とりあえず、DVDの件はなんとか落ち着いた……と思う。

あとは。
口でするってやつ。
修学旅行、無事終わってからね、なんて言われてしまって。
そのまま。
別に約束したわけじゃないけれど、なんだか俺の中でものすごく引っかかっている。

普段いろいろしてもらっちゃってるしな。
なるようになれ……なんて思ってたんだけど。
……このままだと流れる?


やる場合は、やっぱり柊先生に教えてもらうのか?
でもなぁ。
あの人、絶対に慌てる俺のこと楽しんで見てきそうだし。
教えてくださいって言ってみたところで教えてくれるかどうかもわからない。
自分の思うようにしてみてくださいって言いそうだよな。
 
恥ずかしいけれど、やっぱりとっとと誰かに聞いて済ませよう。
それがいい。
そう思うわけ。
だって気になって仕方がないから。

となると樋口先生か、桐生先生なんだよな。  
どっちにしよう。  
というか、俺、桐生先生に口でされたよな。
その人相手に『男のモノを舐めるってどんな気分ですか』なんて聞けるのか?
じゃあ樋口先生?
樋口先生って、経験あるのかな。
もしかしたらさせる専門でしたことは無かったり……。
そう考えると桐生先生は確実だもんなぁ。

女の人に聞くなんて変態だし、たぶん考え方も違う。
樋口先生は、俺が嫌がればたぶん手を出さないでいてくれるだろうけれど桐生先生はどうなんだろう。
いや、まあたぶん、大丈夫だよな。

結局どっちも『たぶん』なんだよ。  
……こないだは俺が流されちゃったから、少し手、出されたけど。  
今回はね。ちゃんと拒めば大丈夫。  
……だよな。

桐生先生。  
テストの問題作りのときも、この人に頼ったし。  
頼りになる先輩ってポジションだな。


「あの、桐生先生っ。ちょっと相談したいことが……」  
翌日の昼休み。  
職員室を出て行こうとする桐生先生を呼び止める。
「はい、どうしました?」

いや、この場で言うのは無理だ。  
ただ、今声をかけないとこの人、捕まらなそうで。

「その……っ」
やり方?  
どうするかって聞いたところで、舐めるだけなんて言われたら。
「……場所、変えますか?」
「え……」
「顔、赤いし。そういう相談なんでしょう?」
……そういう相談って。  
最悪だ。
「そのっ」  
でもそうなんだけど。
 
気を使ってか、数学準備室で一緒に昼ご飯を食べようと桐生先生の方から誘ってくれる。
他の人に聞かれても困るしな。  
2人で、数学準備室へと向かった。



「どうした? 柊のこと?」  
いきなり。
「俺って、顔に出やすいですか?」
「それなりに」  
まあ隠してもばれちゃうんだろうし。  
しょうがないよな。  
でも、どうやってその話題にすれば。  
そうだ、俺、桐生先生にされてたんだった。
「その、柊先生ってわけでもないんですが。修学旅行のとき、俺のこと……口でしたじゃないですか」  
ここから話に持ってけば、それなりに自然。
「うん。したね」
「で……」  
いや、待てよ。  
それで、どうでしたって聞くのも。  
まるで、俺のはどうだったかって聞いてるみたいだし。
「えっと……。口でとか、抵抗ないですか?」  
よし、これなら大丈夫。
「どうして?」
「え……」
「別に大丈夫かな。手で擦るのとさほど差はないと思ってる」
「そんな……」  
結構な差じゃないか?  
いや、でも俺って柊先生のもの、手で擦りあげた経験もないな。
 
「俺にされてイヤだった?」
「いえ、そういうんじゃなくて……」
良かったとも言いづらいんですが。
「ああ。柊にするの?」  
やばい。  
即バレてしまう。
「あの、そうと決まったわけでは……っ」
「でも、してあげられたらって思ってるんだ?」
「違……っそういうわけじゃ。あの、全部違うわけでもないんですけどっ。しないかもしれませんしっ」  
慌てふためく俺を見てか、桐生先生に笑われてしまう。  
なんだか恥ずかしい。  
 
もうここまできたら隠さなくてもいいかな……。  
どうせばれるんだ。  
そこまで、酷い内容がばれているわけでもないし。  
高校生の男子同士の方が、会話激しいし。  
桐生先生もいい大人だし。  
いい大人だからこそ、こんな話題は……とも思うけど。  

「した方がいいのかなって思うだけです」  
柊先生の方からして欲しいって言ってきた……ということはとりあえず伏せておこう。

「で、宮本先生は少し抵抗を感じてしまうと……」
「そういうことです」
「というか、とっくにしてると思ってたけどね。したことないんだ?」
「なっ……いです」  
したことあるとか。  
ほら。  
やっぱりすでにそういう目で見られてるわけだしいまさら隠すのも、無駄な気がする。
「されたことは?」
「それはありますけど……」  
なんかいろいろ聞き出されてる?  
いや、これくらい普通か。
「まあそうじゃなければ、俺が先、頂いちゃっても柊に悪いしね。よかった」  
そうにっこり笑われましても。
「はぁ……」
「かわいいね、顔赤くなってる」  
そう言われるとますます赤くなりそうだ。
「っすいませ……」
「いや、謝るトコじゃないけど。宮本先生みたいなタイプの人に口でされたら、柊も喜ぶだろうね」  
喜んでくれるのか、やっぱり。  
いや、向こうがして欲しいって言ったわけだし、そりゃそうだろうけど。
「でも俺、どうすればいいのかよくわからなくて」
「されたようにすればどうですか? もしくはされたいように」  
柊先生に聞いてもそう言われそうだよな。
「そうとは思うんですけど……」
「抵抗があるのなら、まずは咥えこまずに。裏筋だけでも舐め上げられたら気持ちイイでしょう?」
「は……い」
「いきなりイかそうだなんて考えなくていいと思うし。口だけでなく手でも擦ってあげて」  
そうだよな。
「でも、その、いきなりどうその流れに持っていけばいいんでしょうね」
「難しい?」  
難しい。  
柊先生の方から、やれって言ってくれたならまだしも。  
自分からとか。
「どうすれば……」
「お酒の力でも借りちゃいますかね」  
お酒。
「あのっ……。俺、すっごい酔うんでそれは」
「あまり飲めないの?」  
飲めないわけじゃない。
「それなりには飲めるんですけど。たしなむ程度で。行き過ぎると結構、酷い酔い方しちゃうんですよ」
「じゃあ、少しでいいんじゃないですか? 意識が飛ぶか飛ばないかの所で。羞恥心だけ無くせば」  
やっぱり。  
それしかないよなぁ。

「こないだ酔ってしまって、柊先生の前で、失礼な態度、取っちゃったんです。それなのにまた、飲みに誘うわけにも……」
「それは、柊が飲ませすぎたせいじゃないの?」  
おぉ。さすが桐生先生。  
わかってらっしゃる。  
確かに、そうなんだ。  
もう少し量が少なければ大丈夫だったはず。
「そうなんですけど」
「それは、どこかお店で?」
「いえ、柊先生の家です」
「じゃあ、次は宮本先生が、こないだのお礼にって、家に誘ってみるとか」  
家に誘う……というのもなんだか恥ずかしい気がするけれど。  
そういえばこないだは食事にお呼ばれしたんだ。  
それなのに、DVDのことでいっぱいいっぱいでお礼だなんて考えてもいなかった。
「そう……ですね。俺、まだお礼してなかったんで」
「うん。それに、好きな人が自分のためになにかしてくれるのって嬉しいから。そう気負いせず、行動してみればいいと思うよ」
 
好きな人が自分のために……か。  
そりゃそうだ。  
こんなにも、覚悟がいる。  
嬉しいって思ってくれなきゃ困るし。  
けれど、引かれるんじゃって思いもなかなか拭えない。
「あの、桐生先生は、いきなりそういうことされたら、どうですか?」
「好きな子に? 嬉しいよ。そういうのするタイプじゃないからなおさら」  
俺も、するタイプじゃない……よな。

「ありがとうございます」
「がんばって」
「すみません。こんなこと聞いちゃって」
「いやいや。いいよ。なんでも聞いて」  
なんでもは聞きませんが。  
その気持ちはありがたかった。



気が気じゃないから、あまり後回しにはしたくなかった。  
放課後、保健室へ。
「……失礼します」
「ああ、宮本先生。どうしました?」  
そこには柊先生と。  
もしかしたら、生徒もいるのかな。  
俺は保健室に入り込むと、そっとベッドの方へ視線を走らせる。
「いないですよ」  
ばれた。
「いえ、別に、その……っ」  
言い訳にしかならないよな。

「あの……」  
どうしよう。
「久しぶりに、また胃でも痛くなりました?」  
そういえば、以前は生徒のことで結構悩まされてたんだよな。
「そうじゃないんですけど。こないだ、柊先生の家で食事させてもらったじゃないですか。  その、お礼っていうか。よければ、今度、うちで……」  
いや。ちょっと待てよ。  
俺の家で食事?  
料理は?  
作るのか?  
いや、取る? 出前?  
出前ってのもおかしいだろ。  
けれど、大したものは作れそうにない。  
柊先生、なんだかんだで料理うまかったよな。  
どうすれば。
「……すいません。うちで食事でもって思ったんですけど、俺、料理そんな出来ないんで……とりあえずなにか、飲むとか」  
って、俺、結局、お酒のお誘いって。  
飲むカモフラージュで食事……って思ってたのに。

「いいですね。お酒、持っていきますよ」
「え、そんな。用意します」
「ちょうど、家にいいのがあるんで。なんならうち、来ます?」  
いや、それじゃお礼にならないんですけど。

「あの、俺、お礼をしようと思って」
「わざわざ、気にしないでください。宮本先生と過ごせるだけで充分ですので」  
そんな恥ずかしいことを言わなくても。
 
俺と過ごすって。  
2人でいるだけでいいのかな。
それとも、やるってことかな。  
 
2人でいれば、どっちにしろやる流れになっているのかもしれない。  
そういえば、昨日は、俺だけイかせて貰って、柊先生はなんにも。  
そういうのも気になるよな。  

「宮本先生?」  
名前を呼ばれ、そっと髪を手に取られる。
「な……」
「どうしました? 顔、赤いですよ」  
俺、顔赤いんだ……?  
ちょっとだけだけど、やるとか考えたから?  
それだけで?  
最悪だ。
「俺っ……」
「いいですよ。じゃあ、宮本先生の家でいいんですね? 明日はちょうど祝日ですし。今日の夜でもいいんですか?」  
あ。  
そうか。明日休みだったか。  
いつにするかなんて深く考えていなかった。  
なんとなく金曜日になるかなとか思ってたんだけれど。
   
今日、なにか用事があるわけでもないし。  
金曜日にしたらしたで、また数日、緊張しっぱなしになるだろう。
「はい……」  
今日、口でする……のか。
「じゃあ、一度、家に帰ってすぐ、宮本先生の家行きますよ」
「あ、誘っといてなんですが、部屋、あまり片付いてなくて」
「いいですよ」
 
そう言った直後だ。  
柊先生が、俺に口を重ねる。  
頬を撫でられ、後頭部を押さえ込まれて。  
舌まで入り込む。  

「んぅ……」  
舌が絡まって、体中が熱くなるようなキスだ。  
頬を撫でていた手が、俺の腰を引き寄せて、柊先生の足が俺の股間に当たってしまう。  
足の間に膝が割り込まれて、体がビクついた。
「んっ……っぁっ」  
一瞬口が離れ、慌てるよう息を吸うが、すぐさままた重ねなおされてしまう。  
やばい。  
体、熱い。  
 
少し肩に手を置くと、意外とあっさり口を離してくれる。
「あ……」  
けれどあいかわらず俺の腰は抱いたまま。
「どうしました、宮本先生」  
勃ちそう……かも。  
って、意識すると余計にやばい。  
それなのに、腰に触れていた柊先生の手が、お尻の方を撫で始める。
「っ……なっぁ……」
「こんな風に、ここ撫でられるだけで、感じます?」
「違……」
「違うんですか。じゃあ、もっと撫でていい?」  
駄目というわけではないけれど。  
執拗に撫でられ、体がビクついた。
「んぅっ!」  
耳元で柊先生に笑われる。  
恥ずかしい。  
こんな、ズボンの上から撫でられてるだけで、ビクついちゃって。  
柊先生の足が、俺の股間にあたってるから。  
そうだ。  
俺、硬くなって……。
「はぁ……っ、せんせ……今日はっ」
「うん? 家で、じっくりしたい?」  
そういうわけじゃ。  
けれど、今日は家に一緒に行くわけで。  
わざわざ保健室でする必要ないって伝えたかったんだよな。  
ってことは、結局、家でじっくりって……?
 
ああもう。  
すごいしたがってるみたいで、恥ずかしい。
「言って」  
家でじっくりしたいかって?
「っ……そういう……わけじゃ」
「じゃあ、今、ココでして。家ではなにもしない。で、いいでしょう?」
「そんなっ」
一応、ここ学校なわけで。  
ひょいっと俺の体を反転させ、後ろから抱きなおされる。  
すぐさま、股間のモノをズボンの上から掴まれ、また体がビクついた。
「あっ……」
「なにか、いやらしいこと、考えてるの? いつもより感じてる?」  
いやらしいこと考えてるって。
「違いますっ……っ」
「そんな即答しなくてもいいですよ。冗談です」  
冗談?  
乗せられかけた。やばい。

「も……もう、離してください」
「はい」  
離されても、実際そこが硬くなってたのはばれてるわけで。  
恥ずかしいよホント。  
どうにか落ち着かせないと。

「じゃあ、宮本先生、住所教えてくれます? ナビで行きますから」
「あ、はい」  
勃っちゃってたことに関してはなにも突っ込まれず……か。  
ほっとするような、それはそれで困るような。
 
住所を伝え、約束をして、なんだか中途半端な感じで、一旦、お別れ。  
俺はすぐさま家に帰り、とりあえず部屋を少しだけ片付けた。