っつーか、俺はなにオカズ求めてんだよ。
2泊3日だっての。
しかも、もう1日終わったし。
そんなん我慢しろって。
あぁあ、馬鹿馬鹿。
しかもそれ、柊先生に聞いちゃったし。


…口でって。
俺に出来るんだろうか。
嫌ってわけじゃないけど、なんか恥ずかしいし。
ちょっと抵抗ある。

……というか。
なに、付き合ってますみたいな雰囲気かもし出しちゃってるんだろう。
まだ。
そういう関係じゃないだろう?
でも…付き合ってるに近い…というか、いずれ付き合う…?
あぁもう、混乱してくる。
だってこのまま、セフレってわけにはいかないだろう?
かといって、俺は別に恋人という肩書きが欲しいわけでもないんだけど。

口で…。
あぁ、そんなん考えている場合じゃないのに。
なんか、頭から離れそうになかった。



「じゃ、俺ら帰りますんで」
朝、樋口先生と桐生先生がそう俺に声をかけてくれる。
「あ…帰っちゃうんですか?」
「そんな長く空けるわけにも行きませんしね」
そうだよな。
なんか少し不安になるけど、もともとこの人たちはいないはずだったし。
昨日、樋口先生は2泊3日、彼女と会えないって言ってたけど、初めはずっといるつもりだたのかな。
まぁ、俺への用さえすめば問題ないのだろう。
というか、やっぱ、俺のために来てくれたんだよなぁ。
「そういえば、桐生先生、昨日、来るって…」
夕方、来るって言っておきながら来なかったんだよなぁ。
「ちょっと、智巳ちゃんに捕まってて…。俺が言いたかったことは、全部、智巳ちゃんが話したらしいし?」
この人も、じゃあ、悠貴のこととか知ってるわけか。
ちょっと恥ずかしいけれど、知ってもらえているだけで、少し安心した。

2人を見送って。

本来の修学旅行再開だ。
意外と、順調。

悠貴にもいじめられないし。
樋口先生のおかげだろう。

とはいえ、それほど悠貴と関わってないってだけのような気もするけれど。
担任じゃないしな…。

夜になって。
クラスは違うけれど、拓耶は俺のところへ来てくれた。
「宮本先生―。大丈夫?」
「え…? なに…?」
「いや。昨日、智巳ちゃんが、悠貴のことで話すっつってたし。無事、話し合いは出来たのかなぁと」

拓耶は、悠貴の友達だし、全部、知ってるんだろうな。
悠貴が、樋口先生に好意を持っていて、俺のことが嫌いなのとか。

だから、俺のこともなにかと心配してくれるんだ。


「うん。昨日、部屋に来てくれて…。いろいろ教えてくれたよ。大丈夫そう」
「悠貴ね。別に宮本先生自体が嫌いなわけじゃないんだよ。智巳ちゃんの代わりなら、誰だって一緒なんだろうし。意地悪だから。そこまで悪気はないんだよ。からかってるだけで。なにか言われても、あまり、本気で受け取り過ぎない方がいいよ♪」

軽い感じでそう言ってくれる。
俺が気にしすぎってことなのかな。

「じゃ、俺そろそろ、向こう行くから。またね♪」
「あっ…拓耶っ…」
「ん?」
「ありがと…。あとっ……今日…夜10時くらい、見回りあるから…出歩かない方が…」
なに、俺見回り時間、バラしてんだろう。
だけれど、拓耶と陸のこと、応援したいし。
2人がまた、昨日みたいに会って、それが誰か先生に注意されたら、気分悪いだろうし。
拓耶もだけど、陸は、真面目だから。
そんな風に、先生に注意されることなんて普段、ないだろう。
こんな些細なことで、注意されて欲しくないし。

「…うん、わかった。昨日、気づいてた?」
昨日。
2人が一緒にいたときのことだろう。
俺は隠すつもりもなかったから、そっと頷いた。
「そっか。そうだねぇ。俺の我侭のせいで、陸が怒られちゃうのは嫌だしね。今日は出歩かないようにする」

結果的に、拓耶が出歩かなくなったわけだし。
俺、教えちゃっても間違ってないよな…?

10時避けて出歩かれたら、微妙だけど…。
「拓耶…一応、秘密にしといてもらえる?」
「秘密? なにを?」
「その…っ…見回りのこと…」
「わかった。ありがと。でも、誰か出て行きそうだったら『見回りあるかもしれないからやめときな』って声くらいはかけるかも」
10時にあるから、別の時間に行けって言われるのは困るけど。
それならかまわない。
「う…ん…」
「もー、かおるちゃん大丈夫だって。他の先生にも言わないし? 俺のこと、信じて? 万が一、俺がバラしちゃったとしても、他の先生には『宮本先生、脅して聞きだした』って言うから♪」
そこまで疑ってませんけどっ。
しかも、そんなの、生徒にびびってどうすんですかとか言われかねないし。

でも、俺が、他の先生気にしてるのとか、全部、バレバレですか。

見透かされてるみたいで、恥ずかしい。
というか、俺って分かりやすいのか…。

「ありがとう」
「うん。じゃあまたね♪」
手を振って、拓耶は自分のクラスの奴らがいる方へと走っていった。


悠貴の事は、考えすぎないようにしよう。

俺、柊先生のこと、少し恨んじゃったな。
あの人のせいで、悠貴に、不謹慎とか思われたって。

でも、ホントは違ったんだよ。
それは、悠貴が俺につけこむきっかけというか、いいネタだっただけで。

ホントは、不謹慎だとか、大して思ってないのかもしれないし。
そんなこと、悠貴は気にしちゃいなかったはず。

樋口先生のことがあったから。

俺は、柊先生のせいで、悠貴に不謹慎って思われたんだって。
恨んじゃって。
少し、罪悪感を感じた。

そういえば、口でしてって言われたけど…。

こんなんだれにも相談できないよな…。
桐生先生とか樋口先生とか。
…恥ずかしいって。
なにかの拍子に聞ける機会があるかもしれないけど、いきなり俺から、その話題を振るのは無理そうだよな…。
もし、二人きりでどっちかに聞いたりしたら、どっちも実践で教えてくれそうで恐いし。
…3人でも、そうなりそうな気がしなくもないけれど。

樋口先生は、俺がちゃんと拒んで、口で教えてくださいって言えば、口で教えてくれそうだけど。
あれ、口で?
いや、口じゃなくてトークで。
日本語難しいって。
勘違いされそうだ。
というか、トークのつもりで口って言ったんだとわかってても、付け込んできそうだな。
…俺、悪いイメージ持ちすぎだ…。

生徒なんてもってのほかだろ。
いくら陸と仲良く相談しあえるようになりつつあるとはいえ、こんな話題はなぁ?
口でしたことある? って、セクハラ教師かよ。

拓耶になら……いや、無理だって。
セクハラ教師には思われないだろうけど。
陸の事を、陸じゃない人から聞いて俺が知ってるのは、なんとなく陸に対して後ろめたいし。



相談なんてしなくても、柊先生に教えてもらえばいいかなぁ。
というか、俺はやる気なのか??
そもそも、なんていうか柊先生に無理やり…というか、半強制的にやらされるならともかく、自分からするなんて、どうすればいいのか。

なるようになれ。
いまはそうとしか…。
あぁああもう。
なんだか、ずーっと口ですることをどうしようか考えてしまってるよ、俺の頭は。
柊先生に頼まれるとなんとなく断りづらいというか。

…恨んでしまった罪悪感があるからかもしれない。
それに、樋口先生にも言われたように、俺って、柊先生に対して、操とか立ててなかったし。

でも、あのころは好きかどうかもわからない状態だったし、しょうがないよって思っちゃうけれど、それもなんか、自分で都合よくいいわけ考えてるみたい。

あの人は俺にすごい好きだって、何度も言ってくれて、態度でも示してくれてるのに。
俺は、嫌がらないことで、それを肯定してはいるけれど、自分から態度で示したり、そういうのはなかったから。

こういう差があるから、せめて、柊先生が望んでくれたことに関して、出来る限り応えたいって思ってしまうんだろう。

だとしたら、なるようになれ、じゃなくって。
…やっぱり、それなりに努力するべき…?

好かれてるから好きなのかなぁ。
それとも、俺自身があの人のこと、好きなのかなぁ。
いまいちはっきりしない。
どっちもなのかもしれないけれど。
なんていうか、自分が好きな人でも、その人が自分のこと嫌ってたら、俺はそれでもなお好きでい続ける自信はないし。
俺のことを好いてくれている柊先生が好きなわけで。
まぁ、結局は、好いてくれてるから好きなんだけど、そういう俺のことを想ってくれてる部分も込みで、好きなんだよ。

………結局、好きなんじゃん。
もういいや。それはもう揺るがされない事実だよ。
なにをオカズにすりゃいいかとか聞いちゃうくらいだし。


…俺のカバン。
誰も見たりしないよな…。
あんなバイブ見つかったら、変態教師だよ。
たぶんあれだ。
ビニールで包んだから、折り畳み傘とかに見えるはず。
でも、ちょっと、変な形なんだけど。大きさとか。


修学旅行なのに。
初めてのだよ。しかも。

柊先生のことばっか考えてんじゃん。
しっかり仕事しろっての。
生徒と話してても、行動を共にしても、マニュアルどおりの動きしてる気がする。
なんていうか、時間に遅れた生徒を注意したり。
しゃべり続ける生徒を注意したり。
点呼しろって言ったり。
……やらなければならないことをマニュアルどおりにこなして。
もちろん、やることはやってんだからいいんだろうけれど。
心ここにあらず、みたいな。
どうにか、仕事に集中しても、なぁんか、もやもやするような感じがした。

いまだって。
とりあえず、ホテルの中庭やら屋上やらの見回りをするけれど、なんか、周りに他の先生がいないと、頭がボーっとするな。

「恋わずらい…?」
「ぇえええっ!!??」
俺が考えてしまってたことと同じ内容のことを、耳元で囁かれ、びっくりして、体が跳ねる。

横に顔を向けると、悠貴が。
声かけられたのにもびっくりだし、その内容にもびっくりだし。
しかも、悠貴だしで、トリプルだよ、俺のびっくり。
こんな3段重ねのどっきり初めてだよっ。

すげぇ心臓に悪い。
あ、やば…俺、反論遅れた。
っつーか、いまさら、言っていいのか。
なに言ってんだよって。
遅いだろ、このタイミング。
っつーか、俺は見回りでいるんだから、部屋に戻るよう促すべきか。
だとしたら、さっきの悠貴の問いかけに無視したことになるし。
それはどうなんだ?
っつーか、さっさと戻れなんて、邪険に扱いにくいし。

「あぁああ…」
「なに、おろおろしてんの? 見回りしてんでしょ。注意するとかなんかないの」
「いや、あの。……戻ろうか…」
「戻ろうかって、一緒に戻る気?」
「違っ…」
でも、屋上は、見渡す限りもう誰もいない。
他を見回るにも、こいつを部屋まで俺が送り届けた方がいいのか?

一緒か。
ちょっと気まずいなぁなんて考えてしまう。

「…悠貴、一人で来たのか? 待ち合わせとか…」
「一人だって」
一人じゃなくっても、他のヤツを売るようなことはしない…とか。
ってか、なに疑ってんだよ、俺は。

「宮本先生が、いる気がしたから」
「え……」
「部屋行ったらいなかったし。中庭か屋上かなぁって。中庭も行ったんだけど」
…俺と行き違いか。
でも、そう考えると、結構、見回りしても見逃しちゃってる子、多いかもしれないな。

というか、そういう問題じゃないって。
「俺の部屋来たって…」
屋上のフェンスに押し付けられて。
悠貴はジっと俺を見る。
なんだか押し退けることも出来ず、どうすればいいのかわからないけれど、悠貴はなにか俺に言いに来たんだろうから、それを待つしかないだろう?

というか、樋口先生、煽ったりしてないよな、昨日。
すごいドキドキする。
いまさら、目離せなくなってるし。

「なに…っ」
「…んな恐がんなよ…。俺は宮本先生と気まずくなりたいわけじゃないし」
俺の肩を押さえつけていた悠貴の手が、今度は俺の横髪に触れる。
「ごめんね…?」
俺の目を見て、素直にそう悠貴は言う。
ごめんねって。
なにが。
めちゃくちゃドキドキするし。
また、よくわからない言いがかりで、やられかけたり…っ。

「ちょーっと、からかっただけ。まさか、そんなに落ち込んでるとは思ってなかったし。俺、平気で人に手出すし」
にっこり笑ってくれるけれど。
俺の体はこわばったまま。
つられるように、変に顔が歪むけれど。

すると、軽くため息をついて、真面目な顔つきになる。
俺の隣へと、もたれかかっていた。

「智巳先生の後釜だって。それで、絶対、嫌いになるだろうなーって思ってたし、嫌がらせでもしてやりたいなって思ってたんだけど。いざ、宮本先生見てたら、なんかやる気失せちゃって。宮本先生は、智巳先生の後釜なわけで、俺が嫌うべき存在のはずなのに、なんか嫌えないもんだから、そんな自分にイラっときてね。
でも、なにかと理由つけて、宮本先生が凹むかなぁってからかい方してたんだけど。そういうの、冗談で受け流せるような先生じゃないってわかってたし、悪いと思ってます。
あまりいい気もしなかったし。でもなんか、傷ついたんだよね、俺。宮本先生を傷つけたこともだけど。智巳先生のこと、好きだったはずなのにさ。それ貫き通してたのに。
好きじゃなかったんかなー。好きだったら、宮本先生のこと、ちゃんと嫌いになってるよね…」

俺の方は見ずに、前を向いたまま、そう語った。
っつーか、やる気、失せてなかったらもっと嫌がらせうけてたわけ…?
まぁ、実際、やる気失せてるわけだからいいんだけど。
…これはどう答えればよいのやら…。
もちろん、嫌わないで欲しい。
だけれど、悠貴が樋口先生を想っていた気持ちを否定することもしたくない。

樋口先生のこと好きだったら、俺のこと嫌いになるって。
理解出来るけど…。
でも、実際、嫌われてないわけで。
それって…。
「悠貴が、優しいからだろ…」
「え…?」
「俺のこと、嫌いにならないでいてくれたのは、樋口先生が好きじゃなかったからじゃなくて。…悠貴が優しいから…」
「優しくないよ、俺」
「だってっ…。樋口先生の後釜で…普通なら、嫌なんだろ? それなのに…っ」
「だから、好きじゃなかったから?」
軽い感じで言われてしまう。
「違うって…っ。例えば、俺をクビにさせて、それで樋口先生が担当に戻っても、罪悪感で素直に喜べないとかっ」
「…そういうのは確かにあるけどね。でも、違うって。しかも、クビに追い込もうとかまで考えてないし」
「ぇえっ!? でも、クビにならなきゃ担当、樋口先生に戻らないしっ」
「んな先生いじめしてどうすんだよ。実際どうなろうかなんて結果は考えてなかったし。自分の中で、宮本先生は敵だって思いたかっただけ。気持ちの問題なんだよ」
敵…。
俺、敵ですか。

あぁ。この子って、そこまでおおっぴらに、樋口先生のことが好きだって、アピールできる子なんだ?
…ちょっと、うらやましいな。

「すごいね…悠貴は…」
「なにが?」
「…いや、なんか、人のこと、好きだって素直に言えてるし」
悠貴は、ため息をついて、
「…わかってないねぇ…」
そう俺に言う。
「え…」
「言えてませんよ、俺」
「でも…っ」
「だから、こんな形で表してんじゃん」
こんな形ってのは、俺を嫌うことだろう。
いや、実際は、嫌われてないみたいだけど。
「実際、宮本先生のこと、ちゃんと嫌えなかったし」
「それはっ…悠貴が」
優しいからって言おうとしたら、また悠貴は俺の前に立ち、肩をフェンスに押さえつけて、ジッと見る。

「…かおるちゃんがかわいいからだよ」
こいつ、真面目にしゃべると大人っぽい…。
変にドキッとしてしまう。
そのまま、そっと口を重ねられても、どう嫌がればいいのかよくわからなかった。

どうしよう。
頭が混乱。
すると、口が離れて、見ると、拓耶に服を引っ張られた悠貴が。

「っ!!!??」
「やらないって、キスしただけ」
「ホント? 俺が止めなかったら、先いかなかった?」
「大丈夫。ね、拓耶、あと3分頂戴?」
「はーい」
そう言って、また向こうの方へ行ってしまう。
「…なに…」
「いや、宮本先生に会いに行くっつったら、見張りについて行くって言うもんだから」
…いたのか。
ずっと。
「いや、さっき一人で来たって…っ」
「まぁ、あいつ、あそこで見張ってるだけだし」
「そっか」
待ち合わせとかじゃないしな。
ドアからここまでは一人で来てるし。
ってのも微妙だけど。

「宮本先生―…。だから、ね。宮本先生がかわいいから嫌えなかっただけ。俺が優しいからなんじゃないよ」
「でも…っ」
「所詮、俺が智巳先生を想う気持ちはその程度なんだよ」
っつーか、俺、ここで言い合っても、樋口先生には付き合ってる人がいるわけだし、悠貴もそれを知ってるはずだしっ。
しょんぼりと、どう言えばいいのかわからないままでいる俺を見てか、軽く笑われる。
「かおるちゃん。俺、彼女が大切だから。智巳先生のことはいいんだよ」
「か…のじょ…?」
そういえばいるんだよな。
すっかり忘れてた。
「智巳先生もそりゃやっぱり好きだったんだろうけど、もういいよ。もう…やめようと思う」
「やめるって…」
「気持ち、切り替えようかなって。俺には彼女がいるし。安心して…?」
俺をジっと見てそういうもんだから。
なんか、かっこいい。
なに俺は高校生相手にドキっとしてるんだか。

「柊先生と、仲良くしてね?」
「ぇえっ!? いや、なんでっ」
「なんでって言われても」
俺が柊先生と仲イイってのはもちろん、バレてるんだろうし。
「…なんていうか…よくわかんないし」
「好きかどうかとか?」
駄目だ。
このままじゃいろいろと聞き出されてしまいそうだ。

「それより、あのさ、悠貴…っ。……俺のこと、不謹慎だって思ってる…?」
恐る恐るそう聞くと、悠貴が吹き出す。
「あはは♪ 思ってない、思ってないって」
そう言って、俺を引き寄せ抱きしめる。
「なっ…」
「……かわいーね、ホント。大丈夫だから」
「っ……でも、俺が、やっぱり不謹慎なことに、変わりはないし…っ」
抱かれたままで、体がこわばるんですけど。
ただ、これはちょっと聞いておきたくて気になるし。

「俺、そんな真面目っ子じゃないよ? だいたいさ…。修学旅行来てる智巳先生や桐生先生の方がよっぽど不謹慎だし。俺、全然、気にしてないから」
やっぱり。
ただ、俺に付け込むいいネタだっただけ…なんだろう。

ほっとする。

「恐かった? ごめんね…やっぱりかおるちゃん、かわいいねぇ」

悠貴がそう言ってくれるのは、なんだか嬉しいけど。
……やっぱり、先生として見られてないよな、俺…。
「悠貴…。俺って、先生っぽくない?」
「…そんなことないよ。俺の悩み、いろいろ聞いてくれたし」
……悩みだったのか。
でも、悠貴も、いろいろと葛藤があったんだろうなってのは分かる。
俺は、それに巻き込まれて。 悠貴がどうしてそういう行動しちゃうのか考えられず、自分のことばかりだったけれど。
そうだな。
もっと前から、悠貴のこと考えてあげればよかった。
周りが見えてないんだなって、改めて思う。

もちろん、自分にも悪い心あたりがあったから、悠貴に指摘されて当然だとかしょうがないとか思う部分もあって、気付けなかったんだけれど。


「…ごめんな、悠貴…」
「え…?」
「もっと…悠貴のこと、考えれるようがんばるからさ」
「……ありがとう」

そう言って、悠貴はまた俺に口を重ねる。
……いや、これは拒むべきでは。
でもなんか、いまのタイミング、逃げれないでしょう。
すぐ、離してくれたし。

……悠貴って、キスが好きなんだな。



「……悠貴…? あの、そろそろ…」
「はいはい。今度、俺の彼女、紹介してあげるね」
こないだ拓耶が言ってた、エロくて積極的でいやらしい…子か。


「うん。じゃあ、戻ろうっ」
「一緒に?」
「いや、だから…。途中までは一緒に…」
「はいはーい♪」
やっぱりちょっぴりナメられてる気がしますが。

出入り口のドア付近にいた拓耶と合流して、一緒に階段を降り、部屋の方へと戻っていく2人を見送った。

悠貴って、拓耶と一緒だとなんか違うんだよな。
いまも、拓耶と一緒だからなだけだったりして…。
でも、今回はもう、大丈夫だよなぁ。信じても…。

っつーか、俺、見回りしてんのに、生徒と話し込んでどうするんだよ。
あぁあ。

なんかあんまりちゃんと見回れてないし。
悠貴たちの部屋から、遠回りしつつ、見回りながら、自分の部屋へと戻った。