「ん……」
 柊先生が、俺に口を重ねて。
 俺もまたそれを素直に受け入れる。
 それが正しいのかどうかはまだよくわからないけれど、流されてもいいと思ってしまったから。
 舌を絡め取られ、顔が熱くなる。
 気持ちいい。
 そう思っていたときだ。
 ガラっとドアの開く音。  

 慌てて、柊先生と距離を取る。
「すいません。消毒液あります?」
 そう保健室に入り込んできたのは樋口先生だった。
「うん、あるけど。どうした?」
「ちょっとニッパーでうっかり手を」
「ニッパー? またプラモでも作ってたの?」
「正解」
 え、プラモ作ってたの? この人。
 ついそっちを見ると、ばっちり目が合ってしまう。
「ああ、宮本先生、すいません。邪魔でしたね、俺」
「いえっ、そんなことっ」
 最悪だ。
 だから、保健室でなんて流されるべきじゃなかった。
「絆創膏もください」
「はいはい」
「じゃあ借りてきます。今日、返しに来るとまた邪魔しちゃいそうなんで、今度にしますね」
 そんなことを言いながら、樋口先生は保健室を後にする。
 恥ずかしい。


「……やっぱりもう帰りましょう」
「鍵しめましょう? それなら」
「駄目ですっ」
 俺がはっきりそう言うと、柊先生は1つため息をついた。
 ……もしかして呆れた?
 でも、普通だよな、学校でセックスしないなんて。
「土曜日の電話、宮本先生覚えてます?」
「え……まあ」
 だいたい。
 少しだけ記憶が曖昧だけど、1人Hの声を柊先生に聞かれた。
 そんなこといちいち掘り起こさなくていいのに。
「少し酔ってましたよね」 「はい。でもそれは柊先生もですよね」
「そうですね。そのとき、俺とHしたいって言ってたじゃないですか」
「ええっ!」
 ……待て。
 俺が酔ってたのをいいことに、ありもしないことを捏造してるんじゃないか。
 確かに、奏汰に煽られて、つい電話してしまって。
 Hはしたかったと思う。
 でもそれをわざわざ柊先生に伝えた?
 ……伝えた、気もしてきた。
「だとしても、家でですよ、したいのは」
 この際、したいのは肯定してしまおう。
「かわいかったですよ、あれ」
 腕を引かれ、ベッドの方へ。
 カーテンを1つ開けられる。
 ここならドアからすぐには目に入らないけど、結局、鍵しめてないよな。
「記憶にないです?」
「……柊先生こそ、酔ってたのによく覚えてますね」
「まあ俺は酔ってもあの程度なら、記憶はちゃんと残ってますよ」
「……他に俺、なにか言いましたっけ」
「ええ。言いましたよ」
 柊先生はいきなり俺の体を抱き上げ、ベッドへと座らせる。
 どうするつもりだろう。
「舐めてって、言ってました。望みどおり、舐めてあげますね?」
 嘘だ。
「俺、そんなことっ」
「言いましたよ。俺が舐め回したいって言ったら、舐めてって」
「じゃあ、柊先生が先に言ったんじゃないですか」
「だとしても、宮本先生が言ったことに変わりはないでしょう?」
 ずるい。
 あんまり覚えてないけど、きっと誘導尋問だったに違いない。
 引き出されただけ。
 それでも、柊先生は俺のシャツをズボンから引き出し、あろうことか腹辺りに舌を這わす。
「っん、くすぐったいですっ」
「我慢して」
「そんなっ。んっ」
 くすぐったい。
 それなのにゾクゾクしてきた。
 最悪だ。
 流される。
「芳春。素直に、かわいい子でいて」
 ……なんだ、それ。
 でも、優しく言われると、抵抗しづらい。
 俺が抵抗できずにいると、ズボンと下着を脱がしてくれる。
「……先生。鍵……」
「やる気になった? いいよ。しめてくる」  

 結局、やっちゃうのか。
 ため息が出る。
 俺を置いて、鍵を閉めに行く柊先生。
 まあ数秒後には戻ってきてくれるんだけど、その間に、逃げれないこともない。
 ないのに、逃げない俺って、どうなんだろう。

「足、あげるよ」
 学校のベッドって、どうしてこうも高いんだろう。
 足をあげてしまうと、立っている柊先生からしてみれば、すぐにでも入れられる位置じゃないか。
「寝転がっていいですから」
「……はい」
 上半身を寝転がらせると、柊先生は俺の膝裏を掴み、ぐっと足を折りたたむ。
 何度も見られてるのに、恥ずかしい。
「ん……っ」
「芳春、顔が真っ赤だね。恥ずかしいんだ?」
 ほら、バレてしまう。
 でも、恥ずかしくないわけないじゃないか。
「あの、そういうこと言うの、やめてください」
「黙って淡々とセックスしていいの?」
 それも違うけど。
「なんでそうやって、羞恥心煽るんです?」
「……しょうがないよ。恥ずかしがってる芳春がかわいいし。芳春だって、すごく感じてるみたいだし」
 別に恥ずかしいから感じてるわけじゃないのに。
 たぶんだけど。
 柊先生が、俺の太ももの裏に口付ける。
 舌を這わして、軽く吸い上げられて。
 普段されない愛撫に体がゾクゾク震えあげる。
「んっ……んぅっ」
 後ろの穴でも、俺の性器でもない位置を、丹念にピチャピチャと音を立て、柊先生は舐め上げていく。
 もしかしなくても、焦らされているのかもしれない。
「んぅっ! んっ……ぁっ」
「芳春。電話で言った言葉、直接聞きたいな」
 電話で言ったこと。
 Hしたいって?
 舐めてって?
 あれは、軽く酔ってたし。
 それに電話越しだからだってのもあったと思う。
 本人目の前にして今言えって?
「……久しぶりに玩具で遊びます?」
 俺がなにも答えられずにいると、柊先生は怒るでもなくそう言って、俺の目の前にローターを見せびらかす。
「それ……」
「好きでしょ。ローター使うの」
 震えたローターを目で追うと、そっと俺の股間に到達する。
「んぅっ!!」
 触れるか触れないかの位置で、ローターは根元から先へ、何度も行き来する。
「ぁっ……あっ」
 駄目だ、俺。
 変に腰がくねる。
 だってこんなの、じれったい。
 もうちょっと強く押し当ててくれたらいいのに。
 少しだけしか、振動を味わうことが出来ない。
「あっ……ん、せんせ……っ」
「足、すごい自分から開いてくれてますね」
 柊先生に押さえつけられていた足。
 いまはもう手が離れているのに、俺は開脚したまま、柊先生へと腰を寄せてしまう。
「んっ……んぅっ!」

 これじゃあ俺、誘ってるみたいじゃないか。
 だって、ご無沙汰だし。
 いや、まだ5日も経ってないかもしれないけど。
「入れましょうか」
 そう声が響く。
 すると一旦離れたローターが後ろに押し当てられた。
「ひぁっ……」
「大丈夫。芳春の先走りと、俺の唾液でたっぷり濡らしたんで。それに土曜日、こっち使って一人Hしたでしょう?」
 ゆっくりと、震えたままのローターが少しだけ入り込んでくる。
「んぅんっっ、あっ! んっ」
 なに。
 柊先生が止めてるのか、入り口付近で入るでもなく出るでもない位置。
「やっ……っんっ!」
「入れたい? 出したい? どっち?」
 ここまで来たら入れてしまいたい。
「んっ! あっ……んっ」
「……どうしようね」
「入れ……てっ」
 もう少し入れてくれたら、前立腺に当たって、すごく気持ちいい。
 それなのに、コードを引っ張って、柊先生はローターのほんの先しか入れてくれない。
「んぅっ……あっ……やっ」
 焦らされてる。
 さっきまで、少しだけローターを当てられてた性器も、なんだかむずがゆい。
 こすってくれたらいいのに。
「せんせ……っぁっ…んぅっ」
「なに? かわいいね。目がすごい潤んでる。泣かなくていいよ」
「はぁっ……入れっ……ん、くださっ」
「よく聞こえないな」
「ぁんっあぁあっ……やっ!」
「……芳春。もしかして焦らされてるのにイっちゃいそう?」
 嘘。
 焦らされてるのにイクとか。
 違う。
 こんな中途半端な刺激でいきたくないのに。
「ゃあっあっ……んぅんんんっ!!」

 もっと、気持ちいいの味わってイきたかったのに、俺の気持ちとは裏腹にイってしまう。
 恥ずかしくて腕で顔を隠す。
「……どうする? 入れるか、出すか」
 もう一度聞かれる。
 自分でもよくわからない。
 けれど、まだ気持ちよくなりたい。
「んっ……入れて……っ」
「……いいよ」
 ゆっくりと入り込むローター。
 前立腺に近い位置。
 やっぱりすごく気持ちいい。
「ぁあっっあっ……んぅっ!」
「……芳春は、玩具で満足?」
 ローターを残して、柊先生の指が抜けるのがわかった。
 上から、覆いかぶさるようにして俺の腕をどけ、顔を見下ろされる。
「ひぁっあっ……んっっ……ぁあっ」
「俺とセックスしたいの? それとも、俺に玩具で遊んで欲しい?」
 そんなの。
 ……どっちもだ。
 今、ものすごく気持ちいいけれど、柊先生のが欲しくてたまらない。
 なんだ、この気持ち。
「っぁっ……ん……したっ」
 言うつもりなかったのに。
「っ……H……したいっ」
「ずいぶん気持ち良さそうだけど?」
「だめっ……あっあぁっ……足りなっ」
「足りない? ずいぶんわがままな体になったね」
 浅いとこばかり。
 柊先生のなら、もっと奥まで届くのに。
 そう思っていると、ずるりとローターを引き抜かれてしまう。
「ひぁあ……」
「ん……。せっかく気持ちよかったのに、残念だね」
「な……んでっ」
「まあローター入ったまま突っ込んでもいいんだけど。それだと芳春は振動ばかりに気を取られちゃうでしょ」
 振動とは違う、柊先生の。
 生身の人間の。
「振動味わった後だけど、ちゃんとイけるかな」
 少し冗談めかしてそう言うと、柊先生のモノが入り口へと押し当てられる。
「あ……」
 早く。
 自分のソコがヒクついてしまう。

 ゆっくりと、中へと入り込んでくると、その刺激に体が震え上がった。
「ぁあっあっんっ! んぅっ」
「あいかわらず芳春の中は、熱くて気持ちいいよ」
「んぅんんんっ!! あっんぅっ」
「声、出して。聞かせて。……もしかして、今、イきそうになった?」
 まだ全部入りきっていないと思う。
 それなのにイってしまいそうで、必死で我慢したのを見破られる。
「んっ! 違……」
「ふーん。違うんだ?」
 信じてくれてる?
 わからない。
 ただ、もっと奥へと入り込まれると体がビクついた。
「ゃあっくっ……んっ! せんせっ……」
 イきそう。
 駄目だって。
 さっきイったばっかだし。
 イきそうになったか聞かれて、否定したばっかなのに。
 どこかに爪を立てたいのに、柊先生が俺の両手首をそれぞれ掴んで押さえつけている。
「なに? 芳春」
「はぁっあっ……んっ! んぅっ」
「まさか、入れただけでイクってわけじゃないよね?」
 笑顔を向けられ、つい顔を横に逸らす。
 溜まった涙が伝い落ちた。
「あっ……ぁああっ……奥っ」
「ね……もう少し入れそう?」
「だめっ……あっ! ゃあっっ」
「どうして?」
 イく。
 イきそう。
 こんな立て続けに2回も?
 右手を離してもらったと同時に、目の前にある柊先生の胸元へと爪を立ててしまう。
 シャツの上からだけれど、痛いかもしれない。
「言えないのなら、突いちゃおうか?」
 必死で首を横に振るのに、柊先生は待ってくれない。
 内壁を擦り、奥を突き上げられる。
「んぅんっ! ぁあっあっ……あぁあああっっ!!」

 恥ずかしい。
 立て続けに二回もイかされて。
 早く腕で顔を隠したいのに、柊先生はまた俺の手を取りベッドへと押さえつける。
 あろうことか、そのままゆっくりと緩めのピストン運動を始める。
「はぁっあっぁあっ……あんっ」
「かわいいですねぇ。入れて、奥突かれただけで出しちゃって」
「ぁあっぁっ……やぁっっ」
「それに、声もかわいらしい。……殺せないの?」
 涙で視界がぼやける。
 なんとか頷くと、柊先生は軽く俺にキスをした。
「んぅっあっ……ぁっ……せんせぇっ……ぁあっ」
「んー……かわいいよ」
 柊先生の指先が、口の中へと入り込む。
 舌を撫でられ、ゾクっとした。
「はぁっあっんっ……ンっ」
「口の中も、すごくあったかいし。こっちにも入れたいな……」
「んぅっ! ぁっやっ」
「うん……今度、家でして?」
 家で。
 頷くと、頬を包み込むよう撫でられた。
「はぁっあっ……せんせぇ……っんぅっ」
 気持ちいい。
 というか心地いいというか。
 なんだろう。
 ずっと入れてたい……そんな気分。
 なに考えてんだろう、俺。

 音を立てるように掻き混ぜられる。
 柊先生はどうしてこんなに我慢出来るのだろう。
 もしかして俺の中って、そこまで気持ちよくない?
 いや、そんなことないよね。
 一応、イってくれてるわけだしっ。
「はぁっぁあっあっ! ……はぁ……んっ!」
「芳春って、何度かイった後だとホント、素直でかわいいね」
 素直?
 俺が?
 よくわからない。
 けれど、いい意味なのかもしれない。
 だって、かわいいって……。
「ぁんっ! あっ……だめっ……あっ、俺っ……またっ」
「どうしちゃった? 立て続けに何度も……。そんなに俺に抱かれたかった?」
 抱かれたかっただなんて。
 ……否定出来ない。
「……いいよ。かわいい。中で出すよ」
 コツコツと、いい箇所を探るよう先端で突き上げられる。
 その度に、体が小さくビクついた。
「ぁあんぅっ!! ゃあっあっ! ぃくっあっ、あぁああっっ!!」

 すごい。
 なんか、自分がイった直後だか直前だか、もうわからないけど柊先生のが流れ込む。
「せん……せっ。あっ!」
「んー……どうした? 気持ちいい?」
 頭を撫でる柊先生の手が、すごく暖かく感じる。
 まだ、入り込んだまま。
 小さく頷くと、口を重ねられた。
「んっ! んぅっ」
 舌を絡め取られると、我慢出来ず俺は柊先生に抱きつくよう腕を回してしまっていた。