少しばかりの頭痛。
ああ、そうか。
俺、昨日は少しだけだけど飲んじゃって。
残ってるかな。
さすがに意識は飛んでない。
それに、変なことをした覚えも無い。
けれど、この頭痛は二日酔い特有のもの。
……いや、変なことしたか。
確か、柊先生に電話しちゃって。
まああれは酔ったせいとは限らないんだけど。
夜で少し寝ぼけてたっていうか。
なんにしろ、また恥ずかしいことをしてしまった。
「はぁ……」
なにしてんだろ、俺。
みっともない。
柊先生が誰と飲んでたのか、すごく気になってる。
聞いたところで知らない人かもしれないんだけど。
というか、柊先生と共通の知人って、学園の人だけだ。
他は全然知らない。
でも、知らない人だとしても、どういう関係の人か知りたいっていうか。
「……はぁ」
落ち着け。
だって、友達くらいいるに決まってるし。
……セックスする相手だって、俺以外にもいるのかもしれない。
男だし、浮気とかそういうものに関してはある程度、理解出来るつもり。
いいんだけど、一番は俺がいいし。
……そもそも俺って、柊先生にとって一番なのかな。
比べるもんじゃないけど。
俺だって、柊先生にはいろいろ見せてきてるけれど、それでも桐生先生の方が話しやすい内容もある。
それって、ある意味、桐生先生は悩み相談って面で、一番の相手。
だから、特定の事柄で一番ならいいんだ。
いいんだけど……どうだろう。
俺は、柊先生の家に行く際に、なにかいいワインを用意したわけでもない。
セックスだって慣れてない。
結局、フェラも出来てないし。
どうしても、柊先生にとって一番いいとは思えない。
2番……もしかしたら3番とか4番かも。
1番でいたいです、なんて言えるわけないし。
最悪だ。
男なのに。
けれどあんな風にストレートに想われたことなんていままでなかったから。
押しに弱いだけなのかもしれない。
まだ世間体とか考えちゃうし、頭の整理ついてないんだけど。
柊先生が、誰かと家で飲んでて、俺の知らない酔った柊先生を誰かが知ってて。
そういうの考えるだけで、胃の辺りが妙にきりきりする。
重症だ。
……とりあえず、口でして欲しいって言われたまま、出来てない。
それくらいの期待には応えたいし、なんだか負けたくない。
いや、たぶん負けるんだけど。
そもそも今は同じ土俵にも立てていない気がする。
練習……か。
以前、数日、柊先生に指先入れられてちょっと特訓したけれど。
ペン……いや、ハシでいいかな。
どうせ口に入れるものだし。
細すぎる?
とりあえず1本、口に含んでみる。
ほら、この細さなら全然平気なんだよ。
歯を立ててしまうこともない。
……当たり前か。
じゃあ、2本。
普段、口に入れてるものだからか、ペンよりも抵抗が無い。
そうか、元々口に入れるもので練習すればいいってことか。
だったらキュウリか。
冷蔵庫にあったはず。
ほら、これって祭のとき冷やしたのそのまま食べたりするし。
太さ的には問題ない。
細めのキュウリを口に含むが特に吐き気をもよおすこともない。
「……ん」
でもやっぱりつい、歯を立ててしまう。
癖?
そりゃ食べ物が口に入ってきたら、噛もうと思うし。
棒状の飴とかならいいのかも。
そうこうしてるうちにも、キュウリを握っていた手に唾液が垂れてくる。
ああもう最悪だ。
咥えたまま下向いてたら、絶対垂れるよな。
垂れないようにしゃぶればいいってこと?
「んっ……」
あ……吸うと、あんまり歯、当たらないかも。
じゃあ吸いながら、舌を絡めて……。
ってなにやってんだ、俺。
キュウリでこんなこと。
いまさら恥ずかしくなってきた。
というか、なんかエロい気分になってきた。
最悪だ。
ベッドにもたれるようにして床に座り込む。
つい、我慢が出来ず右手で、ズボンのチャックを下ろした。
なんで、キュウリ咥えて勃起してんだろ。
やっぱり、こういう棒状の物を舐めてると、俺のを舐めてくれた柊先生連想しちゃったりするからかな。
それに、舌、気持ちいい。
少し抜き差ししてみると、キュウリのごつごつとした表面が、舌を撫でていく。
それに、唾液の絡まるいやらしい音も響いた。
「んっ……」
やばい。
気を抜くと、また唾液垂れそうだし。
なんとか吸い上げながらも、手にした股間のモノを擦りあげていく。
「んっ! んぅっ……んっ」
柊先生は、俺が舐めたら感じてくれるんだろうか。
ちゃんとイかせられるだろうか。
俺はまともにはしたことないけれど、柊先生は俺以外の誰かにされたことくらいあるのだろう。
……わかってる。
いい歳だし、それくらいの経験、あって当たり前。
だからこそ、そんな当たり前のこと、俺もしないと。
まあする側とされる側じゃ違うけど。
「んっ! んっ……」
ちゃんとしなきゃって思うのに、手で自分のを擦りあげていると、気持ちよくて頭がボーっとする。
キュウリを持つ手が唾液でまた濡れてくる。
柊先生なら、たぶん、ベトベトでいやらしいって言うのだろう。
そう考えるだけで、恥ずかしくて、顔が熱くなる。
「ぁっんっ……」
ホント、ベトベトでいやらしい。
そもそも、キュウリ咥えて唾液垂らして手コキしてる時点で充分いやらしい。
これが柊先生のだったら。
一緒に気持ちよくなれる?
「んっ! んぅっ……んーーーっ!!!」
大した想像もせず、キュウリをおかずにイってしまう。
いや、キュウリじゃなくて、キュウリを引き金に柊先生とのフェラ行為を連想したから。
「はぁ……」
こんなキュウリ、もう食べられたもんじゃない。
食べ物をアレに見立てるだなんて、俺もホント、末期だな。
けれどペンよりは口に入れても安全な物だし。
バイブは、太いから俺みたいな初心者じゃすぐに苦しくなってしまう。
上級者はあれくらい平気なのだろう。
翌日。
「おはようございます、宮本先生」
職員室で、あいかわらず何事もなかったかのように柊先生が声をかけてくれる。
いや、実際大したことはなんもないんだけど。
「おはようございます」
「飲み会、どうでした?」
そっか。
夜中に電話はしたけど結局、飲み会のことにはほとんど触れてなかったからな。
「楽しかったです。友達の先輩もいい人でしたし」
そうだ。
このタイミングで、柊先生の飲みのことも聞いてしまえばいい。
「あのっ! ……柊先生はどうでした?」
「どうって?」
「その……飲んだって……」
「ああ、おいしかったですよ」
そうじゃなくて。
ああもう、どうすればいいかな。
「宅飲みしたって聞いて……」
「ええ。家はラクでいいですね」
「……そうですね」
駄目だ。
やっぱり聞けそうにない。
「で、結局、友達や友達の先輩は、ノンケでした?」
あ、そういえばそんなようなこと聞かれてたな。
あのときは意味がよくわからなかったんだけど。
「それが……友達はたぶん普通なんですけど。先輩はどうもちょっとその気があるみたいでした」
「それは、問題ですね」
やっぱり嫌だって思ってくれるのかな。
「でも、女の方もいましたし、そんな男同士でどうとかって感じでも……っ」
「女性も一緒だったんですね」
あ、それ言ってなかったか。
なんだかちょっと後ろめたい気持ちになるが、別にやましいことはなにもない。
この人、俺が男といるのと女といるの、どっちの方が嫌なんだろ。
「一緒でしたけど……」
別に何事もないですって、わざわざ言うのもな。
「宮本先生、顔が暗いですよ。俺は別に構いませんよ?」
あ、やっぱりいいんだ。
……それはそれでちょっと寂しいとか思ってしまう俺って、なんなんだろう。
「そう……ですよね」
「……けど、少し話したいな。今日の放課後、いいですか?」
話したいって。
なにをだろう。
「かまいませんけど」
「じゃあ、保健室、来てくださいね」
「はい」
職員室だし、あまり長々と話すわけにも行かない。
柊先生は話のキリをつけて、自分の席へとついてしまう。
結局、聞き出されるだけ聞き出されたけれど、俺の方はほとんどなにも聞けなかった。
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