無事、家に着いたし柊先生に連絡するかな。
……って、俺なに考えてんだ。
無事着いたから連絡って。
別にそういう関係じゃないだろ。
桐生先生とあんな話したせいだ。
なんだか、今、無性に柊先生と話したい。
……電話かけてもいいかな。
でも用件とか無いし。
無事終わりましたってのもおかしいし。
向こうからかかってくることはまずないよな。
今日が飲み会だって知ってるわけだし。
少しだけお酒も入ってるし、なんだか疲れた。
頭がぼーっとする。
そのままベッドに寝転がると、ついうとうとしてしまっていた。
数時間経っただろうか。
いきなり携帯の着信音が鳴り、起こされる。
今、夜中だよな。
だれだろう。
奏汰?
「もしもし? ……いまもう2時だけど」
『ごめん、みやもっちゃん、寝てたらどうせ出ないかなって思って』
普段は寝る前にマナーにするんだが、今日は忘れてた。
「いいけど。なんかあった?」
『みやもっちゃんて……男とやったことある?』
うわ。
直球で来たな。
どうしよう。
「俺の知り合いがあるらしいから、なにかあるなら聞いとくけど」
いや、その前になんでそんなこと聞くのか聞いてみた方がよかったか?
『みやもっちゃんの知り合いって、学校の人?』
「まあ、そうだけど。どうしたんだよ、急にさ」
『……実は、椿さんがそっち系の人で……。俺、そういうのよくわかんないし』
ああ、やっぱり椿さんってそうなんだな。
だとしても、なんで奏汰が悩むんだ。
……奏汰が、誘われてるってこと?
「奏汰、椿さんとやるの?」
いや、俺もストレートに聞きすぎだ。
ちょっと思考回路おかしくなってるかも。
お酒のせいだ。
そう思ってしまおう。
『や……らないよ、たぶん。みやもっちゃんは、俺が男とセックスしたらどう思う?』
なんだか、胸が痛いな。
逆に俺が聞きたい。
「俺が、変に思わなかったら奏汰はするってこと?」
『……わかんないよ、そんなの。でも、椿さんが……あっ』
「奏汰?」
『……えっと、ごめんね、宮本くん。椿だけど』
そこにいたんだ?
いまの聞かれてた?
もうこれ、やっちゃう感じだろ。
いや、柊先生みたいなタイプだったらやっちゃうだろうけど、普通の人ならそうでもないか?
2人が同じ部屋にいるのも、別にただ家で飲み会の続きってだけかもしれないし。
……でも奏汰の雰囲気、なんかそういう楽しく男同士で飲んでるって感じでもないな。
『宮本くん? 聞いてる?』
「え、あ、すいません。ちょっとぼーっとしてて」
『そう。宮本くんて、したことあるでしょ』
「あの、なんで2人でそんなこと俺に聞くんですか」
『ちょっとね。大部分、勘だけど』
すごい勘だな。
でも、あからさまに男とやってそうな雰囲気出てるって言われるよりはマシか。
「椿さんはあるんですか」
聞き返して、なんとか流してしまおう。
『あるよ』
ああ、はっきり答えられちゃったし。
『奏汰とも、少しくらいはしちゃってるし』
『ちょ、椿さん、変なこと言わないでくださいよっ。みやもっちゃん、してないからっ。えっと、少ししかしてないからっ』
まったくフォローになってないけど、やってるんだな。
『返してくださいっ。もー……。あ、みやもっちゃん? ごめん』
「いや、いいけど。なに、一緒にるんだ?」
『うん……後ろに』
なんだ、これはノロケか?
だんだんただのカップルに思えてきたんですけど。
「奏汰は、椿さんのこと好きなの?」
『……わかんないよ』
俺もまあ、わからない状態で柊先生としてたからこれはなんとも言えないな。
一回くらいやっちゃえば? なんて適当なことを答えてしまいそうな自分がいる。
『ねえ、みやもっちゃん、やってないよね?』
「……それはどっちでもいいだろ」
『なんで、やってないって即答してくれないんだよ、もー』
しまった。
童貞か非童貞か聞かれてるわけじゃないんだし。
男とはやってないって即答してもまったく違和感なんてなかったはずだ。
ああもう最悪だ。
『黒だね。宮本くん、ありがとう』
あ、椿さんだ。
黒って。
まあ、勝手に誤解されてもこれといってそう関わりのある人でもないし、たぶん、言いふらされるわけでもないだろうからいいんだけど。
共通の友達である奏汰はいままさに居合わせてるから、事情わかってくれるだろうし。
そもそも誤解でもないんだけど。
「あの、ありがとうって言われても……」
『んぅっ! やっ……まだわかんなっ』
『どう考えたって、宮本くんはしてるよ』
『ゃっ……あ、みやもっちゃ、してな……って言ってよっ』
『嘘は駄目だよ』
え、どうしよう。
これって、俺がしてるって言ったらたぶん、椿さんが奏汰やっちゃうパターンだよな。
あの、声すごく漏れてるんですけど。
「奏汰は……えっと、嫌なの?」
『宮本くん、奏汰に合わせて答えようとしてる時点で、もうやってるって言ってるようなもんだから』
ですよね……。
本当にやってないならとっととやってないって答えてる。
それで、奏汰が椿さんとやらないことになったとしても、それは普通のことだし。
そのあと、奏汰がもしやりたいと思うのなら、勝手に出来るだろうし。
今の俺、奏汰を守るために嘘つこうかどうか悩んでるのバレバレだよな……。
『じゃあ、そろそろ切らせてもらうね?』
「……はい」
否定した方がよかったかな。
駄目だ、わかんない。
「あ、あの、一回、奏汰に変わってもらっても……」
なにを言うってわけでもないが、一応、奏汰からかかってきた電話だし。
『……嫌がってるみたいだけど、せっかく宮本くんが望んでるみたいだし、ね。はい、奏汰』
ん?
どういう……。
『んっ……んっ! ん……あっ』
やばい。
聞いちゃいけない感じのだ。
「あの、椿さん? 聞こえてます? えっともういいです」
『はい、じゃあ切るね?』
「はい……」
……なんだこの電話。
ちょっと整理したい。
なにか、かけでもしてたってこと?
俺が、男と経験あったらやる、みたいな。
そんなとこだよな。
でも、遊びって感じでもなかったし。
奏汰も、世間体に捕らわれて悩んでるとか?
身近に経験者がいると安心、みたいな感じでさ。
……にしても、あの人たち、家も近いしやりたい放題じゃん。
まあ俺も、学校でしちゃってるけど。
……というか、別に羨ましいとか思ってるわけじゃないし。
ああもう、最悪だ。
柊先生のこと、また思い出しちゃった。
声、聞きたくなってくる。
携帯ってすごいよな。
すぐ声が聞けちゃったりしてさ。
こうやって、アドレスから柊先生選んで、受話器ボタン、押すだけで……。
「……あれ」
プ、プ、プ、プ……って。
うわ、俺なにマジでかけてんだ。
駄目だ、早く切らないとっ。
こんな夜中に迷惑だし。
用件ないしっ。
慌てて切るけど、これって向こうには繋がっちゃってるかな。
どうしよう。
……どうしようって思ってるのに、折り返しかかってこないかなーなんて思っちゃったりしてる自分もいるし。
起きてないよね。
そう思うのに、しばらく携帯が離せない。
と、期待を裏切らず、柊先生からの着信が入る。
……どうしよう。
嬉しいけど、すごい迷惑なこと俺しちゃってる。
とりあえず出ないと……。
「えっと、柊先生、あの……っ」
『ん……おはよう』
ん? おはようって。
もしかして寝ぼけてる?
え、こんな柊先生、すごく貴重じゃないか?
『芳春……どうした?』
寝ぼけてないのかな?
わかんないけど、いきなり芳春とか言われた。
なんか、恥ずかしい。
いきなりタメ口だし。
でもかっこいい。
って、俺なに考えてんだろ。
「あの……すいません、いきなり電話しちゃって」
『いいよ』
「寝起き……ですよね」
『うん……。芳春に起こされるのも悪くないね』
「すいません……起こしてしまって」
『じゃあ……俺のこと起こしたお詫びに、1人Hの声、聞かせて?』
「なっ……なんてこと言うんですかっ」
唐突に。
『起こして悪いって思ってるんでしょう?』
「あの、悪くないって言ってくれたじゃないですか」
『悪くはないよ。……どのみちせっかく繋がったんだし、声、聞かせてよ』
ああ、この人、本当にちょっと寝ぼけてるっぽいな。
いつもでも言いかねないか。
「……いきなり言われても……そういうテンションじゃ」
本当は充分、エロい気分になってきちゃってますけど。
『今日、芳春がみんなと飲みに行くって聞いて、気になってたんだ。夜は帰るのかなとか、泊まるのかなとか。けれど、そんなこといちいち聞けないでしょう?』
「……柊先生、酔ってます?」
『ん……少しだけ』
俺のこと、心配してくれた?
他の男に着いて行かないかとか。
止められたらやっぱりさすがにうっとおしいなって思っちゃうかもしれない。
けれど、柊先生は俺のこと止めなかったし、むしろ楽しんできてくださいね、って。
……今日は1人で、飲んでたのかな。
「あの……柊先生となら、いつでもいいんで、誘ってください」
『ありがとう。……とりあえず今、聞かせて?』
「その……どうすればいいのか」
『じゃあ、指示しようか。芳春、取り出して右手で擦り上げて』
ああもう……。
この声に俺、弱いんだよな。
聞きたかった声。
こうなるかもって少しだけ期待してたかもしれない。
変態だ、俺。
「ん……」
しょうがなく、柊先生に言われるがまま、自分の股間を擦り上げる。
……しょうがなくってわけでもないけど。
寝転がって、携帯を持ったまま。
俺も少し酔ってるし、頭もボーっとしてる。
「んっ……んぅっ」
『芳春、亀頭撫でられるの好きだよね。撫でて。……気持ちいい?』
宮本先生が言うように、亀頭を撫でると、体の熱が一気に上昇するような感じがした。
「あっ……んっ……んっ……」
『どうなってる? 教えて』
「んっ! ……ぅんっ、ぬるぬるしてっ……あっ」
『もう濡れてるの?』
あいかわらず、言い回しが恥ずかしい。
それでも感じてしまう。
「んっ……ぅんっ」
『どうして、濡れちゃった? 芳春』
「はぁっんっ……あ、気持ち……くてっ」
『そうだね……気持ちよくて、エッチな液、出てるんだね』
エッチな液って。
そうだよな。
俺、いやらしいかも。
こんな、柊先生にしゃべらせて1人Hするとか。
あ、柊先生、酔ってんだよな。
後であんまり覚えてない、なんてことになってくれないかな。
それ以前に、俺もボーっとしてきちゃってるんだけど。
「あっ……んっ! んぅっ!」
『ね、その液、ぬぐって、後ろに指入れて』
そこまでしなくても、イけると思うのに。
どうしよう。
なんか俺、変になってるかも。
柊先生の言うことに従いたいっていうか。
もう酒に酔ってんのか自分に酔ってんのか柊先生に酔ってんのかわかんないし。
ズボンと下着を引き摺り下ろして、指に先走りの液をまとう。
ゆっくりと自分で後ろへと押し込んでいく。
「んーーーっ! ぁっ……んっ」
『声、聞かせて? あとどうなってるか教えて』
「あっ……ん、中っ……入っっんっ!」
『奥まで?』
「あっ……まだっ」
『入れて。芳春は奥、好きでしょ』
奥。
指が届く場所には限度があるけれど、それでも柊先生の言うように奥の方まで指を入れる。
「ぁっあっん……奥っ……」
『入った? じゃあちゃんと、掻き回して』
掻き回すって。
そんなことしたら声、殺せない。
てか、バンバン指示出してくるな、この人。
自分で、抑えればいいのに、つい従うように指を掻き回してみる。
「ぁあっあんっ! ……んぅっ! やっ」
少し激しいかもしれないけれど、ノってきてる柊先生ならこんくらい強めに中を掻き回してくれる。
ああ、なに、俺、柊先生に似せようとしてんだろ。
「ぁんっ! あっ……だめっ……」
『駄目って?』
「はぁっあっ……ぃくっ」
『もうちょっと、我慢して、声聞かせてよ』
自分でも、早いって思ってる。
我慢、しなきゃ。
というか、指動かすの止めればいいんだけど。
「はぁっ……あっ! ぁんっ……せんせぇっ……俺っあっ」
『気持ちいい? すごいかわいい声』
かわいい声って。
やばい。
嬉しいかも。
「いいっ……あっ、気持ちぃっ……あんっ、あっしたぃっ……せんせぇっ」
なに言ってんだよ、俺。
でも、どうしよう。
柊先生としたくてたまんない。
顔が見えないと、ちょっといつもより恥ずかしいことも平気で言えてしまう。
少し酔ってるせいもあるけれど。
『俺も、したいよ』
したいって。
柊先生が。
ぐちゅぐちゅと音が立つくらいに中を掻き混ぜると、体がビクついて、視界がぼやけた。
「あっ……ぁあっ! んぅっ! いくっ……あっ」
『……待って。もうちょっと我慢して、声聞かせてよ。芳春』
「はぁっあっ……ぁんっ! やあっっ」
『芳春は、俺となにがしたいの?』
なにがって、わかってるくせに。
「んぅっ! やっ……あっ」
『言わないなら、電話切るけど?』
こんな状態で、今、切らないで欲しい。
別に、イけるけどそういう問題じゃない。
「あっ……先生とっ……んぅっ……Hがっ」
『Hしたいんだ……? かわいいよ。じゃあ芳春は俺とHしたくて、こんな夜中に電話しちゃったの?』
そうだ。
声が聞きたくて。
……Hしたくて。
しょうがないだろ。
俺と柊先生との関係はHから始まってるんだから。
ああ、なに割り切ってんだ、俺。
「はぁっあっ……はぃっ、あっ……ん」
『……すごい想像するだけでいやらしくてたまんない』
柊先生が、なんかこんな熱っぽい声で、俺のこと想像してたまんないとか。
そんなこと言われたら俺の方がたまんない。
もしかして、俺の声で1人Hしてくれてたり……。
『いますぐにでも、行って、全身舐め回したいくらいだよ』
舐め回すって。
いつもなら、なに言ってだこの人って思うのに。
どうしよう。
舐められたいかも。
「んぅっ、ぁあっ……舐めてっ」
『……芳春、酔ってる? 今日は、お酒飲んだの?』
「んぅっ! あっ少し……しかっ」
『酔って他の人となにか、しちゃったり?』
「してなっ……ぁんっ! ぁあっ……も、ぃくっ」
『……しょうがないね。いいよ』
「はぁっあっ……いくっ……やぁあああっ!!」
やばい。
頭重い。
『……イっちゃった?』
「……ん……はい」
やっぱりしてしまった後は、なんでこんなことしたんだろうって気持ちが強い。
俺、さっきなんて言った?
舐めてって。
うわ、取り消したい。
『すごい、かわいかった』
……こう言われてしまうと、まあいっかなって思っちゃうんだけど。
「あの……すいません。ちょっと、酔ってたかもしれなくて……」
完全に言い訳だ。
事実でもあるけれど。
『いいよ。俺も軽く酔ってるし。今日は、ちょっと多めに飲んじゃったから』
そんなに?
柊先生って、あんまり酔わないイメージなんだけど。
「大丈夫ですか?」
『うん。なかなかいいワインを手土産に持ってこられてね。つい』
え……。
手土産にって。
一人じゃないんだ。
そっか。
土曜日の夜だし、柊先生だって飲む相手くらいいるだろう。
俺だって、飲んでたし。
いちいち柊先生の予定、把握したいわけじゃないし。
……いや、したいのか?
わからない。
軽く酔うまで、誰かと飲んだ……ってことだろ。
手土産ってことは、家?
柊先生の家。
……だから、それも別に普通のことだ。
柊先生に家で飲む友達くらいいても普通。
けど、その人は、酔ったちょっと素っぽい柊先生のこと、直接見ちゃってるんだよな……。
前にたぶん酔ってくれたときは俺自身も酔っちゃってて、よくわからなかったし。
『芳春?』
「あの……えと、なんでもないです」
『そう? じゃあ夜も遅いし、そろそろ寝ようか』
そうだ。
俺、ボーっとして黙り込んじゃって……。
こっちが付き合わせちゃってるのに。
しかも、柊先生の方から電話してもらっちゃってる。
「すいません。本当に……」
『いいよ。したい、っての。ホントかわいかったし。嫌だと思ってたら電話返してない』
とりあえず怒ってないみたいでよかった。
これからは、もっと注意しよう。
「ありがとうございます」
『芳春。じゃあまた』
「はい……また」
『おやすみ』
「あ、おやすみなさい」
……おやすみって、なんかドキドキするな。
結局、誰と飲んだか聞けなかった。
だって、そんなこと聞いたら、さすがにうっとおしいだろうし。
でもこれは別にヤキモチとかじゃなくて、ただ純粋に誰と飲んだか気になるってだけで……っ。
……どうしちゃったんだろ、俺。
|
|