篠宮先輩なら俺の速度に合わせてくれるんじゃないかって。
「篠宮先輩…。好きです。
俺より、篠宮先輩の方にたくさん負担かけちゃいそうなんですけど…。
一緒に、いてくれますか…?」
篠宮先輩は、俺の体を抱き寄せて、応えてくれた。
「いるよ。ずっといるから」
「…俺で、気持ちよくなってください」
「もうホント、その気持ちだけで充分だし。…なってるから。静紀も、なって?」

俺はもう、すぐにでも気持ちよくなっちゃうんだけど。
でも、最近思った。
確かに俺は…早い…けどっ。
この人相手だと、余計に……そうなってる気が。
以前はもうちょっと、持った気、するしっ。
恥ずかしいけど。
いままた、キスをしてくれて。
それだけで体が熱くなる。

「篠宮先輩…っ。俺っ」
「うん…?」
「…熱…くて…っ」
「今日はまだ、後ろ使ってないからね…。いいよ。してあげるから」
また、この人の手を煩わせちゃうかなって。
そう一瞬頭をよぎる。
「篠宮先輩…俺が、感じると…嬉しかったりしますか?」
篠宮先輩が感じてくれて、俺は嬉しかったから。
「嬉しいよ。静紀のこと好きだし。だから、遠慮しないで、たっぷり感じて」

嬉しいって思ってくれる気持ちが、俺は嬉しい。
甘えちゃってもいいですか。
篠宮先輩にされるがまま、何度もイかされても、先輩が優しいから、申し訳ないなって思う気持ちが薄れちゃう。
いいのかな。

いつのまにか眠ってしまって。
目が覚めた俺の隣で幸せそうに眠っている篠宮先輩。
そんなの見ちゃったら、ずっと甘えちゃうよ。
「…甘やかしすぎじゃないかなぁ」
俺のこと。
まるで第三者のように、つい洩らしてしまう。
だけれど、いいかなってやっぱり思っちゃうから。
繋いだままの手を、今一度、強く握りなおした。