数日前、結局、口で上手く出来ず、それでもきっとやる気だけは認めてもらえたかななんて思っていた。
 だから素直に。
「……口で、どうすればいいのかわかりません」
 行為の後、言い出せそうなテンションのときにそう告げた。
 どうせ、されたいようにすればいいよって言われるだけかななんて思ってたんだけど。
 で、その答えじゃ俺、わからないままだななんて考えてたのに。
「じゃあ、練習します?」
 柊先生の答えは俺の少し斜め上。
「え……」
「……宮本先生、慣れてないみたいですし、難しいでしょう?」
「……はい」
 まあ、難しいんだけど。
 え、どういう。
「じゃあ、今度。ね」

 そして今。
 仕事後に、保健室へと連れてこられた俺は、ソファへと座らされていた。
「練習する気、あります?」
 突然のその言葉。
 だが意味はわかった。
 無いですとも言いづらいよな。
 なんだか申し訳ないし。 
 練習しなくても出来ますとも言えない。
 本人が教えてくれるってんなら、その方が独学で下手な自分を晒すよりは。
「……でも、ここでですか」
 まあどちらかの家で改めてってのもなんだし、いつも保健室でさんざんしてるけど。
「ただの練習ですから。実際にやれってわけじゃなく」
 あ、そっか。
 大したことしないのかな。
「なんか……いざ練習とかって恥ずかしいんですけど」
「はい。俺、宮本先生が恥ずかしがってるの大好きなんで」
 ああ。俺いらんこと言っちゃった。
「だから、練習したくないなって顔してる宮本先生も、好きです」
「あ、そのっ。したくないわけじゃなくてっ」
 どうすればいいんだろ。
「がんばりましょうね」
 にっこりそう笑顔を向けられると、どうにも拒めず
「はい……」
 そう答えてしまっていた。

 柊先生は俺の隣に座り、それに合わせる形で俺もまた、柊先生へと軽く体を向ける。
 俺の顎を掴み、ボールペンを取り出すと俺の唇を突いた。
「入れていい?」
 エロい行為じゃないのに、その言葉になんだか照れてしまう。
「あのっ……」
「なに?」
「いきなり……奥突いたりしないですよね」
「はい。大丈夫です」
「ペン……間違って飲んじゃったら……っ」
「……そんな奥入れるつもりないですし、間違いは起こらないと思いますけど。そんなに怖いんなら、指にしましょう」
 指。
 指なら、間違っても飲み込んでしまうことはない。
「本当は、指より先に無機物で少し撫でようかなって思ってたんだけど。じゃあ口、開けて」
 確かに、無機物の方がいやらしくは無い気もする。
 まあとにかくどっちにしろ恥ずかしいんだけど。

 軽く口を開けると、ボールペンをしまった柊先生の人差し指が、ゆっくりと口の中へ。
 あいかわらずもう片方の手で顎はつかまれたまま。
 少しだけ俯かされていた。
 ここまできておいてなんだけど、いまさらながら拒んでおけばよかったとか思えてくる。
 なにしてんだ、俺。
 こんな、練習なんて。
「逃げないでね」
 指が舌先に触れた瞬間、つい引っ込めそうになったがその言葉で動けなくなる。
「……っ……」
「今、第二間接くらい」
「……んっ」
「少し、動かすよ」
 ゆっくりと、舌の上を柊先生の指が左右に撫で、軽く出入りをすると、唾液の絡む音がわずかに聞こえた。
 これ、柊先生にも聞こえてるんだろうか。
「……たくさん、濡れてきた」
 耳元で柊先生に囁かれ、一気に羞恥心が高まった。
「ん……」
「わかる? 芳春も自分で舌、動かしちゃってるね。上手」
 芳春って。恥ずかしい。
 口に指入れられてるとどうにも言葉が発せない。
 ただ柊先生が、指を抜き差しするのに合わせて自然と舌を絡めてしまう。
 これは、なんていうかじっとしていられないっていうか。
「いいよ。もっと絡めて?」
 ……柊先生もそう言ってくれてるし。
「んっ……」
「……すごいね。芳春、口開けたまんまだから、たくさん垂れてきちゃってる」
 たくさん唾液が溢れて。
 飲み込めなくて、柊先生の指がベタベタなのは自分でもわかっていた。
 垂れてる……?
 少し顔を上げ、柊先生の表情を伺った。
「もう、俺の肘まできてる」
 そんなに!?
 さすがに恥ずかしくて、泣きたくなった。
「んっ……ンっ」
「……じゃあ、これ以上垂れないように、吸ってみようか。口、閉じていいから」
 本当に、これ以上は……そう思い、柊先生の指を含んだまま口を閉じ、軽く吸うと、隙間から空気が入り、いやらしい音が響いた。
「いいよ。そうやって、何度も咥え直してしゃぶってごらん」
 しゃぶるだなんて。
 柊先生が指を抜き差しするのに合わせて、しゃぶりあげると、ちゅるちゅる聞こえて くる。
 ……じゅるじゅる?
 なんにしろ、恥ずかしい音。
 これ、俺が出してんだよなぁ。
「…んぅっ……」
「芳春泣きそうだね。苦しい?」
 苦しくはないが、精神的に泣きそうだ。
 目が潤う。

 それに、この行為。
 こないだ柊先生のを舐めていたときにも思ったが、いやらしくて、体が熱くなる。
 こんなんで、勃つとか。
 そう思ったら恥ずかしくて。
「……エッチな顔してる」
 そう言われると、つい顔をあげ反応してしまっていた。
 目が合うと、柊先生がゆっくりと指を引き抜いていく。

「芳春は、結構、歯、立てちゃうねぇ」
「……すい……ません」
 見ると、確かに唾液で濡れた柊先生の指に軽く歯形のような跡があるようなないような。
「……してあげる」
 そう言うと、今度は俺の手を取り、柊先生がその指先を口に含む。
 すごい。
 俺の人差し指、奥の方まで。
 吐きそうにならないのかな。
 舌が絡み付いて、ゾクゾクしてしまう。
「ぁっ……っ」
 つい、声を漏らしてしまい、慌てて空いた方の手で口を塞ぐ。
 それに気付いてか、指を含んだまま俺を見て、笑う。
 わざとなのか、音を立てて吸い上げながら抜き差しされ、指だけなのに頭がボーっとしてしまっていた。
 
 歯……当たらないな。
 痛くないし、舌や頬の粘膜だけが絡まって、あったかい。
 やっと俺の指を口から出すと、親指の付け根辺りを舌先が這う。
「んっ……!」
「ん……ここらへん、好き?」
 探るように、チロチロと動く舌先が手首の方へと移動していく。
「んっ……ん」
 内側の手首付近。
 口付けられたかと思うと軽く吸われてしまう。
「せんせっ」
「……ここは軽くなのに、すぐ跡出ちゃいますね」
 色が白いから?
 血管が見えやすい位置だからかな。

 なんにしろ、ほんのり赤い跡を残されてしまう。
「まあ、すぐ消えるでしょうけど、どうしても嫌だったら腕時計でもして隠してください」
 ……目立つ位置ではないし大丈夫だけれども。

「芳春。ぼーっとしちゃってるねぇ。したいの?」
「そんなっ……こと」
 急に確信を突かれて体がこわばった。
「そう? じゃ、やめておこう」
「え……」
「どっち?」
 ああ、俺なんて恥ずかしい受け答えしちゃってんだよ。
 どっちかって。
 このまま我慢して帰って、一人で抜くか。
 今、柊先生に?
 どうしよう。
 そう考えてる隙にも、柊先生の手が、ズボンの上から俺のを掴む。
「っんぅ!!」
「……ここ、いつから硬くしてた?」
「っそん……なっ」
「教えて?」
 いつからって。
 たぶん、柊先生の舐めてたころから。
 けど、それを言えって?
 ズボンの上から、揉むようにして撫でられると腰が少し浮いてしまう。
「っ…あっ…んっ」
「教えてくれなきゃ、やめちゃいますよ」
 ここまで来たら、後戻りできそうにもない。
 柊先生の手は本当に気持ちがいいし。
「んっ……俺っ」
「いつ?」
「せんせ……の指っ……」
「俺の指?」
 言い留まると、すかさず耳元に舌先が這う。
「んぅっ」
「舐めてたときから?」
「っ……んっ」
 頷くが、それで許してくれるような人ではない。
「なんで? 俺の指舐めて、感じてたの?」
 もう一度、頷くと耳元で軽く笑われた。
「やらしいね。芳春は」
「ンっ」
「あのときたくさん、俺の手濡れちゃったし。ここも今、濡れてる?」
 手を回すように股間を弄られ、体が震え上がり、まるで柊先生の手に擦り付けるかのように腰が揺れる。
「ぁあっ…んっ…んぅっ」
「うん……フェラはまだちょっと練習が必要だけど。腰は本当に上手に振るねぇ」
 恥ずかしい言い回しに、涙が溢れた。
 生理的なものかもしれない。
「もっと、俺の手に擦り付けて?」
 言われるとおりにするつもりはないのに、止めることが出来ない。
「はぁっ…んっ……ンっ! やぁっ」
「どうするの? また服着たままイっちゃっていいの?」
 ズボン穿いたまま。
 こないだイかされてしまいとても恥ずかしい思いをした。
 俺は必死で首を横に振る。
「やっ……」
「じゃあ、自分で出して」
 しょうがなく、柊先生に見守られながらもベルとを外しズボンのチャックを下ろしていく。
 取り出すと、柊先生はまず指先を亀頭に触れさせ、俺に見えるようにして糸を引かせた。
 透明の液が、柊先生の指と繋がっている。
「ひぁ……っ」
「すごいねぇ。ぬるぬるしてる。もっとココ、撫でようか」
 亀頭ばかりを指先が撫でて、竿を擦りあげられているわけでもいないのに体が何度もビクついた。
「んっ! ぅンっ、ぁあっ」
「こうやって先の方、ぐるぐる撫でられてぬるぬるにしちゃうのって、ホント、女の子みたいでかわいい」
 女の子……?
「やっ……ぁあっ」
「芳春は、女の子のクリトリスみたいにココが敏感なんだねぇ」
 恥ずかしいのに、なんとなく自分でも女子とだぶるような感覚にたくさん涙が溢れた。
「んぅっ…違っ…ぁっあっ」
「声も涙も止まらないくらい感じちゃってるくせに」
「ぁんっ…やっ…ぁあっんぅっ」
 柊先生の言う通り。
 声が、止められない。
 俺も、なにを必死になっているのかわからないけれど、首を横に振って違うと伝えていた。
「ん? そうだねぇ。芳春は女の子よりずっといやらしいよ」
「やっぁっ…」
「俺の指だけじゃなくって、言葉でも感じてくれてるでしょう? すごいさっきより溢れてるし、腰つきもいやらしいし。ここだけでイける?」
 ここだけでイけるどころかもう、我慢できそうにない。
「ぁっあっ…ん、ぃくっ」
「ん。もうイっちゃうんだ? 待って。ココ、舐めてあげる」
 柊先生は、俺の前にひざまずくと、いままで指で撫でてきた亀頭を今度は舌先で、チロチロと舐め上げる。
「ぁあっ…あ、…だめっ…ぃくっ…ぁあっん、もうっ」
「ん……いいよ」
 先の方だけ口に含んで、舌先で尿道付近を突かれ吸い上げられると、限界だった。
「やあっ…あっ…ああぁあああっっ」

 
 当然のように柊先生は俺の出した物を飲み下す。
 恥ずかしい。

 また、こんなところで。
 最近、保健室でエッチなことするのに抵抗が薄れてきている気が。
 だって、トイレとか廊下よりはマシだって思うわけで。
 でもやっぱりよくないよな。
「こんなところで……こういうことするのはちょっと」
「そうですねぇ。いまさらですけど。まさか指舐めるだけで欲情しちゃうと思ってなかったんで」
 そう言われると言い返しづらいんですが。
「もう練習もここではしません……」
「感じるから?」
「っ……というか、こんな……」
「じゃあ、家ならいいんだ?」
「……いいというか……」
 しないと下手だし。
 別に、柊先生だってそれを強要しているわけではない。
 無理なんで、俺はやりませんって言ったらたぶん、そのまま終わる。
 終わるんだけど。
 やっぱり柊先生がして欲しいって思ってることをしたいとか思っちゃうわけで。
 俺、ホントどうしちゃったんだろう。

「いいですよ。次は宮本先生が練習したいって思ってくれたときに俺のこと呼んでくれれば」
「……はぁ」
 つまり、俺が言うまで練習は中断ってことか。
 結局、あんまり前進出来てない?


「明日も仕事ですし。帰りますか」
 柊先生にそう言われるけれども、結構な頻度で、俺だけイってるよな。
 少しだけ罪悪感。
 そりゃ、柊先生が勝手に手を出してきたんだと思っていつもは正当化してきたけれど。
 もし、俺が口でするのにあまり抵抗がなかったり、上手に出来たりしていたら。
 柊先生のために、今、してあげようって思えたりするのかな。
 ほら。Hするには保健室ってちょっとあれだし。
 口だけなら……いや、アウトか。
 その前に、手だけでイかせてみせるとか。

 ……どっちにしろ、まだ出来そうにないな。