『浩二―。無事に帰ってきたよ』
「おかえり」
 修学旅行後、さっそく鈴からの電話。
 こういうのってなんか嬉しくてたまらない。
『桐生先生がちゃんと浩二の写真、送ってくれたよ』
 あぁ、あのバイブ使ってるやつですか。
 送ったわけね。
「うん……」
『今日はさ、クラスの子たちと打ち上げやるんだ。だから駄目なんだけど、近いうちに会える?』
 打ち上げ?
 修学旅行の?
 どんだけ元気なんだ、こいつら。
「うん。いつでもいいけど。あんまり前もって約束することっていままでなかったよな」
 いつも当日になってから、今日会える? とかで。
『そうだけど。桐生先生が学校ばっかじゃなくってたまには家に行ってみたいとか思わないの? って。で、考えたんだけど行ってみたいなって思って』
 ホント、桐生はお節介だなー。
「家か」
『無理だったらいいよ。会うだけでも。俺、浩二に迷惑かけたくないし』
「いや、いいよ。金曜日の夜とか土曜日とか?」
『うん、じゃあ金曜日の夜にする。予定あけといてね』
「ああ。また」


 打ち上げか。  
ちょっと、今日少しくらいは会えるんじゃないかってなんとなく勝手にだけど思ってたから少し寂しかったりもする。
 別に約束してたわけじゃないんだけどな。
 それに、みんなで集まっているのに、鈴だけ抜けてってのも申し訳ないし。

 付き合いだしたとき、自分が先生だからあまり鈴のこと構ってやれないかもしれないって思っていた。
 他の恋人みたいにするのは難しいかもって。
 でも今じゃ、俺の方が構って欲しくてたまらなくなってるよな。
 鈴は、俺に気を使って俺のこと縛らないでいてくれるんだろう。

 

 修学旅行中、会いたいのに離れてて会えなかった。
 実際に会えない距離まで離れて寂しくてたまらなくて。
 
 今は?
 帰ってきたのに、近いのに会えなくて。  
 金曜日が待ち遠しい。  
 別に学校で顔くらい見るだろうけど。  
 会うだけじゃなくて。  
 俺、今すっごい鈴としたいんだ。  
 バイブで足りなくて。  
 たぶん他の人でも無理。  
 鈴じゃないと。
   
 鈴のことを考えるとつい体が熱くなる。  
 1人Hじゃ満足出来ないのに、熱くてしょうがないから今日もまたするしかない。
   
 バイブを手に取り舌を這わしていく。  
 右手で、自分のを何度も擦り上げていくとすぐに後ろに欲しくてたまらなくなった。
 なんでこんなこと。
「んっ…ぅん…」  
 ズボンと下着を脱いで、指で慣らすなんて余裕はなかった。  
 早く欲しくてたまらなくて。  
 すぐさまバイブを押し込んでいく。
「ひっぁっっ…っ」  
 昨日もしたしこれくらい平気。
 息を吐きながら奥の方まで。  
 スイッチを入れバイブから手を離し、空いた手で自分の乳首を軽く擦った。
「ぁっあっんっ…」  
 もっともっと。  
 全然足りない。  
 本当は鈴に触られたいし舐められたいし。  
 いろいろして欲しい。
 鈴。
「ひっぅっ…ん、鈴…っあっ…ん、ぁあっ…んぅんんっ!!!」
 
 
     
 自己嫌悪に陥る。  
 なにやってんだろうって。  
 だって、イっても足りないんだよ。  
 金曜日まで何日ある?  
 あと4日?  
 待ち遠しい。  
 けれど、その前に鈴を尋ねて、ただやりたいだなんて言えるわけでもない。  
 俺も大人なんだからもう少し理性とか。
 
「はぁ……」
 ため息ばかり。
 桐生に言われたように、甘えても大丈夫かな。
  
 とりあえず、相談だけはしてみるか。
 電話をかけると、すぐさま桐生が出てくれた。
 
 
「桐生? 鈴にさ。いろいろ言ってくれただろ。金曜日に約束したよ」
『家で会うっての? よかったじゃん。一緒にお風呂とか入れば?』
「うん。そうなんだけど。金曜日に約束すると、その日より前には会わないって感じしない?」
『確かにね。なに、そんなにすぐ会いたいんだ? 溜まってんの?』  
 ずけずけと言われてしまうが、まあそうなんだよなぁ。
「よくわかんない」
『相手しようか? 一応、俺はフリーだし』  
 そう。桐生は誰とも付き合っていない。  
 けれど、付き合ってると言ってもいいんじゃないかってくらいの相手がいるのは知っていた。  
 他所じゃ面倒だから、彼女いるって言ってそうだよな。
「……いま、鈴の気分で」
『そう。じゃ、そうじゃなくてただ抜きたいときにはいつでも協力するから』
「ありがと。……鈴、平日に誘っちゃって大丈夫かなぁ」
『浩ちゃん、気にしすぎだって。高校生は体力あるよ。俺だって、当時、やりまくってたし。ってか浩ちゃんもでしょ』  
 確かに。  
 自分が高校の頃、翌日学校だろうがなんだろうがやってたな。
「鈴には、他にも友達たくさんいるし。あんまり俺が時間取っちゃいけないような気がして」
『……いいよ。修学旅行で会えてなかったんだし。金曜日は家。平日は、学校で話せば?』  
 学校でやるのか。  
 だとしたら、
「数学準備室借りれる?」
『さんざん、教室でやってたじゃん』
「そうだけど」
『まあ、いいよ。言ってくれたら、その時間、どうにかするから』
「悪いね。ありがとう」  
   
 
    
 そんな話をした翌日のことだ。  
 鈴からのメール。  
 部活後待っててって。  
 また、この子はあいかわらず場所を指定しないで。  
 しょうがない。  
 英会話部の教室の前で、待つことに。
   
 ……桐生が、なにか言ってくれたのかな。 
 
「浩二? ちょっと久しぶりだね」
「うん。そうだね。おかえり」  
 妙にドキドキする。  
 二人で歩いていても、部活後のこの時間ならさほど目立たないだろう。
「鈴。桐生先生からなにか聞いたの?」
「ん? ……聞いたっていうか。せっかく修学旅行から帰ってきたんだし、早く会ったら? とは言われたけど」  
 俺が寂しがってるだとか、そういう感じではないんだな。  
 よかった。  
 まあ桐生のことだから、変な伝え方はしないってわかってるけど。
「鈴って、桐生先生と仲いいよね」
「うん」  
 ちょっと、気になるな。  
 桐生は、モテるから。  
 俺も大好きだし。  
 鈴は……俺のこと好きでいてくれると思うし、桐生は桐生で、俺から鈴を取るなんてこと、しないでいてくれるとは思うけど。
「あのさ。どういうきっかけで、桐生先生と仲良くなったのか、聞いていい?」  
 ……俺、うざいかも。
「どうしたの?」
「え、どうしたっていうか。ほら、桐生先生って鈴の担当じゃないし。なんでだろうって」
「……変なの」  
 少し笑われてしまう。  
 怒っているわけではなさそうだった。
「なんで? 変?」
「浩二が言ったんじゃん。桐生先生とは幼馴染だって」
「確かに、それは言ったけど」
「浩二のこと聞こうと思ったのが、きっかけだよ?」  
 あ。俺がきっかけだったのか。  
 じゃあ、鈴が桐生と仲良くしてるのは、俺のこともっと知ろうとしてくれて……?  
 俺、なに疑ってたんだろ。
   
 俺とのいろんなこと、桐生に相談してたのは、ちゃんと考えあってのことだったんだな。
   
 なんかホント、桐生に結構助けてもらってるよなぁ。  
 今回のことだって、桐生が鈴に言ってくれたから。  
 俺自身、直接、鈴に言えるようにならないとな。
   
 数学準備室、いまからでも借りれるだろうか。
「浩二、公園行かない?」
「え……公園?」  
 思いがけない提案に、一瞬焦ってしまう。  
 どこかでやることばっか考えてたから。  
 
 そうだよ、俺。  
 鈴と会うイコールHするって考えがそもそもどうかと思うわけで。  
 普通に、会うだけってのもありだろ。  
 ありっていうか。  
 鈴と初Hするまではいつもそうだったし。  
 会って、キスするだけで満足だった。  
   
 欲求不満な体は別で抜いてたし。  
 いまだって、たぶん肉体的には本来溜まってないはずで。
 
「うん。いいよ。でもどうして公園?」
「秘密」
「……秘密?」  
 ……桐生、変なこと鈴に言ってないよな。
 
「あのさ。鈴。外でするとかは無しだからな」
「えー……」  
 ……やっぱ、そのつもりだったのか。  
 やりたいって思ってくれるのは嬉しいけど。
「なんで、駄目なの?」
「……だって、ほら。一応、猥褻物陳列罪とか」
「じゃあ、途中まではいいってこと?」  
 いいのか?  
 いや、そうじゃなくって。
「恥ずかしいしさ」  
 あ、駄目だ。  
 鈴はそういうの興奮するタイプか。
 
「駄目?」  
 ……駄目って言ったら、どうなるんだろ。  
 じゃあ、今日はやらずにキスだけして……とか?  
 もうやること考えちゃったわけだし、なんかそれも無理かもしれない。
   
 そもそも、鈴に求められて、断るのも辛い。
「……途中までなら」
「うん」  
 途中までなんて言ってしまうけれども、どうしよう。  
 絶対、そんなんじゃ足りないし。  
 口でして、そのあと、移動するか。