「お風呂いただきました、ありがとうございます」
「ああ、どういたしまして」
「椿さん、桐生さんのアドレス聞いてましたよね。それ、俺にも教えてくれません?」
「たぶんいいけど、念のため聞いてみるよ。桐生さんに奏汰のアドレス送りつけちゃってオッケー?」
「はい」
 うん。
 とりあえずなにか相談してみよう。

「送ったよ。じゃ、俺もお風呂入ってくるから」
「はーい」
 風呂場へ向かう椿さんを見送り、俺はベッドに寝転がる。
 なんだかんだで、こんな風に勝手にベッド寝転がれちゃうくらいには気を使わなくなってきたな。

 桐生さん。
 会って間もない相手にする相談でもないってことはわかってる。
 けど、男同士に理解ある雰囲気だった。
 みやもっちゃんだって、大丈夫かもしれないけれど、わからない。
 万が一、しゃべって引かれて、せっかくの友達と気まずい関係にはなりたくないし。
 そりゃ、桐生さんにだって引かれたくはないけれど。
 俺たちより大人だしさ。  


 少しして、メール着信音が鳴り響く。
 確認すると桐生さんから番号の記載されたメール。
 今、電話したら迷惑かな。
 ……嫌だったら出ないよね。
 少しかけてみちゃおう。

『もしもし? 奏汰くん?』
 出てくれた。
 桐生さん、優しいな。
「はい。連絡先、聞いちゃってすいません。あの、今少しだけ大丈夫だったりします?」
『うん、構わないよ』
「そこにみやもっちゃんいます?」
『ああ、もういないんだけど。もしかして連絡取れないとか?』
 そういうわけじゃない。
「みやもっちゃんにはとりあえず内緒で、相談があって」
『そういうこと。いいよ』
 よかった。
 この人なら大丈夫だよね。
 チラっとお風呂場の方を確認する。
 椿さんはまだ出てこないだろう。
「あの……桐生さんは男同士の行為ってどう思います? やっぱ学校であります? そういうの」
『うちの学校はまああるよ、そういうの。だからってわけじゃないけど、俺はそういうことする人たちに対して抵抗は無いかな。奏汰くんは?』
「俺……正直、ちょっと抵抗あるんですけど。こんなことで抵抗持つ俺って、器小さいのかなぁとか……」
『……それもいいと思うよ。本来は異性を好きになって子を残す生物が、同性とそういうことしてたらさ、疑問を持つのはむしろ普通だと思うし』
「……はい」
『恋愛感情は抜きにして。体だけで考えた場合、性的欲求を満たすのに、異性よりも体のことわかってる同性の方がいいって考え方もあるし、俺は女友達と遊びでセックスするより、男友達と互いに抜きあう方がなんだか健全に感じちゃうな』
 あ、そうか。
 女と遊びでってのはいくら相手の女がいいって言ったとしてもちょっと考えてしまう。
 例えば彼女が出来たらもちろんその女の子とはしなくなるだろうし。
 なにもしない友達に戻れるのか?
『……椿さんに襲われそう?』
「え……なんでっ」
『なんとなく様子見てればね』
 そんなに、俺って分かりやすいかな。
 それとも椿さんが男好きっぽい顔してる?
 俺が見る限りではわからないんだけど。
「……襲われそうなんですよね。嫌いじゃないんですけど」
『別に椿さんだって、1回やったくらいで恋人関係築こうだとも思ってないでしょう? 試しにしてもいいんじゃない?』
「試しにって……っ。俺、そんなことしたらみやもっちゃんに軽蔑されないかな」
『宮本先生だって、俺と同じ学校だし、だいぶ理解ありますよ』
「……みやもっちゃん自体がやってるとかは……」
『俺の口からはなんとも』
 ……やっぱり怪しいな。
 やってそう。
「わかりました。あの、いきなりすみません。いろいろありがとうございます」
『いやいや。いいよ。またなにかあれば相談に乗るし』
「ありがとうございます」
 そんなに嫌がるほどの行為じゃないのかな。
 よくわからない。
 ため息が洩れる。


「奏汰……」
「ん……。あ、すいません。俺つい、寝ちゃって」
 いつの間に寝ちゃってたんだろう。
 お酒飲んでるから?
 でも椿さんが風呂入ってる間に寝ちゃうって、さすがに失礼だ。
 先輩だし。
「いいよ。それより起こして悪いね」
「いや、それはいいですよ。俺、ベッド占領しちゃってましたね」
 少し横へと体をずらすと、椿さんも俺と同じベッドへと乗りあがった。

「桐生さんに連絡、取ったの?」
「えっと。……まあ、少しだけ」
「もしかして宮本くんのこと聞いた? どうせやってるって言ってたでしょ」
 それは言ってないんだけど、どうも怪しかったなぁ。
「わかりませんよ、もう。でも桐生さんはすごく理解あるみたいだったし、やってるのかな」
「やってるでしょ」
「椿さん、自分の物差しで計りすぎです。そんな周りの人みんなが理解あるわけじゃないですよ」
「ちゃんとわかってるよ。けど桐生さんは同類だと思うし宮本くんはやってると思う」
 ……同じ匂いを感じるってことだろうか。
「うーん」
「でもって、奏汰は素質がある」
「いや、それはどうでしょうね」
「試させてくれる気は?」
「ありません」
「宮本くんがしてたら、いい?」
 またそれか。
 そんなやり取りを繰り返し、結構な時間が経ってしまう。
 もうこの際、みやもっちゃんにはっきりしてないって言ってもらった方が早いな。
 電話しよう。
「もうしょうがないんで、いまから電話しますよ」
「うん、よろしく」
 遅いけど、みやもっちゃんってそういうの気にしないタイプだよね。
 っていうか、マナーにしてそう。
『もしもし? ……いまもう2時だけど』
 やっぱり出てくれた。
「ごめん、みやもっちゃん、寝てたらどうせ出ないかなって思って」
『いいけど。なんかあった?』
「みやもっちゃんて……男とやったことある?」
 もう直球で聞いてみる。
「俺の知り合いがあるらしいから、なにかあるなら聞いとくけど」
『みやもっちゃんの知り合いって、学校の人?』
「まあ、そうだけど。どうしたんだよ、急にさ」
 ちらっと椿さんを伺うと、俺の隣で寝転がりながらにっこりと笑ってくれた。
 言ってもいいかな。
 言わないと進まないし。
「……実は、椿さんがそっち系の人で……。俺、そういうのよくわかんないし」
『奏汰、椿さんとやるの?』
「や……らないよ、たぶん。みやもっちゃんは、俺が男とセックスしたらどう思う?」
『俺が、変に思わなかったら奏汰はするってこと?』
「……わかんないよ、そんなの。でも、椿さんが……あっ」
 不意に、携帯を取り上げられてしまう。
 あまりにも俺がじれったくて痺れを切らした?
「……えっと、ごめんね、宮本くん。椿だけど……宮本くん? 聞いてる?」
 みやもっちゃんの声、聞こえない。
「そう。宮本くんて、したことあるでしょ」
 なんて答えられてるんだろう。
「ちょっとね。大部分、勘だけど。……あるよ。奏汰とも、少しくらいはしちゃってるし」
「ちょ、椿さん、変なこと言わないでくださいよっ。みやもっちゃん、してないからっ。えっと、少ししかしてないからっ」
 とりあえず、携帯へと大きめの声で話しかける。
 でもこのまま椿さんに話させたらなに言うかわからない。
 変わるか。
「返してくださいっ。もー……。あ、みやもっちゃん? ごめん」
『いや、いいけど。なに、一緒にるんだ?』
『うん……後ろに』
 ベッドで横を向くと、後ろから椿さんがそっと髪を撫でてくる。
 ちょっと、ホモくさいな。
『奏汰は、椿さんのこと好きなの?』
 あのね、みやもっちゃん。
 いまここに椿さんいるってんのに、好きと好きじゃないとか言えるわけないじゃないか。
「……わかんないよ。……ねえ、みやもっちゃん、やってないよね?」
『……それはどっちでもいいだろ』
「なんで、やってないって即答してくれないんだよ、もー」
 そう言った俺の言葉を聞いてか、椿さんがまた、俺の携帯を取り上げる。
「黒だね。宮本くん、ありがとう」
 黒って?
 みやもっちゃんはやってるってこと?
 俺がなにかを言おうと振り返ったと同時に、スウェットパンツの上からぎゅっと股間のモノを握られる。
「んぅっ! やっ……まだわかんなっ」
「どう考えたって、宮本くんはしてるよ」
 なんだかいやらしい手付きで撫で回される。
 いつもと違う。
 いつもより、エロい。
 なにこれ。
 やめさせないと。
「ゃっ……あ、みやもっちゃ、してな……って言ってよっ」
「嘘は駄目だよ」
 着ていたスウェットの中、下着の中まで手が潜り込んでくる。
「やめっ……」
 直接、指先が亀頭を強めに撫で、体がビクついた。
「んっ……んっ」
 声、出そう。
 駄目だと顔を横に振る俺を確認してか、椿さんはずるりとスウェットと下着を片手で少し下ろしてしまう。
 なに。
 なにされんの、俺。
 椿さんは、にやりと俺を見て笑い、横から覆いかぶさるようにして、露出した俺のペニスへと舌を這わす。
「ぁ……」
「宮本くん、奏汰に合わせて答えようとしてる時点で、もうやってるって言ってるようなもんだから」
 みやもっちゃん、なに話してんだろ。
 でも、やっぱりみやもっちゃんもやってんの?

 そんなことより、俺、椿さんにフェラされてる。
 ペニス舐められてる音、みやもっちゃんに聞かれちゃう。
「だ……めっ……」
 恥ずかしい。
 それでも、椿さんは指先で強く亀頭を撫でたまま、竿にたっぷりと舌を這わす。
「んぅっ……んっんっぁっ」
 恥ずかしいとこんなにも感じるんだろうか。
 わからないけど、いつもより感じてる。
 興奮?
「ンっ! んぅっ……椿さ……はやく切……」
「じゃあ、そろそろ切らせてもらうね?」
 あ、よかった。
 少しほっとしたのもつかの間で、椿さんが携帯を俺へと傾ける。
 なに?
 変われって?
 みやもっちゃんには悪いけど顔を横に振り拒む。
「……嫌がってるみたいだけど、せっかく宮本くんが望んでるみたいだし、ね。はい、奏汰」
 拒んだのに。
 通じてるはずなのに。
 俺の口元へと、携帯を寄せる。
 その瞬間、ぬるりと亀頭に舌の這う感触がした。
「んっ……んっ! ん……あっ」
 やだ。
 みやもっちゃんに聞こえちゃう。
 顔を背けると、やっと椿さんは携帯を引いてくれた。
「はい、じゃあ切るね?」

 椿さんの声が響く。
 本当に、切ってくれた?
「んっ……椿さっ……」
「ちゃんと切ったよ」
 そう言って、携帯を枕元へと置くと、スウェットと下着を引き抜いてしまう。
「ちょっ、なにしてんすか」
「んー。奏汰とセックスしようとしてるんだけど?」
「待っ……」
「どうして? セックスする理由はもう充分でしょ」
 みやもっちゃんがやってるから?
「でも、俺っ」
「宮本くんに聞かれて、興奮した?」
「そうじゃなくてっ」
「駄目な理由は?」  

 好きじゃないから、なんて男同士で言うことじゃないかもしれない。
 なんか、重く考えてるみたいで恥ずかしいし。
「……俺、体、綺麗じゃないし」
「そういうの気にしちゃうんだ?」
「だってっ……」
「いいよ。こういうこと言うのもなんだけど、慣れてるから」
「でも……指とかっ」
「……じゃあ、先になにか棒でも入れようか? それなら座薬いれられるような感覚で受け入れられる?」
 確かに、椿さんの指を汚しちゃうかもしれないってのよりは抵抗がない。
「まあ……それなら」
「わかった。ちょっと待って」

 ……いいんだろうか、これで。
 椿さんはいったん、ベッドから降りるとキッチンの方へと向かう。
 起き上がりそれを確認していると、椿さんは俺を振り返り、笑顔を見せた。
 嫌な予感しかしないけど。
 手にしていたのは金属の棒が数本並べられたケースだった。

「どれにしようか?」
 細いのはさっき尿道に突っ込まれた。
 太いのは、バイブになってて、あれで撫でられるとものすごく気持ちがいい。
 けれど、後ろに突っ込むとなると、また話は別だ。
「細すぎてもつまらないし、これにしようか」
 俺が答える間もなく、椿さんは一番太い棒を取り出した。
 ボールペンくらいだけど。
 指の太さくらいはあるだろうか。

「足広げて?」
「あの、ホントに?」
「じゃあ、とりあえず奏汰の好きなことからしようか」

 好きなこと。
 そう言われ、つい期待してしまう。
 期待通り、震えた金属の棒が、そっと俺のペニスに触れる。
「ぁっ……」
「足、ちゃんと開いて」
 気持ちいい。
 開くと、正面に回った椿さんが、その棒で何度も俺のペニスを撫でてくれた。
「はぁっ……んっ……んっ」
「……入れようか」

 せっかく気持ちよかったのに、すぐ金属の棒は離れていってしまう。
 小さな振動音も止まる。
「もうちょっと……それっ」
「本当に、これが好きだね、奏汰は」
 しょうがない。
 気持ちいいんだもの。
 それでも、椿さんは続けてくれず、代わりに棒へとローションを垂らした。  

 入らない……なんて太さではない。
 それでも、入らないと言いたくなった。
 つい、立てて開いてしまっていた足をどうすることも出来ずにいると、椿さんは後ろの窪みを棒の先で突いた。
「……椿さ」
「ん、ゆっくりするから。ね」
 そう言い終わると、少しだけ先が入り込む。
「ん……」
 変な感触。
 ゆっくりゆっくりと、入り込んでくる。
「ぁ……キツい……っ」
「ん、息苦しい? 緊張しないで」
 緊張しないでいられるわけがない。
 入り込んだ棒はよく見えないが、椿さんの手は見える。
 入っていない棒部分を持って、ゆっくりとかき回す。
「ふぁっ……んっ」
「わかる? 前立腺」
「んっ! わかんな……っ」
「わからない? ここら辺」
 内壁の一部を押さえつけられると、体に変な感触が走った。
「んっ……んぅっ……やっ」
「や?」
「それ……ゃあっ」
「そう。ココね」
 変な感触のする場所を、ぐっと押さえつけられ、体がゾワっと震え上がる。
「んぅっ……はぁっ……あっ」
「締め付けないよう、我慢してみて」
 わからない。
 初めての感触で、言われるがまま我慢してみるが、少し棒が出入りするとそれに合わせるよう締め付けそうになる。
「椿さっ……んっ……体、倒してい?」
「いいよ」
 起こしているのが辛くて、仰向けに寝転がる。
 椿さんの手がよく見えない。
 さっきまでゆっくりだったのに、少し小刻みに動かされ、くちゃくちゃとした音が響いた。
 恥ずかしい。
「んぅっ、んっ! はぁっ……んぅっ」
 苦しい。
 なにこれ。
 なんか、よくわかんないけど泣きたい。
「あんぅっ……椿さっ……」
「なに?」
「はぁっ……だめっ……俺、辛くて……っ」
「痛い?」
 痛くは無い。
 首を横に振ると、中の棒がぐーっと内壁を押さえ、体がビクビクと震え上がる。
「ぁあっあっ……そこっ……ん、そこ、やめてくださっ」
「やめてあげないよ」
 掻き回され、押さえつけられ、必死でベッドのシーツを掴んだ。
「やぁっ、ぃくっっ!! やぁあああっ!!」

 大きく体が震え、棒の動きが止まる。
 イったのに、すっきりしてくれない。
 自分のお腹付近を見下ろしてみるが、精液の出た様子はない。
「イっちゃった? 奏汰」
「……わかんな……」
「やっぱり、奏汰は素質があるよ。いままでしたことなかったんだろう? 初めてなのに、こんなに早く後ろで、ドライでイけた」
 なんだかまだ気持ちよさが持続してるみたいだった。
 ふわふわしてたまらない。
 これが、ドライでイくってこと?

「気持ちいい?」
 棒を引き抜いた椿さんが、俺に体を重ね上から見下ろす。
「……ん」
「まだ蕩けてるね。これからゆっくり、もっと奏汰に気持ちいいこと、教えさせて?」
 気持ちよくて、頭がぼーっとする。
 椿さんの言っていることはなんとなく理解出来たけど、頭がうまく働かない。
 わからないまま、頷くと、そっと口を重ねられた。