それから、悠貴とは、話していない。
拓耶と悠貴が2人で楽しく話しているところをよく見かけたけれど、話に入ることなんてもちろん出来ないし。

別の生徒たちと話してても、やっぱり、気になっちゃうんだよ。
やだな…。

部屋割り表を班長に渡し、やっと、俺は自分の部屋にたどり着く。
俺は別に保健の先生ってわけでもないし、急用で生徒などが訪ねることなんてないだろう。
すぐ寝ちゃってもいいらしい。

あ。
でも、樋口先生と桐生先生が来るんだっけ…。
まだ、8時だし、早いから寝るつもりはないんだけど、少しベッドに寝転がった。

どれくらいたったかはわからないが、インターホンの音で目を覚ます。
あぁ。
俺、眠っちゃってたのか…。
樋口先生と桐生先生かな…。
俺は、急いでドアを開けに向かった。



「こんばんわ」
にっこり、笑顔でそう俺にあいさつしたのは、悠貴だった。
「っ…こんにちは…っ」
つい、言い返すのが遅くなった。
「昼じゃないんだけど」
「ぁあっ!こんばんはっ」
俺、もう馬鹿すぎだ…。
「まぁいいんだけど。…それより昼は言い過ぎたなって思って…」
少し、顔をうつむかせてそう言われて、嬉しいような、変な感覚。
「そんな…」
本当のことだし…って言うと、肯定することになって、少し嫌なような…。
だって、やっぱ柊先生が悪いような気がするし…。

俺が、言いとどまって、少しうつむいてしまっていると、悠貴の手が頬を撫でる。
「っえ…」
顔をあげたとき、かすかに見えた悠貴の表情は、なにか企んでいるようにも見えた。
その表情を確かめる間もなく、口が重なる。
「っん…っ」
なんで…こんな…。
舌が入り込んで絡めとられて、体がゾクゾクする。
逃れるように後ずさると、すぐ壁に、背中がぶつかってしまった。
口をつけたまま、悠貴の手が、ズボンの上から俺の股間を弄る。
「っんぅっ…ンっ」
生徒に対して、あんまり嫌がったり出来ないし。
どうすればいいか、本当にわからない。
それ以前に、こんなことする悠貴もわけわかんないし。

片手でズボンのチャックを下ろされ、下着から取り出されたモノを直に擦りあげられて。
さすがに、やばいだろう?
「っちょっ…悠貴っ…」
口が解放され、どうにか止めさせようとするが、どう言えばいいのか、思い当たらない。
「んぅっ…ぁっ…」
体がビクンと震え上がり、羞恥心が高まる。
どうしよう…。
「…宮本先生…。俺、柊先生の性格忘れてて。宮本先生は、無理やり、誘われただけなんすよね?」
あ…わかってくれるんだ…?
「っんっ…」
「断りたかったのに、断れなくって。しょうがなく、流された…?」
「っぁっ…んっ…」
俺は、悠貴の手が愛撫する刺激に耐えながら、必死で頷く。
「やっぱそうだよね…。宮本先生から、誘うなんてことないよねぇ?」
確かめるように、また、同じようなことを聞いて。
俺は、もう一度、大きく頷いた。
「…柊先生を誘って、やっちゃって、授業、サボるなんて、そんなコト、しないか」
耳元で、教え込むように、説明くさく言ったかと思いきや、いったん、離した手を下着に突っ込んで、指先が、後ろの奥の方へと進む。
「っちょっ…悠っ…」
俺が、なにかする間もなく、舐めて濡らしたっぽい指先が中へと押し込まれていく。
「っんぅっンーっぁっ…ゃめ…」
俺の言葉なんてまるで無視。
奥まで入り込む。
「はぁっ…あ…っ」
中をゆっくりと掻き回されると、もう頭がぼーっとして、考えがまとまらなくなってきて。
駄目だよ、もう。
気持ちいいよ。
「ぁあっ…んぅっ…ゃうっ…」
つい嫌がることを忘れて、悠貴の方を見ると、目が合っていまう。
悠貴は、なんでもないみたいに微笑んで、掻き回した手を、抜き差しする。
「ひぁっンっ…ぁっぁあっ」
なんで高校生なのに、こんなテクニックあるんだよ。
って、別に、テクニックがあるだとか、ないだとか、判断できるほど、経験が多いわけじゃないけど。
すぐにでもイってしまいそう。
というか、俺、後ろでこんな感じる体になったわけ?
しょうがないじゃないか。
前立腺をこうも直接弄られたらイクだろう?
って、言い訳なんて考えてもしょうがないけど。
「ゃ…あっ…悠貴ぃ…っん…くンっ」
もうイくよ…?
そう思ったときだった。
悠貴が指を止め、ゆっくりと引き抜こうとする。
「っな…ぁ…」
「やめないで欲しい?」
「っんっ…」
肯定とも否定ともつかない返事をしてしまう。
むしろ、肯定の方が強いだろう。
否定しなきゃいけないとは思いつつも、体が肯定しようとしちゃってる。

「…こうやって…。やめないで欲しいって、柊先生のときも、願ったんでしょ」
少し冷めたように、俺の耳元でそう話して。
抜いた指で入り口をそっと撫でる。
「っ…」

あぁあ。
そういえば、確かに、休み時間に入って少ししたとき。
柊先生に、やめるかどうか聞かれたような。
うん。
一応、俺に聞いてくれたんだよ。
だけど、あんな状況にされたら、やめれるわけないじゃないか。

そんなの意地悪だ。
中途半端に止められて、望んじゃうのは当たり前だろう?
それで、望んだら不謹慎だって?
中途半端に止める人の方が悪いに決まってる。
それとも、俺がいやらしい?

入りそうで入らないような感覚がじれったくてたまらない。
腰が少し寄ってしまう。
あぁ…ねだってしまいそう。

…というか、黙ってる時点でやばいのでは…。
俺は、先生で、悠貴は生徒なんだから、やめろだとか、なんとか、言うべきで…。

「はぁ…っ」
なにも答えられずにいる時間が、やたら長く感じられる。
悠貴も、せかすでもなく、ただ、黙って俺の言葉を待っていて。
…俺が答えたら、それがものすごい裁判で言う証拠みたいになっちゃうんだろ。
なにも言えるわけがないけど、もうねだりそう。

「っ…悠貴ぃ…っ」
「なに…?」
そう聞きながらも、ゆっくりと入り口をなでる手を休めない。
駄目だって、わかってる。
生徒にこんなこと…。
「っ…ぁっ…」
「して欲しい…?」
自分からは言えないけれど、そう聞かれると、ついもう頷いてしまっていた。
「…やっぱり、宮本先生から誘ったんだ…?」
ゆっくり指先が入り込んで、また耳元でそういうことをっ…。
「っぁっんぅっ…」
こんなの、拷問じゃないのか?
証拠にならないんだからっ…。
なんて言い訳考えてる自分もなさけないけど。



俺が、困っていると、インターホンの音。
悠貴は、ちょっとつまらなそうに、手を抜いて、ドアへと向かう。
そのすきに、俺はズボンをちゃんと履きなおした。

中途半端で、めちゃくちゃ苦しかったりするんですけど…。

悠貴が、カギを開ける様子が見て取れる。
あぁ。ちゃんと閉めてたのか。
準備のいいことで…。

ドアの向こうから現れたのは、樋口先生。

「っ…智巳ちゃ…」
少し、嫌そうな声で、悠貴が出迎える。
「おー」
おー…って、よく意味わかんない人だな、あいかわらず。
樋口先生は、優しく微笑むと、いきなり悠貴と口を重ねる。
「っんっ…」
かわいらしく声を少しだけ漏らして、ねだるように、樋口先生の頭に手を回して。
…俺のこと、もう忘れてるんだろうか。
というか、そんな問題じゃない。
なにこの2人…。
「んっ…っんぅっ…ぁっ」
わざとなのか、声を出しまくりで、何度も口を重ね直して。
そのたびに、舌先が絡まっているのが覗く。
見てるこっちが、ものすごく感じてしまいそうなキス。

やっと、それでも名残惜しそうに、二人の口が離れる。

…あれ…。
見覚えあるような…。
 もしかして、昼、見た?
 中庭で、樋口先生が、やっちゃってて。
生徒の顔は見えなくて…。
悠貴か…?
うん、悠貴だ。
嘘…。
悠貴だったのか…っ。
この二人って…。

「…はやく自分の部屋、帰りな?」
「っどうして…っ。智巳先生は、担当じゃないでしょう?」
「まぁな。俺は、遊びでついてきただけだし? お前を注意したりする権利はないよ。職務放棄中だから? お前がいたいんなら、ココ、いてもいいけど?」
まるで、俺には関係ないとでも言いたげな、少し冷たい言い方。
わざとなんだろうけど。
「っ…帰りますよ。智巳先生がいたら、宮本先生への用件、済ませられませんから」
俺の用件は、どうでもいいだろうに。
樋口先生の少し突き離した言い方に、対抗しているのだろう。
「あっそ。じゃあな」
口論で、樋口先生に勝てるわけがないというか…無理だろう。
でも、悠貴も、なんでもないみたいににっこり笑って、俺の部屋を出て行った。
きっと、廊下出たとたんに、すっごい表情険しくなってたりしそうだな…。

「…宮本先生? 大丈夫ですか?」
まるで何事もなかったかのように、樋口先生がそう俺に聞く。
「えっ……っと…」
「犯されたりしました?」
冷静な表情でなんてこと聞くんだろう、この人は。
「そんなことっ」
俺が、慌てて首を振ると、軽く笑ってから、そばにあった椅子に腰掛けて、俺を見上げた。
「拓耶や凍也は、スキンシップの手段として、教師のことを少しからかったりするかもしれない。凪は、普通に、教師のことを歳の離れた友達として扱うし? 霞夜は、それほど親しくない友達みたく思ってるらしい」
…柊先生になにか聞いてるんだろうか。
なにかと思えば、いきなりそう教えてくれる。
「つまり。まぁ、そういうやつらなんだよ。宮本先生が、教師にむいてないからとか、そんなん関係なく」
「あの…それほど親しくない友達って…」
「クラスの全員と仲良くしゃべってる子って、逆に少ないだろ。そんな感じ。別グループの友達で、あまりしゃべったりしない人。そういう距離をとってるわけ」
なるほど…。

もう一人、いるんですけど…。
聞きたいような、聞きたくないような。
でも、俺が気にしてるってのは、もう智巳先生にはバレてるに決まってる。
さっきまで、当人いたわけだし。
それに、今日、悠貴のことで話したいことがあるって言ってたし。

一見、なんの問題もない生徒に思えるけど…。
拓耶や凍也と一緒のタイプで。
だけれど、ちょっと『からかう』の域を越している気もする。
というか、実際、越してるだろう。

拓耶が『俺がいないと、悠貴って、結構、ひどいこと言っちゃうから』って言ってた。
そうなんだよ…。
言われちゃった。
でも、拓耶が『ひどいこと』って言ってくれたのは、ちょっとうれしく思ったり。
悪いのは、そういう『ひどいこと』を言ってしまう悠貴の方…みたいに考えている自分も嫌だけど。

少し黙ってると、
「まぁ、座って」
と、俺に気をつかってくれる。
「はぁ…」
俺は、とりあえず、樋口先生の向かい側のイスの腰掛けた。

「…悠貴なんだけどな…。あいつはまぁ、俺が言うのもなんだけど、俺のことが好きなんだと」
「はぁ…」
「恋愛感情としての“好き”な」
それは、重々わかってますが…。
「…あの…付き合ってたり…」
するんだろうか。
「付き合ってないけど?」
即答に近い形で、そう言われてしまう。
「え…? でも…っ、昼っ」
「あぁ。後ろ姿で悠貴ってわかるあたり、ちゃんと先生してんじゃん?」
なんて褒めてもらって嬉しいなんて感じてる場合じゃない。
「付き合ってなくても、やれるし」
「そんな…悠貴が…」
かわいそうな気がする。
さっきの態度からして、悠貴は、本当に好きっぽかったし。
「ちゃんと伝えてありますよ。俺には別の付き合ってる人がいて、その人のことも悠貴は知ってるし? 俺は、悠貴をそういう対象では見れないって言ってある。それでもいいから、抱いて欲しいって、願われたら、突き放すことも出来ないだろ」
確かにそうだけど…。
そこまで、ちゃんと伝えてあるのなら、だますわけじゃないし…。
悠貴が願うなら…。
「…宮本先生は、好きな人としか、出来ないって考え方ですか」
「出来ないっていうか…。少なくとも…その、セックスフレンドとか、そういうのは、自分では、あまり考えられません…」
そういうことする人を、否定するわけじゃないけれど。
人は人で、価値観の違いがあると思うし。
ただ、自分は、ちょっと無理って話だ。
「つまり、柊のことは、好きなんだ…?」
からかう様子もなく、普通に聞かれてしまう。
からかって聞かれたんだったら、こっちもノリで、『違います』って、即答出来たのに…。
「…よく…わからないです…。自分から望んでしたことはないですし…」
とりあえず、やり始めは…。
「でも自分のことを好きじゃないと思ってるやつとは、やらないだろ」
「そりゃ…ただからかってるだけとかで、やられるのは、嫌ですし…」
「断れないってのもあるだろうけど、柊が、宮本先生のことを好きだって、わかってるわけだ?」
そりゃ、あれだけ、好きですって言われれば…。
ちょっとうぬぼれてるとか思われるだろうか。
「でも、よくわからないですよ…。誰に対しても、あぁいう風な気がしますし…」
「あいつはな…。わけわかんねぇやつだから。でも、好きでもないやつに、好きだとか言うようなやつじゃないし…」
「はぁ…」
「別に『好き』だとか、言わなくても、やる相手いるだろうし。ただやりたいだけなら、わざわざ嘘並べたりしないし」
でも、恋愛感情じゃない“好き”かもしれないじゃないか…。
うーん…。
というか、それは今、どうでもいい…わけじゃないけど、
「あの…悠貴のことは…」
そっちの方が、気になるよ。
話変えちゃうのも、申し訳ないけど…。
「あぁ。悠貴は、1年と2年のころ、俺が受け持ってて。今年から宮本先生になったじゃないですか。だから、そのことで、不満があるんだろ」
「…俺に対して…不満が…」
「あ、違う。別に宮本先生自身にじゃなくって、俺が、悠貴の受け持ちじゃなくなったことに対して。だから、宮本先生が万が一、教師を辞めたとしたら、俺がまた受け持つことになるだろうし? まぁ悠貴もそこまでしようとは考えてないだろうけど、受け持ちがかわったことに対して、誰に言えばいいわけでもないし、宮本先生に、あたってるんでしょうね」
それは、ぶっちゃけ、いい迷惑…というのでは…。
「…というわけ。ひねくれてるし、困りもんだけど、かわいいやつだろ」
少し苦笑いしてみせて、そう樋口先生が言う。
樋口先生が苦笑いするところなんて初めて見た。
だからってなんでもないけど。
なんていうか、俺に素を見せて話してくれたようでちょっと嬉しかったり。

俺は、被害を受ける側だから、かわいいって、考えにくいんだけど…。
理由がわかると、少しだけ、安心する。
ホントに『担当が、樋口先生じゃなくなったから』ってだけなのか、わからないけれど。
実際、俺はやっぱ不謹慎だったと思うし。

でも、少しだけ、違った見方が出来そう。
「しばらくは、まぁしょうがないだろ。もう少し、がんばってみて?」
そう言われなくとも、がんばるしかないだろう…?
いざ、教師に向いてないと思っても、いきなり辞める勇気もないし…。
「はぁ…。がんばります…」
「というわけで、俺も、宮本先生、わりと好きなんだけど、どう?」
は…?
「…どう…って?」
「…2泊3日だろ。その間、まったく彼女と会えないわけだし? 代わりに」
それは、勝手に、修学旅行に来た樋口先生が悪いんじゃ……
って、もしかして、柊先生が頼んだ…?
そういえば、柊先生、浮気してもいいとか、言ってたし、確信犯?
いや、一応、俺のためを思ってで…。
でも、その代わりに、やっちゃっていいってわけじゃないだろう?
なにそれ。
宮本先生の相談に乗ってあげてください、その代わり、やっちゃっていいから…
ってこと?
おかしいだろう?
というか、さっき俺、セックスフレンドみたいなのは考えられないって言ったんですけど、代わりにやるとか、そういうのも無理でしょう?
でも、恩を体で返すってのは、理解できなくもないというか。
「……まぁ、そんなに表情で焦られても困るけど? 柊が好きそうなタイプだな」
「っ…からかってたんですかっ」
「いや、宮本先生がのってくれるならやるし? のらないんならやらないってだけ」
「…はぁ…。でも…すいません…。修学旅行、こさせてしまったみたいで…」
「楽しいし、別に構わないよ。こういうこと、好きだし? 悠貴には俺から言っておく」
俺自身、あいつに好かれるようなやつになれればいいんだけれど…。
「じゃ、予定通り、俺は桐生とでもやるかな」
「え…?」
「え?」
「いや…別に…」
桐生先生とやるって…?
……どっちが、男役なんだろ…。