何日か過ぎた日のことだ。

図書館で、また向かい合わせ。
夕方になると、俺らだけになった。

「静紀、宿題終わった?」
「終わりましたよ。だいぶ前に」
「え、早くない? まだ20日くらいあるんだけど、夏休み」
「やってないんですか? …いいんですか、ここで本読んでて」
20日あれば、まだまだ焦るほどでもないよなぁ。
「まだ大丈夫。静紀に会いたいし」

軽くそう言うと、静紀はため息をついた。
あぁ、やっぱり嫌なのか。
でも、俺だってこのまま自分の気持ちを押し殺して、一定の距離とってお友達でいようだなんて考えてはいない。

「静紀。あのさ…。初めに言ったように、俺、結構マジで静紀が好きなんだけど」
静紀は、嫌だというよりは少し困ったような表情で俺から顔を背けた。

俺は向かい合わせのこの距離がじれったくて席を立ち、静紀の隣へと座りなおす。

サラサラっぽいその髪に触れてみる。
ほら、やっぱりサラサラだ。
静紀はそれから逃れるように、俯く。
「…彼氏、いないんだろ…。前は…? いたことある?」
「……ありますけど」
じゃあ、潔癖症とはいえ、それなりの行為は平気だったりするのか?
人と付き合う気ないって、潔癖症だからでなく、前の男が忘れられないだとか。

なんにしろ。
元カレにすら嫉妬しそうだ。
俺が我慢してることしちゃってたんだろうなーなんて。

「っ…もう…触らないでください」
髪を触り続ける俺へとそう言って、それでも俯いたまま。

「静紀…。顔あげて」
素直に顔を上げて、なんですか? と言い出しそうな静紀の口を、身を乗り出して自分の口で塞いだ。
「んっ…」
静紀はびっくりしたのか体を少し跳ねさせて。
俺は静紀の頭を掴み、逃れられないようにしてより深く口を重ねていく。
胸元に、静紀が押し退けようとしている手の力を感じる。
けれども、無力に近い。
舌を絡めていくと、その刺激に耐えたいのか、シャツ越しに俺の胸に爪を立てた。
「ぅんっっ…んーっ…ンぅっ…」
鼻から洩れる静紀の声がいやらしくて、俺の感情も昂ぶっていく。

いや、抑えないとって思うんだけど。
こいつ潔癖症だし。
絶対、こんなん嫌われる。

それでも、絡まる舌先が気持ちよくて。
耳につく声が心地よくて。
……いやらしくて。

たっぷりと味わいたくなってしまう。

俺の腕に、静紀のもう片方の手が爪を強く立て。
しょうがなく、俺は静紀を解放した。

…というか、ちょっとやばいことしちまったと思った。

静紀はすぐさま顔を俯かせ、俺も見ず、慌てて席を立ち逃げる。
…そこまで嫌ですか。
「ちょっ…待って」
腕を掴もうとする手をすり抜けられる。
俺も立ち上がり追いかけようとした。

が、静紀は数歩進んだだけで、その場に座り込んでしまう。
「…静紀…?」
「来ないで…」
「あ…うん…」
いきなりしてしまった後ろめたさもあり、従うしかなく、俺は静紀の一歩後ろで立ち止まった。

「……なんで…こんな…」
「…好きだから。静紀は俺が嫌い…?」
「っ…そういうわけじゃ…。でも…っ」
嫌いじゃないって言ってくれるのか。
無理やりキスとかしたのに?

「…ごめん。急にさ…。とりあえず立って…。座りなおして、話そう…? 今日が嫌なら日を改めてくれていいし、メールででも…」
「……っ…」
静紀は、座り込んだまま。
そんなにショックだったとか…。
「ごめんって…。静紀」
「っ…もう…いいですから、先帰ってください…」
そうは言われても。
「置いてくわけには行かないよ」
「一人に…してください」

一人にしてあげたいけれど、こんな状態で置いてけるわけないだろう。

俺は正面に回り、静紀の手を取り立ち上がらせようとした。
手をつかまれるのですら嫌だったのか、少し逃げられた。

腕を引くが、一向に立ってくれそうにない。
「静紀…。立って」
俺はしゃがみこんで、静紀と目線を合わせようとした。

静紀は目を潤ませていて、少し胸が痛んだ。

けれども、頬を赤く染めていて。

それが官能的で、いやらしくて。
抑えられなくなる。

こいつのこと、たっぷり可愛がりたいとか、思っちまうだろ。

そんなことを考えていたら視線がつい、静紀の股間へ。
「…見な…っ」
俺の視線に気づいたのか、そう言うが、もう見ちまった。

勃ってる……よな…。
「え…と、静紀…?」
俺が気づいてしまったのがわかってか、腕で前を隠すようにして、顔を俯かせる。
「静紀……どうした?」
どうした…って聞くのもおかしいけれど。
「…感じたの…?」
そう聞きながら、静紀の頬に手を触れる。

静紀は、顔を上げ、泣きそうな顔で俺を見た。
実際、目が潤んでいる。
「…っ…違…」
「…違うの…?」
やばいな。
俺って、サドだったっけ?
だってさ。
このまま、気まずいまま、終わりたくないわけ。

明らかに感じてんでしょ。
というか、いやらしいこと考えた?

俺は静紀の腕の間から、手を割り込ませ、そっと股間のモノに触れる。
「っ!! なにす…っ」
普段だったら、こんなこと絶対にしないんだけれど。
なんかもう、こいつ感じてんだよなってわかったら妙に強気になれる。
というか止まらない。

「あぁ。おっきくなってんね…。どうしたの…?」
ズボンの上から、その形を確かめるよう手の平で包み、そっと擦る。
「っやっ…ぅンっ…」

…すっげぇ、やらしい声なんだけど。
マジで、なんつーかムラムラしてきたっつーか。
ちょっと確認で冗談っぽく触るだけのつもりだったのに。
もう止まんないでしょう、これは。

静紀が俺のその腕をどかしたいのか、両手で掴むけれども、それに反発する形で、何度も揉みしだいていく。
「ひぁっ…あっ…ンっ…ゃめ…っやめてくださ…っっ」
「どうして?」
「あっ!! …だめ…っ…ぃやっ…んぅんんんっっ!!!」

体を大きくビクつかせ、静紀がイってしまったのだとわかった。

手で受け止めるだとか、口で受け止めるだとか。
そんな余裕もなくて。
だって、まだ直に触ってもいないし。
こんな状態じゃ、気持ち悪いよなぁ。
少し申し訳ない気持ちもあるが、思ったよりも早くイっちまうもんだから…。

「溜まってた…?」

静紀の顔を覗き見ると、ポロポロと涙をこぼし始めた。

「っ…静紀…。あ、ごめん。ホント、マジで…っ。冗談だった…ってわけでもないんだけど、なんつーか…。
嫌……だよな? 潔癖症なのに、こんなん俺にされて、しかも服来たままとか…っ。
汚れちまうし。
俺、静紀が嫌がること、しないでいたいんだけど、でも、やっぱ…っ…好きで、止まんなくなるときとかあって…っ」
衝動的に、俺は静紀の体を抱きしめた。
もしかしたら、こういうのも嫌いかもしれない。
触らないで欲しいって思ってるかもしれない。
だけれど、抱きしめたかった。
「ごめん…静紀……」
「……謝らなくて…いいですから…」
静紀は俺の腕の中で、そう言ってくれた。

なんでいつもそう優しいんだ。
ますます酷いことしたくなる。

「そんなこと言われると、マジでヤりたいんだけど」
駄目だ、俺調子乗ってきた。
「……なんでですか…?」
泣きそうな声のまま、俺の腕の中、そう聞いてくる。
なんで、いつもそう聞くんだろう。
「静紀が好きだからだよ」
「…気持ちよくなりたいだけじゃないんですか?」
「というか、いろんな静紀を見たいんだよ。気持ちよさとかはとりあえず二の次だし」

そう言うと、静紀が、俺のシャツをそっと掴み顔を上げた。
「俺……すぐ…いっちゃうから…っ」
あいかわらず目を潤ませて、俺に訴える。

すぐいくって。
……つまりなんていうか、ぶっちゃけたトコロ、早漏ってことですか。

俺『溜まってた?』とか、もしかして傷つけた?
「静紀は、一回イクと満足しちゃってもう萎えるとか…?」
「っ…そんなんじゃないですけど…。早いから…っ。っ…元カレとも、それでもめたし…」
元カレ?
妙な嫉妬心が生まれる。
「っつーか、なんでそれでもめるわけ? 別にいいじゃん」
「だって…っ…。一人だけ勝手に気持ちよくなってんなってっ。彼氏が俺とちゃんとヤる前にいっちゃうから…っ。うまく出来なくて…」
そんなの。

ひでぇな。
「いいんだよ、静紀。静紀が気持ちいいなら、いいじゃんか」
「……もう俺、怒られたくないから、誰とも付き合いたくないし…」
「怒らないよ」
「だって…少し触られただけで、熱くなっちゃうから、いつもみんなに触られないようにしてたのに…っ。それなのに、篠宮先輩が、触るから…っ」

…いつもみんなに触られないように…?
「あ…静紀って、潔癖症じゃないんだ…?」
「…周りからはそう思われてるみたいですけど…」
「ねぇ、じゃあ今、俺に抱きしめられて、静紀は熱いの…?」
泣き顔の静紀の顔がみるみる紅潮していく。

「…っ違……」
「隠さないで…。ね。ホントは、すごくエッチな体なんだ…?」
「違います…っ。ただ、ちょっと早いだけで…っ」
俺は、とりあえず、静紀の体を抱き上げ立たせる。
まだ、足に力が入らないのか、よろめく静紀を抱きしめた。
尻に手が触れると、静紀は体を少しビクつかせ、俺にしがみつく。
「なに…っ」
「濡れて気持ち悪いだろ…。寮、行こう…?」
「…ん…」


俺は静紀をおんぶすることに。
静紀も、しょうがなくなのだろうけれど、俺におんぶされてくれた。
耳に、静紀の荒い息使いが聞こえる。
いやらしいな。
……あぁ。
擦れる…か。

「静紀の部屋は? 先輩はいるの?」
「ん…。先輩が、彼女連れ込んでるから…。だから、俺、いつも図書館で…」
そうだったのか。
「じゃあ、戻りにくいな…。俺の部屋に行こう。着替え、貸せるし」
「ルームメイトは…?」
「いるけど、どいてくれるよ」
「…うん」

このまま静紀を連れて行ったら、静紀が気まずいだろうか。
尚悟とは顔見知りかもしれないし。
…でも、ただ遊びに来ただけ…に見えるよな。
それで2人きりにしてってだけ。
まぁ、ホントは俺が狙ってるって尚悟は知っちゃってるけど。

とりあえず、部屋の前。
一旦、静紀を下ろす。

「ルームメイトに伝えるから、ちょっと待ってて」
「…ん…」



俺は中に入り込むと、眠ってた尚悟を叩き起こす。
「痛ってぇ。何するんすか」
「悪い。部屋あけて」
「はぁあ?」
「静紀連れてきたから。2人にさせて欲しい」
「マジっすか。なにしてんすか、あんた。…まぁいいですけどー。じゃあ俺も彼女んとこ行ってきますよ」
そう言うと、部屋からのそのそと出て行ってくれる。

それと入れ違いみたいに、俺は静紀を招きいれた。