部屋に案内されて。
「そこ。座っててください♪」
大きめのソファを指差し教えてくれる。
「ありがとうございます…」
柊先生は、準備をしてくれているのか、向こうの方へ。
とはいえ、声が届く範囲だ。
「あの…俺、なにか手伝うこととか…っ」
「大丈夫ですよ。待っててください」
その言葉に甘えて、ソファに座ったまま、柊先生の背中を眺めていた。

なんか、ちょっと新婚さんみたいな…。
ってなに考えてんだ、俺。
新婚さんというよりは、まずカップルだろう?
というか、カップルとか以前に、ホントもうなに考えてんだ?
「昨日、電話切ったあと、ちゃんとすぐ寝ましたか? 3日目も、無事過ごせました?」
不意に振り向かれ、無駄に体がこわばった。
だってそうだろう。

俺が、ずっと背中眺めてたの、バレてそうで。
はずかしいってばっ。

「えぇえっと…っ」
電話の後。
柊先生に貰ったバイブで一人Hして。
エロい夢見て。
そのあとボーっとしてるうちに残りの一日、過ぎ去ってしまったもんだから。
微妙だ。
どう答えればいいのやら。
何事もなかったです。
というつまらない回答しか思いつかない。

というか、遠まわしにバイブのこと聞かれているんだろうか。
いや違うだろ。
「…普通でした」
「…普通?」
なに言ってんだ、俺は。
柊先生がせっかく話題を作ってくれているのに、あえて話を終わらせるような言い方。

それでも柊先生は笑ってくれて。
なんか、そんな些細なことで、妙に体が熱くなる。
もう重症だ…。




「宮本先生は、お酒が入るとどうなるんですか?」

勧められるがままに、数杯飲んでしまったあと、愉しそうにそう聞かれた。
先輩から勧められた酒を断るなんて。
俺には出来そうにもない。

「どう…なるんでしょう…。テンション高くなって、そのあと…なんかボーっとしちゃう感じでしょうか…」
「疲れてるせいですかね。もうボーっとしちゃってますよ」

眠い。
わけじゃないけどボーっとする。
やばい。
これはやばい傾向だってわかる。

いや、どっちにしろ展開的にこの人といたらエッチなことするんだろうけれど。
抵抗する気力を失いかけている。
これ以上はやばい。
そう頭で考えるのとは裏腹に、体は無性に熱いし、グラスにまたお酒を注がれてしまう。

なにこれ。
飲んだ方がいいのか?
酒はもちろん好きだし。
でも、強くないし。
意識飛ぶのもさすがにやばいしなぁ。
先輩の前で醜態さらすのも。
いまさらだけど。

「俺…もう飲めないですよ」
「じゃ、これで最後で」
あ。
よかった。
というか、この1杯すらやばい気がするんだけれど、これで最後って言ってくれたから、これ飲めば終わりなんだ。
そう思うと飲もうって気になる。

「…柊先生は…?」
最後の一杯を飲みながら、なんとなくそう聞いた。
柊先生も、結構飲んだよな。
あんまちゃんと見てないけど。

「そうですねぇ。ちょっと意地悪になるくらいですか?」
「…いじわる?」
「というか、サドになるというか、素になるというか。そんな感じです。普段、したくても我慢して出来ないこと、しちゃうんでしょうね。理性が飛ぶんでしょうか」
「ふぅん…確かに、理性が無くなるというか、普段抑えてる感情とか、曝け出しちゃったり、するかも…」
なにげなくそう答え、柊先生が俺の前でにこにこ笑ってて。

自分、答えた後だが、柊先生の言葉を改めて思い返す。
サドになって。
素になって。
普段したくても我慢して出来ないことしちゃうって。

……それ、自覚してて、なんで酒飲んでるんですか、この人。
つまり、全部、あとで『酔ってたんで』って言い訳できるように?

うーん。
駄目だ、考えがまとまらない。
いつも以上にまとまらない。
しかも、この人、普段からサドっぽいんですけど。

素じゃないのか。
素はどこですか。

「素……って…。いままでは、取り繕ってたとか…?」
なんとなくそれは寂しくて。
嫌味らしい聞き方してるなーって思うんだけど、気になって聞いてしまう。
「ん? だから、素になっていい…?」
あ。
タメ口だ。
この人、先輩なのにわりと敬語使ってくれてるんだよな。
たまにタメ口だけれど。

あれ、俺って敬語使ってたか?

「…素…って?」
素になってくれるのが嬉しいような気がして。
それでもなんだか考えがまとまらないまま、そう答えた直後。
立ち上がった柊先生が俺の腕を引く。
あわせるように立ち上がると、頭がクラクラした。
「あっ…待っ…」
座って同じ体勢のままだとあまり気にならなかったが、結構酔ってたのか。

駄目だ。
一瞬、視界がぼやけるような感じがした。

「酔った…?」
酔った。
「…ん……」
やばいな。
頷く俺を確認して俺の体を抱き上げると、ベッドへと寝かせてくれる。

横になると、また少しラクになって。
それでも、体が熱い。
ボーっとする。
「はぁ……」
「熱い?」
熱い。
「っ…ん……」
柊先生の手が、俺の頬を撫でてくれる。
「熱いんでしょ…? 脱いで」

熱いから、脱ぐ。
当たり前だよなぁ。
でも、ここって柊先生の家で、柊先生のベッドで。
いいのか?
いやいや、違うだろ。
それ以前に、脱ぐって?

「駄目……」
「自分で脱ぐより、脱がされる方が好き?」

「んー……」

俺がぼんやりとまとまらない考えのまま、答えないでいると、その隙に柊先生は俺が着ていたシャツを捲り上げ、あろうことか、胸元に舌を這わす。
「あっっ…ンっ」
いきなりのことで、体が大きくビクついた。

「あんまり、ココ、可愛がってなかったでしょ…」
胸なんて。
「はぁっ…そんなとこっ…感じな…っ」
「そう…?」
尖らせた舌先で乳首を突かれ、舐められて、軽く吸い上げられる。
「んぅんっ…っ…ぁっ…んっ」
「…感じない…? イイでしょ?」
こんなとこで、感じてるのか、俺。
嘘だ。

「違ぁっ…んっ…やめっ」
片方を舌先で器用に舐めあげて、もう片方を指の腹で撫でたり押しつぶしたり。

気持ちいい。
だけれど、もちろん直接、アソコも触って欲しいわけで。
それでも言い出せない。

つい自分の右手が、自分のモノに伸びる。
と、それを阻止するように、柊先生の手が俺を止める。
「な…っ」
気付かれた。
「何、しようとした?」
「っだって…っ…あ…っ…」
「触って欲しい…?」
あぁ。
やっぱりこうなるのか。
結局。
「…ん…」
しょうがなくそう顔を逸らしながら頷く。
「言って」
言わないと、なにもしてくれないつもりなんだろうか。

「っ…あ……触って…」
それなのに。
「駄目…」
顔を向けると企むような笑み。
「っ…な…んで…」
「後ろ、入れてあげる」

答えになってない。
服をすべて剥ぎ取られていく。

見せ付けるように柊先生は自分の指先を舐めていた。
あれ、俺ん中入れるため…だよなぁ。

ボーっと見入っていると、にっこり笑って、俺へと口を重ねた。
「んっ…ぅん…」
心地いい。
舌入り込む柊先生の舌が気持ちよくて、必死で絡めてしまう。

柊先生の指先が入り口付近を何度も行き来して撫でていき、体がゾクゾクした。

キスも。
なんかいつもよりエロく感じる。

ゆっくりと指先が中に入り込んだ。
「んっ…ンぅんんっ!!」
指の感触に体がビクつくが、それを押さえつけるように、柊先生は俺にキスをしたまま。

苦しくて、柊先生の肩に手を置き、体を押し退けようとした。

やっと開放してくれたころには、酒と酸欠で、もうなにもかも放棄したくなっていた。

「はぁ…っ……んっ」
「さっき車の中でも入れたから、すぐ柔らかくなったね…」
それを示すようにもう1本指を増やし、中を押し広げていく。
「ぁあっ…あっんっ…あっ…やっ」
「嫌…? もう1本、大丈夫だね…」
そう言って、3本目の指を押し込んでいく。
「ひぁあっ…そんなっ…あっぁあっ…んっ…キツ…ぃっ…やっんっ」
腰がくねる。
3本もの指が、入り口付近を優しく押し広げていくけれど、あまり奥まで来てくれないもどかしさに、じれったくて、自然と腰が動いた。
「はぁっ…んっ…あっ…やっ…もっと…っ…ぁあっ…んっ…もっとぉ…っ」
「なに?」
足りない。
なんで、もっと奥まで入れてくれないんだ、この人は。
あぁ、俺が言わないからか。
「っ…ぉくっ…んっ…おねが…っはやくっ…あっ…もぉ、我慢できなっ…」
「我慢出来ないって?」
「あっ…欲しぃ…っ早く、入れて…っあっぁあっ……足りなぃよぉ…っ…」

了解してくれたのか、先生は指を引き抜き、俺の膝を折り曲げる。
大きく開かれた俺の足の間に体を割り込ませ、入れられる…そう思ったのに。
俺のモノと柊先生のがぶつかって、擦れて。

じれったい刺激。
「あっ…や…っっ…」
「腰、動いてる…。俺のに擦り付けてるみたいで、かわいいよ」
慣れない柊先生の口調に目を向けると、なんだかサドっぽい笑み。
ものすごく愉しそうだ。
涙でぼやけてた。
いや、その前から、ぼやけてた気がする。
かわいいだなんて。
なんか、いつもみたいに敬語じゃないから、社交辞令に聞こえない。
本気っぽくて、体中が熱くてたまらなくなる。

「や…だ…っ」
「なにが嫌?」
そんな対応、耐えられない。

あぁ。
これが素ですか。

腰も止められない。
「はぁっ…もぉ、触っ…っ」
「触って欲しいの?」
「ぁんっあっ…さっきもっっ…言ったのにっ…っっ」
「そうだね…。ココ、ひくついてるけど。入れようか?」
柊先生が、ひくついてしまう俺の入り口を先端で突く。
「あっ…っん…ぅん…っ」
「うん…じゃなくて言って? ちゃんと、ねだって」
ねだって…って。
「んっ…入れて…ぁあっ…はやくっ」
「俺が入れやすいように、拡げて。そしたら入れてあげる…」
入れて欲しい。
なにかに操られているような気分。

自分のソコを指で拡げる。
ひくついてんのだって、自分で理解出来た。
「もっっ…我慢出来な…っあっ…くださっ…っココにっ」

柊先生が俺の頬を撫でて、やっとゆっくり入り込んでくる。
「あっ…ぁああっ!!」
背筋がゾクゾクして。
体中の自由が奪われた気がした。

「ひぁっ!! あっ…なに…っ」
「なにって、なにが…? どうした…?」
「んっ…なんか…熱っ…あっおかしぃ…っ」
「そう…? 別になんも使ってないよ…? 今日はそんなに感じてくれるんだ…?」
なに。
なんにも?

また、初めてのときみたいに薬でも使ったのかと思ったのに。
そりゃ、お酒が入ってるから、多少違うかもしれないけれど。

柊先生のがすごく熱い。
おっきい…気がする。
なんだ、違うのはそっちじゃないか。
いつもより、感じてくれてるんだ…?

それが恥ずかしいような嬉しいような。
嬉しいって、俺、柊先生のこと、そんな対象で見ちゃってるってことか…。

まるでこの人のこと、好きみたいじゃないか。
いや、好きじゃなきゃこんなことしてないんだけど。

……考え、まとまらないし。

ただ、その物量が心地よくて気持ちよくて、たまらなくて。
俺は柊先生の背中に手を回ししがみ付く。
「はぁっ…んっ…ぃい…っぉくっ」
「奥、ホント、好きなんだねぇ、芳春は。もうちょっと、いけるかな…」
芳春って。
俺のこと…。
妙に恥ずかしくてたまらなくなる。
奥の奥まで、柊先生のが。
「ぁっあぁああっっ!!」

ものすごく感じる所を突かれながら奥へと入り込まれ、俺はもうイってしまっていた。
頭がボーっとする。
「イっちゃった…? でも、止めないから」
柊先生は、奥まで入り込んだソレで、ゆっくりと中を掻き回していく。
ゾクゾクして、苦しくて。
俺は柊先生の背中に爪を立てた。
「はぁあっ…やぁうっ…やめっやっ」
「やめる? どうして? …やめようか?」
「ぁんっ…あっ…嘘…っやだっぁあっ…やめないでっ…ぃいよぉ…っあっ…そこ…っ」
「もう少し、手と足、緩めてくれる…? 上手く動けないでしょ」
そう言うと、俺の手を無理やり引き剥がし、ベッドへと押さえつける。
「ね。足も、緩めて…」
思いっきり柊先生の腰に足を絡めていた俺にそう言って、腰の動きを一旦止める。
「っ…や…動いて…」
「足、緩めてくれないと。…しょうがないねぇ…」
そう言うと、ゆっくり俺の中から退いていく。
「ひぁっ…やっ…いかないで…っ」
「はいはい。入れてあげるから、待って」
抜き去ってしまうと、今度は俺をうつ伏せにベッドに押さえつけた。
すぐに俺の背後から、もう一度、入り込む。
「ひぁあっ…あぁあっっ」
「…やらしいね…。理性なくなった? ホントはいつもこんなこと考えてんだ…?」
「ひぁあっ…うん…っあっ…。来て…もっと、突いてっぁっあぁっ……やぁああっっ!!!」




一時停止。

「…柊先生。合成ですか」
「なに怒ってるんですか、宮本先生。どちらかといえば、立場逆です」
頭が痛いのは、お酒のせいだけじゃないだろう。

気付いたらベッドに素っ裸の俺と、隣に同じく素っ裸の柊先生。
なにがあったのか、恐くて聞けず、それでも聞きたくて、視線を向けると笑顔で柊先生が取り出した一枚のDVD。
それを今、再生していたわけだけれど。

ベッドに乗りあがった2人以降のHシーンが。
「…なんで撮ってるんですか」
「記念です」
「立場逆ってどういうことです?」
「いえ。せっかく素で攻めようと思ったのに、宮本先生があまりに恥じらいもなく求めてくるもんだから、虐めがいないじゃないですか」
それを怒ってるわけですか。
というか。
…後半、覚えていない。
とりあえず再生したところくらいまではなんとなく記憶はあった。
あったけれど、なにを口走ったかなんて覚えてはいなくて。
こう改めて見ると俺ってすごい変態だ。


というか。
先輩に対して、こうとにかく求め捲くり過ぎたってのもあるし。
ちょっと申し訳ない気持ちにもなる。

…どうしよう。
めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど。

「俺っ、酔ってたんで…っ」
「えぇ。『普段抑えてる感情とか、曝け出しちゃったり、するかも』って言ってましたね」
言い訳しようとしたら、なんか逆に言い負かされる。
「っ違…っ…」
「あー。続き見ますか? あんなに宮本先生が激しいコト、求めてるとは思ってなくて。俺、普段、ヌルかったですねー。すいません」
笑顔が恐いですけど。
俺、どんだけ求めてんですか。
というか、冗談だろ。
そうだ、俺を引っ掛けようとしてるんだ。
かといって、そう突っ込めば、DVDを再生させられそうだ。

気になる…けど見たいような見たくないような。

「……すいません…」
結局、謝る羽目に。
なんか、謝らないといけないような気がして。

今朝、すっげぇいやらしい夢見たなぁなんて思ってたのに。
それは夢だから、しょうがないかなーなんて思ってたのに。

夢なんかより、実際もっと俺はエロかった。
……柊先生は、後半で俺のこと虐めたりしたんだろうか。

虐めがいがないって怒られるのも微妙なんですけど。

あとで、こっそり一人で見る…かな…。
「あの…このDVD、いただけますか?」
「記念に?」
「いえ…その、今後、酔ったときの対策というか。一応、確認しようかと…」
「…いいですよ。ヤってるだけですから、安心してください」
あぁ、そうですか。
ヤってるだけですか。
なんかもう。
居たたまれない。

「変なこと、口走ってないですかね」
「それは、たくさん口走りましたけど」
「いえ、そういう変なことではなく…っ」
「いまから確かめます?」
だからそれは無理です。
絶えれない。
「いえ…いいです。なんか、疲れました…」
「……宮本先生。もうちょっと寝ましょう?」
「シャワーとか、借りていいでしょうか」
「構いませんけど、ちょっと前に、入りましたよ?」
……なんてこと。
「え…俺、一人で…?」
「いえ。俺と2人で」
「なんで…」
「なんでって、中出ししたんで、掻き出してたんですけど」
「うわぁあああ」
つい、柊先生の言葉を制すように無意味な声を発する。
「っ俺、そんなこと…っ。すいません。なんかもう、そんなことまでさせたんですかっ。どんだけなんすかね」
「いえ。すいません。言い方悪かったですかね。宮本先生が自分で掻き出してました。俺は見てただけですから」
「うぁあああ……っ」
泣きたい。
「撮っておけばよかったですね。そんなに忘れちゃってるとは思ってなかったんで」
「いえ、いいです、もうホント…っというか、ホントですか? それはマジな話なんすか?」
「DVDの前半だけでも充分、そんな傾向じゃないですか。 ホントに、覚えてないんですか…?」

…なんかすごい激しいことしたような記憶はあるんですけど。
ちゃんとしたことはイマイチ…。
「すいません…」
「本当に撮っておいてよかったですよ。今、俺がなにを言っても信じてもらえなさそうですからね」
苦笑いして、俺の頭を撫でた。

「もっかい、寝ましょう?」
にっこり笑われて、俺は頷き、ベッドに寝転がった。
裸のままですけど。

軽くキスをされ、体が熱くなりそうなのを必死でこらえた。

なんすか。
まるで恋人みたいな雰囲気…。
なにを自分しでかしちゃったのか、わかんなくて下手に出てるんですがね。
どうせ、ちょっと激しいHしただけだろうけれど。
恥ずかしくて、なにも言えないですよ。

明日、帰ったら、一人でDVDの確認をしよう…。