「つーかお前のソレ、さすがにやべぇだろ」
「え……」
「かわいくなさすぎっつーか。ごめん……やめとこ」
「……うん」
 ああ、そっか。
 萎えたんだ。
 入れる気、失せたってことだよね。
 でも、おっきいのって、悪くないよね?
「あ、あのさ。俺が入れる側になろうか」
「は? それはちょっと……そういう目で見たことないし」
 見る気もないってことね。
「つーか、入んねぇよ」
「うん……わかった」


 そうして俺は、初めていい感じになった同級生と疎遠になった。
 きっと俺が悪い。
 なんとなく、彼が入れる側で、俺が入れられる側みたいな感じで仲良くなったのに。
 俺の方がデカくて、相手の男としてのプライドを傷つけてしまったんだろう。
 だったら次は、最初から俺が入れる側になったらいい。
 そう思ったのに。

「……ごめん。無理かも」
「え……慣らせば入るんじゃ……。大丈夫だよ」
「大丈夫って、根拠ある? いい加減なこと言わないで」
 根拠なんて……そんなのない。
 でも、大丈夫かわからないけどやってみようなんて言ったら、余計に不安を煽りそうだし。
 ああ、でも間違いだったんだ。
 わかってないくせに、大丈夫だなんて口にして。
 たぶん人より大きい自分のを、初めてで不安になってる相手に、突っ込もうとするなんて。
「ごめん……」
 俺はなんて最低なんだろう。
 そのまま、次に仲良くなった子とも、結局、関係を修復することは出来なかった。

 俺の体は、Hをするのにむいていないのかもしれない。
 ううん、体だけの問題じゃない。
 慎重にならないきゃいけないことなんだ。


 高校で好きになった相手は、先生だった。
 すごくかわいい人で、生徒とキスしてる姿が、色っぽかった。
 その生徒が、どういう相手なのか、その時点ではわからなかったけど、生徒とも恋愛できる人なのかな、なんて思ったりした。

 俺はというと、恋愛に臆病になっていたのかもしれない。
 どうせまた、いい感じになっても拒絶される。
 変な噂を立てられる可能性だってある。
 でも、先生なら大人だし。
 少なくとも、俺の体がどうだとか、噂を立てるようなことはしないだろう。
 そんな心配は抜きにして、とにかく好きになっちゃってたんだけど。


 そうして、恋人になった浩二は、すごくHが好きな人だった。
 付き合う前から、言われてた。
 付き合ったとしても、他の人としちゃうかもしれないって。
 俺は、それでも構わないと思った。
 俺だけで満足させられる自信なんてないし。
 ……嫌がられるかもしれないし。

 したいって思うことももちろんあったけど、同時に、しなくてもいいって思いもあった。
 1ヵ月経って、2ヵ月経って。
 Hが好きな浩二としないまま、それでも付き合い続けた。
 そのことに俺は少なからず安堵感を覚えた。

 本当に浩二が求めてくれるまで、しないようにしよう。
 俺は全然、我慢出来る。
 浩二がただ欲求不満のときは……そういう相手もいてくれるし。
 ……少しは、ヤキモチやいちゃうかもしれないけど。
 それはまあ、しかたない。


「……体、鍛えようかなぁ」
 放課後、帰る準備をしながら、なにげなく呟く俺を見て、陸が首を傾げる。
「なにかあった?」
「うーん。アレがでかくても、体もでかかったらバランスいいじゃん?」
「……なんの話?」
「……なんでもない」
 浩二はいま、かわいい俺を好きでいてくれるんだよね。
 だったら体を大きくするのも、やっぱり違うのかもしれない。
「俺が成長してかわいくなくなったら、どうなっちゃうんだろ」
「……よくわかんないけど。俺は鈴がかわいいって理由で仲良くしてるわけじゃないよ」
「陸……」
「俺より背が伸びて、筋肉ついて、声も低くなったりして……ヒゲとかはえてきても、鈴は鈴でしょ」
「……うん」
 陸は優しい。
 浩二も優しい。
 恋人でいる以上、いつかは体の関係だって出てくるかもしれないけど。
 俺と浩二は、体で繋がった関係じゃない。

「実はまだ、ヤッてないんだよね」
 そう陸に告げてみる。
 陸は、とくに驚いた様子もなく俺の話を聞いてくれた。
「ふぅん。そうなんだ。卒業まで待つとか、そういうこと?」
「そういうことでもないんだけど。変……かな」
「変じゃないだろ。俺もしてないし」
「え……」
 陸って、たしか中学からの友達と付き合ってるんじゃ……。
 誰にも言わない約束で、教えてくれたんだよね。
「陸、いつから付き合ってるんだっけ」
「高校入ってから。2年以上だね。変?」
 俺は、ぶんぶんと首を横に振る。
「全然、変じゃない」
「ありがとう。だから、いいんだよ。別に」
「……うん。ありがと」

 俺のこと……俺の体のこと。
 受け入れてくれたらすごく嬉しいけど、浩二は体抜きでも俺と恋人でいてくれる。
 うまくH出来なかったとしても、きっとこの関係は崩れない。
 そう期待しながら、浩二のもとへと向かうのだった。