飛行機のチケットで席を確かめて。
3組の生徒たちの後ろ。
4組の先生の隣だった。
4組の先生は、生徒たちより前になるわけか。
さすがに、バスと違って席空けて座るってわけじゃないし。
かといって、生徒と先生を隣同士で座らせるのもかわいそうだという配慮なのだろう。



4組の担任は、国語の秋山先生。
俺とは違って、ここの学校にすでに8年いるらしいベテランの先生だ。
だから、妙に怖かったりもするんだけど…。
俺って、小心者なのかなぁ。
「宮本先生」
「っはぃいっ」
いきなり声かけられたらびっくりするってば。
変な感じに返事をしてしまったじゃないか。
別に、秋山先生のせいじゃないけど。
妙に恥ずかしくて俯く…けれど、そんなの態度悪いよな。
慌てて顔をあげて、秋山先生の方を見た。
「ずいぶん、生徒に人気みたいですね」
にっこり笑ってそう言ってくれる。
思ったより、怖くないなー…って場合じゃなくって。
「そんなことっ…」
あぁあ、否定するより、素直にありがとうございますって言った方がよかった?
でも、もしかしたら、いやみかもしれないじゃないか。
だとしたら、ありがとうーなんて言ったら、馬鹿もいいとこだ。
というか、そんな風に人を疑っていいのだろうか。
わからなすぎるっ。
実際、自分が、人気があるだとかは思わないし。
そりゃ、一部の生徒とは仲良くできてるかもしれないけれど、授業はうまく進まないし。
先生たちには嫌われるタイプなのかもしれない。
変に生徒とフレンドリーで、授業はできなくて…って…。
「秋山先生は…去年も、一昨年も…今の3年生の担当ですよね」
「そうですよ。個性的な子が多いですよね、この学年」
「はぁ…」
とか頷いてみるけれど…。
秋山先生の言い方だと、どうも他の学年に比べてこの学年は、個性的な子が…ってな感じだ。
でも、俺は、他の学年のことは知らない。
それなのに、頷いたりしてよかったんだろうか。

確かに、個性的な子が多いとは思うけど。
あんまり、生徒のこと、知ってあげれてないってのが本当のところだ。

「どうですか。生徒と、うまくいってます?」
にっこり笑ってそう聞いてくれるのは、心配してくれてるんだろうか。
それとも、ちゃんと出来てるか、確認をとられているのだろうか。
「まぁ、それなりに」
どっちであってもいいような、あいまいな答えを発してみたり。
めちゃくちゃだな、自分。
「慣れないと、大変かと思いますが、がんばってくださいね。私も初めのころは、どうにもうまくいかなくって…」
あれ…。
この人って、話してみると意外にも語りだしちゃうタイプだったりするんだろうか。
しかもいい人っぽい。
別に疑ってたわけじゃないけど。
「私の担当は、現国ですし、答えがちゃんと1つってのが少ないじゃないですか」
「答えが…」
文章の読み取りだとかは、確かに、人それぞれの答えがあって。
もちろん、方向性なんかは、統一されてたり、まったく作者の意図したものと別の物を読み取っては困るけれど。
「そうですね…。一概に『コレ』って決まりきったものはないかもしれませんが…」
「漢字の問題とかはまた別ですがね。ある程度、決まりきった答えのある問題でも、間違えることってほとんどないわけですよ」
「間違える?」
「えぇ。例えば、文中の『それ』にあたる部分はなにかとか。その答えになるものはひとつであったりしますけれど、読み取り方を間違えることって、そんなにないでしょう。教師用の教科書ならば、書いてあったりしますし」
確かに、そういうものなら、答えが1つでちゃんと決まりきってるけれど…。
「ですから、間違いを生徒に指摘されたりすることは、ないんですよ」
あぁ。結論はそこにくるのか。

答えが決まりきったものに関しては、間違えることがほとんどなくて。
それ以外の問題は、答えがいろいろあって決まりきってなかったりするわけか。
もちろん、生徒が間違った答えを出すことはあるだろう。
それは『違う』と指摘すればいいが、先生の方が間違えることは、まずない。
指摘されることなんてないだろう。
万が一、間違えてたとしても、生徒だって、先生に説明されれば『そういうものなのか』と考えてしまうかもしれないし。
間違いって判断するのは難しいかもしれない。
「いいですね」
って、俺、これじゃあ、自分は指摘されるんですよーって言ってるようなもんじゃん…。
「宮本先生は、数学じゃないですか。数学は、気を抜いていれば解いてる最中に間違えるなんて、よくあることだと思いますし…。間違えるというか、計算間違いとかですね。その間違いに、生徒もすぐ気づいたり…。指摘されやすい教科だなって思うんです」
指摘されやすい教科…。
確かに、一番、そうかもしれない。
社会なんかは、まず間違えることはないだろう。
あったとしても、あまりにも先生がボーっとしてて、書き間違いとか?
英語に関しては?
これも書き間違いとかか。
というか、間違えたとしても、生徒がそれを指摘するだけの能力があるかどうかだ。
たとえば、『is』じゃなくって『was』だった場合とか。
間違ってたとしても、生徒が気づくか。
気づいて、指摘出来るほど、英語に自信が持てるものなのだろうか。

まれにいたとしても少ないだろう。
それに比べて数学。
モロ、ばれちゃうよ。
違ってるって。
掛け算の間違いとか、足し間違いとか。
すーぐ、ばれちゃう。
それくらいなら、隣の席の人とすぐ確認して『違う』って。
で、指摘されちゃうんだろうな…。
「はぁ…」
ついため息が洩れた。




あとで、桐生先生の意見を少し聞いてみよう。
でも、あの人はもしかしたら、1度も間違えたことなんてない…とか言い出すかもしれない。
計算間違いとか…。ないのかなぁ。

「あの…秋山先生は、全部のクラス、スムーズに授業出来ます…?」
って、こんなん聞くのおかしいか?
でも、あの凪とか凍也とか霞夜とか。
悠貴とか拓耶とか。
あそこらへんの子を、うまく抑えられるのかどうかとか…。
「一応…ですね。宮本先生は、なにかお困りなんですか?」
あぁあ。
いかにも自分は出来てないって言ってるようなもんだよな、俺。
そうじゃないとしたら、秋山先生をものっすごく見下してて、『お前なんかに、スムーズに授業出来るのか?』って言ってるみたい。

「…俺、どうにも、うまく出来ないクラスもあって…」
「宮本先生は、若いですし。いろいろ話したがるんでしょうね。生徒も」
確かに、いろいろ話してくるけど…。
「どうにも、生徒にからかわれちゃうみたいで…」
「そうですか…。生徒たちも、結構、言葉巧みに言いくるめてきますからね」
あぁ。
そっか。
国語の先生なら、言葉で負けたりはしないか。
いいなぁ。
「がんばってください。早めに慣れて、授業の方向性を決めれば…」
授業の方向性?
進め方か。
「はい…。ありがとうございます」

なんでもないトークを秋山先生としているうちに、飛行機は上陸。
少し、この人とも仲良くなれた気がする。
よかった。

俺らは、それぞれ自分のクラスの人数を確認したり。
桐生先生と樋口先生は、別のクラスのところで遊んでいた。
桐生先生も樋口先生も。
すっごい生徒となじんでて、楽しそうで。
俺は、こうやって一緒に遊んでくれる生徒ってあんまり…ほとんどいないし。
うらやましいなって思う。
そりゃ、まじめな片山先生とか秋山先生とかは、そんなに懐かれてないけど…。
それなりに、真面目な生徒とかに尊敬されてたりするんだと思うし。

俺って、生徒に好かれないタイプなのかなぁ…。

あ。
猫。
かわいいなぁ。
俺がしゃがむと、そっと近寄ってくる。
人に慣れてるんだな。
猫だけだよ、こうやって俺んとこ寄ってきてくれるのって。
…ちょっと、抱き上げちゃってもいいかな。
すっごい、かわいい。
俺はつい、その猫を目の高さまで抱き上げた。

『カシャ』
って。
その音の方を向くと、携帯を向けた凪が…。
「っ凪っ?」
「猫と宮本先生♪へへ、かわいいよ。ほら」
そう言って、俺に撮ったばかりの画面を見せる。
俺はともかく、猫がかわいい。
「綺麗に撮れてるでしょ」
「うん…」
「送ってあげよっか? 猫との記念」
送るって……。
「携帯、持ってんでしょ?」
「う…うん…」
画像、送ってくれるのか。
生徒とこんなことって…なんか、嬉しいかも…。
猫をそっと下ろして、俺が、携帯を出すと『見ていい?』って、手際よく、俺のアドレスを調べて、送ってくれる。
「はい」
俺に携帯を返してくれて。
届いたメールを確認したら、さっきの猫と俺。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「白石―っ」
そう呼ぶのは、凪の担任の先生。
そうだよ、俺、自分のところに凪引き止めてどうすんだよ。
馬鹿だよ、もう…。

はぁあ。猫―。
俺が、そっと頭を撫でてると、不意に向こう側へと行こうとする。
あぁあ。
追いかけるわけにも行かないし。
俺って、猫にも振られたな。
別に、ほかに振られてるわけじゃないけど。

猫を目で追うと、その先にいたのは樋口先生だった。

やっぱり、樋口先生って猫にも好かれるわけ?
うらやましいな…。
猫でさえ、俺より樋口先生の方がいいってわかっちゃうのか。
…ちょっと凹むなぁ…。

樋口先生は俺の視線に気づいたのか、顔を上げてこっちを見る。
うわぁ、目があっちゃった。
とりあえず、軽くお辞儀でもしてみたり…。

すると、猫を持ってこっちにわざわざ来てくれた。
「あ…あの……?」
「猫。好きなんだ?」
「…はぁ…。好き…なんですけど…」
俺は、猫に好かれてないみたいです…なんて…。
猫は、俺より樋口先生の方が好きみたいだとかさ。

「…宮本先生? すっごい凹んでるみたいに見えるけど」
そんな風に見えるのか。
みっともないなー。
たかが、猫で、嫉妬…じゃないけど、少し妬んでたりするんだろう。

「樋口先生って、猫に好かれるんですね」
猫だけじゃなくって、きっと生徒にも好かれてるんだろうなーって思う。

「……なんとなくわかるから」
そういきなり、樋口先生は俺に言って…。
「は…?」
ついそう聞き返してしまう。
「宮本先生…。要するに…まぁ、キツく言うつもりはないけど? 猫が近寄ってくるには訳が合って。…生徒にもそれなりに共通する部分があるわけ…」
樋口先生や桐生先生のところに、生徒が寄ってくのには、それなりの理由があるってことか?
そりゃ、そうだろうな…。
「俺は…」
寄って来てもらえる要素なんて、なにひとつなくて…。
実際、猫だって、俺より樋口先生を選んだ。

俺に寄ってこない原因は、俺自身にあるって言いたいのか…。

「これ」
そう言って俺の目の前に小さな袋を出して見せる。
「これ…」
「またたび。これに寄ってきただけだし」
またたびを樋口先生が持ってたから、この猫は樋口先生に寄ってったってことか?
「寄ってくる理由なんて、単純なんだよ。ほんの些細なきっかけ」
企むように、俺に笑って、また桐生先生の方へと向かって行った。

俺、もしかして、うらやましそうに樋口先生や桐生先生のこと、見ちゃってたかな。
気をつかって、くれた…?
寄ってくる理由なんて、単純……か。
それでもやっぱり、樋口先生は、人に好かれる要素があるよなぁって俺は思う。

自分で無理だ無理だって思ってるよりも、なにか、寄って来てもらえるよう、努力した方がいい…ってことだろうな。
それはきっと、些細なことだったりするんだろう。
そう教えてくれたんだ…。
でも、なんで、またたびなんて用意してるんだろ…。
あの人、さっぱりよくわかんないな…。



みんなで移動。
ちょうど昼に近い。
昼ごはんを食べに、いったんホテルへ行くということだった。
移動最中、猫は俺の後ろをついてきていた。
またたびのにおい、俺に、移ってるのかな…。
またたびがなかったら、ついてきてくれないのかな。
でもはじめ、俺に寄ってきてくれたわけだし。
そう、証拠に写真まで撮った。
とはいえ、この時点で、またたびの匂いがないって証拠はないけど。
「いやぁ、好かれてるねぇ、宮本先生」
楽しげにそう声をかけてきたのは桐生先生。
「あのっ…これは、樋口先生のまたたびのにおいがするからかと…」
「だったら、宮本先生より智巳ちゃんの方、行くっしょ?」
周りと見渡すと、樋口先生は見当たらない。
「…樋口先生は、遠くにいすぎて、わからないんじゃ…」
「そか。まぁいいけど。猫好き?」
「あ、はい。犬も好きなんですけど…」
「あと…。バスで。キスしてすみません」
にっこり笑ってそう言って。
俺にキスのことを思い出させる。
「…いえっ…その…あれはゲームですし…拓耶が言ったことですし」
「じゃあ、犯されても、そう言える?」
「え…?」
犯…とか言った?
「ま、ともかく、また夜にでも」
笑顔でそう言われると、追求出来ないし。
「はぁ…」
そう頷くしかなかった。



ホテルにはさすがに猫は入れられない。
ばいばい…って心の中で呟いて。
俺は生徒とともに中へと入り込んだ。
猫は、しつけられてるのかなんなのか。
入ろうとはせずに、庭にいた。
いい子だな…。



昼ごはん後。
少しの自由時間。
どうにも猫が気になって、庭へと見に行ってみる。
けれど見当たらないもんだから、俺は中庭の方へと向かった。
いた。
猫。
俺は、猫のいるところへと、つい飛び出していった。
「っあぁあっっ」
いやらしい声。
なにも考えずに猫の方に行ってしまったのを、後悔した。
近くの木の陰に、人が2人。
やっちゃってる。
いまさら、動けないというか、あぁもう、引き返した方がいいんだろうけど。
もう、見つかった…?
恐る恐る、視界をそっちに向ける。

いわゆる対面座位。
受けてる子は、俺の学校の生徒なんだろうけれど、俺の位置からは背を向けていてわからなかった。
たぶん、俺にも気づいてないはず…。

「ぅっんっあっ…ぁあっ」
すごい声……って、聞き入ってる場合じゃない。
攻め側の人は…。
そう目を向けると、樋口先生で。
俺、そんな誰かなんて確認せず、とっととどっか行くべきだったんだろう。
あぁああ。
樋口先生。
不意に目をそらすことも出来ないし。
樋口先生は、にっこり俺に笑いかけて、軽く手まで振る。
もちろん、振り返すわけにはいかないし。
「ぁあっ…智巳ちゃ…ぁっやぁあっ…」 あえぎ声のせいで、俺の精神まで崩壊しそう…というか、思考能力が低下させられる。
…でもまぁ、この調子なら、とりあえず、受けの子には気づかれないかな…。
俺は、猫を、そっと抱き上げる。
「にゃぁあ」
って、こういうときに声出してっ!
振り返ったりしない…?
目を向けると、智巳先生がばっちり、生徒の頭を撫でて、さりげなく振り向かせないようにしてくれていた。

俺は猫を持ったまま、中庭から、表の庭まで、音を立てないように移動した。

…どうしよう…。
表で、つい猫を持ったまま、立ち尽くしていると、俺に気づいた生徒が寄ってくる。
「宮本先生、猫、どうしたの?」
って。
陸と鈴だ。
「うん。さっき、中庭にいて…」
「中庭?」
あぁあ。今、中庭に2人が行っちゃったりしたら、困るじゃん。
「ずーっと、宮本先生についてきてたんだよ」
って、後ろから声がかかる。 「桐生先生っ」
俺と陸と鈴の声が被っていた。
「かわいー。あぁ、俺、陸とこれからちょっと、出かけるから…」
鈴はそう俺に告げて手を振る。
「うん。ちゃんと時間までに戻ってくるんだよ」
「わかってるって」
2人は、もう一度、俺に手を振って。
俺は、2人の背中を見送ったあと、やっと桐生先生に向き直った。
「中庭になにかあるの?」
いきなり、そう聞かれてしまう。
「なっ…んで…」
「いえ。なんか、陸が中庭って聞き返したとき、妙に焦り見せてたから」
…俺って、駄目だなぁ…。
「…その…別に…」
って、桐生先生には隠してもバレちゃうだろうし…。
「見てみよっかな」
笑顔でそう言って。
俺が、駄目ですなんて言えないし。
中庭に向かう桐生先生を止めることも出来なくて。
このまま、お別れってのもなんかそっけないし、しょうがなく猫をその場に置いて後を追った。

音立てないように、歩いてくれるのは、なんか予想してるんだろう。
それはありがたいことだけど…。
建物の細い横道を通って、中庭を覗くと、やっぱりまだ2人いて。

桐生先生は遠くからそれを見ただけで気がついたのか、
「…智巳ちゃんか…」
ため息をつくようにそう言って俺の方へと向き直る。
「…すっげぇ、うまいんだよ、これが」
変に感心したように、俺も見ずにそう呟く。
「…なに…」
「まぁ、俺も大して比べたりしたわけじゃないから、わかんないんだけどさ」
「あの……。なにが…」
桐生先生はやっと、俺の目を見て。
「なにがって?」
「いや…だから…うまいとか…」
「あぁ、でも柊もうまいんでしょ?」
いや、そんなこと聞かれても困るし。
「…そんなの…比べたことないし…」
そりゃ、下手ではないと思うけど…。
でも、桐生先生って、智巳先生のなんで知って…。
大して比べたことないとか…なんか…やったりしたんだろうか…。
「比べてみる?」
にっこり笑うと、俺の顎を手にとる。
「…っな…」
俺が、なにか迷う隙もなく、口を重ねられた。
「っんっ…ンっ…」
舌が入り込んで唾液を送り込まれて。
何度も絡ませられた舌に、気が遠くなりかける。
後ろは建物で。
前はなんなんだろう、壁…。
ともかく、人目につかないところだ。
だからって、誰にも見られなくって安心…なんてこと、考えてる場合じゃない。
口を重ねたままで、桐生先生は俺の股間をそっと撫でる。
「っ…ンっ…」
ついビクついて、後ずさると、背中が壁にぶつかった。
「…どう…?」
「え…あ…。キス…のことだったんですか…」
うまいって。
つい、最後までかと…。
「どう思った? もちろん、智巳ちゃんがうまいってのは、キスだけじゃなくって、最後までだけど」
そう言いながら、ズボン越しに、股間を何度もなで上げてくる。
「っちょっ…ぅンっ…桐生せんせっ…」
「智巳ちゃんってねぇ。ホント、モテるんだよねぇ」
俺が拒むのを無視して、片手でチャックを開けると、俺のを直に取り出して擦り上げる。
「っやっ…ぁっ…」
「まぁ、俺も結構、生徒に手、出すけど。智巳ちゃんも、わりと出すわけよ。しかも、あの人の場合、生徒から言い寄ってきたりするわけでさ」
樋口先生って、やっぱすごいのか…。
生徒にモテるって、いいな…。
なんて、うらやましがってる場合じゃない。
何度も擦られて、俺にはもう、桐生先生が言ってる言葉に対して考える余裕がなかった。
「っあっあっ…くぅ…ンっ…はぁっぁあっ」
体がビクンと震え上がってしまう。
恥ずかしい…。
「ここ、撫でられるの、好き?」
そう言いながら、俺のを擦り上げたまま、もう片方の手の指が、亀頭の先を撫でる。
「っひぁっ…ぅんんっ…はぁっ」
どうしよう…。
反論とかする余裕も、なにもかもない。
でも、駄目だろう、こんなの…。
「っぁっ…ゃめ…」
「とりあえず、1回、イかせようか?」
そう言って、俺の前に跪いて。
あろうことか、俺のに舌を絡める。
「っぁあっ…ゃっあっ」
どうしよう。
こんなこと、していいはずがない。
でも、気持ちいいわけだし。
桐生先生がしてくれるって言ってんだから、素直にここは、口でくらいやられてしまっても…。
そりゃ、出しちゃったらまずいけれど、そんなん、してきた方が悪いだろ?
「っぅンっ…ぁっ俺っ…」
「出しても、いいですよ?」
ほら…。
桐生先生もそう言ってる。
いい…かなぁ…。
なんてそう考えてしまっていたときだった。
いきなりズボンと下着を下ろしてしまう。
「っなっ…」
「どうせなら、後ろもやられてみたくない?」
「っそんなことっ」
俺を無視して、舌で湿らせた指先を前から、足の間、奥の方を撫でる。
「っゃめっ…」
「遠慮しないで…」
遠慮とかじゃなくって…。
どうしよう、どう言えばいいのかわからない。
俺が、迷ってる隙なんてなかった。
ゆっくりと、指先が入り込む。
「ゃくっ…ぁっ、あぁあっ…」
相変わらず、舌が俺のに絡み付いて。
舐めあげたまま、後ろの指は奥までと差し込まれてしまっていた。
「っんぅっ…や…」
中に差し込まれた指が、少し動くだけで、ゾクゾクと体が痺れて。
足にも力が入らない。
こんなんされたらもう、駄目だって。
ゆっくりとだけど、中をかき回すように指が暴れるみたいで。
「ぁあっ…だ…めっあっ…」
「駄目? どうして?」
「っくっンっ…ぁあっ…イく…っぅんんっ」
「いいよ…。かまわない」
そう言われると、少しだけ安心しちゃったり。
この人の前でイっちゃうのが恥ずかしいだとか、そんなん考えてられるようなレベルじゃないんだよ、もう…。
気持ちよすぎて。
気がおかしくなりそう。
わざとなのか、ピチャピチャと舐める音があたりに響いて。
慣れてきた後ろを指がピストン運動する。
「ぁあっ…ぃいっ…もぉっ…やぁっあっ」
こんなに、何度もイイところを突かれて。
やらしく擦られて。
もう、考えてられなくなる。
「っやっ…ゃああっ…せんせっあっ…ぁあああっっ」

我慢しきれなくって、欲望を弾け出してしまい、放心状態。
「あ……」
「大丈夫?」
指を抜かれて、そっと、なだめるみたいに俺の肩をポンっと叩いて。
「…は…い…」
って、答えざる得ないだろう…?
どうにも気まずいような…。
「…また、夜、部屋伺いますから」
「え…」
「あぁ。智巳ちゃんと一緒に。柊に頼まれたんですよ。いろいろと、相談に乗ってあげて欲しいって」
柊先生ってば、俺が言った不安なこととか、この人たちにバラしたのかっ?
別に、バラされてもかまわない相手だし、秘密事っってわけじゃないからいいいんだけど…。
「そんな…」
申し訳ない…。
「別に頼まれたからってわけじゃなくて、そりゃ、俺たちだって、なにか宮本先生が困ってるんだったら、柊の頼みがなくとも相談にのるし?」
そうにっこり笑ってくれる。
いい人だ…。
「ありがとうございます…」
「いえいえー」
「あの……」
それより、今、したことについては、どう考えているんだろう。
「なに?」
そうにっこり、聞き返されては、聞けるはずもない。
「いえ…」
「ん。じゃ、夜にそっち、行くから。待ってるんだよ」
俺は、他に選択肢がない気分で、あいまいながら頷いた。

夜…。
相談乗ってくれるだけで、終わるんだろうか…。
なぁんて、妙な不安を覚えていた。