「……あの、もう帰りますね」
「……それ、本気で言ってます?」
 思いがけない柊先生の返事に俺は首を傾げる。
「あの、今日は月曜日ですよ。帰らないと……」
 俺は起き上がり、ベッドの隅に放置されていたズボンと下着を手繰り寄せる。
 そんな俺の手を取り、先生はニヤリと笑った。
 なに……。
「わざとなのかと思ってたんですけどね」
「なんのことですか?」
「お酒、飲みましたよね」
「あれは……」
 少し酔いたかったからだと思う。
 けれど、わざととかそんな深い意味などなかった。
「飲んじゃダメでした?」
「いいえ、それはいいんですけど。宮本先生、学校に車置いてあるじゃないですか。飲酒運転する気ですか? それとも、俺に家まで送られる気でした?」
「あ……」
 しまった。
 まったく考えてなかった。
 なんてバカなんだ。
「……タクシーで帰りますんで、大丈夫です」
「泊まります?」
「それは……」
「もう1回くらいしましょうか?」
 俺は反射的に首を振る。
「そんなすぐ否定しなくても……」
「す、すいません。でも俺……もう余裕なくて……」
「とりあえずシャワー浴びます? さっぱりした方がいいでしょ。俺の精液とローション、たっぷり塗り込んじゃいましたし」
 顔がかあっと熱くなる。
 垂れてくるほどではない……というか、そのレベルの液は拭き取ったけれど、奥の方にはまだ残っているかもしれない。
「ああ、そういえば宮本先生、自分で掻き出せます?」
「え……」
 中出しされた後は掻き出した方がいい……なんてことは聞くけれど、実際やったことは……いや、1度あるか。
 酔って覚えてないんだけど、前に柊先生が言っていた。
 先生の前で、掻き出したって。
 ああ、いま思い出すだけで恥ずかしい。
「芳春が寝てる間に俺はしたことあるんですけど、自分でしたのは酔ったときだけですよね?」
「は……い」
「それ以外のときは、ローター入れたままだったんで、そこまで影響ないかと思ってしてませんでしたが…出来そうですか?」
「……た、たぶん」
「俺が掻き出してあげようか?」
 そんなことをされたらきっとまた、やりたくなる。
 断ろうと思った矢先、柊先生が俺の口を塞いだ。
 ダメだ。
 いまの俺、なんだかまた変な気分に……。
 柊先生があんな口調で言うからだ。
 掻き出してあげようかって。
「ん……っ」
 舌を絡め取られ、俺の顔が熱くなったところで容赦なく先生はすっと顔を離してしまう。
「あっ……」
「物足りない?」
「い、いえ……。あの、お風呂借りますね?」
「どうぞ。ご飯用意して待ってます」
 そう見送られ、俺はお風呂へと向かった。



 自分で掻き出す……か。
 なるべくエロいこと考えないように……全裸になった俺は立ったまま、シャワーを体に当てながら、後ろから指を狭間へとあてがう。
 わからないなりに、とりあえず1本指を押し入れていく。
 まだ中はローションのぬめりが残っていて、俺は難なくその指を受け入れた。
「はぁ……っ」
 これ……精液押し込んでるんじゃないよな。
 塗りたくってるだけのような気もするし、もう1本くらい入れた方がいいのかもしれない。
「ぁあ……んぅっ」
 2本目の指をゆっくりと差し込んでいく。
 ……エロいこと、考えるなって方が無理な話だ。
 柊先生の精液が入ってて、これが柊先生の指だったら……なんて、頭で考えてしまう。
「ひぁっ……んっ! んぅっ!」
 そもそも、ここは柊先生の家で、柊先生んちのお風呂だ。
 ……シャワー出しっぱなしも申し訳ない。
 けれども止めてしまえば俺の声が響いてしまうだろう。

 落ち着くか一回抜くか……って、もう何回この葛藤してんだ俺。
 恥ずかしい。
 とっとと済ませよう。
 そう思い、2本の指で中を押し広げると、思った以上の衝撃に体が跳ね上がる。
「ひぁっ……んぅんっ!」
 足がふらついて、俺はその場に座り込む。
 傍にあったオケがすごい音を立ててひっくり返った。
 もしかして、柊先生来ちゃうかも……。
 そんな俺の心配は的中し、コンコンと扉をノックされる。
「宮本先生? 大丈夫ですか?」
 転んだとでも思ったのだろう。
「っ……大丈夫です」
「……開けていい?」
「ダメです!」
「ホントにダメ?」
 なに言ってんだこの人。
 開けられたら困る。
 とっとと指抜かないと。
 自分の指入れてるところ見られたら、俺、どうすればいいか。
 いや、前に見られてるけど。
 そうこう考えているうちにも柊先生はガチャリと扉を開けた。
「だ、ダメだって言ったじゃないですかっ」
「そうですね。ホントにダメか聞いて、返事がなかったので」
「ちょっと返答が遅れただけです!」
「なんで、遅れたの?」
 なんでって……。
 なんでだろう。
 だって、絶対ダメかと聞かれたらそういうわけではない。
 ここは柊先生の家だから。
 どうにも出来ずにいる俺を差し置いて、先生はシャワーを止める。
 座り込んでいる俺の前へとしゃがみこみ、頬をそっと撫でる。
「っ……あの、俺……っ」
「いいですよ。続けて……」
「で、出来ません、そんなこと!」
「それって、俺にして欲しいってこと?」
「そうじゃなくて……」
「じゃあ、見られて恥ずかしいんだ?」
 そうなんだけど、なんだかそう言うのも恥ずかしい。
 先生は、俺の両足を開き、ジっとそこを見下ろす。
「見……ないでくださ……っ」
「見せて」
「嫌です……っ! も……っ」
「芳春。なんで、勃ってんの?」
「っ……!」
 顔をあげると、先生は俺の顔をじっと見つめて、親指で唇をなぞる。
 恥ずかしくて、たまらなくて、視界が涙で滲んだ。
「これ……はっ」
「後処理してて、感じちゃったの?」
「違うんです……」
 ああもう、なに言い訳してんだ、俺。
 違わないし、こんな嘘、すぐに見破られるだろうに。
「見ててあげるから。してごらん」
 小さく首を振っても、先生は俺をジッと見つめたまま。
 逃れられない。
「出来……なっ」
「どうして? またこれからこういう機会もたくさんあるだろうし。ね? 練習しておこう?」
 耳元で囁かれ、背筋がゾクリと震え上がった。
 こういう機会がたくさんあるって……。
 また、中出しするってこと?
 元々熱くなっていた頬が、またかあっと火照る。
「も、もう……困るんで、中で出すのは……」
「面倒だったら、俺が掻き出してあげるよ?」
「も……いいから、出てってくださ……っ」
「それは無理かな。見てたいし」
 そう言うと、俺の唇を撫でていた指先がゆっくりと降りていく。
 そのまま胸を辿り、腹を撫で、勃ちあがったものをきゅっと掴まれる。
「んっ……」
「期待してた?」
 してた……よな、俺。
 全然拒んでない。
 それでも素直にうんとは言えず顔を逸らす。
 そんな俺を見てか、先生はクスリと耳元で笑い、俺のを擦り上げる。
「んぅっ! んっ」
「芳春は、自分の中しっかり掻き混ぜて……?」
「……んっ!」
「出来ない?」
「出来な……っ」
「本当?」
 あいかわらず先生の声はなにか企んでいるような含みがあって、俺はその声で囁かれるたび熱くなる。
「あっ……せんせぇっ……あっあっ!」
「じゃあしょうがないんで、俺が出してあげますね?」
 俺がその言葉の意味を理解する前に、先生は2本すでに入り込んでいるソコへと指を足していく。
「ぁあっ! やめっ……やめてくださっ」
「すごいね、芳春……。3本も……」
 俺は慌てて、自分の指を引き抜いていく。
「抜いちゃうの?」
 先生は止めるでもなく俺の行動を見守って、2本抜けきると、残った先生の指だけが俺の中を埋め尽くした。
「あ……っ」
「物足りないでしょ。散々広げた後だもんね」
「そんなこと……ないです……」
「そう? それって俺の指で充分足りてるってこと?」
 そういうつもりで言ったわけじゃないけれど、そう受け取られてもおかしくはない。
 なにも答えられずにいると、また耳元でクスリと笑われる。
「じゃあ、掻きだそうか」
 そう宣言し、先生は言葉通り何かを掻きだすよう中で指を折り曲げてしまう。
「ぁ……ぁあっ」
「あんまりいやらしい声出されると俺も変な気分になっちゃうんで。静かにしてくださいね? ただの後処理ですから」
 そう教え込まれ、俺はぐっと唇を噛み締める。
 それでも、先生の指先が蠢くたび体は跳ね上がり、声が洩れてしまう。
「んぅっ! あっ! ひぁっんっ」
「すごいドロドロだ。芳春の中……」
「あんっ……あっ! んぅっ」
 お腹の中でぐちゅぐちゅと掻き回される音が響いて、俺はのぼせたみたいに頭がぼんやりしていた。
 やっぱり酔ったのかもしれないし、本当にのぼせたのかもしれない。
「あ……ん……ぁあっん……んっ」
「……感じちゃダメだよ。芳春」
 そんな忠告も、右から左へと抜けてしまう。
 ダメだって言われても抑えられない。
 だって、先生の指が入ってんだぞ。
 いくら後処理とはいえ、好きな人の指。
 改めてそう考えてしまうとますます体中が熱くなる。
「ゃっ……んぅっ……ンっ! だめ……あっ」
「ダメ?」
「ぃく……っ」
「どうして? 掻きだしてるだけだけど?」
 先生はいじわるだ。
 わかってるくせに。
 でも、そんないじわるなことを言われて感じてしまう自分にも気づいていた。
 いじめて欲しいとは思わないけれど、熱くてたまらない。
「はぁっ……いくっ……ぁあっいっちゃ……っあっ」
「我慢出来ない?」
「ひぁっぁんっ……あっ……出来なぁっ」
 ずっともう我慢してる。
 我慢して我慢して、耐えれないからこうして伝えてるんだ。
 だからもう本当に限界近くで、俺は先生の腕に爪を立てる。
「じゃあ、イったらお仕置きしていい?」
「ゃっぃやっ……やぁっ」
「だって、せっかく人が後処理してあげてるのに一人で気持ちよくなってるんだよ、芳春は」
 なにかを否定しようと俺は首を横に振るがもちろんそれは許されなかった。
「気持ちイイんでしょ」
「っ……んっ、違ぁっ」
「素直に言ってくれたら、少しくらいは譲歩します」
 頭が混乱して、どう答えればいいのかよくわからなくて。
 俺は先生に爪を立てたまま、小さく頷いた。
「……譲歩して欲しいんだ? 気持ちいい?」
「っんっ……あっ……ぃい……っ」
「もっとちゃんと言って?」
「あっ……ぁあっ……気持ちぃっ」
「中に入った精液とローション、掻き混ぜられてるのが?」
「あっ……ぅうっ……はぃ……っ」
 ポロポロと涙がこぼれていく。
「んー……こうして強く押さえつけられて掻き回されるの大好きなんだ?」
 いつもより、少し強め中を押さえつけられながら抜き差しされると聞き慣れない音が耳につく。
 クプ……とか、コポ、とか。
 変な音を立てられ、俺は泣きながら顔を逸らす。
「やっ……ぁあっやめっ……んぅっ」
「あぁ……恥ずかしい? この音。はしたない音だよね」
 はしたない……そう罵られたにも関わらず俺は背筋がゾクリと震え上がった。
「やっ……あっゃだっ……」
「……もしかして芳春、言葉で苛められるの好きだった?」
 俺は必死で違うと首を振る。
 けれども、先生にはなにもかもお見通しだろう。
 自分でもどうしてこんなにも体が熱くなってしまったのかわからない。
「もっと言おうか?芳春は本当にはしたなくて淫乱で……変態だね」
「ゃあっあっ……違ぁっあっ……やめてくださっ」
「ちょうどいいよ。俺は苛めるの大好きだから。苛めて喜んでくれたらすごく嬉しい」
 ああ……そうか。
 この人が喜ぶってわかってるから、だから俺こんなに感じてるんだ。
 この人がすごく嬉しそうで、興奮してくれると思うとたまらなくなってしまう。
 そう理解すると、もっとこの人を喜ばせたい気持ちが膨れ上がる。
「ぁあっ……あっ……して……っ」
「なにをして欲しいの?」
「もっとっ……ぁっ苛めて……っ」
 恥ずかしくてたまらないけれど、俺はこの人が喜ぶことを知っている。
 何度も体を重ねて、それを学んできた。
「本当に……そんなこと言われたらとまらないよ?」
 ほら……いつになく喜んで感情を昂らせてくれる柊先生が目の前にいる。
 大好きな人が、こんなにも無防備に取り繕わないでいてくれる姿を見せられたら俺はまたそれを引き出したくて仕方なくなる。
「ぁあっ……苛めてくださ……っ」
「お仕置き、逃れたかったんじゃないの? だから素直に気持ちいいって言ったんでしょ?」
 判断力などとうになくなっていた。
 ただ、柊先生の反応に俺はどんどんと感化されていく。
「気持ちぃい……っぃくっあっ……あっ!」
「お仕置きは、してもいいのかな」
 柊先生がお仕置きしたがってるのは明白だ。
 だったら俺の答えも、決まっていた。
「はぃ……っあっ……してくださっ……っ」
「じゃあちゃんと、イく顔見せて」
「ゃあっ……あっ! あっ……はぃ……っ」
「うん。すごくイイよ、芳春」
「やっ……ぁあっんっ! ゃあっ、あぁああっ!!」  

 欲望を弾け出し、歪む視界の中、楽しそうに笑う柊先生が脳裏に焼き付く。
「俺ね。従順すぎる子はそこまで好みじゃないんだけど……そうやってたくさん泣きながら苦しそうに従ってくれる子は本当にたまんなく好きですよ。お仕置きしてあげますね」
 先生はそんなことを耳元で囁くのだった。